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序章
六連星
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翌朝も、当たり前のように、日常だった。
起きて顔を洗って着替えて化粧して、簡単な朝食を作って食べる。
そう、ほんとに普通でいつもの朝だった。
『今日のランキング1位は~、おうし座のあなた! たまには自分の星座を探してみよう。何か素敵な発見があるかも? ラッキーアイテムは、ネックレス。今日も元気に行ってらっしゃ~い!』
ただ流していただけのテレビから、たまたま自分の星座が占いで1位だったという情報が入る。
ネックレスって言われても、なくなっちゃったしな、と思いながら支度をし、満員電車に乗って会社へ向かう。
駅の改札で、会社の入り口で、人の波に押されながら何度もゲートにカードをかざしながら通行していることが、なんだか不思議に思えた。
(皇帝陛下、ねぇ。もしこの世界に存在するんだったら、こんなの以上に何重ものゲートをくぐらないと入れないような場所だったよね)
今の自分と、あの夢(?)の中の世界を比較しても仕方のないことだが、そうすることで余計に現実と乖離していることを突き付けられた気がした。
自分の部署のあるフロアへ入ると、隣の席の同僚は既に出勤していた。
「詩音、おはよー。体調、大丈夫?」
「うん、金曜はほんとごめん! なんか、自分でも記憶が曖昧なくらいでさ」
「えー、ほんと平気なの、それ?病院行った?」
「でも次の日すぐに元気になったし、特に具合悪いところも今はないから、特には」
あの一連の体験を話すわけにもいかない。自分だってそもそも把握できていないのだから、話しようもないのだけど。
同僚はまだ心配してくれているようだったが、これ以上聞かれるのも面倒で、金曜日の成果を聞く。「一人と今週末また会うことになったよ♪」と浮かれた返事がきて、自分の話題は終わった。
詩音が上手くいくといいね、と返すと、今度は一変ドライな回答が返ってくる。
「ま、ねー。スペックは申し分ないけど、後は相性はこれからだよね。こっからさ、好きになって、付き合って、相性確かめてって考えると、結婚までの道のりって遠いなーって思う。つかめんどくさい。
どっかから条件ピッタシで私だけを愛してくれる金持ちイケメン、降ってこないかな。で、最初から私のこと超理解してくれてて、めっちゃ甘やかしてくれて」
「正直者めー(笑) いやでも、超わかるけど」
そんな他愛もない会話をしていると、デスクの電話が鳴った。
瞬時に姿勢を整え、受話器を取り上げる。
――いつもお世話になっております。六耀食品株式会社、秘書室の橘でございます――
一回、ビジネスライクな電話をするだけで、瞬時に現実世界に引き戻される。
それからは、例の出来事は自然と頭の片隅に追いやられ、いつも通りに仕事をこなした。一日を終える頃には、ほとんど頭から忘れ去ってしまっていた。
――人間って不思議だ。すぐに、目の前の世界に順応できるように出来ている気がする。
そこそこの残業を終えて自宅の最寄り駅についた時、ふと胸元がスース―するのを感じた。
そういえば今日のラッキーアイテムはネックレスだったな、と思いだした時、そのテレビの台詞が脳内に響いてきた。
『おうし座のあなた! たまには自分の星座を探してみよう。何か素敵な発見があるかも?』
――自分の星座を、探す?
