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※花言葉ー白鷺草ー(4/4)※
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(……あ)
急にこの手に熱を感じ、その存在を思い出した。
彼女の中に侵入させたままだった、自分の指。
ぐんぐん上がっていく熱と、泉のように溢れ出してくる蜜が、疑いようのないくらいその存在を主張してくる。
それを確かめるべく、俺はこれまで固まっていた指を再び動かした。
「紫苑、様」
「喬……ぁ、やっ」
「すごい、熱いです。ご自分で、わかりますか?」
俺が中で指を回転させると、それは先程とは比べようもないくらい、柔らかく拡がった。指を曲げたり伸ばしたりしながら、もう一本侵入させ、出し入れする。ちゅぷ、ちゅぷ、と粘り気のある水音が、部屋の中に響いた。
「ぁ……ふ……」
彼女の甘い高い声が、色がついてきたのがわかる。
内側から押し拡げると、出入口は締め付けるものの、ぬるぬると滑りながら指を飲み込んだ。
「喬、喬……ちょっと、しゃべ、らせて」
「あ、す、すみません」
そう言われ、調子に乗ってしまっていた指を止めた。
「喬……話してくれて、ありがとう」
「あ、いや」
「私、凄く嬉しいの。貴方が、自分のことを、話してくれて。そして、私のことを、そんな風に、想ってくれていたなんて」
息を切らせながら、紫苑様は言った。
「俺の気持ちなんて、そんなのバレバレだと思ってました」
「ふふ、何言ってるの。喬は無表情だし、そんなの言わなきゃ伝わらないわよ」
「そうでしょうか……」
流石にそこまで伝わらないのなら、悲しい。俺の行動は全て、彼女を中心としたものであるのに。
「たとえそうでもね、言葉にしてもらうと、安心できるの。喬は私が『好き』と言っても何も返してくれないし……不安で、寂しくて」
今の、彼女の身体の反応は、そうした気持ちを反映させたものだということだろうか。俺の言葉に安心したから、受け入れる準備が進んだと、そういうことなのだろうか。
今までの経験からは、考えたこともなかったことだ。
心だとか気持ちだとか、そんな要素はそこには存在しなかった。ただの身体反応として、どこをどうすれば快感を得られるか、人によって若干の違いはあるとしても、大体共通の技を磨いてきただけだった。だから、刺激さえすればいいのだと、そう思っていた。その中に「言葉」による刺激もあるが、あくまで聴覚への刺激のためのものにすぎなかった。
心を交わすということが、こんなにも身体に影響を与えるのかーー。
「喬」
紫苑様に名を呼ばれ、はっと我に返る。
「好きよ。貴方が好き。貴方にとっては陳腐な言葉かもしれないけど、私は私で、この言葉は大切にしたいわ」
「紫苑様……貴女のそういうところ、本当に素敵です。……俺は、貴女を愛しています、紫苑様」
もう一度、唇を重ねる。口の中まで、さっきと違う熱を帯びて俺を迎え入れる。深く、激しく重ねながら、彼女のしっとり湿った全身を辿る。再びその泉へ向かうと、そこは柔らかく、ねっとりと俺の指に絡み付いた。その蜜を掬って、彼女の門番へ挨拶をする。すると、ビクビクビクッと、彼女の身体が跳ねた。
(そろそろ……いけるか?)
