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第三章 フドゥー伯爵家
第五十四話 現地到着
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ダンジョンはノーラス子爵領の南端で、フドゥー伯爵領との領境にある。
ダンジョンは【闇樹のダンジョン】と呼ばれ、未だ踏破した者がいない高難度ダンジョンとして知名度が高いそうだ。
現在も多くの冒険者が攻略をしているため、近くの領都は非常に賑わっているらしい。
「じゃあバラムとフルカスとはここまでだね。お金は一億くらい渡しておくから、遠慮せず使ってね」
「そんなにいらん」
「見せ金がないと家を借りられないかもしれないじゃん。後ろ盾がない六級冒険者なんだから」
「ふむ。それもそうか」
「あと、いろいろやり過ぎないでね。後始末するジェイドが大変だから」
「――え? オレ?」
「善処する」
「フルカス……頼むよ?」
「御意」
二人が立ち去るのを見送って、客室荷車に乗り込む。
運転席は俺とグリムにユミルが座り、前列席にはメイベルとアルが座って、後列席は神父様とシスターの顧問弁護士組が座っている。
荷車を引くのはラルフとディーノで、馬車後方の警戒にはジェイドとゲイルがつく。
もちろん、馬車は【観念動】の浮遊で浮いているから、重くもなければ振動もない。
「出発進行」
無言で荷車を引くディーノとラルフの二人。
「もう少しスピードを出してくれてもいいんだよ?」
「……速度出したら疲れるだろ?」
「補充要員がいるから大丈夫だよ?」
「というか、分身使えるだろ」
ディーノはバラムの訓練に参加することが少ないから、まだ少しだけ抵抗力があるようだ。
しかし、ラルフは忠実に仕事をこなす真面目くんだから、荷車の速度は徐々に上がっていく。
「いいよーー!」
「ディーノも訓練を真面目に受ければわかるだ」
「……そんなにキツいのか?」
「キツい? そんな言葉で済めばいいだよ……」
まぁねぇ。ラルフは盾役だから特に大変だろうなぁ。バラムの攻撃を喰らって膝をつくことを許されないんだもん……。不憫。
「そういえば、メイベルは訓練しないの?」
アルが地獄への招待状をメイベルに差し出すも、満面の笑みで突き返された。
「カルムに教えてもらってるから大丈夫だよ」
「カルムに……?」
「うん! とっても優しいよ?」
「ふーん……」
いいよ、いいよ。地獄への招待状が大量送付されてるよ。
「僕の戦闘教室に参加してみる?」
「……いや、やめとく。なんか嫌な予感がするんだよね」
「気のせいだよ。参加用紙に名前を書くだけでいいよ?」
「契約書じゃん!」
――チッ、バレたか。話を逸らそう。
「四人とも四隅に掴まってーー! 高速移動するよーー!」
客室荷車の四方には足場と手すりがあり、高速移動時はそこにしがみついてもらうことになっている。
いちいち乗降車しなくて済むから、緊急時の対応にも向いた機能だ。
「怖いんだよなぁ」
「今度ベルトを作るといいよ」
「そうする」
ディーノは非戦闘員だからか、少しビビりである。
「高速モード始動――さんはいっ」
「「どすこいっ!」」
「グァグァ!」
俺とメイベルが考えた合言葉だ。
アルや神父様たちの視線が痛いが、シスターの視線は微笑ましいものを見ているような優しい視線だった。
君たちも見習いたまえ。
「どすこい、どすこい」
「どすこい、どすこい」
「グァグァ」
街道を爆走するもバラムたちの姿は見えず、そこまで急いでいる理由が分からず不安がよぎる。
「そろそろ到着するので、牽引よろしく」
「了解」
しがみついたせいで腕が震えているディーノは荷車の中で休み、ラルフ一人で引いている。
車輪が地面に着くか着かないかくらいに調整して浮遊させているから、一人でも十分引くことができるはず。
体格もいいから見た目にも大丈夫でしょう。
「止まれ。この町には何しに来たか目的を言え」
「こんにちは。僕たちは商人でして、ダンジョンの素材を仕入れに来ました。彼らは商会専属の護衛で、冒険者ギルドにも登録してありますよ」
今回の子ども組の設定は、全員商会員で通すことにする。
アルは冒険者ギルドでも登録をしているが、冒険者ギルドの身分を使うと、仮登録者のアルだけがお留守番になるからだ。
さらに、商会が教会の司教を連れているのも異常だから、いつもの法衣はしまっておいてもらって、防具を身につけてもらっている。
ついでに武器も装備して、護衛に見えなくもない。
