めざせ魔獣博士!!~筆は剣より強し~

暇人太一

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第1章 転生からの逃亡

第15話 モフモフ

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 昨日は晩ご飯を豪華にするために頑張ったのだが、結果は惨敗。
 基本的に見ているだけという修業で攻撃する暇などなく、時折放ってくる魔法を受けては大騒ぎする始末。

 もちろん、防御技術の練習もしていた。
 そのおかげで無傷だったわけだが、予想していたよりも怖かった。

 今も引き続き呼吸を読む修業をしているのだが、大海嘯の影響か魔法スライムの過密具合がすごい。
 俺が立っている場所以外、床が全く見えない。

「うわっちっ!!!」

 そして、方円陣からの集中砲火は凄まじい。
 これで本当に一番安全な教材なのか?
 確かに猛獣系の魔獣みたいな脅威はないけど、スライムはその場から一切動いてないのに、全方位に向けて魔法を放てるのだ。
 どこに逃げても無駄。
 ゆえに、俺は戦う。

「喰らえっ! スラたんシールドっ!」

 手近なスライムを両手に一つずつ掴んで、その場で十字架大回転。
 防御用魔力を破壊され、指を溶かされる前にスライムに魔法をぶち当てる。

「味付きスライムゲットンっ!」

「考えたな」

「えぇ。呼吸を読む練習にもなります。攻撃に回転を合わせないといけませんから」

「うむ。教材が無駄に死なないなら良い」

「何味かなー♪」

「おい」

「違うのです、違うのですっ!」

「そうか。目的を間違えるなよ」

「はい、もちろんです」

「うむ」

 その後も繰り返す十字架大回転。
 仕方がないんだ。
 当たったら死ぬかもしれないからね。

 ちなみに魔法スライムは四種類いる。
 使う魔法から察するに、火属性、風属性、水属性、土属性の四属性。
 風属性は最初見えなくて苦労した。
 昨日の惨敗要因だ。

 怖いのはやっぱり火属性。
 当たった衝撃は質量がある土属性。
 水属性は放水のような攻撃で、単発で終わらないところが鬱陶しい。
 夜に近づくと集中力が低下し、時折魔法が体に当たる。
 最初はビビっていたけど、今はそこまでビビっていない。

 完全じゃない理由は、連続で当たるとご主人様に怒られるからだ。
 そして没収される味変スライム。
 悲しすぎるぜ……。

「天に召します我らが女神よ。地に召します我らが管理者よ。愚息たる我に食事を賜る慈悲に感謝を。――エルモアール」

 ご主人様に会った日から少しだけ変わった祈りを捧げ、味変スライム、いざ実食。

「いただきます」

 まずは火属性スライムから。

「――辛あぁぁぁっ!」

「ぷっ。まあそうなるだろうな」

「知ってたんですか?」

「我が生み出しているのだから当然だ」

「……そうだった。じゃあ他のは?」

「言ったらつまらないではないか」

「そんなぁーーっ!」

 それからはビビって小さく千切って食べることにしたのだが、水属性以外は不要だと思った。

「どうして水属性ばかり没収するのかと疑問でしたが……そういうことだったんですね……」

「うむ。我もこれは好きだからな」

 風属性は酸味で、土属性は塩味という中、水属性は甘味だった。
 天然のスイーツと思えるほど美味しくて、手軽さと美味さを両立させている食材ゆえ、水属性スライムを超える食材はなかなか現れないかもしれない。
 当然、一番高く買い取ってもらえるらしい。

「他のスライムはどうなんですか?」

「もう少し先に進むと光属性と闇属性が出現するのだが、光スライムは美味いぞ。良いつまみになる」

「闇はハズレなんですね?」

「人による」

 ハズレ確定だ。

「僕は水スライムだけでいいです」

「光スライムはいいのか?」

「お酒を飲んだことがないので、つまみの感覚が少し湧かないんですよね」

「そうか? それなら仕方がないが、酒は飲めるようになった方がいいぞ。我の同族は酒好きが多いからな」

「あっ、あいさつに行くのに飲めないのは困りますね」

「うむ。仮に体質に合わなくても、毒耐性スキルに変化すると思うぞ」

「外に出たら飲んでみます」

「うむ。その方が良かろう」

 その後、ご主人様に縋りついて没収された水スライムを分けてもらい、気持ちよく爆睡するのだった。


 ◆


 そして水スライムと光スライムの乱獲に明け暮れること十日。
 ようやく合格をもらうことができた。
 魔力の防御――魔力装甲を習得し、呼吸を読むコツを身につけ、無詠唱も習得した。

 え? 魔法?

