身代わりで隣国に嫁がされましたが、チー牛王子となんやかんや仲良く生きていきま、す?

佐伯 鮪

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45 お着替えタイム

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「さ、それでは二人とも着替えてください!」
「え、ここで着替えるの?」

 ここは自分の寝室だ。間仕切りのようなものはあるとはいえ、一室である。一緒の空間で着替えるということに、殿下も私も、少し抵抗を示した。

「一応お二人は、この部屋で逢引きをしているという設定にしようと思いまして。ですから、太子と妃の服装でこの部屋から出るのは、太子殿へ帰る時のみとなります」

 だから今ここで着替えなければいけない、ということだ。そして強引に部屋の隅へ追いやられ、そこで着替えるように服を押し付けられた。反論の余地はないようである。

「しゃ、香香シャンシャン、ぜったひ……こっち見るなよ! 絶対、だからなっ」

 殿下は顔を真っ赤にして、ぐるりと背を向けた。

「もう、こっちの台詞だっつーの……」

 私は小さく呟き、菖蒲しょうぶに手伝ってもらって着替えに取り掛かることにした。衝立ついたての影であるから、あえて覗こうとさえしなければ基本的には向こうからは見えることはないはずだ。
 だが、意識してしまうと、上等な絹のシュルシュルと滑る音が響いてしまう気がして、恥ずかしくなった。

 庶民服の方は、着付けも簡単である。宮廷衣装のように複雑な飾りもなく、前合わせの上衣である襦に、腰に巻く裙、そして裙の下に股引のような下履きを履いて完成だ。麻の素材は少し固いが、動くときに気を使わなくて良いからとても楽だった。

 そしてこの上に下級の奴婢の服を羽織るわけだがーー

「あら、これって、男物じゃないかしら?」

 間違ったのかと思い、交換するためにその服を持って殿下の方へ向かった。「おーい殿下~」と呼びかけると、「ひゃっっ」と女のような悲鳴が返ってきた。

「みみみみ、見ないでって……言ったじゃないかっっ! 香香シャンシャンの馬鹿っ! えっち!」

 酷い言われようである。
 確かに先に見るなと言ったのはあっちであったので、配慮が足りなかったのは自分であるが。
 しかし、こちらも側に衝立を置いて着替えているのだから、まだ見えてはいないから安心して欲しいと、改めて殿下へ伝えた。

「あぁ青妃、それは男物で合っているんです。肥桶トイレの処理をするのに、男女で行うことはあまりないでしょう? ですので、後宮内を通過する時は二人とも宦官の服装でお願いします」

 黎が顔を出して、補足説明をする。それからすぐに、襦褲じゅこを身につけた殿下も、もじもじとしながら出てきた。

「殿下、似合うじゃない。私達二人とも、顔も地味だし黎みたいな色気オーラもないし、これなら街でもきっと浮かないと思うわ!」

 その瞬間、視界の隅に鋭い眼光が走るのを確認した。
 黎が睨んでいる。
 さしずめ、「お前はともかく殿下を馬鹿にすることを言うな」とでも言いたいのだろう。

「しゃ、香香シャンシャン……お前は……いつも一言、多い」

 斜め下を向いた殿下にさえ、ちくりと指摘されてしまった。
 私は黎の視線を避けるように、ネズミ色の宦官服をガバッと羽織った。


「よし、出発ね」

 準備を終えた私達は、用意された台車に桶を複数個乗せて、登龍殿を後にした。一つは服を入れる用に空にしておき、そのほかには排泄物の代わりに土を入れた。

 例の通用門に着くと、昨日と同じく菖李しょうり元 師団長がいた。彼は、現在私達が下級宦官のふりをしているという立場上、王族に対して行う礼ができないことを詫びた。また、「元・師団長」とはもう関係ないのだから呼ばないで欲しいということで、通常の名で菖李と呼ばせてもらうことになった。

「ありがとう、菖李。本当はもっと色々お話したりしたいのだけどーー今日はもう行くね。また今度ゆっくり」

 第一の門を抜けた私達は宦官服を脱いで桶に収め、いよいよ街へ続く次の門へ向かった。
 排泄物を運ぶふりをしながらも、浮き足立つのをもはや隠せないほど、足が自然と弾んでしまうのを自覚していた。
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