【R18】月下の華は淫靡に拓く

佐伯 鮪

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※月下の華※

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※本編最終話と繋がっております。 


 
 満月の下、愛しい人の腕の中で、唇を重ねる。

 その口づけはだんだんと深くなってゆき、舌を絡め合ったり、唇を噛んだりしながら、静寂の中で水音を響かせる。
 その肌の感触が、熱が、音が、詩音しおんをどこまでもとろけさせた。

 やめ時がわからない、いつまででも重ねていたい――そう思いながら、詩音は動きを止めて薄目を開けた。


 月の光を浴びて白く浮かび上がる涼し気な顔が、そこにある。
 詩音が止まったのを受けて、長い睫毛を持ち上げる瞬間がたまらなく官能的で、余計に胸が詰まった。


「詩音……」
よう、さま」

 
 意味もなく、お互いの名を呼び合う。
 
 彼は相変わらず優美な姿だというのに、その瞳だけがオスを感じさせる鋭さを湛えていた。


「少し、冷えてきましたね。部屋に入りませんか」

 草花を揺らす風が通る中、二人は月の光を後にした。



 。.。.+゜



「えーっと、詩音、寒かったか? 今お茶を淹れようか」


 ・・・・・・・

 ――ここはずっこけるとこでしょうか?


 部屋に入るやいなや、そう言って一人歩き出そうとする遥星ようせいの服の裾をつかみ、引き留めた。


「~~~もう! 違います、違いますよ!!」


 さっきのオスの顔は見間違いだったのか。
 相変わらずとぼけたことを言う遥星に、詩音は頬を膨らませた。

 ここでめげてはならないと、その胸の中に自ら飛び込む。


「お茶なんて後でいいですから。暖めてください……貴方の肌で」


 詩音は震える声で懇願した。
 遥星の瞳が揺れる。


「そういえば、何か儀式が必要とか言ってなかったか?」
「?」
「以前、詩音の国では、その、男女の関係を進める前にやらなければならないことがあると…」




 それは、以前詩音が遥星に「好きだ」と気持ちを伝えた時のことだった。


―――私の故郷では、『好き』と言われたら、『自分も好き』か『好きでない』か、答える義務のようなものがあります―――次の段階へ進むための、お互いの意思確認のようなものです―――


 この時は、単に現代日本での「付き合う」か「付き合わないか」という意味で言ったのだったが、「男女の契りを結ぶ」かどうかという意味で捉えられ、かつ詩音は『おあずけ』を食らったのだった。



「ふふっ、そうでした。私、『おあずけ』されてたんでした」

 思い出した詩音は、楽しそうに笑った。

「遥さま。言ってくれるんですか? その、言葉を」


 "好きだ"という表現はされていないが、遥星が詩音を思う気持ちは既に言葉にして貰っている。
 今更そんな言葉を言ってもらう必要はないのだが、少し面白くなってねだってみることにした。


