65 / 85
第三章 フドゥー伯爵家
第五十七話 魔物暴走
しおりを挟む
翌朝。
今日は一日中探索ができるため、深層近くまで潜れるように効率重視の作戦を実行する予定だ。
一〇階層の転移門の登録も昨夜に済ませたから、野営地帯から出発するだけだ。
ちなみに、五層ごとの階段近くに野営をするための場所がある。
水場や簡易竃にトイレがある。
魔物が侵入できない結界も張られている。
ただ、安全地帯と言わない理由は、人間による被害もあるからだ。
ダンジョン内は無法地帯だから、平気で裏切ってくる人間も少なくない上、女性が襲われることなど日常茶飯事である。
「ジェイドくん、質問があります」
「何だ」
「次の階層はオークとのことですが、オークは美味しいのですか?」
「あぁー豚肉だ。もちろん、強い方が美味い」
「では、十四階層までは高速移動で行きます。今回は一応ロープを渡しておきます」
「やった!」
壁走りが相当怖かったらしく、ディーノが喜んでいた。
まぁ冒険者が活動している日中の方が、壁走りの頻度が多いだろうからね。無理もない。
「じゃあ行くよーー」
「はーい」
「「「「「おうっ」」」」」
顧問弁護士たちは返事をする余裕がないらしく、目を瞑って祈っていた。
「……シスターはジークハルトさんにしがみついて、ジークハルトさんはラルフに掴まっていればいいと思いますよ」
「――よろしく頼む」
「お願いします」
「は、はい」
それは名案だと気付いた顧問弁護士たちは、すぐにラルフに掴まっていた。
「では、出発します」
ゴブリン道よりも広いため、昨日よりも速度を出して進んでいる。
時折飛び出してくるオークもいるが、動きが遅いため攻撃が届く前に通り過ぎてしまう。
「あれに転生したのか……」
「そうですねー……」
オークを見ると不憫な女性のことを思い出してしまう。
知らない人だけど同じく召喚された被害者だからか、全く気にならないということはない。だからといって何もできないけど。
「十三階層から職持ちが出てくるみたいですー」
本来なら冒険者ギルドで情報を買うらしいけど、時間を取られたり妨害されたりが面倒だったから真っ直ぐにダンジョンに来た。
そのせいで行き当たりばったりになっているわけだが、階層に下りてしまえばグリムの探知魔法で判別し、転生賢者の知識データから検索できる。
「弓持ちと魔法職以外は無視かな」
「ですねー。当たりませんしー」
オークの矢は数撃ちゃ当たる戦法だから、グリムの緑系統魔法で逸らすだけで、変わらず通り過ぎることだができる。
魔法職は呪文を唱えている間に逃げるか、放たれた魔法を【魔導眼】の吸収で無効化すればいい。
「メイベルー」
「なにー?」
「誘引薬の準備をしておいてー」
「りょうかーい」
オーク作戦の肝であるアイテムを私兵団と一緒に準備しておいてもらい、十四階層に到着したらすぐに使えるようにしておく予定だ。
わざわざダンジョンに泊まり、早起きして冒険者が活動する前から爆走した理由こそ、オーク爆取り作戦をじっこうするためである。
「到着」
十四階層の後半近くにある広場。
周囲には冒険者の反応はなく、横槍が入る心配もない。
さらに、T字路の交差点であるのも良い。
壁際に回収班を待機させて置けるからね。
「では、作戦を伝える。討伐は変わらず、僕とモフモフ組で担当する。だけど、ドロップする量と速度は今までよりも格段に多く速くなるだろうから、収納は後回しにして荷車で回収することを勧める」
「はい」
「はい、ゲイルくん」
「例のモノも全て載せて仕分けも後ということですか?」
「そのとおり。ジークハルトさんたちだけで荷車を運用するのは非効率的だからね。今日は効率重視で行きますよ」
レアドロップ品をくすねたら、昨日の冒険者みたいになると思われているからこそ、全員参加型の回収ができるのだ。
ある意味信頼している。
「了解です」
ジェイドがラルフに荷車の牽引を頼み、肉などの大型ドロップ品は大人が荷車に詰み、シスターと子ども組は麻袋に小物を入れて行くように指示を出していた。
ラルフは最初は軽くて楽だろうけど、肉が増えて行けば行くほどキツくなるだろう。頑張れ。
「準備はいい? いくよー?」
「「「「「おうっ」」」」」
「「はーい」」
「頑張る」
私兵団はいつも通りで、女性陣は仲良く返事をし、神父様は真面目な顔で気合を入れていた。
全員の返事を確認した後、各通路の奥に一つずつと、広場の入口に一つずつ誘引薬を投げ込んだ。