紫苑様の身体を仰向けに寝かせ、その上に跨る。
「紫苑様。今から貴女のここに、これを入れます。たぶん痛いと思いますが……耐えてください」
俺は屹立した自分のものを、彼女に見せつけた。おそらく初めて見るであろう男性器に、彼女は目を丸く見開いた。……さっきからずっと俺も裸だったわけだが、彼女の目には入っていなかったのかもしれない。
「ほ、本当に、それが、入るの……? 喬、いつもそんなのがついてたの? 邪魔じゃない?」
「……あの、いつもこうなわけではない、です。今だけです」
「普段は形違うの? え、なんで?」
世間知らずも、ここまでくるとどうしたものか。
「貴女に、俺という存在を刻み込むためです。だから、痛くても、どうか受け入れてください」
有無を言わせないよう、強引に話をまとめた。
彼女の両脚の間に身を置き、腰の下に枕を一つ敷いて、その二本の脚を持ち上げる。そしてようやく受け入れてくれそうになった泉の位置をもう一度指で確かめた。
「き、喬……」
「紫苑様……大丈夫です。力、抜いて。俺の顔を見て」
不安そうな目をする彼女に口付けをし、自分の分身を目的の場所へあてがった。十分に濡れていることは、確認できている。俺はそのまま、前へ身体を押し進めた。
「あ、ぁあ…っ」
彼女が叫ぶ。そして同時に、俺を受け入れ始めたその入口も、みちみちと締め付けてくる。ゆっくり、じっくりと歩を進める。そのたびに、彼女の中が絡みつき締め付け、俺を押し戻そうとする。
「ぅ、うう……」
「痛い、ですか? もう少しです。一旦、止まりますか」
「い、いい。いいの。痛く、して。私に、刻み込んで」
はぁはぁと、互いの吐息が交錯する。ここまで来たら、もう引き返せない。俺は最初の速度のまま、真っ直ぐに押し込んだ。
「……い"っ!……や、ぁあっっ」
彼女が痛みに強く顔を歪めた時、ずん、と奥まで入りきった。しばらくそのままの体制で動かずに、呼吸を整える。
「はぁ、はぁ……入ったの。入って、るの?」
「はい、紫苑様。今、貴女の中に俺が入っています」
俺はそのまま身体を倒し、彼女の息の弾む唇へ口付けた。
「痛かったでしょう。よく、頑張りましたね」
「この、痛くてヒリヒリするのは、貴方のせいなのね。今も、中から私をぐいぐいと押しているわ」
「『酷いこと』、してしまいました。……貴女の、仰せのままに」
「ふ、ふふ、そうね。私が望んだのよ」
紫苑様は顔をしかめながらも、楽しそうに笑った。
「俺も、俺だって、何度この時を夢見たことか。貴女を、傷つけたいわけじゃない。痛がらせたいわけじゃないのに、俺にされている痛みに耐えている姿が、尊すぎて、嬉しく思う気持ちが、止められない。申し訳、ございません」
「謝らないで、喬。それで、このあとは、どうすればいいのかしら。これで、終わり?」
「……まさか、そんな」
俺は小さく腰を引いて、ゆっくりと奥へ打ちつけた。
「ん、やぁっ」
「痛く、ないですか? 大丈夫ですか?」
動かしていなくても、高温でぎちぎちと締め付けてくる彼女の中に、既に限界を迎えそうで、ヒヤヒヤしていた。
「い、痛い、痛いわ。でも……嬉しいの。貴方が、私の中にいる。貴方とやっと、一つになれたんだって」
紫苑様の瞳から、涙が零れた。
「喬、好きよ。大好きよ。ねぇ、貴方がいてくれたら、私は生きていける。これからも、ずっと一緒よ」
「紫苑様……」
ゆっくりと、それでいてだんだんと、引く距離を伸ばしながら、抽送を繰り出す。ぎゅうぎゅうと締め付けながら、彼女の泉はびちゃびちゃと溢れ、俺たちの繋がった場所と、敷布を濡らしていく。
それが奥に当たるたびに、紫苑様が整った顔を歪ませ、鈴の音のような声を鳴らす。苦しそうにしながらも、喜びに満ちて輝いた瞳で、俺を真っ直ぐに見る。
この、美しい顔を、何よりも麗しいお姿を、目に焼き付けておきたい。一生、ずっと、忘れないように。
「紫苑様、紫苑様。俺も、貴女がいれば、他には何もいりません。貴女だけを、一生愛し続けますーー」
そこで俺は、限界を迎えた。
彼女の中に、どくんどくんと熱いものが送り込まれていく。
それは、今まで溜め込んできていた俺の全てを放出するように、なかなか収まるところを知らず、彼女の蜜と混ざり合って、そこから溢れかえった。
俺は、肩で息をする細い身体を、彼女の愛しい愛しい肉体を、自分の身体に溶け合うように、強く抱きしめた。
.+*:゜+。.
