めざせ魔獣博士!!~筆は剣より強し~

暇人太一

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第1章 転生からの逃亡

第20話 生贄作戦

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 王城の倉庫から持ち出した背嚢から刃が欠けたり錆びたりした刃物を取り出し、両手に一本ずつ持って馬車の外へ出る。

「――おいっ! 何をしているっ!」

「中に入っていろっ!」

「え? 死にたくないから無理です」

 包囲されて方円陣を組まれたら、なかなか抜け出すのは難しいぞ?
 敵方はこちらよりも人数が多いし、騎士が相手でも勝算があるから襲ってきているわけだし。
 見た目が盗賊風だからって油断は禁物だろ。
 王国の兵士は頭が弱い人間が多い気がする。

「我々がいるのだから安心していろっ」

「無理です」

「そのような包丁で何ができる!?」

「色々できますよ」

「何だとっ!?」

 とりあえず会話中に【索敵】スキルを使い伏兵の確認を終え、馬車の周囲に人がいないことも確認した。
 これで一先ず準備が整ったと思う。

「パージっ」

「はっ?」

 一頭の馬を馬車から切り離し、素早く背中に跨がった。
 そして、テント村でやったように声に魔力を載せて一言。

「“走れ”」

 と、馬に指示を出す。
 俺に乗馬スキルがないから仕方がない。
 無理矢理だが許しておくれ。

「ブルルッ」

 馬は兵士達よりも賢く素直に走り出した。
 当然行く手を阻む愚か者も出てきたが、手に持つ包丁を投擲して無理矢理退かしていく。
 こちらはスキルがあるから精度や威力に補正が付与され、馬上からでも確実に当てられていた。

「――クソッ! 待てぇぇぇっ!」

「あばよ、とっつぁん。達者でな」

「追えっ! 追えぇぇぇぇーーー!」

 ふふふっ。賊の相手は頼んだぞ。君達がいたからこそ、後顧の憂いなく旅立てるのだ。
 俺は忘れない。
 君達の勇姿を忘れはしない。

「おい。俺たちのことを忘れてもらっては困る」

「あぁーー、盗賊もどきか。北方民族の方々に忠告を一つ。欲を出しすぎると、ろくなことになりませんよ? ここは彼らだけで満足しておくべきでは?」

「……そこまで知られてしまっては、俺たちも引き下がるわけにはいかないな」

「そうですか? では、頭が吹き飛んでも構わないということですか?」

「ふんっ! ガキに殺されるほど弱くなどないわっ!」

 ――《魔力弾マナショット

「そうですか? 彼はそうではないみたいですよ?」

「…………はっ?」

 一番最初に習得した無属性魔法は他の属性魔法に比べて習熟しているし、他の属性のように属性励起をせずに圧縮玉を飛ばすだけだ。
 副次的な効果がないが発動が早く、そして不可視である。

 圧縮していなければそこまで攻撃力を上げられないだろうが、俺はご主人様直伝の魔力圧縮があるため一線を画す威力を出せる。
 自分の魔力で大気中の魔素を圧し固めているから、魔力の消費量も対して変わらない。

 ご主人様、様々である。

「どうします?」

「…………行け」

「ありがとうございます」

 わざわざ【鑑定】して、一番強いヤツを狙った甲斐があった。
 説得力が違うもんな。

 それにしても初めて人を殺したのに何とも思わなかったけど、これも【精神耐性】のおかげかな?
 まぁ躊躇ったせいで死んだとあっては、戦い方を指南してくれたご主人様に顔向けできないという思いもあった。
 だから絶対に躊躇わないと決めていたのだけど、それが功を奏したのかもね。

「“ハイヨー”」

「ブルルッ」

 地球で読んだ漫画で乗馬するエピソードがあったから、西に向かっている間に練習を兼ねて真似してみよう。
 将来従魔に乗るときに役に立つようなスキルが生えるといいな。


 ◆


 西に向かうこと三週間。
 捜査網が張られている可能性を考えて道なき道を進んでいたが、ようやくご主人様が言っていた『いちゃもん砦』が見えて来た。

「遠かった……」

 餞別でもらった携帯食と干し肉がなかったら倒れていたかもしれない。
 いくら【飢餓耐性】があったとしても。

「ここからはさらに気を引き締めて向かわねば」

 知覚系スキルをフル稼働させて進む。
 すると、遠くの方で検問のようなことをしている気配を掴む。
 多くの人が列を作って少しずつ進んでいるような気配に、明確な敵対反応が列を作った人を包囲している気配だ。

「うーん……。魔獣の相手が面倒で避けて来たけど……森を経由して進むか……」

 霊峰に続く街道の途中に例の砦があるのだが、砦の南側にそこそこ大きな森が広がっている。
 その森は霊峰まで続いているようで、道すがら聞いた話によると、南側の森を切り開いて領地を広げようという計画があるらしい。

 もしかしたら上級の二人は、そこに派遣されたのでは? と思っている。

「よし。まだ姿が見えていない今の内に森へ行くとしよう」

 とりあえず検問さえやり過ごせばいい。
 あとは霊峰まで一直線だ。

「……一応、獣道はあるんだな……」

 棺桶馬車を引いていた馬は普通の馬ではなく、魔獣との交配種である。
 だから体力もあるし、獣道くらいの悪路ならものともせず進むことが可能だ。それでも走ることはできないから、油断なく慎重に進む必要がある。

「プゴッ、プゴッ……」

「豚……?」

 かと思っていたときもありました。
 だが、彼らはくっ殺加害者のオークさんで、現在警邏中らしい。
 人間が騒がしくしているから、オークの方でも警戒網を形成しているらしい。

「……かち合わせる?」

 オークは統率種一体と兵隊が六体。
 人間の兵数は十数人ほど。
 これは……スケープゴート作戦が可能では?