同時に匂いが十四階層中に広がるようにグリムが風を送る。
「そ、それーー!」
神父様は私兵団が誘引薬を準備している意味が分からなかったらしく、俺が誘引薬を投げたことに驚いていた。
「ユミルは右ね」
「グァ」
「グリムは左ね」
「ホォー」
「僕は真ん中」
手には双剣使いのリビングアーマーが持っていた小剣を両手に持ち、右手を上段に掲げ、左手は左肩の前に立てて構える。
正式な構えではなく、『これから戦いに挑みます』という礼節の構えらしい。
双剣を神々に捧げるという意味があるらしく、それぞれそこから外側に円を描いてから腰だめに構える。
面倒くさい礼節だが、知名度も人気も世界最高峰の武術だ。
その名も――【ラーフォン流双剣術】。
親子ともども神官じゃないのに熱心な双天教信者で、武術担当の太陽神様の眷属『ラーフ』の名前を借りて名付けられたそうだ。
今回オークが集まるまで時間が必要だったから、暇つぶしにやってみたところ、神父様たち教会関係者以外で唯一反応した者がいた。
「ラーフォン流双剣術……」
「さすが、ジェイドくん。これも知ってるんだ」
「カルム、ボクでも知ってるよ。門下生が多い割に入門が難しいって」
「え? そうなの? 早く言えば教えてあげたのにー」
「「「はぁーー!?」」」
神父様も同じように驚いているが、元々天禀だった【剣術】のおかげで、武術書を読んで型を一通り行い、技を極められれば皆伝になるらしい。
技を極める相手は精神世界のフルカスだ。
都度的確なアドバイスをしてくれるため、他の皆伝持ちよりは実戦向きだと思うけどね。
槍術も同じようにフルカスと戦ったから、フルカスもアラド流神槍術を習得して教えられているわけだし。
「まぁこれからオーク相手に使うから、回収しながら見学しなよ。見学料は無料だからさー」
強化魔法で小剣の耐久力を上げ、努力結晶の阿修羅を意識する。
右目は【洞察眼】に、左目は【死天眼】にし、【白毫眼】の精度も上げておく。
「準備完了」
準備を終えた頃にようやく、十四階層の床が振動するほどのオークが広場に向かって行進してきた。
「き、来た……。スタンピードだ……」
ビビりまくりの神父様を尻目に討伐を開始する。
実際のところ、スタンピードを起こすという方法はかなり黒寄りのグレーゾーンだろうけど、事故って言えば無問題。
――ラーフォン流双剣術《満天》
防御寄りの月剣も使い、止まることのない連撃を放つ攻撃だが、虚実を混ぜることによって単調な攻撃にならないようにしている。
一撃目に利き手の陽剣の横薙ぎから入ったら、体を戻すことなく回転させて反対の月剣ですくい上げるように攻撃する。
今度は月剣の振り下ろしを囮にして、有利な立ち位置になるように移動する。
といったように、ラーフォン流双剣術の肝は舞っているように見える歩法だ。
双剣の使い方に目が行きがちだが、動きこそが人々を魅了し、敵対者に絶望を見せる。
まぁ俺はインチキしているけどね。
【洞察眼】で動き出しを察し、【死天眼】で動きを止める。
隙だらけのオークの首を切り裂き、胸に剣を突き入れて一撃で討伐していく。本当の五歳児なら小剣一本を頑張って持てるくらいなのに、両手に持って縦横無尽に駆け回る異常さ……。
うん。ママンにバレたらヤバそうだ。
でも、ママンにも技能結晶をプレゼントしたいんだよね。
【虚空蔵】の並列思考と、高速思考による行動予測を使っているため、考え事していても問題なく討伐できている。
時折、メイベルたちに標的が移り変わりそうになる度、ゴブリンから得た【挑発】を使ってヘイトを集めた。
「僕の方はだいたい片づいたけど?」
チラッとグリムを見ると、グリムは遠距離攻撃型以外はまともに相手をしないという楽をしていた。
広場の入口に魔力の網を張り、ギリギリまで埋め尽くされるのを待ってから気○斬みたいな魔法攻撃で首をはねていた。
網と同朋のせいで身動きが取れないオークは、避けることもできずにドロップ品に変わっていく。
しかも、グリムは俺とは違って親切だった。
後続のオークを一時的に網で止めておき、回収班が回収しやすいようにしていた。
俺のところはおっかなびっくりで拾っていただろうから、少し申し訳なく感じる。
「ユミルはー?」
――ね……寝てる……。
うたた寝をしているユミルの前の入口には、氷でできた剣山のような壁があり、オークが突き刺さってドロップ品に変わったかと思えば、次のオークが突き刺さっていくという無限ループが繰り広げられている。