ーー花の、香り。
官能的な、あの花のーー……
暗闇。
目を開いた俺は、むくりと身体を起き上げた。
自分の周辺を手で探りながら、そこには誰もいないことを確認する。
ふと、掛けていた布団をがばっとめくって自分の下半身を確かめた。
ーー夢精なんか、するはずないのに。
だって、ないんだから。
鳥の飛ぶような形をした真っ白で美しい花を見つけた。
紫苑様が見たら、なんと言ってくれるだろうか。
ただ、そんなことだけを考えて紫苑様の花瓶に活けた、白鷺草という、その名の通りの花。
その花を引き寄せ、そっと撫でた。
真っ白で、すべすべで、気品があってーー。
あの時、ああしていたら。
家なんか捨てて、二人で逃げ出していたら。
こんな未来も、あっただろうか。
俺に、羽根があったら。
もっと、力があったら。
彼女を乗せて遠くへ飛べていけただろうか。
そんなこと、考えたって仕方ないと、わかっている。
わかっていても、今の夢が『意味のないこと』だと思いたくないと、往生際の悪いことを考えてしまう。
「紫苑様……貴方だけを、一生愛し続けます」
俺が小さく呟いたのと同時に、スッと部屋の扉が開き、薄明かりが部屋に差し込んだ。
「喬、起きたのか?」
「ひ、姫巫女様!」
今の、間違いなく聞こえてしまったはずだ。
俺は慌てて起き上がり、その場に跪いた。
「姫巫女様、申し訳ございません。俺は、貴女のお側にありながら、不適切な発言をーー」
「喬」
言いかけたところで、姫巫女様が俺の言葉を遮る。
「お前、何か勘違いしてないか。お前は私の専属の『奴隷』だろう。それ以上でも以下でもない。それとも何か、私の恋人にでもなったつもりか? 思い上がるのも大概にしろ」
厳しい言葉をぶつけながらも、姫巫女様は俺の前に座った。
「……奴隷が心の中で何を考えていようが、そんなことはどうでも良い。仕事だけちゃんとしてたらいいんだ」
慈悲深い、優しい言葉だ。
「姫巫女様、俺、これからも、紫苑様を想っていて、いいのでしょうか」
「以前言わなかったか? その想いは大切にしろ、と。お前の想い人は、『紫苑』というのか。いい名だな」
「はい。紫苑の花のように、芯が強くて可憐で美しい人でした」
「でした?」
「もう、この世にいませんから」
「そうか」
姫巫女様が、俺の横に置かれた白鷺草に気付き、そこへ視線を落とした。
「白鷺草、持ち帰っていたのか」
「はい」
「この花はな、夜にだけ香りが強くなるんだ。香りに中てられて、何か夢でも見ていたか」
「はい。とても、幸せな夢をーー俺が欲しくて欲しくて仕方のなかった未来を、見てしまいました」
姫巫女様は微笑んで、そっと俺の頭に触れた。
「白鷺草の花言葉は、『夢の中でもあなたを想う』。夢で、その人に会えたか」
「……はい。会って、会うだけではなくて、あんなことやそんなことまで」
姫巫女様は、一瞬きょとんとしてから大きな口を開けて笑い出した。そして、わしゃわしゃと俺の髪をほぐした。
「ははは。そうだよな、お前、年頃の男の子だもんな!」
「今は、男とは言えないですけどね……夢の中では、男でした」
「それから他にも、『清純』『無垢』などもある」
「あー、紫苑様そのものだ。夢で、いろいろしちゃったけど」
「そういうことをしたら、『清純』でなくなるか?」
俺はぱっと顔を持ち上げて、ふるふると首を振った。
「いいえ。いいえ。紫苑様は、どんな状態であっても『清純』で……でも、たとえそうでなくても、生きていて、欲しかったなぁ……」
――俺は貴女に生きていて欲しくて、ただそれだけで――
夢の中での自分の声が、頭の中に響き渡る。
