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第一章 アルミュール男爵家

第二十一話 神罰に恐怖する

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 審理の後、男爵家は荒れに荒れた。
 何故なら神罰が下ったからだ。――伝令兵に。

 彼は男爵家の者じゃないからだ。
 彼は戦う術を全て奪われ、おじいちゃんになってしまった。
 俺の時を奪おうとしたから、彼の時も同じように奪ったらしい。

 この神罰が教会で起きたため、全員が目撃することに。
 第一夫人は狂ったように泣き叫んだ後、失禁して失神していた。

「……このまま契約をしたいと思うが、何か希望はあるかね?」

 最初は村だけもらおうと思ったのだが、耕作地のことで再度許可をもらうのも面倒だなと思い、南西の村周辺をもらうことにした。
 村には五歳から行く予定だから、分家建設予定地は手放すつもりはない。

「南西の村と周辺の土地が欲しいです。長く放置されているようですし、将来的には双子の兄上たちが当主なると思うので、今の内に住居を用意しようと思いまして。……ほら、僕がいるとやりづらそうですしね」

 と、健気な三歳児を装う。
 ……ママンにはバレてそうだけど。

「なるほど」

 男爵家に確認することなく、スラスラと契約書に書き込んでいる。
 いいのか!?

「あそこは元々別の騎士に拝領された土地で、交通の便が悪いから放置されている。何も問題あるまい」

「それと借りている弓の所有権と、廃教会もつけてください」

「――それはっ!」

 何で知ってるんだ!? とでも言いたげな様子だが、グリムに聞いた手加減訓練施設の第一候補である。
 一応の管理権は教会にあるのだが、同じように長期間放置されている。

 男爵領の村の一つが放置されていることを理由にもらえるなら、教会も大丈夫だろうという当然の帰結だ。

「放置されてますよね?」

「くっ!」

 呻きながら書き込まれ、契約が終了した。
 一応教会の施設もあるから、三人で署名した上で公正証書も作成した。

「どうもありがとうございましたっ!」

「……うむ」

 丁寧にお礼を言ってボロ小屋に帰ると、先に帰っていた本家の方々が喚き散らす声が聞こえてきたのだ。
 優秀な耳が拾いたくなくても拾っちゃうんだなぁ。

 主にジジイが喚き散らしているけどね。
 最初は双子。沼に行く原因を作ったから。
 その結果、スタンピードになったのだと責められているが、沼地を選んだ人は別にいるよね?

 ということで、二人目はニック。
 欲を出すからだと罵声を浴びせているが、本人は欲を出さなくて九万五千枚の金貨を用意できるのかと、逆ギレしている。……正論だ。

 三人目は一番悪い第一夫人。
 くだらん策略をした上、失敗するという無様を晒して恥ずかしくないのかと問うている。

 四人目は馬鹿なことをした現当主だ。
 審理を約束するとは何事だと当たられている。
 確かに審理をしなければ、のらりくらりとかわせただろう。
 だから、執事が止めていたんだよ?

 ただ、我慢の限界が来たパパンも攻撃を開始する。
 誰が助けてやったと思っているのかと。

 俺とエルードさんとガンツさんが討伐して、治したのは神父様だけど? 何、自分の手柄にしているんだよ。

 実際、同じような言葉で言い返されている。
 しかし、采配したのは自分だと主張するパパン。
 もみ合いになっている二人を止めるセバスチャンと執事。

 そんな様子が聞こえて来るのだ。

『仲良しだねーー』

『どこがですーー?』

『俺たちは仲が悪いから話してないでしょ? つまり、話しているってことは仲良しってことじゃん!』

『屁理屈ですー』

 彼らの本当の試練はこれだから、頑張って乗り越えて欲しい。

「カルム! ちょっとこっちにいらっしゃい!」

「はーい! ただいまーー!」

 何だろう? お説教かな?

