怪物転生者は早期リタイアしたい~チートあるけど、召喚獣とパシリに丸投げする~

暇人太一

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第三章 フドゥー伯爵家

第五十九話 慮外千万

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 技能結晶で底上げしているし、バラムやフルカスの訓練も熟している。
 俺もサポートするし、死ななければエリクサーがあるから大丈夫だと思われる。

「――あっ! 合図が出たから行きましょう」

 暗がりに停めた後、すぐに下りて神父様に荷車を引いてもらう。
 自走してたら異常だからね。

「こ、子ども……?」

「逃げろっ!」

「何故ここにいるっ」

 様々な声が聞こえて来るが、全て女性の声だ。
 俺も逃げたいけど、逃げられない状況なんだよ。君たちのせいで。
 心の中で愚痴をこぼしつつ、【千里眼】から【洞察眼】に切り替えて一通り鑑定したが、何人か通りにくいようだったから後回しにする。

「相手をバラムだと思ってー。ラルフは防御に徹し、ゲイルは崩していけ。ジェイドが最大火力だ。思い切っていけ。ディーノは全体のフォロー。集団戦だから、常に周囲を意識しろ。騎士の捕獲競争を思い出せ。始めっ」


「「「「おぉぉぉーーー!」」」」

 魔眼は基本的【如意眼】と【死天眼】だ。
 未来視で先読みしつつ、危機的な状況になる前にオーガの動きを止める。
 後方のメイベルたちの守りはモフモフ組に任せて、私兵団のサポートに全力を注ぐ。

 壁際に非難を始めた女性陣から見えないように握った拳の中に氷の粒を作り、強化魔法で強度を上げ、指弾でオーガの口腔内を狙う。
 【白毫眼】の必中を使っているから、吸い込まれるように口に入り、下から上に向かって撃ち抜いた。

 余裕が出てきた女性陣は俺たちに近づいて来て、壁際に来いと言っている。
 しかし、初対面の人物に近づくなんて危ないことができるわけがない。

「結構です。昨日初対面の冒険者に襲われたばかりですので」

「そのような者と同じにするなど……侮辱だっ」

「はぁ……。ありえないのですか? 絶対?」

「そうだ」

「どうやって証明するんですか? ないという証明は悪魔の証明と言われるほど、難しい証明ですよ? 僕は神前契約以外は信じていません。それ以上近づくなら、攻撃の意志があるとして僕たちは撤退します」

「――勝手にしろ」

「はぁ……。見殺しにした方が気分がよかったかもですね。ジークハルトさんはどう思います?」

「そ、それは……」

「ちなみに、昨日は怒っていませんでした。ムカついただけです。ですが、今回は怒ってますよ?」

「「「「…………」」」」

 馬車組の、特に救助に行くように言った者たちに向かって、この一行の代表としての意見を言う。

 冒険者は俺から喧嘩を売ったことで、人を送られて妨害されることになったわけだ。
 つまり、自業自得。
 冒険者の態度がムカついたとしても、怒るということはない。

 だけど、今回は神父様に弱みを持ち出されて強制的に発生したイベントだ。
 しかも、助けられた人物のくせに安全となった途端、義憤を感じて自分たちが助けたかのように振る舞う。
 俺がサポートしている私兵団がいて初めて、自分たちが安全になっているというのに。

「こういうやつらは見ているだけでムカつく」

 本当に助ける気があるなら、撤退する意志に関係なく無理矢理壁際に連れて行くだろう。
 結局、自分の安全が一番の口だけ義憤正義漢なんだよ。

『怒りレベルはー?』

『眷属以上』

『はぁーーー?』

『眷属は迷惑を掛けられたが、自分の意志を貫き通して体を張って叱責も受けたけど、アイツは安全圏から口だけ。殺せるなら殺してるわ。一番嫌いなタイプ。例えるなら、男爵家の第一夫人とかみたいな感じ』

『珍しくメイベルちゃんに向かって怒ってましたもんねー』

『メイベルには怒ったと言うより、意思表示のつもりだったんだけどねー。誰も彼も助けるわけじゃないよーって。しかも、ここはノーラス子爵領だよ? あの女たちを囮にして、オーガの集団に殺させるって言う手を用意しているかもしれないでしょ?』

『確かにー』

『一人だけなら大丈夫だけど、いつぞやの侯爵級デーモンが言ってたでしょ? 「弱点を晒している」って。一人で行動しているわけじゃないから、その分慎重にならないと。わざわざ自分から問題に首を突っ込んでどうするよ?』

『それを教えてあげないと、泣いてしまいますよー? 』

『え?』

 【白毫眼】でメイベルの様子を窺うと、俯いたまま服を握りしめている。
 ユミルが側にいるが、あまり変化はない。

『俺、悪くないよね?』

『良いか悪いかの問題ではないのですー』

『泣きたい……。グリム、一生のお願い。説明してきて』

『えぇーー』

『今は手が離せない』

『はぁーーもうーー』

『ありがとう』

 グリムが話せることを唯一知っているメイベルだからこそできる芸当だし、そもそもメイベル以外なら優しく説明してやる必要はない。
 まぁそれもこれも全てはアイツのせいなんだけど。

 思い出したらムカついてきた。
 要救助者に背中を向けて、オーガに向かって【羅王眼】を発動して行く。
 姿が見えない奥の方のオーガを狙っていき、ジェイドたちかかる負担を減らしていく。

