めざせ魔獣博士!!~筆は剣より強し~

暇人太一

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第1章 転生からの逃亡

第11話 訓練開始

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 倉庫の中にあった背嚢は取り上げられる口実になりそうだから、そちらにはどうでもいいものだけを入れておく。
 刃欠けの包丁とかな。

「完成」

 元々の騎士服をベスト上にして裏地をつけたりして厚みを出し、布鎧と称した隠しポケットを作った。
 使い物にならない野営道具もあったから、分解して綿を取り出し、実際に防具としての機能も持たせてある。
 見た目はキルトベストのようにしてある。綿が偏らないようにね。

「結構時間がかかった……」

 次は、仕分けた装備だ。

「手甲は使えそうだな。サイズも合う」

 上位人族になったから前世よりガッチリしている。筋力も向上しているから、金属製の手甲の重量に気を取られることもない。
 ただ、手首が少しだけ動かしにくいところが慣れず、少々不快に感じる。

 グリーブはブーツと一体型らしいから無理だし、胴体部分や肩当ても無理。
 結局手甲だけだった。

「あとは武器か……」

 騎士というだけあって長剣と盾を装備し、短剣も所持している。
 従者の二人は後衛と荷物持ちを担当しているからか、中世の槍みたいなシンプルな物を使っていたようだ。
 当然、ナイフも短剣もある。

「どれも戦力外だなー。だって筆術だもん」

 可能性があるとしたら槍かな?

「そういえば、筆に固有能力があったな。確か……《捕食進化》」

 もう一度【鑑定】し直すと、素材や武器を捕食して進化すると書いてある。

「ほら、槍食ってみ?」

 筆先を冗談半分で槍に近づけると、毛先が蛸足のように広がり、毛の部分が槍を巻き込んでいく。
 どこに消えていくのかは分からないが、筆先が動く度に槍は小さくなっていき、最終的には槍が一本消えた。

「……」

 冗談半分でやったことなのに、予想を超える事態が起きてしばし放心状態に……。

「……槍モード」

 今度は本当に冗談だったよ。
 だって、金属部分がないからね。

「……そうくるか」

 だけど、吸収した槍そっくりに変化してしまった。
 でも、筆の状態で槍の形になっている。
 刃の部分は木製だ。
 毛のままじゃなかったのは不幸中の幸いだが、このままでは愛棒と同じ結果にしかならないだろう。

「他の武器も言っておこう。ついでに鎧とかも」

 ゴミ箱とまでは言わないが、証拠隠滅にも使えそうだ。

「――偏食家めっ」

 だが、世の中そんなに上手く行くことはない。
 この筆は自分の成長や進化とは無関係だと判断したものは、見向きもしないほど興味を持たない。
 生きているのではないかと思ってしまうほどに。

「槍の余剰分や鎧のおかげで鋼鉄製の武器にすることはできたし、短剣や長剣にも変化できるようになったのは良かった」

 良かったのだけど……根本的な解決には至っていない。
 スライムに物理攻撃は聞きにくいの周知の事実で、入手できたのはなんちゃって防具と物理系の武器のみ。
 大して変わってない。

「こうなったら……一撃必殺魔核突きを習得するしかないか」

 一応扉が開くのかも試してみたが、まだ駄目だった。
 もしかしら、外から開けない限り開かないのかもしれない。

「やるしかないか……」

 筆を槍モードにし、腰を落とし構える。
 【観見の魔眼】を発動し、手近なスライムの核を目掛けて突き刺す。
 スライムは小癪にも核を移動して避け、致命傷を避ける……どころか無傷で体を揺らしている。
 まるで挑発でもしているかのように。

「落ち着け……今のは練習……」

 魔眼によって動きは完全に捉えていた。
 しかし、体が追いついていかない。
 頭では分かっているのだが、反射できないのだ。

「貴様らには練習台になってもらうっ」

 この瞬間から、俺とスライムの長い戦いが始まった。
 じっくり型の訓練などやっている暇はない。
 そもそも型なんか知らない。
 一に実戦、二に実戦、三四も実戦、五に勝利である。

「利き腕突きは安定してきたから、反対の腕での突きを練習しておこう。利き腕が怪我した設定だから、右手封じで」

 今日は最悪帰らなくてもいいかなと思っている。倉庫に一人だから誰にも迷惑をかけないしね。
 門限もなければ、ご飯もない。
 あれ? 帰る必要なくないか?

