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第三章 フドゥー伯爵家
第七十話 事後処理
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ハンズィール子爵領特産の首輪をしているため、背中にユミルの肉球スタンプをつけた五十五人の聴取も早々に終わり、記憶封印措置も完了した。
方法は簡単であり強力なものだ。
【死天眼】の封印で記憶を封じ、【如意眼】の念写や過去視を使ったり、精神魔法を使ったりした場合は術者を侵食するように、グリムやバラムたち全員で術を構築した。
呪術にすると反射が怖いから、魔法の術式であると同時に魔眼を基礎にしているから魔力の痕跡はない。
完成したときは思わずハイタッチしてしまった。
「うーん……どこに船をつければいいんだ?」
「グァ?」
「ん? ユミルが作ってくれるの?」
「グァ」
コクリと頷いたユミルは背中に乗ったまま手を振り、海中に熊さんゴーレムを数体出す。
その熊さんゴーレムが氷の板を担ぎ、桟橋を一つ作る。しかも、熊さんゴーレムがもやいを受け取ってくれるのだ。
可愛い。
「ありがとう」
「グァ」
降船するのは俺と神父様にシスターと、護衛にバラムとフルカスにしようと思ったのだが、ネビロスが行きたがったからメイベルも同行することになった。
一応役職に徹しようとしてくれているようだ。
「あとは頼むぞ」
ネビロス本人は、自分の配下に船を護衛を任せて自分だけ楽しむつもりだ。
「お任せください」
「お任せを」
「うむ」
満足そうに頷いてから、メイベルとシスターを抱えて船から飛び降りた。
「カーティルもみんなを頼んだよ」
「はっ」
俺とフルカスも船から飛び降りる。
え? 神父様?
とっくにバラムと一緒に飛び降りていったよ。
不憫な……。
「とりあえず何故か無傷なままの教会へ行って、契約完了の手続きをしましょう」
神父様を歩かせるわけにはいかないと言って、無理矢理客室荷車に乗せる。
まぁ全員乗ってるんだけどね。
「これは何故動いているんだ?」
「どすこいパワーだよ」
「……嘘であろう」
「誰にも公表していない謎の力は全てどすこいパワーで通しているから、全くの嘘ではないんだよ」
ネビロスは諦め切れなかったようで、抜群の破壊力を持つ体を当てて籠絡してきた。
「私にだけこっそり教えてくれても良いぞ?」
「…………五歳児には効かない攻撃だよ?」
「本当か?」
「も、もちろんだよ」
「残念だ」
メイベルの視線に気付いたネビロスは、ニヤニヤと笑いながらメイベルをからかいだす。
「どうした? メイベル嬢」
「べ、別に……」
「本当かのう?」
指先でほっぺたを突きながら煽っている。
端から見れば姉妹のように見えなくはない。
「グァ?」
ユミルも指で突きたくなったようで、爪で俺のほっぺたを突きまくっている。
神父様は目を見開いて驚いているが、俺の体は無傷であり無痛だ。
道が悪いからゆっくりと進むように偽装を続けていたが、ようやく教会と到着した。
「着いたよ。司教猊下、出番です」
「……嫌味にしか聞こえないのは何故だろう」
「司教猊下が捻くれているせいでしょうか?」
「ムカつく……」
お釈迦様スマイルを浮かべた可愛い子どもに対して、なんてことを言うんだ。
これは少し反省してもらわねば。
教会の扉にいち早く近づき、力尽くで押し開いて一言。
「ジークハルト司教猊下のおなーりーーっ」
「おぉいっ」
「さぁ、猊下。こちらへ」
「やってくれたな……」
「謙虚な姿勢……さすがですっ」
「くそっ」
神父様の両脇を俺とフルカスで固め、残党に対する警戒を行う。
中央は女性陣が歩き、最後方に巨漢のバラムを配置する。
教会にはいってすぐ、真ん中でへし折れたかんぬきがあり、その奥に取り残された領民たちがひしめき合っていた。
「――ジークハルト司教っ! ご無事でしたかっ!?」
