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第二章 シボラ商会

第二十六話 銀世界

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 疑惑を逸らすほど美味い物を作ってやろう。
 そのための設備は用意した。
 オール電化ならぬオール魔化だ。
 【打出の小槌】で魔導具作製用の本を召喚し、コンロや給湯器などを全て魔導具にした。

 金属などの素材は、鍋などを買ってきては分解してリサイクルし、狩りで獲れた素材を利用したり工夫を凝らして作った力作だ。
 辺境なのに無駄にハイテクなのだ。

 特許とかあるんだろうけど、魔導具チートはパシリができてからと考えている。

「いつもと同じ材料を使った方が違いが分かるか!」

 この世界にも米はあり、森の中に自生していることもままある。理由は簡単。水田で育てるものではないからだ。
 そのせいで雑草扱いにされており、俺が初めて晩ご飯で出した日に「また雑草?」と聞かれてしまった。
 そのときは肉を食べていたから、なおさら気持ちが落ち込んだことだろう。

 まぁ食べ方を知らないとそうなるかもね。

 今では主食になるほどで、自生している分しかないから誰にも教えていない。
 でも毎日草取りをしているせいで、ガンツさんがそろそろ気づきそうなんだよね。家も近所だし。

 お米のいい香りに誘われて来そうで、毎日ビクビクしている。

「猪の塩だれ丼かな」

 豚肉みたいな猪肉を食べやすい大きさに切り、タマネギも切っておく。
 火を通すときにタレを合わせたのだが、暴力的な香りがキッチンを支配する。

「たまらんっ!」

「あ、味見をーー!」

「一枚だけだよ?」

「是非ーー!」

 脂がプルプルしているところを選んで、二人で半分こする。

「「うまぁーーー!」」

「塩味に戻れないっ!」

 どんぶりがないから深皿にご飯を盛り、全員が均等になるように肉を盛り付ける。
 フライパンに残ったタレを回しかけ、ネギを散らせば完成。

 スープは作り置きの野菜スープだ。

「へいっ! お待たせですっ!」

「「…………」」

 ジト目を向けられるも、目の前に皿を置くとすぐに視線が皿に移った。
 もうガン見だ。

「いただきます!」

「「……いただきます」

「ホォー!」

『いや、なんで鳴き声?』

『一応ですー!』

 グリムも今日から姿を現して一緒に食事をする。
 小さな嘴で器用に食べるのだ。
 すごいとしか言いようがない。

「どうです? 美味しいでしょ?」

「尋常じゃないほど美味しいわ……」

「うん、うん! 僕もそう思います!」

「カルム……料理が上手すぎる……」

「ありがとう!」

 塩だれ猪丼が美味すぎたおかげで、本日は追及されることなく無事に就寝できた。

 が、俺たちはこれから廃棄世界に行くのだ。

「長かったっ! やっと行けるんだね!」

「あんなにごねてたくせにー、そんなに行きたかったんですかー?」

「人間がいないんだよ? 面倒なしがらみがなく、好き放題できるってことでしょ?」

「限度はありますしー、人間も少しはいますよー」

「国王とか面倒なものが出てこないならいい。――じゃあ早速!」

 ステータスの【九十九神】を押し、【高天原】を選択する。『鳥居』を押すと、大小の選択画面が表示され、小を選んで召喚する。

「おぉーー!」

 そこまで大きくない赤い鳥居が目の前に出現し、上部に時計の針が現れた。
 おそらくタイムリミットを表しているのだろう。
 数字を見る限り四十八時間だ。

「まぁ今回はチョロッと見に行くだけだからね」

「早く帰ってきて寝ましょー」

 ということで、二人で鳥居を潜った。

 ◇

「寒っ!」

「気のせいですよー。異常無効なんですからー」

「残念ながら凍傷とかを受けない限りは、異常判定にはならないみたいなんだよね!」

 実際に、今の辺境は冬だ。
 毎日寒い思いをしているから、今もそれなりに防寒着を着ている。
 それを上回る寒さなのだ。

「雪山ですねー」

「そうだね-」

「もう帰りますー?」

「いや、もう少しだけ」

 吹雪いている雪山なのだが、すごく綺麗に感じた。
 神様たちがこの世界を残そうとした気持ちが分かり、来たことが無駄にならずに済んだ。

「ん? 何かいる?」

「そりゃあーいるでしょー。――って、行くんですかー?」

「やる気を出しなさいよー」

「眠いんですー」

「夜行性のくせに」

「それは一般のフクロウの話でしょー? 私は霊獣ですからねー。特別なのですよー」

 ザクザクと雪をかき分けて進むと、血を流している生き物が丸まっていた。
