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41 それは策略か?
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広々とした磨き上げられた室内に、高級感のある調度品。以前訪れた時とはまた配置も変わっており、彼女の内装に関するこだわりを感じさせた。
夏妃と会うのは、国王の誕生日会後に会って以来だった。
「それにしても青妃、貴女いつの間に『王太子妃』になってたのよ?」
彼女には、「王妃なのに国王の渡りがないはおかしい」と指摘された。そしてその少し後、ようやく国王が私の元へ訪れたわけだが、結果として私はその場でクビになり、王太子に押し付けられた形となったことを話した。
「クビって言ってもねぇ……何かやらかしたわけじゃないんでしょう?」
「あ、いや、えっと」
少し迷ったが、誕生日祝いに櫛と簪(かんざし)を贈ったことを話した。
「はぁ? 貴女、随分と挑発的なのねぇ。なんでまた」
「いや、なんででしょうね? あはは」
「変な子~~」
侍女が勝手にやった、という言い訳はみっともなく感じて、言えなかった。贈り物の選定を任せ、確認をしなかったのは自分なのだから、単に自分の能力不足を示すだけだ。
「国王陛下は、私が"可愛ければ"許してくれるつもりだったようなんですが、残念ながら顔を上げた瞬間拒絶されましたので……」
「ふーん」
夏妃は私の顔をまじまじと見つめた。相手が女性とはいえ、まさに品定めするように見られると、どうしてよいかわからなくなる。
「失礼しちゃうわね、ハゲデブのくせに。それに貴方のその身体、男なら放っておかないと思うけど」
夏妃は心底不思議そうに呟き、私の胸のあたりを指さした。
それに関していえば、確かに他の人よりは大きい方だという自覚はある。皓月様だって恐らくそれ目当てだったのだろうし、他の人間にも胸を理由にからかわれるようなことも、かつてあった。軽んじられていたのだと思う。どちらかと言えば、不快な思い出の方が多い。
だが、暗闇でさらに服を着ている状態では国王からはわからなかっただろうし、あの状況でそれを理由に撤回されるとも思えなかった。
顔で拒絶されるのも、初めてのことではない。
私は、いつも香月様の側にいた。
現在は朱琳と名乗っている彼女は、誰もが認める絶世の美女だ。くりっと大きな漆黒の瞳に、孔雀の羽のような長い睫毛。透き通るような白い肌に、すっと細い鼻筋、そして小ぶりなのに艶々と煌めいて豊満さを感じさせる唇。彼女を見れば誰もが振り返り、その目で見つめられればしどろもどろになり、何かを頼まれれば無駄に張り切ってしまうという、そんな女の子だった。
私はといえば、彼女の陰に隠れて気づかれないことも多かったし、私一人でいたりすると、あからさまにがっかりされたりした程度の存在だった。
だからこそ、国王のあの反応も、腹は立つけれどもさもありなんと受け入れることができたのだと思う。
「ま、由貴妃はあんなんだしさ、国王はブス専なのよ。つまり国王にブス認定されるってことは、逆だって解釈しておきましょ」
「夏妃、言い過ぎですよ」
「事実じゃーん……あ」
夏妃は何かに気づいたように、一瞬口を止めた。
「王妃から外されたのってさ、もしかして由貴妃の策略だったりしない?」
「え……」
流石に、それはないだろう……と思う。そもそも由貴妃が私の存在を知っているかどうかだって怪しいくらいだ。こちらとしては忘れることができない強烈な存在であるが、向こうから見れば、話したこともないし取るに足らない存在ではないかと思う。
「陛下に青妃を王太子妃に回すように入れ知恵したとか! そもそも、入宮してすぐに来ないのも変だし、東龍国の貴女を遠ざけたい理由があったりして」
「まさかそんな」
「いやまぁ、想像だけどね? あんなエグいことができる女だし、何を企んでいるかわかったもんじゃないじゃなーい?」
夏妃も、あの処刑を見ていたのだ。というか、直接見たにしろそうでないにしろ、あのことを知らない人はさすがにいなかった。
これまでも由貴妃は、気に入らない者は国王を唆して刑罰を与えたり、失脚させたりしてきたらしかったが、あのような形での処刑を目にしたのは、夏妃も初めてだということだった。
夏妃との談議は、話題が尽きず、落とし所もなく、なかなか終わることがなかった。
「それにしても王太子殿下ねぇ。あの根暗なお子ちゃまでしょう? アホ国王は免れたとはいえ、アレもどうなのって感じね」
ーーその物言いに、ちょっとムッとしてしまった。
自分だって、稚牛だのなんだの馬鹿にしていたにも関わらず、勝手なものだ。
「で、殿下は、良い方ですよ! そりゃちょっと頼りないところもあるけど、まだお若いからだと思いますし、の、伸び代があります!!」
「あら」
思わずムキになって強く言ってしまった私に、夏妃はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「うふふ、ごめんなさい。どうやら殿下とは上手くいってるみたいね! 今の発言は忘れてちょうだい。二人のこと、応援してるわ」
途端に楽しそうな様子を見せた夏妃に、少し戸惑った。夏妃は、どんなところが良いと思うのか、とか、あっちの方はどこまでいったのか、などなかなか踏み込んだことをウキウキした感じで聞いてきた。