そう言われてみると、自分の星座って、ちゃんと見たことがない。
夜空を見上げたって、オリオン座と北斗七星くらいしか何も見ないでは見つけられないような気がした。自分の星座にも関わらず、おうし座の形がどんなのかも、正直わからなかった。
詩音は家に帰ろうとしていた足をくるりと方向を変え、明かりの少ない道へ向かった。少し小高くなっている丘のある公園に入り、スマホを開く。
(えっと、おうし座、探し方……あ、これだ)
まだコートは必要のない時期とはいえ、夜は冷える。詩音は無意識に腕をさすりながら、星座を探した。あの夜見た程ではないけれど、ビルや街灯の明かりがないためそこそこよく見える。
サイトに書いてある情報に従い、まずオリオン座を探す。その場でぐるっと回りながら空を見回すと、すぐに見つけられた。
(オリオン座を見つけたら、真ん中の三ツ星の延長線上に、赤い星……あ、あれだ。これが、牛の頭で? さらにその赤い星の先に複数の星の集まり……)
あっ。
スマホの光で眩んだ目が少し慣れてきた時、詩音は小さく声を上げた。
(あれは、あの時――矢が飛んでくる直前に見た……)
そのことに気付いた瞬間、急にその星に引っ張られるような吸い込まれるような感覚に襲われた。
――息が、できない。
吸い込まれると同時に、どんっと背中を押されるような感覚を憶え、詩音は勢いで目をぎゅっとつぶった。
起きて顔を洗って着替えて化粧して、簡単な朝食を作って食べる。
そう、ほんとに普通でいつもの朝だった。
『今日のランキング1位は~、おうし座のあなた! たまには自分の星座を探してみよう。何か素敵な発見があるかも? ラッキーアイテムは、ネックレス。今日も元気に行ってらっしゃ~い!』
ただ流していただけのテレビから、たまたま自分の星座が占いで1位だったという情報が入る。
ネックレスって言われても、なくなっちゃったしな、と思いながら支度をし、満員電車に乗って会社へ向かう。
駅の改札で、会社の入り口で、人の波に押されながら何度もゲートにカードをかざしながら通行していることが、なんだか不思議に思えた。
(皇帝陛下、ねぇ。もしこの世界に存在するんだったら、こんなの以上に何重ものゲートをくぐらないと入れないような場所だったよね)
今の自分と、あの夢(?)の中の世界を比較しても仕方のないことだが、そうすることで余計に現実と乖離していることを突き付けられた気がした。
自分の部署のあるフロアへ入ると、隣の席の同僚は既に出勤していた。
「詩音、おはよー。体調、大丈夫?」
「うん、金曜はほんとごめん! なんか、自分でも記憶が曖昧なくらいでさ」
「えー、ほんと平気なの、それ?病院行った?」
「でも次の日すぐに元気になったし、特に具合悪いところも今はないから、特には」
あの一連の体験を話すわけにもいかない。自分だってそもそも把握できていないのだから、話しようもないのだけど。
同僚はまだ心配してくれているようだったが、これ以上聞かれるのも面倒で、金曜日の成果を聞く。「一人と今週末また会うことになったよ♪」と浮かれた返事がきて、自分の話題は終わった。
詩音が上手くいくといいね、と返すと、今度は一変ドライな回答が返ってくる。
「ま、ねー。スペックは申し分ないけど、後は相性はこれからだよね。こっからさ、好きになって、付き合って、相性確かめてって考えると、結婚までの道のりって遠いなーって思う。つかめんどくさい。
どっかから条件ピッタシで私だけを愛してくれる金持ちイケメン、降ってこないかな。で、最初から私のこと超理解してくれてて、めっちゃ甘やかしてくれて」
「正直者めー(笑) いやでも、超わかるけど」
そんな他愛もない会話をしていると、デスクの電話が鳴った。
瞬時に姿勢を整え、受話器を取り上げる。
――いつもお世話になっております。六耀食品株式会社、秘書室の橘でございます――
一回、ビジネスライクな電話をするだけで、瞬時に現実世界に引き戻される。
それからは、例の出来事は自然と頭の片隅に追いやられ、いつも通りに仕事をこなした。一日を終える頃には、ほとんど頭から忘れ去ってしまっていた。
――人間って不思議だ。すぐに、目の前の世界に順応できるように出来ている気がする。
そこそこの残業を終えて自宅の最寄り駅についた時、ふと胸元がスース―するのを感じた。
そういえば今日のラッキーアイテムはネックレスだったな、と思いだした時、そのテレビの台詞が脳内に響いてきた。
『おうし座のあなた! たまには自分の星座を探してみよう。何か素敵な発見があるかも?』
――自分の星座を、探す?
そう言われてみると、自分の星座って、ちゃんと見たことがない。
夜空を見上げたって、オリオン座と北斗七星くらいしか何も見ないでは見つけられないような気がした。自分の星座にも関わらず、おうし座の形がどんなのかも、正直わからなかった。
詩音は家に帰ろうとしていた足をくるりと方向を変え、明かりの少ない道へ向かった。少し小高くなっている丘のある公園に入り、スマホを開く。
(えっと、おうし座、探し方……あ、これだ)
まだコートは必要のない時期とはいえ、夜は冷える。詩音は無意識に腕をさすりながら、星座を探した。あの夜見た程ではないけれど、ビルや街灯の明かりがないためそこそこよく見える。
サイトに書いてある情報に従い、まずオリオン座を探す。その場でぐるっと回りながら空を見回すと、すぐに見つけられた。
(オリオン座を見つけたら、真ん中の三ツ星の延長線上に、赤い星……あ、あれだ。これが、牛の頭で? さらにその赤い星の先に複数の星の集まり……)
あっ。
スマホの光で眩んだ目が少し慣れてきた時、詩音は小さく声を上げた。
(あれは、あの時――矢が飛んでくる直前に見た……)
そのことに気付いた瞬間、急にその星に引っ張られるような吸い込まれるような感覚に襲われた。
――息が、できない。
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