「欲しいです、すごく」


 詩音は遥星の腰に手を回し、その瞳を見上げる。
 遥星は少し躊躇ってから、詩音の肩にがしっと手を掛けた。


「わかった。詩音............す...........?」


 そこまで言って、固まってしまう。


「どうしたんですか?」

「...........なんか、言葉が続かぬ」

「私のこと、好きではない.....と?」

「ち、違う、そういう事じゃない!.....なんというか、普通に想う言葉を紡ぐより、難しいんだ。私の辞書にないというか」


 焦る彼がたまらなく愛おしく、しかし少し意地悪もしてみたくなる。


「.....余情悦其淑美兮」

「!?  え、読んだのか? いつ? というか、読めたのか?」


 詩音が、彼が書き散らかしていた紙にあった文言をゆっくりと唱えると、それを聞いた遥星は、あからさまに動揺を見せた。


「心振蕩而不怡」

「~~~~~~!!!!」

「こんな言葉は紡げるのに、あの一言が言えないなんて、不思議な人ですね」


 こんなに、この人が焦っているところを見るのは、実は初めてじゃないだろうか、と詩音は悪戯っぽく笑いながら思った。

 遥星は頭を抱え、どさっと寝台に座り込む。
 ちょっとやりすきたかな?と思いながら、詩音は隣に腰掛けた。


「.....すみません、こちらに来た時に、ちょっと見ちゃいました。でも、読めるようにはなりましたけど、意味までは分からないんです」

「え?」

「あのお兄様を照れさせるくらいだから、なんか凄いことが書いてあるのかと思って」

「.........謀ったな」



 荒々しく手首を掴まれ、その場に押し倒される。



「ごめんなさい、怒りましたか?」

「別に、怒ってない」

 
 すぐに唇を塞がれ、踊るように舌を送り込まれる。
 そしてその口は耳を噛み、首筋を吸い、鎖骨を舐め、その手は腰から胸を激しく撫で上げていく。


「遥、さま.....」

 
 ついに、ついにこの時が来た。
 詩音は悦びにうち震えながら、彼の名を呼んだ。
 
 しかし、遥星の手が止まる。

 
「.....でも、儀式は儀式だよな」

(な、なんなの!? 焦らしプレイも程々にしてよっ!!)

「も、もう~~~なんでそんな律儀なんですかっ」

「す、すまぬ」


 詩音を組み敷いて見下ろしたまま言葉を繋ごうとする遥星だったが、やはりそれ以上出ないのか、無言のまま時間が過ぎる。

 耐えきれなくなった詩音は、遥星の肩を押して逆に彼を寝かせ、自分が覆いかぶさった。


「遥さま。……好きです。貴方が好きです。大好きです」


 詩音が真剣な顔と声で訴えると、遥星はそっと手を伸ばし、その頬を撫でた。


「はは、詩音、可愛い詩音。……そうだな、私もそなたが、大好きだ」

 
 その柔らかな微笑み、ゆっくり響く低音、そしてその言葉は、詩音を優しく締め付ける。

 遥星は詩音の頬に当てた手を頭の後ろに回して引き寄せ、再び唇を重ねた。
 もう一度ごろんと回転し、再び詩音が下になる体勢になる。


「おかしく、なかったか?」

「全然。嬉しいです、とても」


 さっき中断してしまったものをやり直すかのように、詩音の首筋に口による愛撫が降り、彼の手が服をまさぐる。

 帯を解かれ、それによってできた隙間から骨ばった手が侵入してきて、詩音の肌を滑ってゆく。

 少しぎこちない触れ方に、逆に胸がきゅんと詰まる。



 ようやく、彼が自分に触れてくれる時が来た。
 この時をどれだけ待っていたことか。

 撫でられる感触に身を委ねていると、不意に胸に熱いものを感じ、小さく声が漏れた。

「...ぁっ」

 遥星が、薄い襦袢じゅばんの上から、胸の突起を口に含んでいた。
 片方の手は、もう片方の胸に差し込まれ、指の腹でつまんだり、ねじったりしている。


「んん、」


 きゅんきゅんするのが、止められない。
 詩音はたまらず、自分の太腿ふとももこすり合わせた。


「遥さま、あなたも...」


 手を伸ばし、彼にも服を脱ぐように求める。


 薄く入る月明かりが、自分の上にまたがった彼の上半身を照らす。
 どこまでも幻想的で、やはり夢なのではないかとまたしても思ってしまう程に、神々こうごうしい。

 色白で普段の穏やかな雰囲気とは裏腹に、鍛えられて引き締まったその体躯たいくに思わず目が釘付けになる。



「抱き締めて、欲しいです」

「こう、か?」


 遥星は詩音の上半身を抱き起こし、その胸の中に収めた。
 詩音は、しっとりと汗ばんだ、想像していたよりも広い胸元に、ぴたっと張り付いて耳を寄せる。

 素早く打ち付けている鼓動に嬉しさを感じ、お互いの前半身がぴったりとくっつくように腕を背中に回す。遥星の手が、詩音の背中を優しく、しかし艶めかしく撫でる。


 肌と肌が直接触れ合い、その熱を身体の前側ぜんぶで感じる。この熱にずっと浸っていたい気持ちと、事を進めたい気持ちが混ざり合う。
 張り付いた肌を少し離し、彼の瞳を覗き込むと、今度こそ間違いなく、野生の眼光をそこに感じた。