「おっと! 片手だとバランスが取りにくいなぁ」

 滑らせるということもできないから狙いも安定しなければ、速度も出しにくい。
 遅いから全く当たらない。

「まずは槍を支える筋力からかなー。それは一朝一夕では無理だ」

 スキルの【身体強化】があるが、レベルが低い内は大した補正はない。
 最低でも四にしなければ。

「じゃあ練習はするとして、まずは後突きの練習かな」

 石突きをした攻撃も槍には必須だ。
 刃がないから、しっかりと当てられないとダメージを与えられない。
 他にも近接戦闘用に長剣を、狭い場所やインファイト用に短剣の習熟をせねば。

「まずは槍だな」

 いきなり剣は怖いから、間合が遠い槍でチクチク攻撃しようと思う。

「あっ! 体術も訓練が必要だったわ」

 この国では筆の有能さを見せたくはない。
 生活するだけでも苦労が多いけど、今ほどの監視体制の方が逃亡の準備がしやすい。
 だが、迷宮を攻略していくなら武器は必要不可欠だ。

「となると……短剣の練習もしておくべきか」

 取り上げられる可能性がある騎士の短剣は真っ先に筆の栄養にしたが、従者の短剣で状態が良い方をナイフの代わりに腰に差している。

「後突きの練習は延期して、短剣と体術の練習を先にやろう」

 幸いなことに、スライムは天然サンドバッグだ。
 野営道具が入っていた革製の背嚢にスライムを数体入れ、テントの支柱にぶら下げる。
 騎士が使うテントだからか、とても丈夫な造りで助かった。

「前世の動画配信サービスで見た蹴りとかを試してみよう。格闘家の皆さんが解説してて結構面白かったなぁ」

 まずは普通に殴ってみよう。

「――痛っ」

 拳の作り方や殴り方などがあり、踏襲することで怪我防止に繋がったり、力を伝えられたりするらしい。
 また、近接格闘は開手が基本という記述をどこかで見た。あらゆる状況に対応するために拳を握らないということだ。
 拳を壊さないために掌底での対応も可能になるしね。

 是非とも取り入れたい。

「どこかで訓練の様子とか見れないかな」

 王城で模倣し、倉庫でイメージトレーニングを行い、迷宮ではスライムで復習をする。
 地味だが、基礎こそ手を抜けない。
 セーフティーネットがない異世界を安全に快適に過ごすため、今は地道な努力をする時期だ。

 頑張ろうっ! えいえいおー!


 ◆


 とりあえず、迷宮訓練第一回の結果だ。


【名 前】ソウマ・ハヤシダ
【年 齢】15歳
【性 別】男性
【種 族】上位人族
【職 業】魔獣学者
【レベル】16
【状 態】健康
【従 魔】

【元気量】440
【魔力量】440
【ギフト】筆
【スキル】
〈固 有〉観見の魔眼
     魔獣図鑑
〈常 時〉頑強:3(+1)
     精神耐性:4
     苦痛耐性:5
     魅了耐性:5
     鑑定妨害:5
〈任 意〉魔力感知:4
     魔力操作:5
     闘気操作:1
     身体強化:2(+1)
     気配察知:3
     気配遮断:3
     索敵:1  隠形:1
     体術:1  筆術:3(+2)
     呼吸:4  歩法:3
     速読:4  暗記:3
     観察:3  料理:3
     解析:1  鑑定:2(+1)
     偽装:4
     テイム:1 魔獣親和:1
     火属性魔法:1
     風属性魔法:1
     水属性魔法:1
     土属性魔法:1
     光属性魔法:1
     闇属性魔法:1
     無属性魔法:1
 魔 法:
 称 号:異世界人  (隠蔽)
     生命神の加護(隠蔽)


 ……はい? これだけやって槍術が生えないだとっ!?
 やっぱりどこまでいっても筆だということか……。

 スキルの成長が早いのは女神様の加護が影響していると思われるが、逆にレベルの上がりが悪いような気がする。
 たとえスライムとはいえ、数百体を倒していて一つしか上がっていないのは何故?

 まぁ増えすぎて魔力量が増えても困るのだが、こう釈然としないものがある。

 ちなみにこの迷宮はドロップ型らしく、スライムの魔核や瓶に入った液体、バナナの葉っぱのようなものに包まれたしぼんだスライム、このうちのどれかが必ず死体があった場所に現れた。
 代わりに死体は消え去り、掃除の手間がかからない。
 すごく楽だ。

「た、食べ物があるーーっ!」

 ドロップした物を仕分けつつ集めているときに【鑑定】してみたところ、葉っぱに包まれている物体は食用可能らしい。
 無味無臭で料理次第で食感が変わる、貧民のソウルフードなんだとか。
 一応生食可能で、ところてんや寒天みたいな固め食感を楽しめるそうだ。

「味ないのか……」

 現在俺の手元には塩しかない。
 つまり、塩味の寒天を食せということだ。
 普段ならお断りな状況だが、丸一日以上食事をしていないため、今回は食べさせていただきます。

 包丁やナイフはバッチイので、手で千切って食べる。

 え? お前の手は綺麗かって?
 汚いけど何か?
 でも自分の菌では感染しないらしいから、ナイフよりは精神衛生上マシだ。

 では、実食っ!

「いただきます」

 …………うん。お腹にたまりそう。
 味? 聞くなよー。塩味、以上。

「さて、寝ますか。スラたん、おやすみー」

 お腹がくちくなった俺は、騎士のテントの中で眠りに就いたのだった。

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