ユミルは、後でまとめて拾えばいいじゃんと思っているのだろう。
剣山の下部に山ほどのドロップ品が落ちていた。
「ユミル、下の部分だけ穴を空けられる?」
「グァ」
下部の一部だけ穴が開いて、壁が落下しないようにしてくれた。
そこから貴重なものを優先して集め、遠くにあるものは俺が念動でたぐり寄せていくことで、討伐と同時に回収も終わる。
「疲れたーーー!」
一番の年長者である神父様が辛そうにしているが、まだ仕分けと吸収作業が残っている。
当たり前だが、【異空袋】は商会メンバーしか持っていない。
だから、肉系は彼らの時間停止の方に入れてもらう。容量を超えるなら俺も預かるけどね。
「吸収を先にやった方が楽だと思うよ。【強靭】だって」
「肉体労働向きだな」
ジェイドはもっとパシられそうだと思っているのか、表情が暗い。
「どうしたのかな?」
「……剣術は教えてくれるのか?」
「いいよ。一応教官コンビにも教えておくからさ、頑張ってくれたまえ」
「あぁ。感謝する」
「いいの、いいの」
十四階層のオークを一掃し、十五階層のボス部屋へと向かうのだった。
今日は一日中探索ができるため、深層近くまで潜れるように効率重視の作戦を実行する予定だ。
一〇階層の転移門の登録も昨夜に済ませたから、野営地帯から出発するだけだ。
ちなみに、五層ごとの階段近くに野営をするための場所がある。
水場や簡易竃にトイレがある。
魔物が侵入できない結界も張られている。
ただ、安全地帯と言わない理由は、人間による被害もあるからだ。
ダンジョン内は無法地帯だから、平気で裏切ってくる人間も少なくない上、女性が襲われることなど日常茶飯事である。
「ジェイドくん、質問があります」
「何だ」
「次の階層はオークとのことですが、オークは美味しいのですか?」
「あぁー豚肉だ。もちろん、強い方が美味い」
「では、十四階層までは高速移動で行きます。今回は一応ロープを渡しておきます」
「やった!」
壁走りが相当怖かったらしく、ディーノが喜んでいた。
まぁ冒険者が活動している日中の方が、壁走りの頻度が多いだろうからね。無理もない。
「じゃあ行くよーー」
「はーい」
「「「「「おうっ」」」」」
顧問弁護士たちは返事をする余裕がないらしく、目を瞑って祈っていた。
「……シスターはジークハルトさんにしがみついて、ジークハルトさんはラルフに掴まっていればいいと思いますよ」
「――よろしく頼む」
「お願いします」
「は、はい」
それは名案だと気付いた顧問弁護士たちは、すぐにラルフに掴まっていた。
「では、出発します」
ゴブリン道よりも広いため、昨日よりも速度を出して進んでいる。
時折飛び出してくるオークもいるが、動きが遅いため攻撃が届く前に通り過ぎてしまう。
「あれに転生したのか……」
「そうですねー……」
オークを見ると不憫な女性のことを思い出してしまう。
知らない人だけど同じく召喚された被害者だからか、全く気にならないということはない。だからといって何もできないけど。
「十三階層から職持ちが出てくるみたいですー」
本来なら冒険者ギルドで情報を買うらしいけど、時間を取られたり妨害されたりが面倒だったから真っ直ぐにダンジョンに来た。
そのせいで行き当たりばったりになっているわけだが、階層に下りてしまえばグリムの探知魔法で判別し、転生賢者の知識データから検索できる。
「弓持ちと魔法職以外は無視かな」
「ですねー。当たりませんしー」
オークの矢は数撃ちゃ当たる戦法だから、グリムの緑系統魔法で逸らすだけで、変わらず通り過ぎることだができる。
魔法職は呪文を唱えている間に逃げるか、放たれた魔法を【魔導眼】の吸収で無効化すればいい。
「メイベルー」
「なにー?」
「誘引薬の準備をしておいてー」
「りょうかーい」
オーク作戦の肝であるアイテムを私兵団と一緒に準備しておいてもらい、十四階層に到着したらすぐに使えるようにしておく予定だ。
わざわざダンジョンに泊まり、早起きして冒険者が活動する前から爆走した理由こそ、オーク爆取り作戦をじっこうするためである。
「到着」
十四階層の後半近くにある広場。
周囲には冒険者の反応はなく、横槍が入る心配もない。
さらに、T字路の交差点であるのも良い。
壁際に回収班を待機させて置けるからね。
「では、作戦を伝える。討伐は変わらず、僕とモフモフ組で担当する。だけど、ドロップする量と速度は今までよりも格段に多く速くなるだろうから、収納は後回しにして荷車で回収することを勧める」