 そしてそのまま、もう一度深い口付けが施される。


 その間も彼の手は詩音の身体の至る処に巡らされ、肩から腰、足の付け根、お尻と、ゆっくりと這うように滑ってゆく。大きな手の暖かさが全身を巡り、詩音は自分から腰をくねらせた。

 それに気づいた遥星が、もう一度詩音の身体を布団の上に横たえる。
 倒される時に、耳元で「詩音」と切なげな声で名前を呼ばれ、ますます頭をぼうっとさせた。


 遥星は詩音の身体の上に接吻の雨を降らせながら、手の平全体を使って、詩音の足の間をお尻側から前に向かって撫で上げる。最後に通った中指が割れ目を経由して最も敏感な箇所に当たったその時、から水が溢れてしまうのを、自身でも感じた。


「よう、さま……」

 小さく声を出すと、胸元に埋められた彼の顔が持ち上がった。


「詩音、痛くないか? 私は、おかしくないか?」


 不安そうに問われ、ふと思い出す。

(そういえば、女性経験ないって言ってたっけ)

 詩音は遥星の片方の手を取り、優しく告げる。


「痛くないです、大丈夫。この手に触れられるだけで、私は幸せな気持ちが溢れてきて、止まりません」


 その指先をパクっと噛んで、彼の顔を見上げる。
 するとその瞳が妖しく光り、ぬるっともう一本の指が口の中に押し込まれた。

「!!」

 詩音は一瞬驚くも、入ってきた二本の指を、舌で丁寧に転がす。
 そうすると向こうも指を動かし、反応を返してくる。

(う、なんか、すごくエッチ……今更だけど、さぁ)

 指を詩音の口の中で躍らせながら、遥星はにこにこして更に詩音に問いかけてくる。


「詩音は、どうして欲しい? 私はどうしたら、そなたを気持ちよくさせられる?」

(……言わせようとしてる? まさか未経験に見せかけたSエスプレイ?)

「ずるいです、遥さま。自分で言えとおっしゃるのですか」

「だって、的外れだったらお互いにいいことがないだろう?」

(それも、そうだけど)

「ほら、早く言え。言わぬとこの指を止めないぞ」

 そう言って口の中にいたままだった指を再び泳がせる。

「わ、わひゃひまひた……」

(………ドSじゃん、この人)

「そ、その……指で、して欲しいです」

「わからない、もうちょっと具体的に」

(はぁ!?)

「……ゆ、指を、私の中.....さっき触れた、足の間の所にに入れて、動かしてくださいっ」

「うむ、わかった」

 詩音は遥星の顔を見れず、片方の腕で目元を隠して言い放った。

(なにこれ.....超恥ずかしい)



