身代わりで隣国に嫁がされましたが、チー牛王子となんやかんや仲良く生きていきま、す?

佐伯 鮪

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38 武大臣2

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 菖蒲しょうぶは武大臣の前まで進み、屈んで目線を合わせてから言った。

「武大臣、お顔を上げてください。貴方のせいではございません」
「……かつての上官を、手にかけるなど」
「父がそれを許したのです。それ以上何が言えましょうか」
「……っ、うぅ……」

 察するに、菖将軍と武大臣は上司部下の関係だったということだろうか。二人の会話が途切れたのを見計らって、菖蒲に説明をお願いした。

「武大臣は、以前は父の軍に所属していたのです。子供の頃よくうちへいらしていて、私も兄も遊んでいただきました」
「そう、元軍人だったのね」

 あの処刑の日に抱いた疑問が、少し晴れた気がした。
 武大臣はあの時、将軍を槍でひと突きしかしていなかった。武器を握ったことのない人間だったら、あんな風に急所を正確に狙って一発で仕留めることなんてできないのではないだろうか、と思っていたのだ。ましてや、あの時の精神状態を鑑みてみれば、余計に。

「軍人であったのに、何故今は財務担当の大臣をなさっているのですか」
「……まぁ、そちらに適正があったというだけのことです。退役して十年以上になりますが、ふたたび槍を握る日が来るとは思ってもみませんでした……しかもそれが、元上官に一方的に、向けることになろうとは……」

 私達は、彼を責めにきたつもりではなかった。ただ、何を話しても話がそこを巡ってしまい、どうしたものかと思っていると、菖蒲が口を開いた。

「武大臣、もしできたらで良いのですが、私の母や兄嫁の様子を、時々気にかけてくださいませんか。主を失い、また、私も兄も後宮勤めになります故、実家のことには直接関われませんので……」
「私の存在など見たくもないであろうと思っていましたが、菖蒲様がそうおっしゃるなら、できる限りのことはさせていただきます。せめてもの罪滅ぼしに、というのもおこがましいかもしれませんが……」
「いえ、とても心強いことです。ありがとうございます」

 そして、一度話を区切ってから、次の話題に移行する。

「もう一つ、お願いがありまして。私のお支えする青妃せいひは、大変思慮深く、この国の将来を憂いている御方です。王太子殿下、ならびに妃殿下にご協力いただけないかと思い、本日は参上した次第なのです」
「協力、とは?」
「はい、具体的には青妃よりお話させていただきます。よろしいでしょうか?」

 菖蒲がこちらの方を向いて、私に話し手の交代を促した。
 彼女のおかげで、ようやく本題へ戻ることができた。私は襟を正して、改めて今日ここへ来た理由から説明することにした。
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