「はい」
「はい、ゲイルくん」
「例のモノも全て載せて仕分けも後ということですか?」
「そのとおり。ジークハルトさんたちだけで荷車を運用するのは非効率的だからね。今日は効率重視で行きますよ」
レアドロップ品をくすねたら、昨日の冒険者みたいになると思われているからこそ、全員参加型の回収ができるのだ。
ある意味信頼している。
「了解です」
ジェイドがラルフに荷車の牽引を頼み、肉などの大型ドロップ品は大人が荷車に詰み、シスターと子ども組は麻袋に小物を入れて行くように指示を出していた。
ラルフは最初は軽くて楽だろうけど、肉が増えて行けば行くほどキツくなるだろう。頑張れ。
「準備はいい? いくよー?」
「「「「「おうっ」」」」」
「「はーい」」
「頑張る」
私兵団はいつも通りで、女性陣は仲良く返事をし、神父様は真面目な顔で気合を入れていた。
全員の返事を確認した後、各通路の奥に一つずつと、広場の入口に一つずつ誘引薬を投げ込んだ。
同時に匂いが十四階層中に広がるようにグリムが風を送る。
「そ、それーー!」
神父様は私兵団が誘引薬を準備している意味が分からなかったらしく、俺が誘引薬を投げたことに驚いていた。
「ユミルは右ね」
「グァ」
「グリムは左ね」
「ホォー」
「僕は真ん中」
手には双剣使いのリビングアーマーが持っていた小剣を両手に持ち、右手を上段に掲げ、左手は左肩の前に立てて構える。
正式な構えではなく、『これから戦いに挑みます』という礼節の構えらしい。
双剣を神々に捧げるという意味があるらしく、それぞれそこから外側に円を描いてから腰だめに構える。
面倒くさい礼節だが、知名度も人気も世界最高峰の武術だ。
その名も――【ラーフォン流双剣術】。
親子ともども神官じゃないのに熱心な双天教信者で、武術担当の太陽神様の眷属『ラーフ』の名前を借りて名付けられたそうだ。
今回オークが集まるまで時間が必要だったから、暇つぶしにやってみたところ、神父様たち教会関係者以外で唯一反応した者がいた。
「ラーフォン流双剣術……」
「さすが、ジェイドくん。これも知ってるんだ」
「カルム、ボクでも知ってるよ。門下生が多い割に入門が難しいって」
「え? そうなの? 早く言えば教えてあげたのにー」
「「「はぁーー!?」」」
神父様も同じように驚いているが、元々天禀だった【剣術】のおかげで、武術書を読んで型を一通り行い、技を極められれば皆伝になるらしい。
技を極める相手は精神世界のフルカスだ。
都度的確なアドバイスをしてくれるため、他の皆伝持ちよりは実戦向きだと思うけどね。
槍術も同じようにフルカスと戦ったから、フルカスもアラド流神槍術を習得して教えられているわけだし。
「まぁこれからオーク相手に使うから、回収しながら見学しなよ。見学料は無料だからさー」
強化魔法で小剣の耐久力を上げ、努力結晶の阿修羅を意識する。
右目は【洞察眼】に、左目は【死天眼】にし、【白毫眼】の精度も上げておく。
「準備完了」
準備を終えた頃にようやく、十四階層の床が振動するほどのオークが広場に向かって行進してきた。
「き、来た……。スタンピードだ……」
ビビりまくりの神父様を尻目に討伐を開始する。
実際のところ、スタンピードを起こすという方法はかなり黒寄りのグレーゾーンだろうけど、事故って言えば無問題。
――ラーフォン流双剣術《満天》
防御寄りの月剣も使い、止まることのない連撃を放つ攻撃だが、虚実を混ぜることによって単調な攻撃にならないようにしている。
一撃目に利き手の陽剣の横薙ぎから入ったら、体を戻すことなく回転させて反対の月剣ですくい上げるように攻撃する。
今度は月剣の振り下ろしを囮にして、有利な立ち位置になるように移動する。
といったように、ラーフォン流双剣術の肝は舞っているように見える歩法だ。
双剣の使い方に目が行きがちだが、動きこそが人々を魅了し、敵対者に絶望を見せる。
まぁ俺はインチキしているけどね。
【洞察眼】で動き出しを察し、【死天眼】で動きを止める。
隙だらけのオークの首を切り裂き、胸に剣を突き入れて一撃で討伐していく。本当の五歳児なら小剣一本を頑張って持てるくらいなのに、両手に持って縦横無尽に駆け回る異常さ……。
うん。ママンにバレたらヤバそうだ。
でも、ママンにも技能結晶をプレゼントしたいんだよね。
【虚空蔵】の並列思考と、高速思考による行動予測を使っているため、考え事していても問題なく討伐できている。