辺境に左遷されただけあって、六級冒険者のタグは持っているのも好都合。
神父様曰く、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったそうだ。
神父様は盾とメイスで、シスターは槍だ。
どうやらママンに手解きを受けたらしい。
「ふむ。馬車の中身を見せて身分証を出せ」
「はい」
ちなみに、馬車の構造は珍しいからという理由で、ガンツさんに商人ギルドの方で登録しておけと言われ、職人ギルドに登録する前に仮登録みたいなことをしておいた。
だってここは、窃盗一族の本拠地だからね。
「ん? 【シボラ商会】……? どこかで? まぁいいだろう。通ってよし」
「ありがとうございます」
そのまま商人ギルドへと向かい、家を借りることにする。
交渉した次の日にダンジョンに来ると思ってないからか、行動するならまだ手を打たれていない今しかない。
「こんにちは。家を借りたいのですが?」
相変わらず背中にユミルを乗せて商人ギルドの受付へ。
「え? い、家でございましょうか?」
「はい。大人六人、子ども三人に魔獣が二体泊まれる家を求めています」
「用途は?」
「ダンジョン素材を採取するために来たので、寝泊まりと食事ができれば大丈夫です。できればお風呂があれば、なおいいですね」
「でしたら、ダンジョン近くにクランハウスだった場所があります。少々古いですが、全ての条件が揃っているのはそちらくらいですね。他は貴族の屋敷や豪商レベルになりますから、お値段が格段に上がります」
寝泊まりくらいしか利用しないのに、豪邸に住んでも仕方ないしね。
「じゃあそこでお願いします」
「え? 内見しなくてもいいのですか?」
「ええ。掃除も自分でしますよ」
「そ、そうですか? では、こちらの書類にサインした後、最低賃料の半月分をお支払いください。半月ごとの自動更新なので、利用をやめる場合は更新の前にお知らせください」
「分かりました。ありがとうございます」
好立地だから古くてもそこそこの価格になるそうで、半月で二〇万スピラの支払いとなった。
面倒だから口座から引き落としてもらい、鍵と契約書を持って、契約書の裏に書かれた物件に向かう。
「ついでに食料を買っていこう。ディーノ、出番だよーー!」
「よっしゃ! やっとだ!」
料理が大好きな彼は、料理に関することが出来ると知れば復活するのだ。
タフな料理人は我が商会向きだと思う。
「食料は荷車に積むんだよ」
「了解」
ポーチは一応秘匿する方向で、ガンツさんにしか言っていない。
ガンツさんの作品に付与するわけだから、一応筋は通しておこうと思って、目の前で付与したんだよね。
奥さんが「いいわね」と言っていたから、愛妻家のガンツさんが注文してくるかもしれない。
将来的に業務提携してもいいかも。
信頼と実積がある『ガンツ工房』なら、間違いなく顧客がつくからね。
「ジェイド、ダンジョンに入るための手続きとかはいるの?」
「いらないな。外部の冒険者を雇うなら護衛依頼を出さないといけないけど、専属契約を結んである護衛だから不要だろ」
「ジーク様は?」
「やめろ」
「ジーク様がいたな」
「やめろ」
「……野良パーティーを申し込まれたから受けたって言えばいいだろ」
「え? お金払えってギルドに言われない?」
「冒険者側が頼んで同行した場合は、冒険者が報酬を払うんだ。その場合はギルドに介入の余地はないぞ。使い潰されないようにしつつ、手数料を取るのがギルドのしくみだからな。自分で頼んだ野良パーティーまでは責任持ってくれねぇよ」
なるほど。じゃあ一応形だけでも整えておくか。
「じゃあジーク様、どうぞ」
「おい。――我々【双天の使徒】も同行させてください」
「うむ。許可する」
「「ありがとうございます」」
二人しかいないのに、パーティー名があるのか。
「なぁ、ジーク様っていうのはやめてくれ」
「何故? 教会の関係者というのは秘密なので、名前で呼ぶしかないと思うんですが?」
「ジェイドって呼び捨てにしてるだろ?」
「部下です。ジーク様は取引先の相手なのでね」
「年上だしな」
本当は美人のアリアさんとイチャイチャしていることへの当てつけだ。
男所帯に美人を連れて来たおっさん。
まだイケメンならしょうがないと思えるだろうが、普段はボサボサ頭のおっさんなのだ。
イジりたくなってもおかしくない。
「天使と悪魔――」
「あぁー! ジークハルトさん、どうされました?」
埒があかないと思ったのか、まさかの脅迫に出たではないか。
あんた、それでも聖職者か?