 薄い水色の体毛で、もう少し濃いめの水色のたてがみが、マフラーみたいに首から生えている。

「大丈夫?」

「……グァ」

 なんて言っているか分からないけど、この世界の生き物は高い知能を持つという。
 襲われないか心配だけど、治してあげよう。

「エリクサーでいいかな?」

「治すならー、一応体全体を綺麗にした方がいいと思いますよー」

「滴くらい?」

「ショットグラスくらい」

「難しいっ!」

 イメージして……ショットグラスくらいの魔力をすくう。

「多いですー! ロックグラスですー!」

「分かりづらいっ! ――《浄化》!」

 指定した範囲を大きく超え、広範囲を一気に浄化してしまった。
 目の前のモフモフモコモコした生き物が驚いている内に、【魔導眼】からエリクサーを取り出し、患部に振りかける。

 お腹を下にして丸まっていた生き物は、どうやら熊さんだったらしい。
 かなり大きいのだが、丸まっていたことと雪に埋まっていたことで大きさに気づかなかった。

 お腹を治すときに金剛力でひっくり返して判明したのだ。

 驚いている熊さんと視線が合う。

「もう治ったよ」

 【洞察眼】の鑑定で状態確認したから間違いない。

「グァ」

「どういたしまして」

「分かるんですかー?」

「全然。でも言ったと思うな」

「ふーん」

「じゃあ気をつけてねー」

 軽く手を振って別れを告げ、鳥居を目指す。

「そういえば『八咫鏡』が使えるようになったかも!」

 『八咫鏡』は訪れたことがある場所しか見れないから、今までは自分の顔しか見れない高級そうな鏡でしかなかった。
 全体的に水色の鏡だが、銀色の模様が入っていて本当に高そうだ。

 本来の能力は、廃棄世界の様子をモニターしたり、子機みたいな姿見で召喚獣と連絡が取れたりするらしい。親機の八咫鏡は大きさが変化するらしい。

 ちなみに『天叢雲剣』は、オレンジ色に金色の模様が入っている石製の短剣だ。
 詳細を教えてもらったところ、普通に使う分には斬れないが、不壊であるため鈍器としては使えるらしい。
 自動浄化の機能もあるから、いつまでも綺麗な状態を保つらしい。

 では、何のための道具かというと、召喚陣の構築をするための道具で、王笏も兼ねているらしい。
 使用時は地面に突き刺すことで一瞬にして召喚陣を構成できるらしいけど、短くて使いにくくないかと思わなくもない。

 もちろん、そんな分かりきっていることは放置されておらず、最大で長剣から短剣までの伸縮が可能らしい。
 形は前世の資料通り、特徴的な両刃の剣だ。

「おぉー! 雪山が見える! そして大きな熊が見える!」

「――え!?」

「グァ」

「ついてきたの?」

「グァ」

 分からぬ……。【順風耳】は、ある程度慣れた者の思念しか拾えない。

「一緒に行きたいの?」

「グァ」

「……行きたいなら、手を挙げて」

「グァ」

 右手が挙がった……。
 賢いっ!

「じゃあ契約をしよっか」

「グァ」

 御朱印帳を取りだしてフルカスの次のページを開く。

「手をかざして魔力を流してくれる?」

「グァ」

 御朱印帳に熊さんの紋章が刻印され、同時に『御神札』が飛び出してきた。

「え? お守りじゃん!」

「中身を守るためですー!」

 御神札と表記されていたのに、出てきたのは赤い袋のお守りだ。

「小さくなれる?」

「グァ」

 空が大型犬くらいの大きさになったから、首にお守りをつけてあげる。

「ここに来るための鍵なんだって。あと家族の証明だよ!」

「グァァァア」

 可愛い。
 どうやら喜んでくれてるらしい。

「名前をつけてあげたらどうですー?」

「ユミル」

「……大きかったからですかー?」

「あと雪山にいたから。可愛い名前だと思うけど」

「グァ」

 ギュムッと抱きついて喜んでくれる可愛い熊さん。

「帰ろっか」

「ですねー」

「グァ」

 鳥居はもう一度潜ると閉じるかどうか質問が表示された。
 今回はもう閉じて寝る。
 子どもには睡眠が必須だからね。
 まぁ寝るのは内職をやってからだけど。

 【打出の小槌】をひたすら振り続けるという簡単な内職だ。
 ものがものだけに、すぐに魔力が尽きて終了する。

「ほら、おいで! 一緒に寝よう!」

「グァ」

 内職の様子を大人しく見学していたユミルがベッドの上に飛び乗ってくる。
 壁側が良いみたいで、俺と壁の間で丸くなっている。その姿が可愛くて仕方ない。

「おやすみ」

「おやすみですー」

「グァー」

 現実世界で初めての契約は、熊の女の子『ユミル』。
 幸先の良い出会いであった。

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