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第二章 シボラ商会
閑話3 最悪な趣味
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アルミュール男爵領に村は一つしかなく、当然ギルドの支部も一つだけ。
利権の全てが握れると判断した欲深い者が辺境に残り、ニコライ商会と手を組んで私腹を肥やし続けていた。
ニコライ商会に便宜を図ることで金銭を受け取ったり、辺境に住みながら贅沢な生活をしたり。
商人ギルドも冒険者ギルドも変わらずニコライ商会と昵懇の仲だった。
しかし、あるときを境に状況が一変する。
ニコライ商会に便宜を図ってまで結んだ、ニコライ商会に有利な契約を全て結び直し始めたのだ。
しかも全て商人ギルドが間に入った契約で、契約をし直すということはギルドの不正を認めるということと同義である。
さらに言えば、ニコライ商会の契約で複数もの不正があったのに見破れないということは、不正に加担していたか無能かのどちらかだ。
ニコライ商会の再契約は世界のギルドに情報が送られ、世界各地のギルドがニコライ商会に対する信用を評価基準にもなる。
ついでに男爵領の商人ギルドの評価も同時にされているはず。
客観的な情報による評価で低評価にされているところに、男爵領に訪れた外部の商人の口コミが加えられる。
今までは優秀な御用商人であるニコライ商会に勝てない商人が、彼らに嫉妬して悪口を流布していたと思われていただろう。
だが、実のところ悪口と思われていたことが真実だったわけだ。
「クソっ! ニコライ商会は再契約の意味も分からんのかっ!」
「ギルマス……。外部からの商人が契約の度に教会に行っているようです」
「だから!?」
「不正を疑われているんです。呼吸をするように不正をするギルドだと……」
「――我々は男爵領を守るために優秀な商人を優遇しただけだっ! その外部の商人は困っていた男爵家に手を差し伸べたのか!? 文句しか言わないヤツらなど放っておけっ! いったい誰が男爵領を回していると思っているんだっ!」
アルミュール男爵領の商人ギルドこそが、男爵領を守っていると自負している商人ギルドのギルドマスター。
男爵家の先代当主であるアダムよりも高齢で長く辺境の地にいるせいで、自分こそが辺境の王だと信じて疑っていない。
今に始まったことではなく、以前から変わらぬ考えであった。
王都にある商人ギルドの本部は、辺境の素材が流通しなくなることを危惧して監視要員を派遣し、定期的に報告させることを決める。
それがサブマスターだった。
サブマスターは、男爵領の病巣とも言えるニコライ商会が潰れるのは良いことだと思っていた。
原因が孫の放火なら自業自得でもある。
賠償金の支払いが大変なニコライ商会が大人しくなったのも良いし、外部の商人や村の商人が公正な取引を行えるのも良いことだと心晴れやかだった。
――今までは。
サブマスターは定期報告のために、男爵領の南東にある伯爵領に行くため一ヶ月ほど休みを取る。
男爵領は元よりハンズィール子爵領もニコライ商会の勢力圏であるため、もう少し王都に近い伯爵領で報告する必要があった。
ただ、直通街道がない。
だから、遠回りだが迂回する必要がある。
ついでにハンズィール子爵領の監査もできるから無駄ではないが、移動だけでも骨が折れるほど大変だ。
サブマスターは、精神的にも肉体的にも疲れているときほど宿屋のありがたみを感じ、各所の宿屋を訪れることを楽しむことで定期報告という任務を熟していた。
そして、とある宿で食事を摂っているサブマスターの耳に、情報交換をしている商人たちの声が聞こえてきた。
「おい、聞いたか? アルミュール男爵家の話」
「どんな? 禁忌のことなら遅すぎるぞ?」
「いや、違うって! 例の男爵家が領民のために公営の入浴施設を造ったんだと! 火事の賠償金問題は片づいたのかもな!」
「あれ? だから薪が売れねぇのか!?」
サブマスターは男爵家の家計状況もだいたい把握しているから、公営の施設を運営できるはずはないと疑いを持つ。
さらに、入浴施設を造ったなら薪が売れないわけがない。
「あっ! それ? 俺は実際に利用したから知ってるぞ?」
「教えてくれ!」
「どうしよっかなーー!」
「エール追加でーー!」
本当かどうかは不明だが、実際に利用したと言えるくらいの情報を持っていると判断した商人は、エールを注文しておごることにしたようだ。
「いいか? あれは公営じゃない。土地も上物も個人の持ち物だ。一年前にできたらしいが、持ち主が商会を作ったら登録するって言ってたぞ」
「話したのか!?」
「まぁな! ガンツ工房との取引で指定されたからな! そこで紹介を受けた!」
「どんなヤツだった!?」
「それは言えんなー。ガンツ工房の機嫌を損ねることはできないし」
「何だそれーー! でも、ガンツ工房と知り合いで個人で土地と建物を持てるってことは、男爵家の関係者じゃないか? じゃあ公営と同じじゃないか?」
「違うね。名誉大好きのご隠居がいるのに、領民のための施設を大々的にアピールしないわけない。あれを考えたヤツはすごいよ。領民のことを本当に考えている」
「ふーん……。じゃあ何で公営って言われてるんだ?」
「商人ギルドによる横取り計画があるらしい」
(――んなっ!? 今何と言った!?)