「おい、どうした?」
「カルム?」
「なんでもないんだよ。さぁ、着いたよ。掃除してくるから、ちょっと待ってて」
追及される前に逃げるべし。
◇
屋敷内部はめちゃくちゃ汚かった。
老朽化は心配するほどじゃなかったけど、業者が必要なレベルの汚さと備品の少なさだ。
生活魔法の《清浄》を使い、敷地内全てを綺麗にする。
グリムには屋外の雑草の処理や、石畳の補修を担当してもらっている。その後、防犯対策の結界を張ってもらう予定だ。
「ベッドとか布団が全くないなぁ」
掃除が終わって備品の確認をしたり魔導具の魔核を交換したりと、家の中を軽く見回ってみた。
「毛布は野営道具があるからいいか。数日間の滞在のために買うのもな……」
どうしようかなと思いながら外に出ると、客室荷車を解体している私兵団を見つける。
「そうだ! ちょっとーー! 椅子は解体せずに中に運んでくれない? ベッドがないからさ!」
誰かが体調を崩してもいいようにフラットにできるようにしてあるから、それを女性陣に使ってもらおう。
「カルムくんも一緒に寝ますか?」
女性陣に使ってもらう話をしたときに、慈愛に満ちたシスターに言われた言葉だ。
思わず「うん!」って言いそうになったが、二つの視線が体に突き刺さっていたから、丁重にお断りさせていただいた。
残念無念。
ダンジョンは【闇樹のダンジョン】と呼ばれ、未だ踏破した者がいない高難度ダンジョンとして知名度が高いそうだ。
現在も多くの冒険者が攻略をしているため、近くの領都は非常に賑わっているらしい。
「じゃあバラムとフルカスとはここまでだね。お金は一億くらい渡しておくから、遠慮せず使ってね」
「そんなにいらん」
「見せ金がないと家を借りられないかもしれないじゃん。後ろ盾がない六級冒険者なんだから」
「ふむ。それもそうか」
「あと、いろいろやり過ぎないでね。後始末するジェイドが大変だから」
「――え? オレ?」
「善処する」
「フルカス……頼むよ?」
「御意」
二人が立ち去るのを見送って、客室荷車に乗り込む。
運転席は俺とグリムにユミルが座り、前列席にはメイベルとアルが座って、後列席は神父様とシスターの顧問弁護士組が座っている。
荷車を引くのはラルフとディーノで、馬車後方の警戒にはジェイドとゲイルがつく。
もちろん、馬車は【観念動】の浮遊で浮いているから、重くもなければ振動もない。
「出発進行」
無言で荷車を引くディーノとラルフの二人。
「もう少しスピードを出してくれてもいいんだよ?」
「……速度出したら疲れるだろ?」
「補充要員がいるから大丈夫だよ?」
「というか、分身使えるだろ」
ディーノはバラムの訓練に参加することが少ないから、まだ少しだけ抵抗力があるようだ。
しかし、ラルフは忠実に仕事をこなす真面目くんだから、荷車の速度は徐々に上がっていく。
「いいよーー!」
「ディーノも訓練を真面目に受ければわかるだ」
「……そんなにキツいのか?」
「キツい? そんな言葉で済めばいいだよ……」
まぁねぇ。ラルフは盾役だから特に大変だろうなぁ。バラムの攻撃を喰らって膝をつくことを許されないんだもん……。不憫。
「そういえば、メイベルは訓練しないの?」
アルが地獄への招待状をメイベルに差し出すも、満面の笑みで突き返された。
「カルムに教えてもらってるから大丈夫だよ」
「カルムに……?」
「うん! とっても優しいよ?」
「ふーん……」
いいよ、いいよ。地獄への招待状が大量送付されてるよ。
「僕の戦闘教室に参加してみる?」
「……いや、やめとく。なんか嫌な予感がするんだよね」
「気のせいだよ。参加用紙に名前を書くだけでいいよ?」
「契約書じゃん!」
――チッ、バレたか。話を逸らそう。
「四人とも四隅に掴まってーー! 高速移動するよーー!」