「中って、ここでいいんだよな……?」

 独り言のように呟いて、彼の手がそろそろとその周囲を彷徨い、そして中指がゆっくりと入ってくる感触があった。

「あっ」
「わっ」

 詩音が声を上げたのと同時に遥星も驚きの声を上げる。
 

「ど、どうしました……?」

「あ、すまぬ。その、ぬるっとしたからびっくりして」

「えっと.....大丈夫です、それが普通です」

「そうなのか……いつもこうなのか?」

「違いますよ。遥さまが触れたから、こうなったのです」 

「……不思議じゃのう」


 そう言いながら、彼は詩音の中で指を曲げたり、壁を押したり試行錯誤している。

 彼の指を今飲み込んでいるという事実と、その指が中で踊る様に詩音の胸はどんどん高鳴っていく。
 
 あんな慣れていなさそうな発言をするくせに、その指は詩音の反応を見ながらすぐに学習し、どんどんどんどんところを突いてくる。


「…ん、は、……ぁあっ」


 勝手に漏れる吐息と、こぼれる水音が室内に響き渡る。

 快感に身を委ねる詩音の手を取り、遥星はその手のひらをペロリと舐め上げた。

「.....ひぁっ!」

 そんなところに来ると思っていなかった身体は素直に跳ね上がり、詩音の目に涙が滲んだ。


「だ、大丈夫か.....? 痛い?」

「違うんです、大丈夫.....ぞ、ぞくぞくして」


 それを聞いた遥星が優しい目をして微笑む。

「可愛い、詩音は可愛い」

 そう呟いて、耳の横の髪を撫で、おでこにキスを落とした。


 だが、その間も、ナカに入り込んだ指は蜜を絡ませながら探る動きを止めない。

 慈しむような片方の手の動きと、メスを刺激するようなもう片方の手の動きのギャップが、余計に興奮を煽ってくる。


「遥さま、もっと.....もっとください」


 自分でも何をねだっているのかよく分からないまま、口が勝手に懇願の台詞を繰り出す。

 遥星は唇同士を軽く触れ合わせたあと、首筋を伝って、柔らかな胸の方へ向かっていく。

 乳房を下から手で持ち上げながら、先端を舌で転がし、撫で、息を吹き掛け、噛み付く。


 その間にも、詩音の下の方はぴちゃぴちゃぴちゃと蜜の勢いを一層増してゆき、いつの間にか二本の指を咥えこんで絡みついていた。


(あぁ、もう.....)


「遥さま.....貴方が、欲しいです」


 詩音は上気した顔と掠れた声で、どうにか気持ちを伝えた。





 詩音が一旦身体を起こし、遥星の前に向き合う。

 彼女の頬は真っ赤に染まり、瞳は今にも涙が零れ落ちそうに潤み、半開きの唇は艶々と月の光を反射する。
 髪は乱れ、その肌はしっとりと湿り気を帯び、全身で男を誘っている。

 その姿を見た遥星はごくりと音を立てて唾を飲み込んだ。

 詩音がそっと彼の下半身に手を伸ばすと、がちがちに硬化したはおへそに付きそうな程に天を向いている。

 詩音がそれを細い指で優しく撫で上げると小さく声を漏らし、遥星は切ない顔で詩音のもう片方の手を取って彼女の身体を後ろに倒して、その両脚を持ち上げた。

 受け入れる準備が既に十二分にできたそこは、だらしなくよだれを垂らし、赤くひくひくと震えて見せる。


 それは一瞬にして、遥星から"何かを考える"という概念を奪った。


 遥星はもう一度指を使って場所を確かめ、自身を入り口にてがうと、一気に奥まで押し込んだ。



「ん......ぁ、ぁぁああぁあっっ」


 お腹の中から急に押し広げられる感触に、詩音は嬌声きょうせいを上げた。
 そこは絡みつきながら彼を飲み込み、きゅうきゅうと規則的に締め付ける。


「…く、あ、あつい」

「はぁ、よう、さ、ま」



―――彼が、自分の中に、いる。
 私の身体で、そんな風に快感に顔を歪め、熱い吐息を漏らしている。

 詩音の全身は高揚感と幸福感に包まれた。



 一度ゆっくり身体を引いた彼が、もう一度ずんと突き上げる。
 その響きによって詩音の頭は快感に痺れ、思考を奪われる。


 彼が抽送ちゅうそうを繰り出す度、接触した部分から蜜がびちゃびちゃと溢れ、周囲を濡らす。
 こぼれる水音が、こすれる布の音が、ぶつかり合う肌の音が、荒い息遣いが、ますます興奮を掻き立て、二人の意識を高みまで誘っていく。



