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第二章 シボラ商会

第三十三話 鎧拾い

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 努力結晶の中にある【阿修羅】には投擲も含まれている。
 金剛弓という魔晶具を使うまでもないときは、石を投げて狩りをしていたからだ。

 ゾンビは腐った死体だから、投石での討伐は可能だろう。ただし、的確に頭部を狙わないと止まることはないと思う。

「あのすごい弓は使わないの?」

「アレは矢が足りなくなるからねー」

「それもそうだね」

 ゾンビの魔核を回収しなくていいメイベルだけが、余裕を持って会話ができている。
 他の五人はクジを引く順番をジャンケンで決めている最中だ。

 ちなみに、浄化魔法で終わらせれば? という疑問があるだろうが、とある事情により現在は不可能である。

「じゃあそろそろ討伐するかな」

 毎度お馴染みの【白毫眼】をフル活用しつつ、右目を【千里眼】にし、左目を【死天眼】にする。

「せいっ!」

 ユミルがいるからサイドスローよりになる投石が、【白毫眼】の必中により寸分違わず眉間に吸い込まれていく。
 薄暗い教会内でゾンビをもらさず捕捉できているのは、【千里眼】の効果によるもの。

 さらに今回は、使いどころの少ない【死天眼】の攻撃的な能力の実証も行っている。
 特に、歪曲と切断の規模を知りたかった。

 結果は【魔導眼】の破壊と同じく、大人の手のひら大ほどの大きさまでなら効果を発揮するらしい。

 ただ、使いすぎはよろしくはないらしい。
 失明はしなくても疲労はある程度残るようで、乱発すると多少の痛みがある。

 【不死身】のおかげで本当に一瞬のことだが、太陽神様に殴られたとき以来、久しぶりの痛みだったため結構痛く感じた。

「そういえば、ユミルは女神様のこと知ってる?」

「グァ!」

 左肩をポンッと一回叩く。
 ユミルと簡単な会話をするために編み出した方法で、「はい」なら一回、「いいえ」なら二回叩くように決めたのだ。

「向こうでは魔物も女神様を知ってるんだね」

「グァ」

 また一回叩くユミル。
 投石をしていることを邪魔しないようにと、右側を叩かないようにしてくれている気遣いが嬉しい。

「出番だよ!」

 技能結晶を拾った後、魔核回収部隊を呼ぶ。

「「はーーーい!」」

 運が悪いのはアルと、三人組最後の一人であるゲイルだった。

 二人はスケルトンの魔核を運が良かった者に預け、手袋をしっかりはめて拾い集めていた。

「……なぁ、装備は?」

 ジェイドは意外にも冒険者らしい装備を期待しているようで、スケルトンとゾンビしかいなさそうな状況を不安に思っているようだ。

「まぁ待ちなさい。ここは魔晶具は出ないみたいだからさ」

「えぇーーー! 期待してたのにーーー!」

「ラルフは落ち着いてるじゃん。ということは、出ないって知ってたんじゃない?」

「そうなのか!?」

「いや……。どうせオイラはサイズが合わないから……期待しても無駄かと……」

「もしかして経験者?」

「……そうだ」

「なるほど」

 タンクでも重戦士でも何でもできそうな恵まれた体格を持っているのに、装備はゴブリン並みというアンバランスさ。
 体が大きければ材料費がかさみ、防具などは後回しにされていたんだろうな。結果的にソロになったってことか。

「以前のパーティーは村にいる?」

「……いる」

「じゃあみんなが羨ましがる装備を僕が用意しよう! 何故なら、君たちは僕の大事なパシ――使用人だからね!」

「……普段、オレたちのことをなんて呼んでるんだ?」

「……私兵団かな」

「ホントか?」

「うん!」

 グスグスと涙ぐんでいるラルフを放置して、パシリ呼びの追及を回避していた。

「「終わったーー!」」

「お疲れーー! さぁ、この調子でドンドン行くよーー!」

「おぉーー!」

「ホォーー!」

「グァァァ♪」

 元気な俺たちに対して、後ろからは盛大なため息の合唱が聞こえるのだった。

 ◇

 現在は五階層だ。

 三階層はグール。
 四階層はレイスだった。
 レイスには魔法が有効であるため、ユミルが無双して殲滅した。
 おかげで、現在の四階層は一面銀世界だ。

「こ……怖い……」

「失礼しちゃうなーー! こんなに可愛いのに!」

「グァグァ!」

「ごめんなさい!」

 ディーノはユミルにトラウマを植え付けられていたが、今回の無双がトドメになったらしい。

「さて、諸君! この階層に君たちの装備が落ちてます! 僕が『よしっ!』と言った物だけ拾ってくれたまえ!」

「「「「「はいっ!!!」」」」」

 さすが男性陣。武器は好きだよね!

