怪物転生者は早期リタイアしたい~チートあるけど、召喚獣とパシリに丸投げする~

暇人太一

文字の大きさ
上 下
58 / 85
第三章 フドゥー伯爵家

第五十話  不服申立

しおりを挟む
 先日の水路工事の反響は凄まじく、農業とあまり関係がない東区の住民以外はほぼ全員が恩恵に与れ、新たに農耕地を耕す者もいたほどだ。
 しかも、男爵家の公共事業ではなく、一商会の慈善事業である。

 その慈悲深いシボラ商会の権利を侵害しようとした商人ギルドは、住民だけでなく商人からも叩かれていた。
 もちろん、カーティルの配下を使って噂を流させたのだが。

「はぁ……」

「どうしたの?」

「最近、働き過ぎだなーーって!」

「……商会長だもん」

「……五歳児だよ?」

「グァ!」

「ユミルも遊びたいよなーー!」

「グァ!」

 今は分家のリビングでユミルをバックハグしてエネルギーを補充しているからいいが、製塩事業も始まったから魔導具の調子を見に行かなければならない。

 こういうときのパシリだろ……。

「人手が足りない……」

「馬車もまだ作ってないもんねー!」

「そうなんだよねー! 毎回借りてるから、そろそろ商会専用馬車が欲しい!」

 まぁガンツさんが半ギレしながら、「次に面白そうなことするときは絶対に呼べ!」と言っていたから、いろいろ手つかずの仕事もあった。

「僕も口から卵産んだり、地面に種を植えて子分を増やしたりしたい……」

「……どうしたの?」

「――そうだっ! 召喚があった! シスターの治療もあるし、ダンジョンに行こうっ!」

 善は急げと、訓練中のジェイドに会いに怪物村へ。

「ジェイドーー!」

「…………何だ」

 地面に倒れ込んだまま起き上がらないジェイドに、俺も練習中のアレを試してみた。

「《起きろ》」

「――っ!」

 【観念動】の雷声だ。

 少しずつ上達して、麻痺や恐慌を起こさせないように命令できるようになったんだよね。

「なんでお前も使えるんだよっ!」

「そんなことはいいから、近くにスライムから人型まで多種多様の魔物が出るダンジョンってないかな?」

「……また行くのか?」

「シスターの治療にも関係しているんだよ!?」

「……確かにあるけど、お前は行けないだろ」

「冒険者じゃないから?」

「それは何とかなるが、フドゥー伯爵家の分家でもあるノーラス子爵家の領地にあるからな。他は迷宮伯の領地にあるけど、あそこは条件があるからもっと無理だ。融通きかないしな」

「……伯爵家と子爵家が『うん』と言えば、ダンジョンに行けるんだよね?」

「……商人だからな。階級が足りなくても商人の護衛って言えば大丈夫だ。たまに技能結晶目当てでダンジョンに同行する商人もいるからな」

「イエッス! 交渉は任せてっ! 来て下さいって言わせて見せる!」

「ほどほどにな……」

 早速神父様と打ち合わせだ。
 シスターが同行するかどうかもあるし、フドゥー伯との交渉で襲撃者の所持品を使いたいからね。

「おー! ちょうど良いところにきたな!」

「何かありました?」

「フドゥー伯の男爵家に対する侵略行為を、国王が裁けって追記があったのを覚えてるか?」

「はい。取り潰しですか?」

「……いや。国に対する罰金と男爵領に対する賠償だけだ」

「――はぁ!? 国が得しただけじゃんっ! 何の被害も負ってないくせに金だけもらうつもりか!」

「まぁ落ち着け」

 この国はトップも無能なのか?
 それとも、禁忌という不名誉な事件を起こした領地だからどうでもいいと?
 伯爵たちによる侵略行為の方が先だけど?

「――そういえば、教会は僕に対して借りがありましたね?」

「借り?」

「神前契約で僕の物になった教会を奪おうとしましたよね? 僕が神官騎士を討伐したから人災が食い止められましたね? 教会の権威を守ったと思いますが?」

「……」

「借りは、なるべく早く返した方がスッキリすると思うのですが?」

「……何をすりゃあいいんだ?」

「不服申し立てを!」

「――はっ!?」

 当然、俺も無策ではない。
 バカラ家再興の手助けになりそうだからと、使わずに取っておいたカードを使う。

 ということで、アラド流神槍術の門下生に今なお強大な影響力を持つ者がいるかママンに聞きに来た。

「うーん……そうねー……王太后かしら?」

「え?」

「文武に長け、先王陛下が賢王と言われていたのは王太后のおかげだと言われていたわ。私も会ったことがあるけど、武芸が本当に好きでいらしたわ。それに人を見る目がある方で、貴賤で人を選ばない素晴らしい方よ!」

 面倒くさそうな人だな……。
 目をつけられるのは御免被る。
 よし! チェンジで!

「他の方は……?」

「今は外国にいるわ」

「外国はちょっと……」

「他に高位貴族に匹敵するような方で心当たりはいないわ」

 あら? バレてらっしゃる?
 スパイでもいるのかな?