「どうしました?」

「あなた、村なんかもらってどうするの? 商人か冒険者になるんじゃなかったの? しかもあんな辺鄙なところ」

 同じ辺境だから、この村も同じように辺鄙だよ。

「拠点が必要だなと思いましてー。商人や冒険者は貴族みたいに手の内を明かさないのですよ? 情報一つとっても大金が詰まれるのです。手の内が分かっている者は怖くないでしょう? だから、手の内をさらさないで訓練ができる場所が欲しかったのです」

 狩りができるだけで戦地に送られるくらいだからね。

「学園に行っている間はどうするの?」

「学園? 行かないとダメなんですか?」

「十歳から十二歳までの初等学園には行かないとダメよ?」

「行ってない人もいますよね?」

「平民で職人になる子も行くわよ?」

 これは行かないと納得してくれないやつだ。
 好きにしなさいと言っていたが、初等学園の卒業は自由に生きるための必須条件なのか……。

「……まだ時間はありますので、準備をしておきます」

「そう。学業に影響が出ないならいいのよ」

「教会の基礎教育は受けなくてもいいですよね? 貴族は家庭教師ですし!」

「そうねー……」

「化粧品の研究もしたいなぁと思ってるんですよ!」

「素晴らしいわ! 薬品の研究ができるなら、基礎教育は大丈夫ね!」

「はい!」

 よしっ!

「わたしも一緒に訓練してもいい?」

 メイベルからの提案に一瞬悩むも、既に魔眼について知られていることを思い出す。

「うん! もちろんっ!」

「ありがとうっ!」

「良かったわね」

「はいっ!」

 今日も平和である。

 ◇

 翌日。
 今日も建設予定地に向かう。
 村のこともそうだが、ガンツさんにお願いがあったからだ。

「おはようございまーす!」

「おはようございます」

「おう! 二人ともおはようさん!」

 家については引き続き建ててもらい、村については保留とした。
 行ってみないと分からないと判断したからだ。

「それで今日は何するんだ? また本を読みに来たのか?」

 建設現場で高速読書をしているのが名物になってしまったようで、見世物になっているときがある。

「今日は武器を購入しに来ました」

「はぁ? あのとんでもない弓があれば十分だろ?」

「それが……威力が強すぎて……ねっ!」

「そうなんです! どんなに手加減しても伐採しちゃうみたいで……」

 メイベルと採取を兼ねた狩りに行くため、メイベルは弓の威力を知っている。
 最初は驚いて固まっていたが、そのうち慣れてたようで「またか」といった様子で眺めていた。

「それじゃあサーブル流剛剣術を習うのか?」

「習いません。今回全滅した武術に勝ちを見出せません」

「言うなぁ。それじゃあ何がいいんだ?」

 俺の怪力を活かせる武器は、間違いなくメイスだ。
 剣は剣筋を立てなければしっかり斬ることはできず、腹の部分に当たれば金属で殴るのと同じだ。
 それならば専用のメイスを用意して、どんな方向から攻撃をしてもダメージを与えられる方が効率的だ。

 あとは槍かな。
 投擲もしたいし、突き刺すだけだから手加減をあまり気にしなくても良さそうだ。
 ついでに盾があれば良い。
 俺は傷つかないけど、ちょっと使う予定があるんだよね。

「メイスねぇ。棘が欲しいのか?」

「棘ではなく、三角のプレートが一周しているようなメイスなんですが……なんて言えばいいんだろう……? プレートが上下に分かれていて、上部が小さい三角に、下部は大きい三角になっているようなものを希望します」

「……真ん中の溝は何に使うんだ?」

「剣を受けるための部分です! 捻って折れるような造りがいいです! あと、とにかく頑丈に!」

「似たようなものがあるから、とりあえず使ってみろ。子どもは剣が好きだからな。あとで気が変わるかもしれないから、注文品は祝福の儀式が終わってからだな」

「……そうですね。もらう能力との相性もありますしね!」

「そのとおりだ」

 ちなみに、すでに賠償金を少しだけもらった。これは火災の賠償金とは別で、神罰を回避したいニコライ商会の心付けだ。
 彼らも男爵家の人々ではないから、日々戦々恐々としている。

 今回もそのお金から支払っている。

「メイベルはどうする?」

「えーと……ハルバードにしようと思う。どう思う?」

「……ゴツいの選んだね。いいと思うけど、狭い場所でも使える武器があるともっといいかも!」

「短剣にしようかな!」

「うん。いいと思う!」

「……なぁ、お前さんたちはどこかに戦いに行くのか?」

「はいっ!」

「はっ!?」

 まぁこうなるよね。
 最近行われた審理の争点を自分から行おうとしているのだから。
 だが、安心して欲しい。
 足元を掬われるようなことはしないから。

「といっても、儀式の後ですけどね。現物がないと訓練できないので、先に用意しておこうと思って!」

「……なら、訓練用のものを貸してやる」

「「ありがとうございます!」」

 結局、今回は取りやめることにして、訓練用武器のレンタル代だけ払ったのだった。

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