 なんと、教材だと言って【魔導書】を下さったのだよ。
 通常魔法の取得は、属性魔法スキルを持った上で、魔法のスキルレベルが取得予定の魔法に適したレベルであることが前提条件。
 その後、自力で習得するか教わるかは、身分や懐事情で変わってくる。

 習得する方法の中でも読むだけで魔法を習得できることから、一部の者にはズルと呼ばれている【魔導書】。
 一回しか使えない物や複数回使える物など多種多様だが、基本的に高価なアイテムで王侯貴族でも裕福な者で、才能がある者にしか使われないという。

 それを用意してくれたのだ。
 心からの感謝を。

 ご主人様の管理する【太陽】の大迷宮は、無属性というテーマがあるらしく、無属性魔法の【魔導書】を渡された。
 俺の無属性魔法のスキルレベルは一だ。
 攻撃魔法は基本的にレベル二からなのだが、全属性で唯一レベル一でも習得できる魔法が無属性魔法にある。

 それは《魔力撃》。

 威力は弱いが、不可視であるため意表を突いたりはできる。
 そしてレベルが上がったときに二つ目の魔法を渡された。

 二つ目は《魔力弾》。

 この魔法は他の属性の基礎でもあり、属性を付ければそれぞれレベル二で習得できる魔法になるらしい。
 まずは《魔力弾》を完璧にした。
 それからスライムの魔法を見て応用した物を習得した。

 ちなみに魔法を習得すると、ステータスの魔法欄に記載される。
 記載されて初めて習得したと言えるのだ。

「さて、我の魔法を教えられない理由は分かったか?」

「魔獣だからでしょうか?」

「そうだ」

「あっ! もう一つありますね」

「……なんだ?」

「僕のスキルレベルが低いことです」

「あぁ……うーん……。魔獣の魔法は階級のようなものはないからなぁ。それは考えたことないな」

「そうなんですね」

「それで、どうだ?」

「何がです?」

「魔獣だと聞いたことだ」

「特に何も。普通の人はスライムをベッドにしようとは思いませんし」

 ベッドを作ったご主人様は、一度も帰らず同じスライム部屋で連泊していたんだよね。
 俺は硬い地面に布を敷き詰めて寝ていたというのに、ご主人様はウォーターベッドみたいにタプタプな感触のベッドで爆睡していた。
 超絶羨ましかったよ。

「そうか……」

「はい」

「うむ。では、最終試験を行う」

「試験ですか?」

「そうだ。予想外のことが起こっても動ければなんとかなる。動けなくなった者から死んでいくと思え」

「はい、肝に銘じます」

「うむ。今から行うことはスキルが生えることを期待して、同様の事態に陥っても動けるように慣らす修業だ。目を閉じて立っていれば良い。倒れてもいいから目は開けるな」

「はい」

 ご主人様が指を鳴らすと一瞬で広い場所に移動した。
 そこにはスライムの姿はなく、代わりに遠くの方にモフモフしたものが……。

「アレは……?」

「うん? あぁ、気にしなくて良い」

 気になるーーっ!

「では、目を閉じろ」

「はい」

 目を閉じても、ここ数日の修業のおかげで【魔力感知】や【気配察知】が癖になっているから、様子を窺うことができていた。
 が――

「スキル封印」

 という言葉が耳に飛び込んできた。
 スキル封印ってできるの?
 されたら、俺は無力では?
 【魔力操作】も封印されたせいで、魔力装甲も発動できない。
 様々な考えがポツポツと湧いてきて不安の波に飲み込まれてしまう。

「はっ、はっ、はっ、はっ……」

 呼吸も上手く出来なくなって来て、最後には気絶してしまった。


 ◆


「グガーー……グガーー……」

 規則正しい寝息が聞こえ、思わず上半身を起こす。
 すると、横にはモフモフが……。
 それも巨大なモフモフだ。

「あの部屋にいたモフモフ?」

「起きたか?」

「あっ! はい……」

「調子は?」

「もう大丈夫です」

「うむ。ではこちらへ来い」

「はい」

 期待に応えられなかったから、俺も教材になってしまうのかな……。

「おい、起きろ」

「グガーー……」

「起きろ」

「――グガ?」

 何故かご主人様がモフモフを起こしている。
 ちょっと怖いから寝ててもいいんだけどな。

「観察してやれ」

「グガッ」

「え?」

 まさかの修業第二弾。
 獅子型の魔獣で、顔だけでも俺の身長以上の大きさだ。
 今世の俺は百八十センチくらいあるんだけど、それでもきっと頭を撫でることが叶わないほど大きい。
 確実に雲上獣だ。

 それなのに、キスできるほど至近距離で体全体を舐めるように観察されている。
 まるでどこから食べようかと考えているみたいだ。

「今回は目を閉じるなよ」

「……はい」

 できるだけ目を合わせないようにしよう。
 と思ったのだが、またしても希望を打ち砕く声が聞こえてきた。

「よし、やれ」

「――ウヴェェェッ」

 何をされたか分からぬまま吐き気を催し、直後意識を奪われた。
 幸い吐くことはなく、恥は晒さずに済んだ……と思いたい。

「グガーー……グガーー……」

 そして、再びモフモフの寝息によって覚醒。

「コイツ――」

 いつも寝てるな。と言いかけて、慌てて自分の口を塞ぐ。
 顔の前、両前足の間に俺が寝かされていたからだ。

 どうすれば!?

「…………」

「…………」

 そして目が合う。
 静かだと思って視線を上げたのが運の尽き。
 そこには自分を見下ろす魔獣が……。

「おはようございます」

「グガッ」

「…………」

「…………」

 ご主人様ーーっ!
 早く帰ってきてーーっ!!!


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