俺は涙が溢れだすのを感じ、下を向いて目元を手で覆った。
「申し訳ありません、姫巫女様。情けないですよね。考えても意味のないことだって、わかってるんですけど」
「意味のないこと、か?」
「え?」
「まぁ、お前もわかっている通り、考えたって彼女は生き返りはしない。お前のあんなことやそんなことをしたいという望みも、叶わない。それは変えようのない現実だ」
「はい、だから……」
「だが、夢の中での出来事も、それを通じて得られた何かも、”お前にとっては”、虚構ではない。”お前がそう考えた”ということは、事実であり、経験だ」
姫巫女様は、下を向いた俺の顔をそっと持ち上げた。
「それに、夢の中に誰かが出てきたということは、その人がお前に会いたがっているという暗示でもある。何か、彼女もお前に伝えたいことがあったのかもしれんぞ。だから、あんまり否定するな」
そう告げて、姫巫女様はそっと立ち上がって部屋を出て行った。
戸が閉まり、再び暗闇に包まれる。
――喬、好きよ。大好きよ。ねぇ、貴方がいてくれたら、私は生きていける。これからも、ずっと一緒よ――
紫苑様の形見の花瓶を両手で包んだ。
夢で彼女の肌に触れたように、優しく壊れないように、そのすべすべの陶器をそっと撫でる。
はらはらと自分から流れ落ちる涙を拭うのも惜しく、それは白鷺草の上に落ちて小さな音を響かせた。
ぱたぱたと、小鳥の羽ばたきのような音だった。
伝えたいことがあったのは、俺の方だ。
俺は彼女に自分の気持ちを何も伝えていなかった。
――愛しています。貴女を、紫苑様だけを、今までも、これからもずっと――
急にこの手に熱を感じ、その存在を思い出した。
彼女の中に侵入させたままだった、自分の指。
ぐんぐん上がっていく熱と、泉のように溢れ出してくる蜜が、疑いようのないくらいその存在を主張してくる。
それを確かめるべく、俺はこれまで固まっていた指を再び動かした。
「紫苑、様」
「喬……ぁ、やっ」
「すごい、熱いです。ご自分で、わかりますか?」
俺が中で指を回転させると、それは先程とは比べようもないくらい、柔らかく拡がった。指を曲げたり伸ばしたりしながら、もう一本侵入させ、出し入れする。ちゅぷ、ちゅぷ、と粘り気のある水音が、部屋の中に響いた。
「ぁ……ふ……」
彼女の甘い高い声が、色がついてきたのがわかる。
内側から押し拡げると、出入口は締め付けるものの、ぬるぬると滑りながら指を飲み込んだ。
「喬、喬……ちょっと、しゃべ、らせて」
「あ、す、すみません」
そう言われ、調子に乗ってしまっていた指を止めた。
「喬……話してくれて、ありがとう」
「あ、いや」
「私、凄く嬉しいの。貴方が、自分のことを、話してくれて。そして、私のことを、そんな風に、想ってくれていたなんて」
息を切らせながら、紫苑様は言った。
「俺の気持ちなんて、そんなのバレバレだと思ってました」
「ふふ、何言ってるの。喬は無表情だし、そんなの言わなきゃ伝わらないわよ」
「そうでしょうか……」
流石にそこまで伝わらないのなら、悲しい。俺の行動は全て、彼女を中心としたものであるのに。
「たとえそうでもね、言葉にしてもらうと、安心できるの。喬は私が『好き』と言っても何も返してくれないし……不安で、寂しくて」
今の、彼女の身体の反応は、そうした気持ちを反映させたものだということだろうか。俺の言葉に安心したから、受け入れる準備が進んだと、そういうことなのだろうか。
今までの経験からは、考えたこともなかったことだ。
