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第一章 アルミュール男爵家

閑話 生存者のその後

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 ここは天界。
 神々が住まう場所だ。

 そこに招待された者たちがいた。

「よく来た! 異世界の者たちよ!」

 はつらつとした雰囲気で、ハキハキと話す女神が異世界の女性たちを歓迎した。

 彼女は太陽神『アーディ』。

 双子神の片割れで、生命創造や武術などを担当している。担当のせいか分からないが、表裏がない性格をしている。
 神に相応しい言葉ではないが、気持ちの良い性格をしているので、眷属からの信頼も厚い。

「大変だったわね」

 たおやかな動きで労る女神は、月神『ソーマ』。
 輪廻転生や魔導を担当しており、肉体はの太陽神を支える頭脳の持ち主だ。
 眷属から慕われてもいるが、同時に恐れられてもいる。

「ここは……?」

 異世界人の内、華奢な方が問いかけた。
 名前は立花遥といい、看護師として働いているところに召喚された女性だ。
 のちに、幸運少女と呼ばれる者である。

「ここは天界よ。一人の勇気ある青年のおかげで、あなたたちは助かったのよ」

「じゃあ家に帰してくれるの!?」

「それは無理ね。今回の召喚は神が関与していなかったものだから。……本来は失敗していたものだしね」

「それじゃあ! 私は、家に帰れないのっ!?」

「そうね。こちらで頑張ってもらうしかないわ」

「そんな……」

「でも勇気ある青年のおかげで能力を強化したりできるようになったから、希望があったら聞くわよ?」

「そっ! それじゃあ――若くしてっ!」

「いいわよ」

「あと……可愛く!」

 生きていかなければいけないという話を聞いた直後なのに、見た目の要望しか出てこない遥に憐憫の視線を向ける双子神。

「あと医療の技術と……日用品や雑貨を入手できるスキルみたいなものっ! あと……あと……魔法とかもあるんでしょ!? それなら魔力もたくさんっ!」

「「……」」

「あと……」

「残念ながら、もう無理よ? さすがにリソースが足りないわ」

「何でよっ! 私は被害者よっ!?」

「でも……おまけで助かっただけでしょう? 行動して生を勝ち取ったのは青年だけだもの。あなたたちはおこぼれに与っただけ。――さよなら」

「そんなっ!」

 月神が手を振った瞬間、その場から遥の姿が消えた。

「次は――死んじゃった子か……」

「そうねぇ。どうしましょう?」

「ソーマ様っ! 例の青年のリソースを使えばよろしいのでは!?」

 月神に提案しているのは『ケート』。
 月神の筆頭眷属だ。

「それは無理よ。陣が違うし、リソースは魂に紐付けされているから、流用しようとすれば彼から天禀を減らすことになるもの」

「だからこそですっ!」

「――ケート。それはダメよ?」

「――失礼しましたっ!」

 月神の注意に対し、即座に頭を下げるケート。
 声色だけで筆頭眷属をも恐怖させる月神に、いつもと変わらない様子で太陽神が声を掛ける。

「だったら、さっきのムカつく小娘のリソースを使えばいいんじゃないか? 努力結晶を天禀にすれば、リソースも足りるだろ」

「それはいいわね。あとあのわがまま娘が言っていた日用品と雑貨の二つは、他の二人にも付けてあげないとね」

「そうだな」

 神々が相談している内容の当事者は、先ほどから一言も話していない。
 正確には話さないのではなく話せないのだが。

「あら、話せないのね?」

 そのことにやっと気づいた月神は、もう一人の女性の前に手をかざす。

「どう? これで話せるようになったと思うけど?」

「は……話せますっ! ありがとうございます!」

 彼女は綿貫巴。父が巴御前が好きで名付けられ、その影響で自分も格闘技を習っていた。
 おかげで状況把握能力が高く、自分が助けてもらったことも、礼儀正しくすることが最善であることを理解できていた。

「どういたしまして。それで、聞いていたと思うけど……転生したい?」

「はいっす!」

「……種族は選べないわよ?」

「それでももう一度チャンスをもらえるなら、是非転生したいっす!」

「そう。では、この世界の知識や常識を持っていきなさい。頑張るのよ」

「ありがとうございましたっ!」

 月神が再び手を振る。
 のちに、不運少女と呼ばれる者は新たな生を得るために輪廻転生の輪に入っていくのだった。
 もちろん、転生ルーレットを最優先で回し、真っ先に転生できるショートカットコースだ。

「二人目はいいヤツだったな!」

「えぇ。たまに様子を見てみるのもいいかもね」

「楽しみだな!」

 巴は人間に転生できるという誤解を持ったまま返事をしたおかげで、神々から好印象を持たれることになった。
 その効果は、人型限定のルーレットの使用を許可されるほどだ。

 それが良かったかどうかは不明だが、神々の格別の配慮をもらえたことは事実である。

 そして、ここまでの様子を一部始終見ていた者がいた。
 後日、責められることになる新眷属のフクロウだ。

 彼は自分に何かあった場合は、真っ先にケートを売り払おうと考えるのだった。


 ◇◇◇


 女性たちが天界に訪れた少し後。
 召喚国の【ヌール神聖帝国】で大きな騒ぎが起こっていた。
 それは、転生賢者と筆頭将軍の葬儀だ。

 本来なら召喚ではなく異邦人として紹介して、神の寵愛を受けていることを世界に発信すると同時に、武力を盾に各国に圧力をかけようとしていた。
 しかし、転生賢者と筆頭将軍という二人の英雄を失った代わりが、妄言を垂れ流す少年一人だけ。

 下手に公表するよりも異世界人の血族を増やして、足りない質を数で補う方が良いと判断した。
 よって、少年が希望する訓練はさせるが、基本的には家に籠もって子作りをしてもらう予定である。

 ただ、皇帝として力を見せなければいけないという理由から、今更領土拡大計画を中止することはできない。
 本来は異世界人を使って士気を高めるつもりだったが、少年一人では士気が下がる未来しか見えなかった。

 そこで、転生賢者と筆頭将軍の死を皇帝暗殺の被害者だと偽装し、英雄たちを殺した者たちに対する復讐心を煽ることにしたのだ。
 策略は見事に当たり、国中が悲しみに暮れた。
 同時に士気が高まり、戦意も高まっていった。

 一つだけ問題があるとするなら、どの国をターゲットにするかということだ。
 どこにしろ船で行かなくてはならず、小国だと利益が少ない。大国にしても良いが、救援がすぐに来ない国が望ましい。

「うーむ……。やはり【シャムス武王国】かのう」

「そうですね。禁忌の国でもありますし、神敵として誅伐すると主張することも容易でしょう。さらに、海軍を配置していない港もあるという好条件。これも神に思し召しでしょう」

「うむ。では、緒戦は奇襲戦とするから宣戦布告はするでないぞ」

「はっ!」

 奇しくも二度目の禁忌が犯し、誅伐の大義名分を得ることになるのは少し後のことだった。


 ◇◇◇

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