サブマスターは危うく口に含んだ食事を吹き出しかけたが、強靭な精神力で押さえ込むと、より真剣に話を聞くため聞き耳を立てた。
「はぁ!? 男爵家じゃなくて商人ギルドが何でまた?」
「俺も最近男爵家から来た商人に話を聞いたんだが、教会がニコライ商会に持ちかけたのが発端なんだとか」
「あれ? どういうことだ?」
「ニコライ商会が賠償金を払えそうにないと予想した教会が、領地で盛んな商売を奪えばいいと言ったそうだ。ニコライ商会の接待をした商人に聞いたから間違いない」
「それで!?」
「公営の入浴施設は『銭湯』って呼ばれているんだが、薪をほとんど購入していないのに無尽蔵にお湯が使えて、室内も春みたいに冬でも暖かいらしい」
「マジッ!? 秘密が気になるなっ!」
「だろ!? 同じ事をニコライ商会も考えたわけだ。ニコライ商会は教会の人間とともに、商人ギルドの幹部に話を取りつけたそうだ。ここまでがニコライ商会の思惑だったらしい」
「……それ以上何があるのか? また不正のパターンだろ?」
(またか……! ニコライ商会のクズめっ!)
ここまでの話を聞けばニコライ商会が懲りずにまたやったのかと思うが、話には続きがあった。
「ニコライ商会はもういいんだよ。それどころじゃなくなったらしいから。問題は、ニコライ商会の衰退のせいで甘い汁を吸えなくなったギルドの幹部の暴走らしい。冒険者を使ったり子飼いの商会を使ったりして、公営施設を私物化している者がいるという噂を流しているらしい」
「本当に噂が流れてるのか?」
「まぁな。俺が会った商人も誤解してたから、俺が教えてやったんだ」
ここまで聞いていたサブマスターはついに我慢ができず、エールを持って話に加わることを決める。
「失礼っ! 私も混ぜていただけませんでしょうか?」
「んー……。まぁいいんじゃないか」
「あぁ」
「なぁ」
「ありがとうございます」
エールを御馳走しつつ、聞きたいことを質問するサブマスター。
「実際のところ、公営施設の私物化という噂が流れたとしても商人ギルドのものにはならないのでは?」
「なるよ。なぁ?」
「だなぁ」
「何も知らないんだな?」
「――えっ?」
サブマスターは実務も戦闘も優秀だったから辺境に送られることになったのだが、彼には商人たちが何を言っているのか分からなかった。
ギルドに勤めている以上、グレーゾーンの方法も熟知している。
それでも無理だと思ったのだ。
「特別サービスだぜ?」
「お願いします」
今度はつまみを注文した。
「いいか? 公営施設なら所有者は商人になっても商業登録ができないんだ。商業登録をしないと商売ができないんだが、公営施設なら男爵家の関係者と言えば可能だろ?」
「えぇ……まぁ……。でも結局は男爵家のものでしょ?」
「いやいやいや。分からんか? 商人ギルドは銭湯が欲しいわけじゃないんだよ。薪を利用しなくても大量のお湯が使えたりする秘密が知りたいんだぞ
? 公営施設の私物化疑惑が浮上したから、一時的に差し押さえて技術者を入れると言えばいいだけだ。一度ケチがついた商会を、さらにギルドが噂を流せばおしまいだろ?」
「それは……」
「ギルドの常套手段じゃん。常識だって! これをやられないようにするために賄賂があるってのは常識だぜ? 大丈夫か? 生き残れないぞ?」
別の商人からも言われるも、素直に納得できる話ではない。
「だが、一年前からできていて経営していたのなら、商売はできているんじゃ?」
「土地と上物は自分のものだろ? パーティーをしたって言われたら突っ込めないだろ? 仮にも公営って言われてるんだぞ? 察しろ」
噂の大前提に『所有者が男爵家の子息である』ということが、噂に真実味を持たせていた。
では、貴族の子息が自分の土地でパーティーを開いていたと主張した場合、違うと言いきれる者はいるだろうか?