心だとか気持ちだとか、そんな要素はそこには存在しなかった。ただの身体反応として、どこをどうすれば快感を得られるか、人によって若干の違いはあるとしても、大体共通の技を磨いてきただけだった。だから、刺激さえすればいいのだと、そう思っていた。その中に「言葉」による刺激もあるが、あくまで聴覚への刺激のためのものにすぎなかった。
心を交わすということが、こんなにも身体に影響を与えるのかーー。
「喬」
紫苑様に名を呼ばれ、はっと我に返る。
「好きよ。貴方が好き。貴方にとっては陳腐な言葉かもしれないけど、私は私で、この言葉は大切にしたいわ」
「紫苑様……貴女のそういうところ、本当に素敵です。……俺は、貴女を愛しています、紫苑様」
もう一度、唇を重ねる。口の中まで、さっきと違う熱を帯びて俺を迎え入れる。深く、激しく重ねながら、彼女のしっとり湿った全身を辿る。再びその泉へ向かうと、そこは柔らかく、ねっとりと俺の指に絡み付いた。その蜜を掬って、彼女の門番へ挨拶をする。すると、ビクビクビクッと、彼女の身体が跳ねた。
(そろそろ……いけるか?)
紫苑様の身体を仰向けに寝かせ、その上に跨る。
「紫苑様。今から貴女のここに、これを入れます。たぶん痛いと思いますが……耐えてください」
俺は屹立した自分のものを、彼女に見せつけた。おそらく初めて見るであろう男性器に、彼女は目を丸く見開いた。……さっきからずっと俺も裸だったわけだが、彼女の目には入っていなかったのかもしれない。
「ほ、本当に、それが、入るの……? 喬、いつもそんなのがついてたの? 邪魔じゃない?」
「……あの、いつもこうなわけではない、です。今だけです」
「普段は形違うの? え、なんで?」
世間知らずも、ここまでくるとどうしたものか。
「貴女に、俺という存在を刻み込むためです。だから、痛くても、どうか受け入れてください」
有無を言わせないよう、強引に話をまとめた。
彼女の両脚の間に身を置き、腰の下に枕を一つ敷いて、その二本の脚を持ち上げる。そしてようやく受け入れてくれそうになった泉の位置をもう一度指で確かめた。
「き、喬……」
「紫苑様……大丈夫です。力、抜いて。俺の顔を見て」
不安そうな目をする彼女に口付けをし、自分の分身を目的の場所へあてがった。十分に濡れていることは、確認できている。俺はそのまま、前へ身体を押し進めた。
「あ、ぁあ…っ」
彼女が叫ぶ。そして同時に、俺を受け入れ始めたその入口も、みちみちと締め付けてくる。ゆっくり、じっくりと歩を進める。そのたびに、彼女の中が絡みつき締め付け、俺を押し戻そうとする。
「ぅ、うう……」
「痛い、ですか? もう少しです。一旦、止まりますか」
「い、いい。いいの。痛く、して。私に、刻み込んで」
はぁはぁと、互いの吐息が交錯する。ここまで来たら、もう引き返せない。俺は最初の速度のまま、真っ直ぐに押し込んだ。
「……い"っ!……や、ぁあっっ」
彼女が痛みに強く顔を歪めた時、ずん、と奥まで入りきった。しばらくそのままの体制で動かずに、呼吸を整える。
「はぁ、はぁ……入ったの。入って、るの?」
「はい、紫苑様。今、貴女の中に俺が入っています」
俺はそのまま身体を倒し、彼女の息の弾む唇へ口付けた。
「痛かったでしょう。よく、頑張りましたね」
「この、痛くてヒリヒリするのは、貴方のせいなのね。今も、中から私をぐいぐいと押しているわ」
「『酷いこと』、してしまいました。……貴女の、仰せのままに」
「ふ、ふふ、そうね。私が望んだのよ」
紫苑様は顔をしかめながらも、楽しそうに笑った。