「はい。脅威は去りました」
「――なんとっ! 奇跡だっ! 神々は願いを聞き届けてくださったのだっ!」
「そのとおりですっ」
「おい」
「……主殿はどうしたのだ?」
神父様とネビロスが、それぞれ呟くが素早く動いたバラムに制止されている。
「敬虔なるジークハルト司教猊下が祈りを捧げ、レスター司教猊下が後を引き継いで祈り続けたからこそ、破壊尽くされた領都にあって唯一無傷であったのですっ」
「――無傷ですとっ!?」
「そうですっ。結界があった冒険者ギルドでさえ、崩壊寸前の半壊状態なのですっ。どれほどの奇跡か分かりましょう?」
「素晴らしいっ」
「えぇ、えぇ。分かります。教会の状況を目にしたとき、神々に加護を与えられたかのような安心感を得られました。おかげで、我が【シボラ商会】もギリギリですが、契約を完了することでき、報告に参った次第です」
『あなたは本当の加護を持ってますしー、全然余裕でしたけどねー』
『使えるものは何でも使わないとねー』
『神父様の顔を見て下さいー』
『あとでねー』
レスター司教たちが領民が教会の外に行き、教会が置かれた状況に感動していた。
まぁ周辺は瓦礫の山だからね。
教会だけ無傷なら奇跡に思っても仕方があるまい。
レスター司教が感動に浸っている間に、教会でやることをフルカスと準備をする。
教会にはレスター司教に契約完了の報告をするためだけでなく、大きく分けて三つのことを手続きしにきた。
一つ目は、フドゥー伯爵領の教会から王都を含む国内全ての教会へ、今回の侵略戦争に関する報告書を提出することだ。
敵は【ヌール神聖帝国】の艦隊と、帝国の味方をする邪教徒たち。
次に被害状況だ。
フドゥー伯爵家の領都は、無傷の教会と半壊の冒険者ギルド以外は瓦礫の山になったこと。街道含めて領都周辺の地形も大きく変わったとこと。人的被害も死傷者多数であること。
続いて、破壊された領地を守るために行われた伯爵及び貴族の行動は、敵前逃亡だけである。
窮地を救ったのは、契約の履行を行うためにたまたま訪れていたジークハルト司教だ。
護衛として同行していた【シボラ商会】に、個人的に礼を尽くして討伐を依頼し、神々の加護を得たこともあって無事に撃退した。
以上が報告の内容だ。
二つ目は、報告書に関連付けた訴状であると同時に、審理にもかけている。
しかも今回の審理に関しては、フドゥー伯爵領のレスター司教との連名審理ゆえ、重要度が今までと段違いだ。
まずは尚武の国の伯爵が、領地と領民を見捨てて敵前逃亡したことについて。
領民を守った組織は、ともに中立を謳う教会と冒険者ギルドの二つだけで、守護する義務があるフドゥー伯爵家は真っ先に逃亡したのだ。
その行動は万死に値する。
続いて、今回の侵略戦争を阻止した立役者であるジークハルト司教とシボラ商会を三度襲撃したとして、追起訴させてもらった。
もちろん、証拠証明を発行して添付する。
三つ目は抗議文の提出だ。
武王国の救世主とも言えるジークハルト司教と、司教を支えるシボラ商会を三度も殺そうとしたフドゥー伯爵家を支持する王家は、フドゥー伯爵家同様信仰心がない不信心者なのか?
賄賂を送るフドゥー伯爵家やハンズィール子爵家を優遇し、貧しいながらも辺境を守り、スタンピードにも参加した三歳児もいる男爵家を蔑ろにするとは、王家は正気か?
過去の禁忌指定から何も学んでいない。
その上、侵略行為を助長するような裁定を下し、神々の裁定よりも他国との裏取引を優先した行いは愚かとしか言いようがない。
取引相手は、今回侵略者の討伐に尽力してくれた商会の私兵を身分を振りかざして徴発しようとし、断るとダンジョンがないフドゥー伯爵家までつきまとってきた。
ダンジョン内で危機に瀕した彼女たちを救出したのに、感謝どころか徴発という脅しをされるとは……。
しかし、王家は自国内の平和よりも横暴な行いをする他国を取ったということですよね?
大変有意義な取引をされたようで、羨ましくあります。
という感じの抗議文を、神父様の証言付きで送る予定だ。
ストーカーの国名や身分を伏せたのは、せめてもの情けである。ありがたく思うが良い。
なお、親切心からアラド流神槍術の道場と王太后にも書類を届けてあげようと思う。
前回に引き続き全部神父様が言ったことになってしまうが、コレが報酬だから仕方がない。
「頑張って司教猊下」
迂遠な言い回しで悪口を盛り込んだ抗議文や報告書を、ビビりながら作成する神父様を応援する。
「なぁ……。本当に守ってくれるんだろうな」
「もちろん。指一本触れさせません」
「怖すぎる……」
書類を書き終わった神父様は、神々に祈って公文書にする。
同時に自分とシスターの安全を祈っているようで、ブツブツと願いを呟いていた。
戦争の事後処理が終わるも、一つ思い出したことがあったため、ついでに報告書を兼ねた抗議文を作成する。
対象は冒険者ギルドだ。
今まではダンジョンのこともあったから敵対しないようにしていたが、今回のことで堪忍袋の緒が切れた。
送付先は、教会本部と冒険者ギルド武王国本部だけにしておく。
一つ目は、ジークハルト司教の教区で行われた横暴について。
男爵領で禁忌指定された事件のきっかけであるスタンピードで、冒険者ギルドは男爵家子息が討伐に出ることを知っていたのに、値段交渉を有利に運びたいがために見捨てた。
さらに風評被害の八つ当たりで、スタンピードから生還した勇気ある少年の商会の活動を妨害していることを批判したもの。
二つ目は、ノーラス子爵領の冒険者ギルドの横暴。
ダンジョン外では違法契約を結ぼうとし、断るとダンジョン内で妨害及び暴行行為をする始末。休息のために借家に帰ると、監視がついていて恐怖を感じた。
その上、借家の解約ができないように商人ギルドに圧力をかけるという姑息な行動。
ともにジークハルト司教に対する悪行であったため、フドゥー伯爵領ではジークハルト司教の威光が届かず被害を受けることになったと思われる。
「嘘じゃん……」
「謙虚ですねー」
追記として、伯爵領の冒険者が商人を肉壁にして火事場泥棒をしていたことを記しておく。
「では、レスター司教。我々はこれにて失礼します」
「――えっ?」
呆然としているレスター司教を尻目に港に向かって荷車を走らせる。
すると、船の周りに人集りができていた。
嫌な予感がしたため、ユミルに熊さんゴーレムを消してもらい、船を【観念動】で動かし西に向かわせる。
同時に俺たちも西に向かって進路をとり、崖から荷車ごと飛び移る。
「お、おい……。おいっ。崖っ!」
「さんはい――」
「「どすこいっ」」
「グァ」
「あぁぁぁぁーーーーっ」
「きゃぁぁぁぁーーーっ」
どすこいポーズは突っ張りバージョンと拳突き上げバージョンがあるが、今回は突き上げバージョンだ。
「出航っ」
方法は簡単であり強力なものだ。
【死天眼】の封印で記憶を封じ、【如意眼】の念写や過去視を使ったり、精神魔法を使ったりした場合は術者を侵食するように、グリムやバラムたち全員で術を構築した。
呪術にすると反射が怖いから、魔法の術式であると同時に魔眼を基礎にしているから魔力の痕跡はない。
完成したときは思わずハイタッチしてしまった。
「うーん……どこに船をつければいいんだ?」
「グァ?」
「ん? ユミルが作ってくれるの?」
「グァ」
コクリと頷いたユミルは背中に乗ったまま手を振り、海中に熊さんゴーレムを数体出す。
その熊さんゴーレムが氷の板を担ぎ、桟橋を一つ作る。しかも、熊さんゴーレムがもやいを受け取ってくれるのだ。
可愛い。
「ありがとう」
「グァ」
降船するのは俺と神父様にシスターと、護衛にバラムとフルカスにしようと思ったのだが、ネビロスが行きたがったからメイベルも同行することになった。
一応役職に徹しようとしてくれているようだ。
「あとは頼むぞ」
ネビロス本人は、自分の配下に船を護衛を任せて自分だけ楽しむつもりだ。
「お任せください」
「お任せを」
「うむ」
満足そうに頷いてから、メイベルとシスターを抱えて船から飛び降りた。
「カーティルもみんなを頼んだよ」
「はっ」
俺とフルカスも船から飛び降りる。
え? 神父様?
とっくにバラムと一緒に飛び降りていったよ。
不憫な……。
「とりあえず何故か無傷なままの教会へ行って、契約完了の手続きをしましょう」
神父様を歩かせるわけにはいかないと言って、無理矢理客室荷車に乗せる。
まぁ全員乗ってるんだけどね。
「これは何故動いているんだ?」
「どすこいパワーだよ」
「……嘘であろう」
「誰にも公表していない謎の力は全てどすこいパワーで通しているから、全くの嘘ではないんだよ」
ネビロスは諦め切れなかったようで、抜群の破壊力を持つ体を当てて籠絡してきた。
「私にだけこっそり教えてくれても良いぞ?」
「…………五歳児には効かない攻撃だよ?」
「本当か?」
「も、もちろんだよ」
「残念だ」
メイベルの視線に気付いたネビロスは、ニヤニヤと笑いながらメイベルをからかいだす。
「どうした? メイベル嬢」
「べ、別に……」
「本当かのう?」
指先でほっぺたを突きながら煽っている。
端から見れば姉妹のように見えなくはない。
「グァ?」
ユミルも指で突きたくなったようで、爪で俺のほっぺたを突きまくっている。
神父様は目を見開いて驚いているが、俺の体は無傷であり無痛だ。
道が悪いからゆっくりと進むように偽装を続けていたが、ようやく教会と到着した。
「着いたよ。司教猊下、出番です」
「……嫌味にしか聞こえないのは何故だろう」
「司教猊下が捻くれているせいでしょうか?」
「ムカつく……」
お釈迦様スマイルを浮かべた可愛い子どもに対して、なんてことを言うんだ。
これは少し反省してもらわねば。
教会の扉にいち早く近づき、力尽くで押し開いて一言。
「ジークハルト司教猊下のおなーりーーっ」
「おぉいっ」
「さぁ、猊下。こちらへ」
「やってくれたな……」
「謙虚な姿勢……さすがですっ」
「くそっ」
神父様の両脇を俺とフルカスで固め、残党に対する警戒を行う。
中央は女性陣が歩き、最後方に巨漢のバラムを配置する。
教会にはいってすぐ、真ん中でへし折れたかんぬきがあり、その奥に取り残された領民たちがひしめき合っていた。
「――ジークハルト司教っ! ご無事でしたかっ!?」
「はい。脅威は去りました」
「――なんとっ! 奇跡だっ! 神々は願いを聞き届けてくださったのだっ!」
「そのとおりですっ」
「おい」
「……主殿はどうしたのだ?」
神父様とネビロスが、それぞれ呟くが素早く動いたバラムに制止されている。
「敬虔なるジークハルト司教猊下が祈りを捧げ、レスター司教猊下が後を引き継いで祈り続けたからこそ、破壊尽くされた領都にあって唯一無傷であったのですっ」
「――無傷ですとっ!?」
「そうですっ。結界があった冒険者ギルドでさえ、崩壊寸前の半壊状態なのですっ。どれほどの奇跡か分かりましょう?」
「素晴らしいっ」
「えぇ、えぇ。分かります。教会の状況を目にしたとき、神々に加護を与えられたかのような安心感を得られました。おかげで、我が【シボラ商会】もギリギリですが、契約を完了することでき、報告に参った次第です」
『あなたは本当の加護を持ってますしー、全然余裕でしたけどねー』
『使えるものは何でも使わないとねー』
『神父様の顔を見て下さいー』
『あとでねー』
レスター司教たちが領民が教会の外に行き、教会が置かれた状況に感動していた。
まぁ周辺は瓦礫の山だからね。
教会だけ無傷なら奇跡に思っても仕方があるまい。
レスター司教が感動に浸っている間に、教会でやることをフルカスと準備をする。
教会にはレスター司教に契約完了の報告をするためだけでなく、大きく分けて三つのことを手続きしにきた。
一つ目は、フドゥー伯爵領の教会から王都を含む国内全ての教会へ、今回の侵略戦争に関する報告書を提出することだ。
敵は【ヌール神聖帝国】の艦隊と、帝国の味方をする邪教徒たち。
次に被害状況だ。
フドゥー伯爵家の領都は、無傷の教会と半壊の冒険者ギルド以外は瓦礫の山になったこと。街道含めて領都周辺の地形も大きく変わったとこと。人的被害も死傷者多数であること。
続いて、破壊された領地を守るために行われた伯爵及び貴族の行動は、敵前逃亡だけである。
窮地を救ったのは、契約の履行を行うためにたまたま訪れていたジークハルト司教だ。
護衛として同行していた【シボラ商会】に、個人的に礼を尽くして討伐を依頼し、神々の加護を得たこともあって無事に撃退した。
以上が報告の内容だ。
二つ目は、報告書に関連付けた訴状であると同時に、審理にもかけている。
しかも今回の審理に関しては、フドゥー伯爵領のレスター司教との連名審理ゆえ、重要度が今までと段違いだ。
まずは尚武の国の伯爵が、領地と領民を見捨てて敵前逃亡したことについて。
領民を守った組織は、ともに中立を謳う教会と冒険者ギルドの二つだけで、守護する義務があるフドゥー伯爵家は真っ先に逃亡したのだ。
その行動は万死に値する。
続いて、今回の侵略戦争を阻止した立役者であるジークハルト司教とシボラ商会を三度襲撃したとして、追起訴させてもらった。
もちろん、証拠証明を発行して添付する。
三つ目は抗議文の提出だ。
武王国の救世主とも言えるジークハルト司教と、司教を支えるシボラ商会を三度も殺そうとしたフドゥー伯爵家を支持する王家は、フドゥー伯爵家同様信仰心がない不信心者なのか?