答えは、いない。
だから、商人ギルドも商人になって商業登録をしに来るのを待っていた。
所有者本人が、パーティーではないという証明を自分からしに来てくれるからだ。
「でも、今回はヤバいかもなー」
「どういうことだ?」
サブマスターも顔面が蒼白になるほどの危機を感じている。
「何でも所有者の趣味が審理なんじゃないかって言われるほど、誰が相手でも審理にかけるらしい。もしギルドが今回も常套手段を使ったなら、ギルド……相当ヤバいかもな!」
◇
結局、サブマスターは眠れない夜を過ごした。
翌朝になっても不安は晴れることはなく、報告の帰りに楽しむプチ旅行を取りやめて強行軍で帰還することを決める。
早めに帰ったサブマスターは騒動は起こったが、銭湯の登録だけして帰宅したと報告を受けた。
でも、どうしても不安が拭えず教会に確認に行ったところ、何故か不在で『御用の方はエルードまで』という貼り紙が扉に貼られていた。
「出直すか……」
翌日もう一度訪ねることにして帰ったのだが、サブマスターが再び教会を訪ねることはない。
その前に裁定結果を告げられることになったからだ。
こうしてまた一人、平穏な生活を手放すことになる人物が生まれるのだった。
利権の全てが握れると判断した欲深い者が辺境に残り、ニコライ商会と手を組んで私腹を肥やし続けていた。
ニコライ商会に便宜を図ることで金銭を受け取ったり、辺境に住みながら贅沢な生活をしたり。
商人ギルドも冒険者ギルドも変わらずニコライ商会と昵懇の仲だった。
しかし、あるときを境に状況が一変する。
ニコライ商会に便宜を図ってまで結んだ、ニコライ商会に有利な契約を全て結び直し始めたのだ。
しかも全て商人ギルドが間に入った契約で、契約をし直すということはギルドの不正を認めるということと同義である。
さらに言えば、ニコライ商会の契約で複数もの不正があったのに見破れないということは、不正に加担していたか無能かのどちらかだ。
ニコライ商会の再契約は世界のギルドに情報が送られ、世界各地のギルドがニコライ商会に対する信用を評価基準にもなる。
ついでに男爵領の商人ギルドの評価も同時にされているはず。
客観的な情報による評価で低評価にされているところに、男爵領に訪れた外部の商人の口コミが加えられる。
今までは優秀な御用商人であるニコライ商会に勝てない商人が、彼らに嫉妬して悪口を流布していたと思われていただろう。
だが、実のところ悪口と思われていたことが真実だったわけだ。
「クソっ! ニコライ商会は再契約の意味も分からんのかっ!」
「ギルマス……。外部からの商人が契約の度に教会に行っているようです」
「だから!?」
「不正を疑われているんです。呼吸をするように不正をするギルドだと……」
「――我々は男爵領を守るために優秀な商人を優遇しただけだっ! その外部の商人は困っていた男爵家に手を差し伸べたのか!? 文句しか言わないヤツらなど放っておけっ! いったい誰が男爵領を回していると思っているんだっ!」
アルミュール男爵領の商人ギルドこそが、男爵領を守っていると自負している商人ギルドのギルドマスター。
男爵家の先代当主であるアダムよりも高齢で長く辺境の地にいるせいで、自分こそが辺境の王だと信じて疑っていない。
今に始まったことではなく、以前から変わらぬ考えであった。
王都にある商人ギルドの本部は、辺境の素材が流通しなくなることを危惧して監視要員を派遣し、定期的に報告させることを決める。
それがサブマスターだった。
サブマスターは、男爵領の病巣とも言えるニコライ商会が潰れるのは良いことだと思っていた。
原因が孫の放火なら自業自得でもある。