「俺も、俺だって、何度この時を夢見たことか。貴女を、傷つけたいわけじゃない。痛がらせたいわけじゃないのに、俺にされている痛みに耐えている姿が、尊すぎて、嬉しく思う気持ちが、止められない。申し訳、ございません」
「謝らないで、喬。それで、このあとは、どうすればいいのかしら。これで、終わり?」
「……まさか、そんな」
俺は小さく腰を引いて、ゆっくりと奥へ打ちつけた。
「ん、やぁっ」
「痛く、ないですか? 大丈夫ですか?」
動かしていなくても、高温でぎちぎちと締め付けてくる彼女の中に、既に限界を迎えそうで、ヒヤヒヤしていた。
「い、痛い、痛いわ。でも……嬉しいの。貴方が、私の中にいる。貴方とやっと、一つになれたんだって」
紫苑様の瞳から、涙が零れた。
「喬、好きよ。大好きよ。ねぇ、貴方がいてくれたら、私は生きていける。これからも、ずっと一緒よ」
「紫苑様……」
ゆっくりと、それでいてだんだんと、引く距離を伸ばしながら、抽送を繰り出す。ぎゅうぎゅうと締め付けながら、彼女の泉はびちゃびちゃと溢れ、俺たちの繋がった場所と、敷布を濡らしていく。
それが奥に当たるたびに、紫苑様が整った顔を歪ませ、鈴の音のような声を鳴らす。苦しそうにしながらも、喜びに満ちて輝いた瞳で、俺を真っ直ぐに見る。
この、美しい顔を、何よりも麗しいお姿を、目に焼き付けておきたい。一生、ずっと、忘れないように。
「紫苑様、紫苑様。俺も、貴女がいれば、他には何もいりません。貴女だけを、一生愛し続けますーー」
そこで俺は、限界を迎えた。
彼女の中に、どくんどくんと熱いものが送り込まれていく。
それは、今まで溜め込んできていた俺の全てを放出するように、なかなか収まるところを知らず、彼女の蜜と混ざり合って、そこから溢れかえった。
俺は、肩で息をする細い身体を、彼女の愛しい愛しい肉体を、自分の身体に溶け合うように、強く抱きしめた。
.+*:゜+。.
ーー花の、香り。
官能的な、あの花のーー……
暗闇。
目を開いた俺は、むくりと身体を起き上げた。
自分の周辺を手で探りながら、そこには誰もいないことを確認する。
ふと、掛けていた布団をがばっとめくって自分の下半身を確かめた。
ーー夢精なんか、するはずないのに。
だって、ないんだから。
鳥の飛ぶような形をした真っ白で美しい花を見つけた。
紫苑様が見たら、なんと言ってくれるだろうか。
ただ、そんなことだけを考えて紫苑様の花瓶に活けた、白鷺草という、その名の通りの花。
その花を引き寄せ、そっと撫でた。
真っ白で、すべすべで、気品があってーー。
あの時、ああしていたら。
家なんか捨てて、二人で逃げ出していたら。
こんな未来も、あっただろうか。
俺に、羽根があったら。
もっと、力があったら。
彼女を乗せて遠くへ飛べていけただろうか。
そんなこと、考えたって仕方ないと、わかっている。
わかっていても、今の夢が『意味のないこと』だと思いたくないと、往生際の悪いことを考えてしまう。
「紫苑様……貴方だけを、一生愛し続けます」
俺が小さく呟いたのと同時に、スッと部屋の扉が開き、薄明かりが部屋に差し込んだ。
「喬、起きたのか?」
「ひ、姫巫女様!」
今の、間違いなく聞こえてしまったはずだ。
俺は慌てて起き上がり、その場に跪いた。
「姫巫女様、申し訳ございません。俺は、貴女のお側にありながら、不適切な発言をーー」
「喬」
言いかけたところで、姫巫女様が俺の言葉を遮る。
「お前、何か勘違いしてないか。お前は私の専属の『奴隷』だろう。それ以上でも以下でもない。それとも何か、私の恋人にでもなったつもりか? 思い上がるのも大概にしろ」
厳しい言葉をぶつけながらも、姫巫女様は俺の前に座った。
「……奴隷が心の中で何を考えていようが、そんなことはどうでも良い。仕事だけちゃんとしてたらいいんだ」
慈悲深い、優しい言葉だ。
「姫巫女様、俺、これからも、紫苑様を想っていて、いいのでしょうか」
「以前言わなかったか? その想いは大切にしろ、と。お前の想い人は、『紫苑』というのか。いい名だな」
「はい。紫苑の花のように、芯が強くて可憐で美しい人でした」
「でした?」
「もう、この世にいませんから」
「そうか」
姫巫女様が、俺の横に置かれた白鷺草に気付き、そこへ視線を落とした。
「白鷺草、持ち帰っていたのか」
「はい」
「この花はな、夜にだけ香りが強くなるんだ。香りに中てられて、何か夢でも見ていたか」
「はい。とても、幸せな夢をーー俺が欲しくて欲しくて仕方のなかった未来を、見てしまいました」
姫巫女様は微笑んで、そっと俺の頭に触れた。
「白鷺草の花言葉は、『夢の中でもあなたを想う』。夢で、その人に会えたか」
「……はい。会って、会うだけではなくて、あんなことやそんなことまで」
姫巫女様は、一瞬きょとんとしてから大きな口を開けて笑い出した。そして、わしゃわしゃと俺の髪をほぐした。
「ははは。そうだよな、お前、年頃の男の子だもんな!」
「今は、男とは言えないですけどね……夢の中では、男でした」
「それから他にも、『清純』『無垢』などもある」
「あー、紫苑様そのものだ。夢で、いろいろしちゃったけど」
「そういうことをしたら、『清純』でなくなるか?」
俺はぱっと顔を持ち上げて、ふるふると首を振った。
「いいえ。いいえ。紫苑様は、どんな状態であっても『清純』で……でも、たとえそうでなくても、生きていて、欲しかったなぁ……」
――俺は貴女に生きていて欲しくて、ただそれだけで――
夢の中での自分の声が、頭の中に響き渡る。
俺は涙が溢れだすのを感じ、下を向いて目元を手で覆った。
「申し訳ありません、姫巫女様。情けないですよね。考えても意味のないことだって、わかってるんですけど」
「意味のないこと、か?」
「え?」
「まぁ、お前もわかっている通り、考えたって彼女は生き返りはしない。お前のあんなことやそんなことをしたいという望みも、叶わない。それは変えようのない現実だ」
「はい、だから……」
「だが、夢の中での出来事も、それを通じて得られた何かも、”お前にとっては”、虚構ではない。”お前がそう考えた”ということは、事実であり、経験だ」
姫巫女様は、下を向いた俺の顔をそっと持ち上げた。
「それに、夢の中に誰かが出てきたということは、その人がお前に会いたがっているという暗示でもある。何か、彼女もお前に伝えたいことがあったのかもしれんぞ。だから、あんまり否定するな」
そう告げて、姫巫女様はそっと立ち上がって部屋を出て行った。
戸が閉まり、再び暗闇に包まれる。
――喬、好きよ。大好きよ。ねぇ、貴方がいてくれたら、私は生きていける。これからも、ずっと一緒よ――
紫苑様の形見の花瓶を両手で包んだ。
夢で彼女の肌に触れたように、優しく壊れないように、そのすべすべの陶器をそっと撫でる。
はらはらと自分から流れ落ちる涙を拭うのも惜しく、それは白鷺草の上に落ちて小さな音を響かせた。
ぱたぱたと、小鳥の羽ばたきのような音だった。
伝えたいことがあったのは、俺の方だ。
俺は彼女に自分の気持ちを何も伝えていなかった。
――愛しています。貴女を、紫苑様だけを、今までも、これからもずっと――
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