時折、メイベルたちに標的が移り変わりそうになる度、ゴブリンから得た【挑発】を使ってヘイトを集めた。
「僕の方はだいたい片づいたけど?」
チラッとグリムを見ると、グリムは遠距離攻撃型以外はまともに相手をしないという楽をしていた。
広場の入口に魔力の網を張り、ギリギリまで埋め尽くされるのを待ってから気○斬みたいな魔法攻撃で首をはねていた。
網と同朋のせいで身動きが取れないオークは、避けることもできずにドロップ品に変わっていく。
しかも、グリムは俺とは違って親切だった。
後続のオークを一時的に網で止めておき、回収班が回収しやすいようにしていた。
俺のところはおっかなびっくりで拾っていただろうから、少し申し訳なく感じる。
「ユミルはー?」
――ね……寝てる……。
うたた寝をしているユミルの前の入口には、氷でできた剣山のような壁があり、オークが突き刺さってドロップ品に変わったかと思えば、次のオークが突き刺さっていくという無限ループが繰り広げられている。
ユミルは、後でまとめて拾えばいいじゃんと思っているのだろう。
剣山の下部に山ほどのドロップ品が落ちていた。
「ユミル、下の部分だけ穴を空けられる?」
「グァ」
下部の一部だけ穴が開いて、壁が落下しないようにしてくれた。
そこから貴重なものを優先して集め、遠くにあるものは俺が念動でたぐり寄せていくことで、討伐と同時に回収も終わる。
「疲れたーーー!」
一番の年長者である神父様が辛そうにしているが、まだ仕分けと吸収作業が残っている。
当たり前だが、【異空袋】は商会メンバーしか持っていない。
だから、肉系は彼らの時間停止の方に入れてもらう。容量を超えるなら俺も預かるけどね。
「吸収を先にやった方が楽だと思うよ。【強靭】だって」
「肉体労働向きだな」
ジェイドはもっとパシられそうだと思っているのか、表情が暗い。
「どうしたのかな?」
「……剣術は教えてくれるのか?」
「いいよ。一応教官コンビにも教えておくからさ、頑張ってくれたまえ」
「あぁ。感謝する」
「いいの、いいの」
十四階層のオークを一掃し、十五階層のボス部屋へと向かうのだった。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ
るさんちまん
ファンタジー
40代を数年後に控えた主人公は、ある日、偶然見かけた美少女を事故から助けようとしたところ、彼女の姿で異世界に転生してしまう。見た目は美少女、中身はアラフォーおっさんというギャップで、果たして異世界生活はどうなってしまうのか──。
初めての異世界物です。1話毎のエピソードは短めにしてあります。完走できるように頑張りますので、よろしくお付き合いください。
※この作品は『小説家になろう』(https://ncode.syosetu.com/n9377id/)、『カクヨム』(https://kakuyomu.jp/works/16817139554521631455)でも公開しています。
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)
丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】
深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。
前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。
そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに……
異世界に転生しても働くのをやめられない!
剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。
■カクヨムでも連載中です■
本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。
中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。
いつもありがとうございます。
◆
書籍化に伴いタイトルが変更となりました。
剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~
↓
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる