怪物転生者は早期リタイアしたい~チートあるけど、召喚獣とパシリに丸投げする~

暇人太一

文字の大きさ
上 下
72 / 85
第三章 フドゥー伯爵家

第六十四話 笑止千万

しおりを挟む
 尾行が鬱陶しかったため、薬を作った後はどすこいパワーによる移動に切り替えた。
 バレないように徐々に速度を上げつつ、収納魔法を使用していく。

「カルム、何してるのー?」

「メイベル、野営で必要かなってものを拾っているだけだよ」

「ん? なんだろ? 水?」

「火起こしに使うものだよ」

「あっ! 薪かっ」

「そうだよー」

 俺は明るいうちに取りに行ける範囲の薪を全て収納魔法に取り込むという嫌がらせを行い、尾行者に冷や飯を食わせるというプチざまあ計画を実行していた。
 ダンジョンに来ているんだから、非常食くらいは持っているだろう。
 それが貴族の口に合うか別にして。

「じゃあそろそろ野営の準備をしようか」

「テントを出してくれ」

 ポーチの容量を確保するため、ダンジョンに入る前にジェイドたちの私物を預かっていた。
 その中からテントを出して欲しいと言ってきたのだが、俺は商人ギルドからもらってきたクランハウスを取り出した。

「――おい……何コレ……」

「もらってくるって言ったじゃん。将来的には兵舎にする予定だからね。村に帰ったら設置場所を決めたり修繕や増築をしたりと、やることがいっぱいあるよ」

「うむ。双剣術も習いたいのだろう? これまで以上に効率的に鍛えてやるから、仕事の時間もしっかりと確保できるぞ」

「やったなっ!」

「「「「…………」」」」

 ディーノだけ、自分は今まで通り料理に集中すればいいという態度でいた。
 しかし、この中で一番強くなってもらわなければならないのが、他ならぬディーノだ。

 何故なら、廃棄世界に行って獲物を獲り、最高の料理を作ってもらわなければならないからだ。
 こちらの世界で人間最強くらいになって欲しいと思っている。

「ディーノくん、君には僕の極秘プロジェクトを手伝ってもらいたいと思ってる」

「……え?」

「超豪華なホテルを作り、そこの総料理長になってもらうことが君の役割だ」

「総料理長……俺が……」

 まぁ一人しかいないんだけどね。

「そう。だから、自衛のためにも強くならねばならない」

「自衛……。護衛は……?」

「いつ引き抜かれてもいいように、自分だけでも強くなるんだ」

 ディーノにつける護衛は俺の召喚獣だから、引き抜くということは配置転換かモフモフタイムだろうけど。
 だが、この言葉に反応する者がいた。

「え? 嫌味?」

「ジェイドくん、気のせいだよ」

 嫌味ではなく皮肉だからね。

「でも……俺は……剣術はちょっと……」

 チラリと非常識な教官たちを見て拒絶するディーノ。

「安心して。ディーノは棍棒でしょ? 僕は戦棍メイスだからさ。僕が教えるよ」

「え? それは……どうなの?」

「メイベル、僕の訓練は優しいよね?」

「うん。怪我も治してくれるし、飲食もできるんだよ」

「じゃ、じゃあお願いしようかな」

「うん。こちらの申込用紙に記入して」

「あぁ……」

 よしっ! 生徒を一人ゲットだぜっ!
 ディーノを使ってカルム・メソッドを確立してみせる。

「あ~ぁ……。サインしちゃったよ……」

「アルフレッドくん、失礼なことを言うのはやめたまえ。ディーノくんは人間枠で唯一の家臣なんだから、相応の強さは必須なんだよ?」

「「「「「「……ん?」」」」」」

 メイベルと私兵団が疑問に思うのも無理はない。
 ディーノは私兵団としても活動しているからね。
 でも、そもそも分家の料理人として雇い入れ、ついでに奈落湯の食堂を経営しているのだ。
 私兵団もついでだから、訓練を抜けられていた。

 つまり、ディーノの同僚はジェイドたちではなく、バラムやフルカスにカーティルという人外である。
 そのことに気づかせてあげたのだが、本人は受け入れられなかったようで、ジェイドたちに縋りついていた。

 ジェイドは、申し訳なさそうな顔をして馬車の席について謝るという嫌がらせをしていたけど。

「もっと早く知っていれば……同僚同士で座らせてあげられたんだけどな……」

「やめろーー! 意地悪するなよっ!」

「ディーノ、ご飯ーー」

「ちょっと待ってろ。今は重要なことをだな」

「グァーー!」

「――ただいまっ」

 空腹のユミルを気にしてキッチンへと駆けていくディーノを見て、満足そうに頷くユミル。

「さすがだな、ユミル」

「グァ♪」

 神父様たちはバラムが人間枠ではないことを知らなかったのか、驚いて固まっている。
 結局食事の時間になるまで現実を受け入れるのに時間を使い、ジェイドに「あんな人間がいるわけないだろ」と言われ、それもそうかと正気に戻っていた。

 だが、ジェイドよ。
 鬼教官が悪口を見逃すと思うかね?
 頑張りたまえ。

「あれ? なんか寒気が……?」

 ◇

「やっと着いたーー。久しぶりの伯爵領の領都だーー。確か、特産は高品質の塩なんだっけ?」

「……相変わらず、いい性格してるよな」

「照れるーー」

「褒めてない」

 神父様と来た時以来だから、神父様も懐かしくて口が軽くなっているのかも。

「早速もらいに行こうか」

「え? 先触れは?」

「不要です。もらって帰るだけだしね」

「……本当にそれだけか?」

「もちろん」

 言葉通りもらって帰るだけ。
 ここでゆっくりしていれば、尾行者が追いついて来てしまうからね。
 面倒事になる前にトンズラさせていただく。

 それに門番から連絡を受けただろうから、俺たちが来ていることは知っているはず。
 門番たちの仕事を無駄にしないように、真っ直ぐに向かおうではないか。

「止まれ。ここはフドゥー伯爵家の屋敷だ。それ以上近づくなら拘束させてもらう」

「お仕事お疲れ様です。僕はアルミュール男爵家の子息で、カルム・フォン・サーブルと申します。契約の履行を求めに参りました」

「――んなっ」

 お前のせいでとても言いそうな視線を受けるも、追加の罰は怖いらしく何もしてこない。

「あのー、早くしてもらいます?」

「――書類を見せろ」

「破かれたら堪らないので、別の手土産をお持ちしました」

 女性陣と子ども組に目を閉じていてもらい、ダンジョンで襲ってきた騎士の蜜蝋漬を見せる。
 伯爵家の騎士と子爵家の騎士の混合部隊だったから、伯爵家の方の首を一つだけ見せることにした。

「そ、それは……」

「見た目は冒険者みたいなのに、全員お揃いの剣を持っていましてね。家紋入りの装備を全員が装備するほど盗まれたのか、それとも横流しされているのか、それとも本物の騎士が冒険者になりすましているのか? いったいどれだと思います?」

「――ここで待て。話を通して来る」

 もう一人の門番を残して、交渉していた方の門番が走って屋敷内に向かった。
 すると、残っていた方の門番が蜜蝋漬を回収しようと手を伸ばしてくるではないか。

「ど、泥棒ーーーーっ!」

「何だとっ!? これは我々のものだっ!」

「……何故?」

「仲間の首だからに決まっているだろっ」

「仲間? つまり、伯爵家の騎士だと?」

「そうだと言っているっ」

「……ちなみに、この人はダンジョンの入口で待ち伏せしていた襲撃犯ですよ?」

「ダンジョン内のことは罪にならんっ」

「それは襲撃を認めたことと同義ですよ?」

「嘘の被害で伯爵家を貶めるとは無礼千万っ」

 こんな人が門番で大丈夫かと思い、【洞察眼】で鑑定してみたところ、伯爵夫人の弟だった。
 コネ就職だから門番なのかな?
 いろいろな貴族に顔を覚えてもらえるかもしれないからね。