 甘く鋭い眼光が、詩音の目を惹きつけて離さない。

 漏らす熱い息が、詩音の身体の震えを加速する。

 上から垂れる汗と、唾液と愛液で、ぐちゃぐちゃになる。




「は、し、詩音、ごめん…っ」


 そう言うと遥星はぐぐっと、今までで一番深く腰を打ち付けた。
 一瞬ナカで大きく膨らみ、そして熱いものが送り込まれる。

「あっ…おっき、ぁぁああ…っ」

 詩音の方も身体が勝手に反応し、一滴も逃すまいとでもいうふうに、ぎゅっぎゅっと絞り取るように締め上げた。


「はぁ、はぁ……詩音」
「遥、さま…」


 力の抜けた遥星がどさっと詩音の上に覆いかぶさる。詩音はその重みを感じながら、荒い呼吸で弾む背中を、いたわるようにそっと抱きしめた。



 。.。.+゜



 向かい合って抱き合ったまま、遥星が髪を撫でる心地よさに詩音は身を委ねていた。

「ねぇ、遥さま」

 詩音は腕の中から彼を見上げて言った。

「結局、あれはどういう意味の言葉なのですか?」

「んー?」

 遥星は、眠そうに重いまぶたを開きながら、詩音を見つめ返す。


「余情悦其淑美兮、心振蕩而不怡」

「……教えないと言っただろう」

「聞きたいです、教えてくださいお願いします。でないと」

 詩音は布団の中で腕を下ろし、遥星の身体をまさぐった。

「ちょっ……」

 手首を掴まれ、身体ごと後ろを向かされる。



「……私の心はその滑らかな美しさに惹かれ、この胸は不安に高鳴って落ち着かない」

 耳元で響く低音に、詩音の動きが止まる。

「それが、さっきの言葉の意味……ですか?」

 遥星に後ろから耳たぶを甘噛みされ、詩音はその言葉に込められた気持ちを理解したのと合わさって真っ赤になる。

「そ、それって、私に向けた言葉だと思って、いいんですか」

「何言ってる、当たり前だろう」

 遥星は首筋に舌を這わせ、胸を手の平で下から包みながら、先端をつまんでひねった。


「ひゃあっ.....ん」


 顔が見えないなか刺激を与えられ、首筋に熱い息がかかる。詩音が再び高まってくる熱を感じていると、お尻に硬いものがぶつかっている感触があった。


「じゃ、じゃあ、これは? "柔情綽態、媚於語言 奇服曠世、骨像應圖"」


 遥星は詩音の腰を掴んで天井を向かせ、その上に覆いかぶさる。
 一旦熱が引いたはずのその瞳は、もう一度その奥に宿す炎を揺らめかせていた。


「詩音、そなたどれだけ読んだのだ……しかも暗記までして」

「ごめんなさい。素敵な響きだったので」


 遥星は詩音の頬に口づけ、その手で身体を柔らかく撫でながら言った。


「なごやかな風情、しとやかな物腰、言葉づかいまで愛らしい」

 胸から腰にかけて、手を滑らせるようにしっとりと愛撫をしながら囁く。

「この世のものでないような珍しい衣服を身に纏い、その姿はまるで絵の中から抜け出してきたかのようだ」

 胸を手と舌で転がしながら、既に再び潤った詩音の中に指を侵入させていく。


「遥、さま……」
「言っておくが、煽ったのはそなただからな。覚悟してもらおう」


 それから二人は外の月が沈む頃まで、とめどなく湧いてくる情欲に身を任せて、幾度となく求め合った。




 。.。.+゜




 既に日も高くなった頃、しゅんしゅんとお湯が沸く音で詩音は目を覚ました。

「おはよう、詩音も起きたか?」

 力の入らない身体をなんとか持ち上げる気怠けだるげな詩音に、遥星はいつもと変わらない調子で言う。


「いまお茶を淹れるから、一緒に飲もう」


 部屋に差す昼の光が恨めしいが、彼の柔らかな笑顔はやはり詩音の心を和ませる。
 詩音は髪を梳かし服を羽織って、彼の支度の手伝いに立ち上がった。
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