めざせ魔獣博士!!~筆は剣より強し~

暇人太一

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第1章 転生からの逃亡

第6話 生贄勇者

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 新しい学校に転校できるのは夏休み明けだった。ということは、彼らも入学してから三ヶ月くらいしか経っていないということだ。
 知らない子がいても不思議ではない。

 でも彼……多分彼は違うと思う。

 どこからどう見ても人間サイズの竜だ。
 性別が分からないから彼と言っているが、種族変更にドラゴンなんかなかった。
 それとも彼にだけ特別に表示されていたのか? 実際、魔眼も魔人族と上位人族しか表示されないらしいから、全くありえなくもない。

「それでは確認させていただきます。女神様から告げられた七人の勇者様は前に出て来てもらえますか?」

 あっ、俺も気になる。
 特殊職業とリクエスト職業を選択した人たちでしょ?
 つまり、クレーマーじゃん。

 まぁドラゴンは違うだろう。おそらく誰かが竜騎士を望んだ結果のギフトとかに違いない。

「ジャスティス様に、ドナルド様とデイジー様。あとは……」

「マ○キヨとー、多分プリンとー、ロ○コンでーす! あとは……ペット?」

 適当解説ありがとう。

 俺が言ってた学校にもいたけど、松本と清いという漢字のセットは絶対あのあだ名になるな。
 親も配慮して名前をつければいいのに。

 それにしてもデイジーよ、さっきから良い仕事するなぁ。感心感心。
 本来は失礼な行為である指を差しながらの紹介のおかげで、俺を含む初対面の人に分かりやすい。

 ペットは置いとくとして、怒りの形相を浮かべるおっさん教師がロリコンだったとは……。おっさん無双説は終わりかな?
 無双系のおっさんは子どもに優しいけど、下心がある優しさなど神々も認めはしないだろう。きっと天罰が下るはずだ。

「違いますっ。私の名前は清音ですっ。キヨネ・マツモトです」

「キヨネ様ですね。よろしくお願いします」

「お願いします」

 キ○ガイは刺激しない。
 彼女は法則を分かっている人だね。
 武装集団に囲まれている状況で敵対してもいいことなんて一つもないからね。

「私はロリコンではない。正四郎という立派な名前があるっ!」

「セイシロー様ですね。よろしくお願いします」

「うむ」

 阿呆か? 何が「うむ」だ。
 これで教師とか……。

 まぁキ○ガイ王女の興味が薄いというのが不幸中の幸いだろう。
 ロリコンの意味が伝わっているかどうか分からないが、本人が否定していることを他人が言うということから悪い意味だと分かるだろう。
 しかも悪い意味の場合、周囲の証言の方が信憑性がある。本人は否定しかしないからね。

 名前の否定だったとしても意味はあるまい。
 さらに唯一のおっさんというのも興味が薄い要因の一つだろう。

「俺はプリンじゃない。王子だ、オウジ・シロタ」

「オージ様ですね。素敵な名前です……」

 ……おい。どうした?
 どうしてトゥンクしているんだ?
 消去法で導き出した答えによると、彼が【国王】を望んだ人物だと思われる。
 とすると、ユニークスキルによる効果か?

 現在は本人が嫌がっているから良いが、彼がキ○ガイ王女の旦那になったら余計面倒になるんじゃないか?
 うん、さっさと逃げよう。
 幸いなことに、すでに任務は終わっている。
 王女と会う仕事は済んだし、使命はないという。

 女神様からも七人の勇者様と言われているなら、彼らに生贄になってもらえばいい。
 君たちの犠牲は忘れないから。

「さて、残りのドラゴン様は……」

「俺は風間武竜だよっ!」

 少し聞き取りづらい声をしているけど、人語を話していることからペットじゃないことは分かる。

「タケルっち? どうしたのー!? 人間やめちゃったのー!?」

「職業のせいだよっ!」

「あっ! ドラゴニュートってタケルっちだったの!?」

 あぁー、ドラゴニュートくんか。
 クレームの結果、神罰が下ったってこと?

「って思うじゃんっ! 職業は【ドラゴニート】だったのっ!」

 あれ? 一文字消えた?

「ニート? ニートになったの?」

「みたいだな。天使に『本来変更不可の竜種にになり、ぐーたらできる素晴らしい職業ですね。力作ですっ!』って言われたから、間違いなくニートだよっ!」

「やったじゃーんっ! おめー!」

 片や興奮した聞き取りづらい声。片や小馬鹿にしたようなハイテンションな高い声。
 うるさくて堪らない。
 王女がキレる前に黙れ。

「……では、勇者様たちの【職業】を教えていただけますか?」

 ペットは保留にしたらしい。
 人族至上主義の国だからね。
 ドラゴンなんて素材か食材にしか見えてないだろう。
 大きさが小さいせいで、今の大きさのままでは竜騎士の騎竜にはなれまい。

