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51 帰路
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まだ昼過ぎであったが、とりあえず初日の目的を果たした私と晃瑛は王城へ帰ることにした。琉玖と別れ、人混みの中をとろとろと歩いた。
「琉玖の実家が武大臣の指定した店ってことは、彼の親御さんが大臣と繋がりがあるってことかしらね」
「みたいだな。大臣が阿銅羅教に問題提起したのも、あいつの妹の失踪が影響してたりして」
「……あぁ、そっか」
大臣から見れば、知り合いの娘が阿銅羅教によって失踪したということか。以前から問題視していたとはいえ、いよいよ動かなければならないとなったのかもしれない。その知り合いであるかんざし屋の店主から頼まれたとも考えられる。
そして、その繋がりがあるからこそ、今回の件の密会場所の協力者として、かんざし屋が選ばれた……のかもしれない。
「まだ大臣と会うつもりはないけど、下手したら琉玖に会っちゃうかもね」
「あぁ」
「あ、ていうか、王城の中で会っちゃうこともありえる? 後宮には来ないと思うけど、私達が王城側に行く時は注意が必要ね」
今日思ったことだが、この街へ出ての調査は一回や二回では終わらなそうである。阿銅羅教が悪さをしている尻尾を掴む前に、自分達の行動を知る他人が増えることは避けたい。
「……」
「晃ちゃん? どうしたの?」
「……お、俺さ、弟に見える?」
急に黙ってしまった殿下に声をかけると、少し沈んだ声が返ってきた。
「さっき琉玖に言われたこと気にしてるの? まぁ実際私の方が背高いし歳上だし? 不自然ではないんじゃない」
「ふーん……」
それきり彼は黙ってしまった。
王城へ戻るために桶を探す時も、警備を抜けた後も、宦官服を羽織って菖李のいる場所へ向かう時も、終始無言を貫いていた。
(子供っぽいって言っちゃったようなもんか。気にしてたのかな)
仕方なく自分も無言に付き合って、城内へ戻った。
後宮の端の出入り口では、朝と同様に菖李が出迎えてくれた。
「あ、おかえりなさいませ」
「ただいま!」
周りに人はいないとはいえ、目立たないよう小声で挨拶をする。桶を乗せた台車を押しながら、登龍殿へ戻った。
「おかえりなさいませ、青妃。王太子殿下」
中へ入ると、菖蒲はじめ他の侍女達も出迎えてくれた。無事ここへ戻って来れたことの安堵が、じんわりと湧いてきた。短い時間で色々なことがあったような気がするが、とにかく危険な目などには遭わなくて良かった。
「お湯浴みされますか? すぐに準備できますよ」
「!! 入りたいっ。ありがとう、さすがね」
「かしこまりました。殿下もお入りになりますか」
「えっ、俺?」
まさか自分に振られるとは思っていなかったらしい晃瑛は、あからさまに驚いていた。
「か、帰るよ……黎は?」
「所用で出ており、まだ戻っていらっしゃいません」
「先入ってきなよ。外は土埃もすごかったし、カサカサするでしょ」
太子殿へ戻るなら、黎と一緒でないとおかしく思われてしまう。どうせ待つならお風呂くらい入っても問題ないはずだ。一応対外的には「妃の部屋で逢引をしている」ということにしているのだから、逆に自然なくらいだった。
侍女達が殿下を湯殿へ連れていってしばらくすると、逆にぐったりした姿で帰ってきた。
「か、宦官はいないのかここは……」
女の子達に体を洗ってもらうのは色々と気持ちが許さなかったらしい。父親は日々そのように入浴しているはずだが、彼にはまだ早かったようだ。その反応に少しほっとする気持ちを覚えながら、入れ替わりで自分も入浴させて貰った。
外へ出て思った以上に砂埃にまみれていたようで、髪もざらざらと固くなっていたのがわかった。
上がってからしばらく待ってもなかなか黎は戻って来なかった。外の疲れが出たのか、いつのまにか寝台に身体を横たえ、そのまま眠りに落ちてしまったらしい。
はっと気づいた頃には、外はとっくに日が落ち真っ暗になっていた。
「……え。あれ?」
「お目覚めですか、青妃。ご苦労様でした」
「黎。戻りました……ってあれ? 殿下は?」
室内の薄灯に照らされる黎の存在を確認し、周囲を探る。布団の上で手をパタパタ当てていると、人の感触があった。見ると、殿下がすぅすぅと寝息を立てて眠っていた。
「ごめんなさい、私も殿下も、疲れて眠ってしまったみたい……。報告を」
「あぁ、今日のことなら狼から大体聞いたから大丈夫ですよ」
「……狼?」
私が疑問を呈すと、黎の側からすっと例の人が現れ一礼した。行く時に紹介された、男だか女だかわからないあの人だった。
(すっかり彼の存在を忘れてた……私達の報告を代わりにしてくれたってことは、やっぱりずっと付いてきてたってこと? あれ? 教会の中とかも?)