私はなんとか細かい情報は出さないように意識してはぐらかし、馬車での送りも断って、夏妃の殿舎を後にした。
夏妃と会うのは、国王の誕生日会後に会って以来だった。
「それにしても青妃、貴女いつの間に『王太子妃』になってたのよ?」
彼女には、「王妃なのに国王の渡りがないはおかしい」と指摘された。そしてその少し後、ようやく国王が私の元へ訪れたわけだが、結果として私はその場でクビになり、王太子に押し付けられた形となったことを話した。
「クビって言ってもねぇ……何かやらかしたわけじゃないんでしょう?」
「あ、いや、えっと」
少し迷ったが、誕生日祝いに櫛と簪(かんざし)を贈ったことを話した。
「はぁ? 貴女、随分と挑発的なのねぇ。なんでまた」
「いや、なんででしょうね? あはは」
「変な子~~」
侍女が勝手にやった、という言い訳はみっともなく感じて、言えなかった。贈り物の選定を任せ、確認をしなかったのは自分なのだから、単に自分の能力不足を示すだけだ。
「国王陛下は、私が"可愛ければ"許してくれるつもりだったようなんですが、残念ながら顔を上げた瞬間拒絶されましたので……」
「ふーん」
夏妃は私の顔をまじまじと見つめた。相手が女性とはいえ、まさに品定めするように見られると、どうしてよいかわからなくなる。
「失礼しちゃうわね、ハゲデブのくせに。それに貴方のその身体、男なら放っておかないと思うけど」
夏妃は心底不思議そうに呟き、私の胸のあたりを指さした。
それに関していえば、確かに他の人よりは大きい方だという自覚はある。皓月様だって恐らくそれ目当てだったのだろうし、他の人間にも胸を理由にからかわれるようなことも、かつてあった。軽んじられていたのだと思う。どちらかと言えば、不快な思い出の方が多い。
だが、暗闇でさらに服を着ている状態では国王からはわからなかっただろうし、あの状況でそれを理由に撤回されるとも思えなかった。
顔で拒絶されるのも、初めてのことではない。
私は、いつも香月様の側にいた。
現在は朱琳と名乗っている彼女は、誰もが認める絶世の美女だ。くりっと大きな漆黒の瞳に、孔雀の羽のような長い睫毛。透き通るような白い肌に、すっと細い鼻筋、そして小ぶりなのに艶々と煌めいて豊満さを感じさせる唇。彼女を見れば誰もが振り返り、その目で見つめられればしどろもどろになり、何かを頼まれれば無駄に張り切ってしまうという、そんな女の子だった。
私はといえば、彼女の陰に隠れて気づかれないことも多かったし、私一人でいたりすると、あからさまにがっかりされたりした程度の存在だった。
だからこそ、国王のあの反応も、腹は立つけれどもさもありなんと受け入れることができたのだと思う。
「ま、由貴妃はあんなんだしさ、国王はブス専なのよ。つまり国王にブス認定されるってことは、逆だって解釈しておきましょ」
「夏妃、言い過ぎですよ」
「事実じゃーん……あ」
夏妃は何かに気づいたように、一瞬口を止めた。
「王妃から外されたのってさ、もしかして由貴妃の策略だったりしない?」
「え……」
流石に、それはないだろう……と思う。そもそも由貴妃が私の存在を知っているかどうかだって怪しいくらいだ。こちらとしては忘れることができない強烈な存在であるが、向こうから見れば、話したこともないし取るに足らない存在ではないかと思う。
「陛下に青妃を王太子妃に回すように入れ知恵したとか! そもそも、入宮してすぐに来ないのも変だし、東龍国の貴女を遠ざけたい理由があったりして」
「まさかそんな」
「いやまぁ、想像だけどね? あんなエグいことができる女だし、何を企んでいるかわかったもんじゃないじゃなーい?」
夏妃も、あの処刑を見ていたのだ。というか、直接見たにしろそうでないにしろ、あのことを知らない人はさすがにいなかった。
これまでも由貴妃は、気に入らない者は国王を唆して刑罰を与えたり、失脚させたりしてきたらしかったが、あのような形での処刑を目にしたのは、夏妃も初めてだということだった。
夏妃との談議は、話題が尽きず、落とし所もなく、なかなか終わることがなかった。
「それにしても王太子殿下ねぇ。あの根暗なお子ちゃまでしょう? アホ国王は免れたとはいえ、アレもどうなのって感じね」
ーーその物言いに、ちょっとムッとしてしまった。
自分だって、稚牛だのなんだの馬鹿にしていたにも関わらず、勝手なものだ。
「で、殿下は、良い方ですよ! そりゃちょっと頼りないところもあるけど、まだお若いからだと思いますし、の、伸び代があります!!」
「あら」
思わずムキになって強く言ってしまった私に、夏妃はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「うふふ、ごめんなさい。どうやら殿下とは上手くいってるみたいね! 今の発言は忘れてちょうだい。二人のこと、応援してるわ」
途端に楽しそうな様子を見せた夏妃に、少し戸惑った。夏妃は、どんなところが良いと思うのか、とか、あっちの方はどこまでいったのか、などなかなか踏み込んだことをウキウキした感じで聞いてきた。
私はなんとか細かい情報は出さないように意識してはぐらかし、馬車での送りも断って、夏妃の殿舎を後にした。
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