「アル、回収準備」

「はい」

 神父様たちはメイベルに説明を受けているから、荷車にはアルしかいない。

「……まだ怒ってる?」

「どっちがいい?」

「いやー、怒ってない方がいいよ。教官たちが、怒ったらユミル姫しか止められないから、怒らせないことを勧めるって」

「そんなことないよー」

 ユミルは基本的に傍観者の立場でいるからね。
 それか寝ている。
 仲裁することはほとんど期待できない。

「すまんかった」

「いえ。次は商会として魅力がある交渉をお願いしますね。今回はアイツの交渉をしてもらうってことで」

「あぁ、分かった」

 そもそもここにはシスターの治療と召喚獣の確保に来ているわけだから、他に構っている余裕はない。

「グァ」

「お疲れ」

「グァ……グァ?」

 ユミルはメイベルの方を向かせようとグイグイ押してくるが、気づかないふりをして遊ぼうかなと思っている。
 すぐにバレたけど。

 無視されたときと同じような仕草になったため、すぐさまユミルの指示通りに動いた。

「ど、どうしたのかな?」

「グァ」

「カルム、ごめんね……」

「うん。人助けは立派だけど、助けた人が全員善人とは限らないよ。僕はさっきみたいなことになって、時間を無駄に使うくらいなら見捨てる。判断ミス一つで全員を巻き込むことがあるから、僕には連れてきた責任があるからね」

「うん……。ごめんなさい」

 その後、シスターからも謝罪を受けて話は終了した。
 途中から俺も参戦したこともあって、技能結晶も集められたから良しとしよう。

「撤収」

 ドロップ品の全ての所有権は当然で、追加で救出費用を【シボラ商会】の会長である俺の口座に振り込むよう契約したらしい。
 神父様がドロップ品の回収時間を利用して有料で治療をしてた以外は、誰も回復はしなかったし回復薬を売りもしなかった。

 怒ってはいなかったが、まだムカついていたから念動でドロップ品を集めて治療時間を短縮してやったけど。

「グァ」

「お腹空いたね」

 撤収中もジェイドに何か言っている女騎士を、周囲の女性陣が止めるという一幕があった。
 ジェイドは慣れた様子であしらい、逃げるように荷車に乗り込んだ。

「あれは貴族だな。外まで送っていけとか、専属契約の書き換えをするからどうのとか言ってたわ」

「契約の書き換えをしてもいいけど、僕の視界に入らないことを勧めるよ」

「「「「…………」」」」

 戦闘していた面子は俺が怒っていたことを知らないから、アルに何かあったのかを聞いている。

「おーい……何してんのよ」

 遠慮もなく神父様に突っ込むディーノと、凹む救援要請三人組。

「グァァァ」

 メイベルを虐めたと思ったユミルが、俺の背中に乗ったまま威嚇する。

「すみませーん」

「グァ」

 あっという間に到着したボス部屋で二回目のボス戦を行う。変化は緑と白黒の三体が出たことだけ。
 その後、お通夜みたいな昼食を食べて先に進む。

 ◇

「辛かった……。モフモフを攻撃するなんて……」

「グァ?」

「ユミルが一番可愛いよ」

「グァグァ」

 二十六階層から三十五階層はモフモフ階層で、狼と虎が出たのだ。
 上位種の狼や虎しか出ないため、この階層以上になると冒険者の格も変わるらしい。

 途中転移門の登録を行った以外は、オーガの階層とあまり変化はない。
 ボスも同じ技能結晶を持っていたところも同じ。

 つまり、予想が当たったというだろう。

「今日は次の五層を終えたら帰ります」

「「「よっし」」」

 ジェイドとディーノにアルは、ガッツポーズをして喜んでいるし、メイベルとシスターはお風呂に入れると言っていた。

 そういえば借りたのに、まだ使っていない家があったなぁ。
 一回は使わないともったいない。

「三十九階層で爆取りした後、ボス戦だからねー」

「「「「「おうっ」」」」」

 終わりが見えてるとやる気が違うね。
 まぁグリムとユミルは違う意味でやる気に満ちているけどね。

『牛肉……牛肉……』

『食べれるの?』

『高級食材ですよー? 美味しい赤身肉ですー』

 モフモフ階層の次はミノタウロスが出るらしく、牛肉大好きのグリムが爆取りを提案していた。
 しかも、オークのときの作戦と同じでいいとも。

 ユミルも昼寝の時間ができるかもと思って賛成しているから、四度目の誘引薬作戦を行う予定だ。

 ちなみに二度目と三度目は、狼と虎に数滴しか使っていない。

「到着」

「あれ……? ここって……」

 ディーノが、オークの時と同じような広場にいることに気づいてしまったようだ。
 そのディーノの声で全員が気づき、最後の最後で地獄の回収作業を行うことを知った。

「最後です……多分」

「マジか……」

 四度目だから慣れたものだと思っていたのだが、ミノタウロスはオークより大きいくせに動きが速い。
 さらに、手に持った斧でユミルが作った氷の剣山を叩き折っている。

「グァ」

 お昼寝を邪魔されたユミルは不機嫌そうにしながら、氷の壁に肉球を押し当てた。
 直後、巨大な剣山が突き出て、ミノタウロスの体を数体まとめて貫き、ドロップ品に変える。

「グァ」

 ビビるミノタウロスに向けて、挑発するように手招きをするユミル。
 チラッと俺を見たことから、黒豚闘士戦で俺と黒豚闘士がしていたことを真似したかったということだろう。

「可愛い」

「グァ」

 グリムは相変わらず蜘蛛みたいなことをしている。
 網と拘束用の糸を使い、首チョンパの繰り返しだ。回収班もグリムのところから先に回収するらしく、グリムの横で待機している。

 俺は【邪眼】で同士討ちさせつつ、分身を作って影討ちさせていた。

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