星屑のビキニアーマー

ぺんらば

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第1章 ビキニアーマーができるまで

風の剣術

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 プラスチックソードが完成し、雪見は週五日、祖父の道場でケレンに稽古をつけてもらえるようになった。

 道場は防音対策もしっかりしており、また、女性用更衣室やシャワールームまで完備されている。雪見が稽古に使える時間は早朝五時から一時間。初日はひたすら、紙が床に落ちていく動きを目に焼き付けるだけだった。

「今日の稽古には、どんな意味があったんですか?」

「空気の流れを知る特訓さ」

「空気の流れ?」

「そうとも。空気は目に見えない。だから感じてやる必要があるんだよ」

 ケレンは風の剣術について話し始めた。

「風の剣術は、空気の流れに身を任す事で、全身の余計な力を無くし、無理なく持久戦に持ち込める剣術なんだ。そのためには、まず紙の動きを知る必要がある。紙が落ちていく動きこそ、風の剣術の基本動作だからな」

「持久戦を前提にした剣術か……。それなら、今よりもっと体力つけなくちゃですね」

「それもそうだが、雪見はその格好をどうにかするべきだよ。はかま……と言ったか。それは風の抵抗が強すぎる」

「剣道着はダメなんですか? ジャージの方が良いのかなぁ……」

「まぁ、無理にとは言わん。俺だって皮の鎧を身につけているしな。スピードを犠牲にする代わりに、防御力を増している。戦いとは常に何かの犠牲の上に成り立つものなのさ」

 稽古後、ケレンは先に学校へ向かった。朝の見回りがあるからだ。雪見は道場でシャワーを浴び、制服に着替えてから登校する。

 早朝稽古は一日のスタートを快適にさせた。頭がフル回転しているおかげで授業にも集中できた。また、夜は九時半には就寝し、美容効果も絶大だ。稽古十日目にもなると、体重やウエストサイズにも変化が現れてきた。

「ケレンさんの稽古のおかげで、良い感じに痩せてきました!」

「この程度で満足させないぞ。もっとシェイプアップして、心も身体も綺麗になるんだ!」

「はい! 頑張ります……って。何かダイエットが目的みたいな流れになってるけど、風の剣術はいつになったら教えてくれるんですか?」

 雪見はまだ、一度もプラスチックソードを持って稽古をつけてもらっていない。

「バカもの! そんなプニプニの身体で剣を振ってみろ。風の抵抗で剣先がブレるわ!」

「プニプニの身体……」

「さぁ特訓だ。返事は!」

「はい!」

 ケレンの稽古は厳しかった。雪見は二の腕ダイエットに集中した。そして一週間後、ついに剣を持つことを許された。

「目の前に敵がいると思って構えてみろ。構え方は特に決まっていないから、好きにして良いぞ」

「敵……ケルベロス」

 雪見はイメージで作り上げたケルベロスの喉先にプラスチックソードを向けて構えた。

「風に剣を乗せて、敵を斬るんだ。これが風の剣術を極める第一歩になる」

「風に、剣を乗せる……」

「身体で空気を感じ、全てを委ねろ。さすれば風が応えてくれるだろう」

 紙がひらひら落ちていく様子を雪見は思い出していた。空気に身を委ね、プラスチックソードを水平に振る。ふわりと浮くような感覚、それは剣道とは全く違う剣の動きだった。

「その調子だ。だが、今のでは弱すぎる。その程度では、ケルベロスの身体に傷をつけることはできないぞ!」

「もっと、風と一体化しなくちゃ」

 雪見は身体の動きを風に乗せ、限りなく無意識に近い状態で剣を振ってみた。一回目と比べて、剣の重みが変わっているのを実感した。

「よし、その動きだ! 身体が覚えるまで、何度も剣を振り続けろ!」

「はい!」

 早朝稽古を始めてから一ヶ月。雪見の動きはさまになってきていた。

「ケレンさん、どうかな?」

「うむ。実に良い太刀筋だ。今の雪見なら、ケルベロス討伐も可能だろう」

「そっか……。私もケルベロスを倒せるんですね。やった!」

「ははは。だが、その剣ではさすがに傷一つ付けられんだろう。まぁ心配ない。もう一ヶ月以上、ケルベロスは出現していないからな。俺もそろそろ、旅に出るつもりさ」

 すでにボランティアの見回り隊は解散されていた。構内を見回る必要は無いと、学校側が判断したのだ。それでもケレンは一人で見回りをしていたが、バッジの効果が切れた今、もはやただの不法侵入になっていた。

 環境が変わったのは、見回り隊だけではなかった。生徒会にマークされていた神山は、生徒への暴行疑惑が問題となり、一週間前、異動になった。

 黒幕がいなくなり、ケルベロス騒動にも終止符が打たれた。自衛団は自然解散。生徒会も通常活動に戻りつつあった。


 ✳︎  ✳︎  ✳︎


 友依はタケルを屋上に呼び出していた。

「やはり、黒幕は神山先生で間違いなかったようですねー。雪ちゃんを黒幕扱いしたあなたには、本当に失望ですよ」

「……神山先生から暴行を受けたんだろ? そこまでする必要があったのかよ」

 友依の腕には包帯が巻かれていた。怪我は腕だけではない。顔や脚にも痛々しい傷を負っていた。

「はは。生ぬるいことを言うんですねー。神山先生がこの学校にいる限り、雪ちゃんは安心して登校できないんですよ。だったら、手段なんか選びません。生徒の安全を守るのが、生徒会の仕事なんですから」

「自惚れるなよ。キミだって僕たちと同じ生徒なんだ。雪見ちゃんがこの事実を知ったら悲しむぞ。神山先生だって──」

 被害者だ、と言いかけて、タケルはやめた。友依から神山に何かを仕掛けたにしても、生徒に暴力を振るう教師を庇う必要はないと思ったのだ。

「キミなら、必ず真実に辿り着けると思っていたのに……。残念だよ」

 タケルの言葉に、友依の目つきが変わった。

「真実なんて……そんなのどうだって良いじゃないですか!」

 怒りの声は、悲しみと悔しさで震えている。タケルは直感した。友依は真実に辿り着いていたのではないかと。その上で神山をハメて、黒幕にしたまま追放したのだと。

「……雪見ちゃんが黒幕だと知っての行動だったのか?」

「何か問題ありますか」

「大馬鹿野郎だよ……キミは……」

「そんなこと、私が一番分かってますよ……」

 友依はタケルを睨みつけ、そして目の前から去っていった。

 
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