賠償金の支払いが大変なニコライ商会が大人しくなったのも良いし、外部の商人や村の商人が公正な取引を行えるのも良いことだと心晴れやかだった。
――今までは。
サブマスターは定期報告のために、男爵領の南東にある伯爵領に行くため一ヶ月ほど休みを取る。
男爵領は元よりハンズィール子爵領もニコライ商会の勢力圏であるため、もう少し王都に近い伯爵領で報告する必要があった。
ただ、直通街道がない。
だから、遠回りだが迂回する必要がある。
ついでにハンズィール子爵領の監査もできるから無駄ではないが、移動だけでも骨が折れるほど大変だ。
サブマスターは、精神的にも肉体的にも疲れているときほど宿屋のありがたみを感じ、各所の宿屋を訪れることを楽しむことで定期報告という任務を熟していた。
そして、とある宿で食事を摂っているサブマスターの耳に、情報交換をしている商人たちの声が聞こえてきた。
「おい、聞いたか? アルミュール男爵家の話」
「どんな? 禁忌のことなら遅すぎるぞ?」
「いや、違うって! 例の男爵家が領民のために公営の入浴施設を造ったんだと! 火事の賠償金問題は片づいたのかもな!」
「あれ? だから薪が売れねぇのか!?」
サブマスターは男爵家の家計状況もだいたい把握しているから、公営の施設を運営できるはずはないと疑いを持つ。
さらに、入浴施設を造ったなら薪が売れないわけがない。
「あっ! それ? 俺は実際に利用したから知ってるぞ?」
「教えてくれ!」
「どうしよっかなーー!」
「エール追加でーー!」
本当かどうかは不明だが、実際に利用したと言えるくらいの情報を持っていると判断した商人は、エールを注文しておごることにしたようだ。
「いいか? あれは公営じゃない。土地も上物も個人の持ち物だ。一年前にできたらしいが、持ち主が商会を作ったら登録するって言ってたぞ」
「話したのか!?」
「まぁな! ガンツ工房との取引で指定されたからな! そこで紹介を受けた!」
「どんなヤツだった!?」
「それは言えんなー。ガンツ工房の機嫌を損ねることはできないし」
「何だそれーー! でも、ガンツ工房と知り合いで個人で土地と建物を持てるってことは、男爵家の関係者じゃないか? じゃあ公営と同じじゃないか?」
「違うね。名誉大好きのご隠居がいるのに、領民のための施設を大々的にアピールしないわけない。あれを考えたヤツはすごいよ。領民のことを本当に考えている」
「ふーん……。じゃあ何で公営って言われてるんだ?」
「商人ギルドによる横取り計画があるらしい」
(――んなっ!? 今何と言った!?)
サブマスターは危うく口に含んだ食事を吹き出しかけたが、強靭な精神力で押さえ込むと、より真剣に話を聞くため聞き耳を立てた。
「はぁ!? 男爵家じゃなくて商人ギルドが何でまた?」
「俺も最近男爵家から来た商人に話を聞いたんだが、教会がニコライ商会に持ちかけたのが発端なんだとか」
「あれ? どういうことだ?」
「ニコライ商会が賠償金を払えそうにないと予想した教会が、領地で盛んな商売を奪えばいいと言ったそうだ。ニコライ商会の接待をした商人に聞いたから間違いない」
「それで!?」
「公営の入浴施設は『銭湯』って呼ばれているんだが、薪をほとんど購入していないのに無尽蔵にお湯が使えて、室内も春みたいに冬でも暖かいらしい」
「マジッ!? 秘密が気になるなっ!」
「だろ!? 同じ事をニコライ商会も考えたわけだ。ニコライ商会は教会の人間とともに、商人ギルドの幹部に話を取りつけたそうだ。ここまでがニコライ商会の思惑だったらしい」
「……それ以上何があるのか? また不正のパターンだろ?」
(またか……! ニコライ商会のクズめっ!)