 ……優秀だったら。

「何も言わないということは、やはり嘘かっ」

「いえ、今は着替え待ちです」

「はっ? 誰の着替えだと?」

「私だ」

 被害者の中には武王国内で最高位の司教に就いているジークハルト様がいるのだが、伯爵家に向かうまでの道中に荷車内で着替えをしていたのだ。
 あの面倒な法衣を着て、身形を整えるという作業をシスターに手伝ってもらいながら高速で終わらせた。

「教会のものか?」

「私は司教のジークハルトだ」

「――はっ? この町の司教は知っているぞっ! また嘘を吐くのだなっ」

「はぁ……。私はアルミュール男爵領を担当している」

「そのようなものが何故伯爵領に来たっ」

「話を聞いていなかったのか?」

「話なんか関係ないっ! 何故来たと聞いているっ」

 俺と神父様は、面倒になったために蜜蝋漬だけ回収して黙り込んだ。
 そして神父様と門番の相手を押し付け合い、野次馬の話し声に耳を澄ませることにした。

「またあの門番かよ。貴族街の品位を落としているのがわからないものかね? 伯爵家も何で門番にしたのか……?」

「どうせ夫人のゴリ押しでしょう?」

「どこぞの侯爵家出身だっけ?」

「東部貴族出身だったはずよ」

「じゃあ【騎士王国フルサーン】と懇意にしているって本当かも?」

「というか、相手は誰だ? 熊を背負っているけど、ぬいぐるみか?」

「譲ってもらおうかしら。お嬢様が喜びそうっ」

 ――最後のヤツ、近づいたらどすこいパンチを噛ましてくれるわっ。

「お待たせしました」

「いえいえ。こちらの門番さんが楽しい方で、ついつい話が弾んでしまいましたよ。身元不明者の首を引き渡すために参ったと申しましたら、仲間の首だから供養したいと力説されてしまい、大変感動いたしました」

「「……」」

 帰ってきた門番が執事を連れてきたのだが、二人揃って射殺す視線をお馬鹿門番に向けている。

「はっ。私は容疑者に対して聴取を行っておりました」

「僕たちが容疑者ですか? 罪状は?」

「不敬罪だ」

「……不敬罪だとして聴取は必要ですか? 無礼な言動に対して罰を与える貴族の特権を、無理矢理当てはめた罪状なんですが? つまり、『コイツ、ムカつくーー! 死ねっ!』でいいわけです。司教様、彼は何と言ってましたっけ?」

「何しに来たかの質問だな。そちらの門番殿がいたときに説明したと思うが?」

「だから、私に説明したわけではないのだから、話したとかは関係ないのだっ! もう一度最初から順序立てて説明せよっ」

「門番にそこまでする必要あります?」

「当然だっ。私は伯爵家を代表して聞いているっ」

 マジか……。代表しちゃったよ……。
 同僚と執事も固まってるよ?

「すみません、彼が代表でいいんですか?」

「――失礼しました。門番の言葉は気にしなくて結構です。どうぞこちらへ」

「失礼します」

「ちょっと待てっ。許さんぞっ。私は許さんっ! 仲間の首がっ! 仲間の騎士の首だけでも置いていけっ!」

「……置いていきましょうか?」

「無視で結構です」

 敵ながら、苦労が忍ばれるね。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

前世で魔神だった男、嫁と再会して旅をします。

明石 清志郎
ファンタジー
高校二年生の神山周平は中学三年の卒業後幼馴染が失踪、失意のままに日常を過ごしていた。 ある日親友との会話が終わり教室に戻るとクラスメイトごと異世界へと召喚される。 何がなんだかわからず異世界に行かされた戸惑う勇者達……そんな中全員に能力が与えられ自身の能力を確認するととある事実に驚愕する。 な、なんじゃこりゃ~ 他のクラスメイトとは異質の能力、そして夢で見る変な記憶…… 困惑しながら毎日を過ごし迷宮へと入る。 そこでクラスメイトの手で罠に落ちるがその時記憶が蘇り自身の目的を思い出す。 こんなとこで勇者してる暇はないわ~ クラスメイトと別れ旅に出た。 かつての嫁や仲間と再会、世界を変えていく。 恐れながら第11回ファンタジー大賞応募してみました。 よろしければ応援よろしくお願いします。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...