「よし。やろう」

 まずは馬を隠しに行く。
 少し離れた場所に繋ぎ、大人しくしているように魔力を使って言い聞かせておく。

 オークの警邏部隊の元に戻る途中に、手頃な石をいくつか拾いポケットに入れた。
 挑発用の小道具だ。

 ちょうど人間の検問とオークの警邏部隊の間に立ち、オークの隊長に向かって本気の投擲を行う。
 悪戯ではなく戦闘だと思わせるために。

「プゴォッ!」

 おぉーー、マジか。
 手で防ぐとは思わなかった。

「喰らえっ」

 あえて声を出し場所を教えつつ、足音を鳴らして後退する。
 俺はわざと足音を鳴らさないと、パッシブスキルの【無音歩行】が働いてしまうのだ。
 まぁ足音がなくても三週間も行水していないから、彼らの自慢の豚鼻で臭いを辿って来そうではあるけど。

「プゴッ! プゴッ!」

 まるで「包囲しろ!」とでも言っているかのように、部下が横に広がる。
 そして駆け出した。

「う、うわぁっ! こんなにいたの!?」

「プッ! プゴップ!」

 釣り出すのって結構大変だ。
 馬鹿のフリの塩梅も必要だし、戦力を伏せる必要もあるし。
 今回は【隠形】を使用して隠れるつもりだから、魔力を覚えられる可能性がある魔法は極力使いたいたくない。
 だから、俺はひたすら石を投げる。

「おらっ」

「プゴッ」

 オーク隊長は飽き始めたのか、歩みが少しずつ遅くなっている。
 あと少しで街道まで引っ張って行けるのに、ここで帰られてはたまったもんじゃない。

「はぁ……。少し本気を出すか……」

 格下だと決めつけて油断しているオーク隊長に、駄犬がひと泡吹かせてあげようではないか。

 普段は【魔力装甲】を優先して【身体強化】は使用せず、装甲の副次的な効果である身体補助のみで済ませている。
 だが、今回は【身体強化】に切り替えた。
 それだけではなく、【気功】による肉体能力の向上と、【転歩】による瞬間移動術も同時発動する。

 結果どうするかというと……。

「――プゴォォォォ」

 傲慢オークの横っ面をグーで殴り飛ばした。
 現在俺が出せる最大出力のグーパンチだ。
 油断しきっていてくれたおかげで、傲慢オークは尻餅をついてしまった。

「ふっ。こんなものか」

 俺の目線の方が高くなったため、今度は俺が興味なさそうに見下してみた。
 すると、徐々に怒りに形相を浮かべ始める傲慢くん。
 そしてついに……。

「――プゴォォォォッ! プゴッ! プゴッ!」

「興味はなくなった。俺は行く。お前もママのおっぱいでも飲みに帰れ」

 と言って、足早に街道を目指す。
 もちろん、ジェスチャー付きという親切を忘れていない。
 その方が伝わりやすかろう。

「プゴッ!」

「「「プゴォ」」」

 ドスドスと重量物が地を駆ける音に耳を傾けつつ、離脱するタイミングを計る。

「――ここだ」

 即座に【気配遮断】を発動し、【転歩】で離脱する。
 パッシブスキルの【無音歩行】があるからと油断せず、足音には特に気を遣って距離をとっていく。
 ある程度離れてから【隠形】を発動して、視覚で捉えられないようした。

「……うん。全部行ったな」

 【索敵】スキルでも確認したし、間違いないだろう。

「罪もない商人諸君、恨むなら検問をしている者たちを恨んでおくれ。では、さらばだ」

 オークの雄叫びと、敵兵の喊声に、巻き込まれた人たちの悲鳴を背に受け、俺は振り返ることもせず立ち去った。

「とりあえず、お馬さんの回収かな」

 と思っていたら、またしても問題が発生する。

「……俺は悪霊か何かに憑かれているのか?」

 次から次へと……。いい加減にしてほしい。

「今度は馬泥棒かよ……」

 二人の兵士が巡回の途中で見つけたのか、お馬さんを回収しようと手綱を木から外そうとしているところを、知覚系で一番範囲が広い【魔力感知】で気づき、魔眼で詳細を捕捉した。

「二人なら……まぁいいか」

 圧縮玉を二つ作り、風の属性励起を行っていく。
 風属性は無属性に次いで視認性が悪く、さらに斬撃効果が付与される。レベルが低い魔法でもその効果に変わりはなく、直撃せずともダメージを与えられるのだ。

 ――《微風弾ウィンドショット

「――着弾」

 魔眼と最大レベルの【呼吸】や【魔力操作】のおかげで、ある程度の距離であれば狙撃が可能らしい。
 実験も兼ねていたけど、思っていたよりも簡単だった。

「ただ……集中するから、警戒レベルが落ちるな。乱発はできないかな」

 死体を漁って装備を整え、頭をなくした死体は全裸に剥いて重ねておいた。
 ちょうど男女の組み合わせだったから、情事の最中に襲われたように見えるだろう……たぶん。

「“ハイヨー”」

「ブルルッ」

 もう何もないといいな。


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