理解不能な存在に、眠さで呆けた頭が余計混乱してきた。
「彼のことは気にしなくて結構ですよ。私の代わりに行って貰っているだけですから」
「はぁ……」
何か訊きたいような気がするが、具体的に何を訊いたらいいかわからなくてモヤモヤした。
「聞いていると思うけど、今日は阿銅羅教の教会は入ったわ。ただ、あくまで普通の……というのかしら、ただ集まってお喋りしているだけだったの。何もわからなかったから、また行きたいのだけれど、いいかしら」
「まぁ、ほどほどに。私からの忠告は変わりません」
「わかってるわ」
それからしばらくして、目を覚ました殿下と共に帰っていった。
私と殿下はそれからも、時間を見つけては外へ出て教会へ通った。
「琉玖の実家が武大臣の指定した店ってことは、彼の親御さんが大臣と繋がりがあるってことかしらね」
「みたいだな。大臣が阿銅羅教に問題提起したのも、あいつの妹の失踪が影響してたりして」
「……あぁ、そっか」
大臣から見れば、知り合いの娘が阿銅羅教によって失踪したということか。以前から問題視していたとはいえ、いよいよ動かなければならないとなったのかもしれない。その知り合いであるかんざし屋の店主から頼まれたとも考えられる。
そして、その繋がりがあるからこそ、今回の件の密会場所の協力者として、かんざし屋が選ばれた……のかもしれない。
「まだ大臣と会うつもりはないけど、下手したら琉玖に会っちゃうかもね」
「あぁ」
「あ、ていうか、王城の中で会っちゃうこともありえる? 後宮には来ないと思うけど、私達が王城側に行く時は注意が必要ね」
今日思ったことだが、この街へ出ての調査は一回や二回では終わらなそうである。阿銅羅教が悪さをしている尻尾を掴む前に、自分達の行動を知る他人が増えることは避けたい。
「……」
「晃ちゃん? どうしたの?」
「……お、俺さ、弟に見える?」
急に黙ってしまった殿下に声をかけると、少し沈んだ声が返ってきた。
「さっき琉玖に言われたこと気にしてるの? まぁ実際私の方が背高いし歳上だし? 不自然ではないんじゃない」
「ふーん……」
それきり彼は黙ってしまった。
王城へ戻るために桶を探す時も、警備を抜けた後も、宦官服を羽織って菖李のいる場所へ向かう時も、終始無言を貫いていた。
(子供っぽいって言っちゃったようなもんか。気にしてたのかな)
仕方なく自分も無言に付き合って、城内へ戻った。
後宮の端の出入り口では、朝と同様に菖李が出迎えてくれた。
「あ、おかえりなさいませ」
「ただいま!」
周りに人はいないとはいえ、目立たないよう小声で挨拶をする。桶を乗せた台車を押しながら、登龍殿へ戻った。
「おかえりなさいませ、青妃。王太子殿下」
中へ入ると、菖蒲はじめ他の侍女達も出迎えてくれた。無事ここへ戻って来れたことの安堵が、じんわりと湧いてきた。短い時間で色々なことがあったような気がするが、とにかく危険な目などには遭わなくて良かった。
「お湯浴みされますか? すぐに準備できますよ」
「!! 入りたいっ。ありがとう、さすがね」
「かしこまりました。殿下もお入りになりますか」
「えっ、俺?」
まさか自分に振られるとは思っていなかったらしい晃瑛は、あからさまに驚いていた。
「か、帰るよ……黎は?」
「所用で出ており、まだ戻っていらっしゃいません」
「先入ってきなよ。外は土埃もすごかったし、カサカサするでしょ」
太子殿へ戻るなら、黎と一緒でないとおかしく思われてしまう。どうせ待つならお風呂くらい入っても問題ないはずだ。一応対外的には「妃の部屋で逢引をしている」ということにしているのだから、逆に自然なくらいだった。
侍女達が殿下を湯殿へ連れていってしばらくすると、逆にぐったりした姿で帰ってきた。
「か、宦官はいないのかここは……」
女の子達に体を洗ってもらうのは色々と気持ちが許さなかったらしい。父親は日々そのように入浴しているはずだが、彼にはまだ早かったようだ。その反応に少しほっとする気持ちを覚えながら、入れ替わりで自分も入浴させて貰った。
外へ出て思った以上に砂埃にまみれていたようで、髪もざらざらと固くなっていたのがわかった。
上がってからしばらく待ってもなかなか黎は戻って来なかった。外の疲れが出たのか、いつのまにか寝台に身体を横たえ、そのまま眠りに落ちてしまったらしい。
はっと気づいた頃には、外はとっくに日が落ち真っ暗になっていた。
「……え。あれ?」
「お目覚めですか、青妃。ご苦労様でした」
「黎。戻りました……ってあれ? 殿下は?」
室内の薄灯に照らされる黎の存在を確認し、周囲を探る。布団の上で手をパタパタ当てていると、人の感触があった。見ると、殿下がすぅすぅと寝息を立てて眠っていた。
「ごめんなさい、私も殿下も、疲れて眠ってしまったみたい……。報告を」
「あぁ、今日のことなら狼から大体聞いたから大丈夫ですよ」
「……狼?」
私が疑問を呈すと、黎の側からすっと例の人が現れ一礼した。行く時に紹介された、男だか女だかわからないあの人だった。
(すっかり彼の存在を忘れてた……私達の報告を代わりにしてくれたってことは、やっぱりずっと付いてきてたってこと? あれ? 教会の中とかも?)
理解不能な存在に、眠さで呆けた頭が余計混乱してきた。
「彼のことは気にしなくて結構ですよ。私の代わりに行って貰っているだけですから」
「はぁ……」
何か訊きたいような気がするが、具体的に何を訊いたらいいかわからなくてモヤモヤした。
「聞いていると思うけど、今日は阿銅羅教の教会は入ったわ。ただ、あくまで普通の……というのかしら、ただ集まってお喋りしているだけだったの。何もわからなかったから、また行きたいのだけれど、いいかしら」
「まぁ、ほどほどに。私からの忠告は変わりません」
「わかってるわ」
それからしばらくして、目を覚ました殿下と共に帰っていった。
私と殿下はそれからも、時間を見つけては外へ出て教会へ通った。
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