ここまでの話を聞けばニコライ商会が懲りずにまたやったのかと思うが、話には続きがあった。
「ニコライ商会はもういいんだよ。それどころじゃなくなったらしいから。問題は、ニコライ商会の衰退のせいで甘い汁を吸えなくなったギルドの幹部の暴走らしい。冒険者を使ったり子飼いの商会を使ったりして、公営施設を私物化している者がいるという噂を流しているらしい」
「本当に噂が流れてるのか?」
「まぁな。俺が会った商人も誤解してたから、俺が教えてやったんだ」
ここまで聞いていたサブマスターはついに我慢ができず、エールを持って話に加わることを決める。
「失礼っ! 私も混ぜていただけませんでしょうか?」
「んー……。まぁいいんじゃないか」
「あぁ」
「なぁ」
「ありがとうございます」
エールを御馳走しつつ、聞きたいことを質問するサブマスター。
「実際のところ、公営施設の私物化という噂が流れたとしても商人ギルドのものにはならないのでは?」
「なるよ。なぁ?」
「だなぁ」
「何も知らないんだな?」
「――えっ?」
サブマスターは実務も戦闘も優秀だったから辺境に送られることになったのだが、彼には商人たちが何を言っているのか分からなかった。
ギルドに勤めている以上、グレーゾーンの方法も熟知している。
それでも無理だと思ったのだ。
「特別サービスだぜ?」
「お願いします」
今度はつまみを注文した。
「いいか? 公営施設なら所有者は商人になっても商業登録ができないんだ。商業登録をしないと商売ができないんだが、公営施設なら男爵家の関係者と言えば可能だろ?」
「えぇ……まぁ……。でも結局は男爵家のものでしょ?」
「いやいやいや。分からんか? 商人ギルドは銭湯が欲しいわけじゃないんだよ。薪を利用しなくても大量のお湯が使えたりする秘密が知りたいんだぞ
? 公営施設の私物化疑惑が浮上したから、一時的に差し押さえて技術者を入れると言えばいいだけだ。一度ケチがついた商会を、さらにギルドが噂を流せばおしまいだろ?」
「それは……」
「ギルドの常套手段じゃん。常識だって! これをやられないようにするために賄賂があるってのは常識だぜ? 大丈夫か? 生き残れないぞ?」
別の商人からも言われるも、素直に納得できる話ではない。
「だが、一年前からできていて経営していたのなら、商売はできているんじゃ?」
「土地と上物は自分のものだろ? パーティーをしたって言われたら突っ込めないだろ? 仮にも公営って言われてるんだぞ? 察しろ」
噂の大前提に『所有者が男爵家の子息である』ということが、噂に真実味を持たせていた。
では、貴族の子息が自分の土地でパーティーを開いていたと主張した場合、違うと言いきれる者はいるだろうか?
答えは、いない。
だから、商人ギルドも商人になって商業登録をしに来るのを待っていた。
所有者本人が、パーティーではないという証明を自分からしに来てくれるからだ。
「でも、今回はヤバいかもなー」
「どういうことだ?」
サブマスターも顔面が蒼白になるほどの危機を感じている。
「何でも所有者の趣味が審理なんじゃないかって言われるほど、誰が相手でも審理にかけるらしい。もしギルドが今回も常套手段を使ったなら、ギルド……相当ヤバいかもな!」
◇
結局、サブマスターは眠れない夜を過ごした。
翌朝になっても不安は晴れることはなく、報告の帰りに楽しむプチ旅行を取りやめて強行軍で帰還することを決める。
早めに帰ったサブマスターは騒動は起こったが、銭湯の登録だけして帰宅したと報告を受けた。
でも、どうしても不安が拭えず教会に確認に行ったところ、何故か不在で『御用の方はエルードまで』という貼り紙が扉に貼られていた。
「出直すか……」
翌日もう一度訪ねることにして帰ったのだが、サブマスターが再び教会を訪ねることはない。
その前に裁定結果を告げられることになったからだ。
こうしてまた一人、平穏な生活を手放すことになる人物が生まれるのだった。
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