客室荷車の四方には足場と手すりがあり、高速移動時はそこにしがみついてもらうことになっている。
いちいち乗降車しなくて済むから、緊急時の対応にも向いた機能だ。
「怖いんだよなぁ」
「今度ベルトを作るといいよ」
「そうする」
ディーノは非戦闘員だからか、少しビビりである。
「高速モード始動――さんはいっ」
「「どすこいっ!」」
「グァグァ!」
俺とメイベルが考えた合言葉だ。
アルや神父様たちの視線が痛いが、シスターの視線は微笑ましいものを見ているような優しい視線だった。
君たちも見習いたまえ。
「どすこい、どすこい」
「どすこい、どすこい」
「グァグァ」
街道を爆走するもバラムたちの姿は見えず、そこまで急いでいる理由が分からず不安がよぎる。
「そろそろ到着するので、牽引よろしく」
「了解」
しがみついたせいで腕が震えているディーノは荷車の中で休み、ラルフ一人で引いている。
車輪が地面に着くか着かないかくらいに調整して浮遊させているから、一人でも十分引くことができるはず。
体格もいいから見た目にも大丈夫でしょう。
「止まれ。この町には何しに来たか目的を言え」
「こんにちは。僕たちは商人でして、ダンジョンの素材を仕入れに来ました。彼らは商会専属の護衛で、冒険者ギルドにも登録してありますよ」
今回の子ども組の設定は、全員商会員で通すことにする。
アルは冒険者ギルドでも登録をしているが、冒険者ギルドの身分を使うと、仮登録者のアルだけがお留守番になるからだ。
さらに、商会が教会の司教を連れているのも異常だから、いつもの法衣はしまっておいてもらって、防具を身につけてもらっている。
ついでに武器も装備して、護衛に見えなくもない。
辺境に左遷されただけあって、六級冒険者のタグは持っているのも好都合。
神父様曰く、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったそうだ。
神父様は盾とメイスで、シスターは槍だ。
どうやらママンに手解きを受けたらしい。
「ふむ。馬車の中身を見せて身分証を出せ」
「はい」
ちなみに、馬車の構造は珍しいからという理由で、ガンツさんに商人ギルドの方で登録しておけと言われ、職人ギルドに登録する前に仮登録みたいなことをしておいた。
だってここは、窃盗一族の本拠地だからね。
「ん? 【シボラ商会】……? どこかで? まぁいいだろう。通ってよし」
「ありがとうございます」
そのまま商人ギルドへと向かい、家を借りることにする。
交渉した次の日にダンジョンに来ると思ってないからか、行動するならまだ手を打たれていない今しかない。
「こんにちは。家を借りたいのですが?」
相変わらず背中にユミルを乗せて商人ギルドの受付へ。
「え? い、家でございましょうか?」
「はい。大人六人、子ども三人に魔獣が二体泊まれる家を求めています」
「用途は?」
「ダンジョン素材を採取するために来たので、寝泊まりと食事ができれば大丈夫です。できればお風呂があれば、なおいいですね」
「でしたら、ダンジョン近くにクランハウスだった場所があります。少々古いですが、全ての条件が揃っているのはそちらくらいですね。他は貴族の屋敷や豪商レベルになりますから、お値段が格段に上がります」
寝泊まりくらいしか利用しないのに、豪邸に住んでも仕方ないしね。
「じゃあそこでお願いします」
「え? 内見しなくてもいいのですか?」
「ええ。掃除も自分でしますよ」
「そ、そうですか? では、こちらの書類にサインした後、最低賃料の半月分をお支払いください。半月ごとの自動更新なので、利用をやめる場合は更新の前にお知らせください」
「分かりました。ありがとうございます」
好立地だから古くてもそこそこの価格になるそうで、半月で二〇万スピラの支払いとなった。
面倒だから口座から引き落としてもらい、鍵と契約書を持って、契約書の裏に書かれた物件に向かう。