賄賂を送るフドゥー伯爵家やハンズィール子爵家を優遇し、貧しいながらも辺境を守り、スタンピードにも参加した三歳児もいる男爵家を蔑ろにするとは、王家は正気か?
過去の禁忌指定から何も学んでいない。
その上、侵略行為を助長するような裁定を下し、神々の裁定よりも他国との裏取引を優先した行いは愚かとしか言いようがない。
取引相手は、今回侵略者の討伐に尽力してくれた商会の私兵を身分を振りかざして徴発しようとし、断るとダンジョンがないフドゥー伯爵家までつきまとってきた。
ダンジョン内で危機に瀕した彼女たちを救出したのに、感謝どころか徴発という脅しをされるとは……。
しかし、王家は自国内の平和よりも横暴な行いをする他国を取ったということですよね?
大変有意義な取引をされたようで、羨ましくあります。
という感じの抗議文を、神父様の証言付きで送る予定だ。
ストーカーの国名や身分を伏せたのは、せめてもの情けである。ありがたく思うが良い。
なお、親切心からアラド流神槍術の道場と王太后にも書類を届けてあげようと思う。
前回に引き続き全部神父様が言ったことになってしまうが、コレが報酬だから仕方がない。
「頑張って司教猊下」
迂遠な言い回しで悪口を盛り込んだ抗議文や報告書を、ビビりながら作成する神父様を応援する。
「なぁ……。本当に守ってくれるんだろうな」
「もちろん。指一本触れさせません」
「怖すぎる……」
書類を書き終わった神父様は、神々に祈って公文書にする。
同時に自分とシスターの安全を祈っているようで、ブツブツと願いを呟いていた。
戦争の事後処理が終わるも、一つ思い出したことがあったため、ついでに報告書を兼ねた抗議文を作成する。
対象は冒険者ギルドだ。
今まではダンジョンのこともあったから敵対しないようにしていたが、今回のことで堪忍袋の緒が切れた。
送付先は、教会本部と冒険者ギルド武王国本部だけにしておく。
一つ目は、ジークハルト司教の教区で行われた横暴について。
男爵領で禁忌指定された事件のきっかけであるスタンピードで、冒険者ギルドは男爵家子息が討伐に出ることを知っていたのに、値段交渉を有利に運びたいがために見捨てた。
さらに風評被害の八つ当たりで、スタンピードから生還した勇気ある少年の商会の活動を妨害していることを批判したもの。
二つ目は、ノーラス子爵領の冒険者ギルドの横暴。
ダンジョン外では違法契約を結ぼうとし、断るとダンジョン内で妨害及び暴行行為をする始末。休息のために借家に帰ると、監視がついていて恐怖を感じた。
その上、借家の解約ができないように商人ギルドに圧力をかけるという姑息な行動。
ともにジークハルト司教に対する悪行であったため、フドゥー伯爵領ではジークハルト司教の威光が届かず被害を受けることになったと思われる。
「嘘じゃん……」
「謙虚ですねー」
追記として、伯爵領の冒険者が商人を肉壁にして火事場泥棒をしていたことを記しておく。
「では、レスター司教。我々はこれにて失礼します」
「――えっ?」
呆然としているレスター司教を尻目に港に向かって荷車を走らせる。
すると、船の周りに人集りができていた。
嫌な予感がしたため、ユミルに熊さんゴーレムを消してもらい、船を【観念動】で動かし西に向かわせる。
同時に俺たちも西に向かって進路をとり、崖から荷車ごと飛び移る。
「お、おい……。おいっ。崖っ!」
「さんはい――」
「「どすこいっ」」
「グァ」
「あぁぁぁぁーーーーっ」
「きゃぁぁぁぁーーーっ」
どすこいポーズは突っ張りバージョンと拳突き上げバージョンがあるが、今回は突き上げバージョンだ。
「出航っ」
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