「おっ! 早速来たねーー!」

「リ、リビングアーマー!」

 ジェイドは冒険者らしく、魔物の知識が豊富だ。
 彼は他領から来た冒険者だから、資料が豊富な場所で勉強したのかもしれない。
 辺境のギルドにたくさんの資料があるとは思えないからね。

「アレは……駄目だろ!」

 ジェイドがビビる意味も分からなくはない。
 リビングアーマーは脅威度Bの魔物で、一般的に上級者と言われる冒険者がパーティーを組んで討伐する魔物だ。
 しかも装備は呪われているせいで、悪意を持つ目的以外に用途はない。

「大丈夫ですよ。任せて下さい!」

「「「――はぁ!?」」」

 【魔導眼】の解除を使用する。
 金炎に銀色の炎が混じった瞳にリビングアーマーを映した瞬間、リビングアーマーはその場でバラバラになった。

「「「「んなっ!!!」」」」

「さすが、カルムだね!」

「……相変わらずおかしなことをするね」

 純粋に褒めてくれるのはメイベルだけ。

「グァ!」

 いや、ユミルもいた。
 我が家の女性陣は優しいな。

「さぁ! ドンドン行くよ! ラルフは大変だろうけど、荷車のことは任せた!」

「任された!」

「うむ!」

 組み立て式の荷車を持ってきており、入手した装備は荷車に載せて一つ残らず持って帰る予定だ。

「他のみんなは魔核を拾ったりして協力してあげてね!」

「「「「はーい!」」」」

 メイベルのみ返事はない。
 何故なら、彼女は戦闘組だからだ。
 まだスケルトンしか倒していないけどね。

「なぁ、俺はいつ料理をすればいいんだ? あまり関係ないことをしているような……」

「今日は一〇階層で終わろうと思っている」

「それで?」

「君は外でご飯を作るんだよ?」

「……俺、お留守番でよかったんじゃ……」

「こ、子どもに肉体労働を強いるの……?」

「熊を背負えるなら大丈夫だ!」

「グァ?」

「うちはまだ従業員が少ないからね。それに自分の装備は自分で選んだ方がいいでしょ?」

「――自分の……? 俺は料理人じゃ……」

 勘違いをしてもらっては困るなぁ。
 君たちは俺のパシリなのだよ?
 パシリに担当などはない。

「我が商会の従業員は総合職なんだよ?」

「……本当のことを言ってみ? 絶対に心の中で違うこと考えているよな?」

「……本心だよ! さぁ早くご飯を食べられるように頑張ろう!」

 ディーノの追及を振り切り、次のリビングアーマーを探していく。

 リビングアーマーは、近くにレイスみたいな霊体の魔物がいて、魔力の糸を使って操作された鎧だ。
 一応アンデッドだからか、生前の武器や戦法を反映するようで、武術の博覧会を開催しているような状態で楽しい。

 【千里眼】の魔力視で魔力の糸を見つけ、【魔導眼】の解除で糸と呪いを解除する。
 あとは無防備になった霊体をユミルが凍らせて粉砕する。

 この粉砕する役をメイベルが担当していた。

「グァ!」

「ありがとう!」

 メイベルがハルバードで粉砕した様子をみたユミルが、手を叩いて賞賛する。
 もちろん、俺の背中に乗ったままだ。

 俺は一回目は様子を見るが、他のリビングアーマーと戦法に変化がなければ、すぐに討伐して行くようにしている。

 端から見れば普通に歩いているようにしか見えないだろう。

「早い!」

「いや、僕も結晶を拾ってるよ?」

「じゃあ魔核も拾ってよ!」

 大人たちはアルに苦情を言わせることにしたようで、アルの後ろで応援していた。

「仕事を取ったら申し訳ないじゃん! まだ半分だよ!? 頑張ろう!」

「暴君だよ!」

「かくれんぼ王だからね! 我にかくれんぼで勝てば政権交代だ! 頑張りたまえ!」

 政権交代しても商会長の権限があるけどね。

「おいっ! かくれんぼくらい勝てよ!」

「無理だよ! だって、インチキするんだもん!」

「おーい! 早くーー!」

「かくれんぼでインチキって何だよっ!」

 足早に駆けてくるディーノが文句を口にするも、答えられる者はいなかった。
 俺も答えることはなかった。

 ◇

『ここの六階層以降は別次元ですよー。しかも長期間放置していたせいでー、初回の魔物は上位種ばかりですねー』

『結晶は変化する?』

『変わりませんー。代わりに毎回ボス戦みたいな形式なのでー、報酬が上乗せされますー』

『でも魔晶具は出ないんでしょー?』

『可能性は【豪運】の効果があってもかなり低いですー』

『まぁ一〇階層まで行かないといけないからさ』

『ですねー』

 ここからは怪物リミッターをいつでも解除できるように、気を引き締めていかねばならないようだ。

「いいですか? この次の六階層からは危険度が跳ね上がるそうです!」

「じゃあ――」

 ディーノよ、させんよ!

「しかぁし! 【技能結晶】のために同行するしかないのだ! 試練を乗り越えた先に成長がある! 入口に入ったらユミルを護衛につけてあげるから、『よしっ!』というまで大人しく固まっていて下さい! いいですね!?」

「「「「「……はーーい!」」」」」

「わたしは?」

「状況によるけど、引き続きグリムをつけとくよ!」

「はーい!」

 我が商会の返事は「はーい!」になったようだ。

「それじゃあ行ってみよう!」

「グァ♪」

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