「ついでに食料を買っていこう。ディーノ、出番だよーー!」
「よっしゃ! やっとだ!」
料理が大好きな彼は、料理に関することが出来ると知れば復活するのだ。
タフな料理人は我が商会向きだと思う。
「食料は荷車に積むんだよ」
「了解」
ポーチは一応秘匿する方向で、ガンツさんにしか言っていない。
ガンツさんの作品に付与するわけだから、一応筋は通しておこうと思って、目の前で付与したんだよね。
奥さんが「いいわね」と言っていたから、愛妻家のガンツさんが注文してくるかもしれない。
将来的に業務提携してもいいかも。
信頼と実積がある『ガンツ工房』なら、間違いなく顧客がつくからね。
「ジェイド、ダンジョンに入るための手続きとかはいるの?」
「いらないな。外部の冒険者を雇うなら護衛依頼を出さないといけないけど、専属契約を結んである護衛だから不要だろ」
「ジーク様は?」
「やめろ」
「ジーク様がいたな」
「やめろ」
「……野良パーティーを申し込まれたから受けたって言えばいいだろ」
「え? お金払えってギルドに言われない?」
「冒険者側が頼んで同行した場合は、冒険者が報酬を払うんだ。その場合はギルドに介入の余地はないぞ。使い潰されないようにしつつ、手数料を取るのがギルドのしくみだからな。自分で頼んだ野良パーティーまでは責任持ってくれねぇよ」
なるほど。じゃあ一応形だけでも整えておくか。
「じゃあジーク様、どうぞ」
「おい。――我々【双天の使徒】も同行させてください」
「うむ。許可する」
「「ありがとうございます」」
二人しかいないのに、パーティー名があるのか。
「なぁ、ジーク様っていうのはやめてくれ」
「何故? 教会の関係者というのは秘密なので、名前で呼ぶしかないと思うんですが?」
「ジェイドって呼び捨てにしてるだろ?」
「部下です。ジーク様は取引先の相手なのでね」
「年上だしな」
本当は美人のアリアさんとイチャイチャしていることへの当てつけだ。
男所帯に美人を連れて来たおっさん。
まだイケメンならしょうがないと思えるだろうが、普段はボサボサ頭のおっさんなのだ。
イジりたくなってもおかしくない。
「天使と悪魔――」
「あぁー! ジークハルトさん、どうされました?」
埒があかないと思ったのか、まさかの脅迫に出たではないか。
あんた、それでも聖職者か?
「おい、どうした?」
「カルム?」
「なんでもないんだよ。さぁ、着いたよ。掃除してくるから、ちょっと待ってて」
追及される前に逃げるべし。
◇
屋敷内部はめちゃくちゃ汚かった。
老朽化は心配するほどじゃなかったけど、業者が必要なレベルの汚さと備品の少なさだ。
生活魔法の《清浄》を使い、敷地内全てを綺麗にする。
グリムには屋外の雑草の処理や、石畳の補修を担当してもらっている。その後、防犯対策の結界を張ってもらう予定だ。
「ベッドとか布団が全くないなぁ」
掃除が終わって備品の確認をしたり魔導具の魔核を交換したりと、家の中を軽く見回ってみた。
「毛布は野営道具があるからいいか。数日間の滞在のために買うのもな……」
どうしようかなと思いながら外に出ると、客室荷車を解体している私兵団を見つける。
「そうだ! ちょっとーー! 椅子は解体せずに中に運んでくれない? ベッドがないからさ!」
誰かが体調を崩してもいいようにフラットにできるようにしてあるから、それを女性陣に使ってもらおう。
「カルムくんも一緒に寝ますか?」
女性陣に使ってもらう話をしたときに、慈愛に満ちたシスターに言われた言葉だ。
思わず「うん!」って言いそうになったが、二つの視線が体に突き刺さっていたから、丁重にお断りさせていただいた。
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