「……メイベル? 僕の真似をして目を瞑っているけど……どうしたの?」

「ナンデモナイヨー」

「……そっか。では失礼します……」

 仕方ないから王太后に証拠の書類を添付した不服申し立てを、王都の教会本部に送った後に保険で送っておこう。

「では神父様、今から言う言葉を文書にして王太后の離宮内にも届くようにお願いします」

 離宮内にプチ神殿があるらしく、緊急事態の場合は連絡ができるようになっているらしい。

「はぁ!? 俺が書くのか!?」

「司教が、司教の立場で不服に同意したんだから当然でしょ?」

「マジか……」

「シスターのためです!」

「何の関係があるんだよ」

「シスターの治療の相談に来たら、この問題が浮上したのです。片づくまで他のことは手が着かない!」

「……クソッ!」

 ということで、証拠を添付した書類を作成することになったのだが、文書の内容はフドゥー伯を責めつつも、ハンズィール子爵と王家も責める内容にした。

 『神々が国王に命じたのは賠償金の請求ではない。相応の罪を与えることである。
 他領への侵略行為の代償がお金を払うだけというなら、国の至る所で戦が起こることだろう。欲しい物は力で奪えば良いのだから。
 教会及びアルミュール男爵家は、平和が国王の裁定によって乱されることを恐れている。
 それとも国王陛下は二心を抱かず真っ直ぐに国に仕えてきた忠臣よりも、金銭で他領を買う奸臣をお望みか?
 フドゥー伯爵の後ろ盾を得たハンズィール子爵が商会とともに投資詐欺を行い、同じくフドゥー伯爵の寄子である武門の名家バカラ子爵家をはめたように。
 フドゥー伯爵は製塩技師を得て、ハンズィール子爵はバカラ子爵領を得た。王家は莫大な献金と奴隷の定期的な提供を受けている。

 今回もまた取引をしたのですか?
 代金はお金ですか?
 いくら払えば侵略行為に目を瞑られるのか教えていただきたい。
 我々には莫大な賠償金が入り、陛下の了承も得られるというのなら、辺境で貧乏生活をせずに済むというものです。

 以上のことを踏まえ、裁定の再考を願いまする』

「……本当にこれを送るのか? お前の名前は書かないのか?」

「はいっ!」

「……ズルくね?」

「あとー、王都にあるアラド流神槍術の道場にも送っておいてくださいね!」

「マジか……」


 ◇◇◇


 規則正しく並べられた石畳が紋章を象り、額縁のように様々な色の花々が植えられている。
 本来なら中央に噴水があっても良いのだろうが、持ち主は闘技場のように使用しているため、遮蔽物は一切ない。

 現在も石畳の上で日課の演武をしている最中だ。

「王太后」

「――何だ?」

「離宮付きのシスターから危急の用件があると伺い、お連れいたしました」

「ふーん……珍しいじゃないか。通せ」

「はっ」

 演武中の王太后に話し掛けられる唯一の人物が、長年仕えてきた忠臣中の忠臣である侍女長だ。
 彼女がビクビクするほど緊張しているシスターを連れて来たのだが、シスターは相手が王太后だから緊張しているわけではない。
 書類に書かれた内容を読んでしまい、これから王太后に見せなければいけないから緊張しているのだ。

 何故なら、現在この場所にいる教会の代表者はシスターだけだから。

「久しぶりだね」

「王太后陛下に――」

「――あいさつは不要だよ。危急の用件なんだろ?」

「は、はいっ! こ、……これをっ!」

「ふむ……」

 あまり表情が変わらない方と評する者が多いくらい、滅多なことでは動じない王太后の表情が徐々に変化していく。
 それも悪い方に……。

「この書類はここだけかい?」

「い、いえ! 教会本部と……王都にあるアラド流神槍術の道場にも……」

「やられたねぇ。痛いところ突いてくるじゃないか。暴動の発生もあり得るね……本当に平和が終わりそうじゃないか。それも最初が王都とは……皮肉が効いてるじゃないか」

「陛下。書類にはなんと?」

「読んでみな」

 侍女長に書類を手渡すと、王太后はハンドサインを出して部下を呼ぶ。

「――ここに」

「暴動が発生する兆しがある。相手はあのアラド流神槍術の門下生だ。使い手の中には高位貴族と関係が深い者もいるだろう。対策を急ぎな」

「はっ」

「へ、陛下……」

「どうした?」

 シスターが王太后ですら抜け落ちている部分を補完するため、勇気を振り絞って発言する。

「教会本部に書類受け取りの連絡をしたときに聞いたのですが……ここは最後なんです」

 そう。カルムは離宮へは保険だからという理由で、一番最後に連絡を回すようにジークハルト司教に頼んでいた。

 当然本当の理由別にある。
 実母のセレスティーナに優秀な人物と聞いて、騒動が起きる前にもみ消されないように、わざと時間を空けて最後に連絡させた。
 ゆえに、王太后が取るべき行動は事後処理しかなく、その優秀な能力で面倒な事後処理をさせるべく丸投げしたのだ。

「――はははははっ! やるねぇーー! このジークハルト司教ってのは相当な策士ってことか! まさか私をパシリにするとはねーー!」

「へ、陛下……」

 シスターは気絶しないように気を張るのに精一杯で、体の震えは止められなかった。
 それほどに王太后からは猛獣のような武人覇気が放たれていたからだ。

「おや? すまないね。とりあえず出るよ。馬鹿息子の尻拭いをしないとね。お前さんたちは指示を変更する。対策は無意味だから、高位貴族の頭を抑えて問題が大きくならないようにしな。余裕があれば、司教についての資料が欲しいね」

「はっ」

「久しぶりに楽しくなって来たじゃないか!」


 ◇◇◇


「ハックションッ!」

「ジーク様、風邪ですか?」

「……違う。これは絶対違うヤツだ!」

 この日、ジークハルト司教は重度のストレスのせいで熱を出したのだった。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。 原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。 気が付けば異世界。10歳の少年に! 女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。 お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。 寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる! 勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう! 六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる! カクヨムでも公開しました。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

処理中です...