「僕は【勇者】だよ」

「姫は【聖女】だよー」

「オレ様は【神騎士】だ。他のやつがよかったんだけどな……」

 ドナルドくんは負け組か。
 ジャスティスくんが「僕も」って言ってるから、彼も負け組なんだろう。
 生贄になっている時点で負け犬確定で間違いない。

「私は【萬屋よろずや】です」

 通販の子ね。
 想定していたものより商品が少ないってクレームをつけていたはず。

 リクエスト職業はユニークスキルの確認ができたんだね。
 それとも俺が忘れてただけ?
 違うと思いたい。

「私は【……ーション工房】だ」

「はい? もう一度言っていただけますか?」

 侍女さんが記録しているんだからはっきり言えよ。【ポーション工房】だって。

「だから、【……ーション工房】だ」

 歯切れが悪いなぁ。
 でも、今回は大丈夫。
 我らが姫がこっそり近づいて耳をそばだててくれているからね。

「ぷっ! ウケルーーっ! 【ローション工房】って……変態かっ!」

「おいっ」

「童貞の必須アイテムだからって、わざわざ職業にしなくてもよかったのにーっ!」

「これはあの天使が間違えたんだよっ」

 おい、馬鹿っ!
 天使様の敬称を省くなっ!

「――天使?」

「そうだっ」

「失礼ですが、敬称をお忘れでは?」

「はっ? ――あぁ……そうだったな。少し興奮していて我を忘れていたみたいだ」

「……そうでしょうとも」

 怖っ。あの何も映っていないかのような瞳を至近距離で見るとか……夢に出てきそう。
 おっさんの場合は鎮静剤代わりになったようだけど。

「時に、ローションとはなんですか?」

「ヌルヌルした液体のことだよー」

 さすが姫。答えにくいことを答えてくれる。

「ヌルヌル……」

「いやいやいや。保湿用とか用途は色々あるでしょ」

「用途? 姫はヌルヌルとしか言ってないよ? 用途については一言も言ってないけど、ジャッくんは何を想像しちゃったのかな? かなかな?」

「――変態って言ってただろっ!」

 姫の煽りは端から見ている分には面白い。
 当事者にとってはたまったものじゃないだろうけど。

「おっさんがローションの保湿剤なんか使うわけないじゃんっ! 潤滑剤ばかり使ってるんでしょ?」

「偏見だろっ!」

「あっ! ゴメーン! ジャッくんは使わないんだったよねー」

「ちょっ、おまっ!」

 というか、おっさんと王女が置いてきぼりになっている。
 俺含めたその他大勢は空気だけどね。

「お、お、王女様。ローションというものの使用は多岐に渡り、一概にどのようなものとは言い切れません。ですが、基本的に保湿効果があります」

 動揺して口調が変わっているけど、本人は話を進めたいようだ。
 俺も賛成です。
 残りは想像もできないような職業を持った二人だからね。

「俺は【国王】だ」

「素晴らしいっ」

 少しも想像できない職業を手放しで褒めるとか、全く意味不明。

「俺は【国王】になるっ!」

「まぁ……ダーリンっ!」

「えっ? 何でっ?」

 噛み合っていないけど、騎士たちの喜びようがすごい。
 仕事中じゃなかったら絶叫したくらいに感動している。中には肩を震わせて泣いている者までいる。

「プリン、やるーーっ!」

「みんな、この恋路はじゃましてやるなよっ!」

 白鳥兄妹の後押しもあって、外堀が完全に埋まった。

「え? え? 冒険は?」

「君は行かないよ。冒険は僕たちに任せて、君は素晴らしい旦那さんと王様になってね」

 ジャスティスくんが橋を落とした。

「ローションが必要な時は言え。いくらでも出してやる」

 おっさんがささやかな祝儀を渡す。
 ローション無限提供権だ。

「私も応援してるね」

 彼女は通販があるけどタダで渡す気はないらしく、一番安上がりな言葉で済ました。

「俺は応援しないぞっ。このリア充めがっ」

「そうだよねー。ドラゴンの彼女は探すの大変だもんねー」

「しかも人間サイズとか……子どものドラゴンくらいしか思いつかないし……」

「お巡りさんっ。コイツですーー」

 ドラゴンのお巡りさんって……大人のドラゴンだろ? やめてやれ。

「それでタケルっちは【ドラゴニート】なんだっけ?」

「そうだ」

「小型竜式ウ○コ製造機じゃん」

 おろ? 新しい人だ。

「うるせーっ! ピ○チュウっ!」

「誰がピカ○ュウだっ! 光宙みつひろだって言ってんだろっ!」

 田舎すげぇ。キラキラネームの宝石箱や。

「うっうんっ」

 ダーリンに夢中だった王女が侍女さんによって現実に引き戻された。

「七人の勇者様にはそれぞれ役職についてもらいますので、どうかそのつもりでいてください。その他の詳しい話は別室にて行いたいと思います。どうぞこちらへ」

 入口を手で指し示しながら案内を始める王女。横にダーリンを侍らせて。

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