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第1章 ビキニアーマーができるまで
二つの剣
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ケルベロスが出現しないまま、金曜日の放課後を迎えていた。
タケルと雪見は、あの日からお爺さんの家へ通うようになっていた。助けてもらった恩を返すため、雪見は家事手伝いを。タケルは雪見の付き添いで一緒に行動していた。
ケレンは今、校舎の見回りで家にはいない。帰ってくるのは夜遅い時間になるという。雪見はこの日、お爺さんの夕飯と、ケレンの夜食を作っていた。
「制服エプロンは最強だ……」
台所に立つ雪見のエプロン姿に、タケルは鼻の下を伸ばしていた。
「タケルくん。ちょっと味見してくれる?」
「はい! 喜んでっ!」
タケルは雪見の隣に立ち、鍋の中を覗いてみた。そこには煮魚が入っている。
「お爺さんが煮魚を食べたいって言うから作ってみたんだけど、私、お魚料理は初めてで……」
味見しているタケルを、雪見は不安そうに見つめている。
「どうかな……?」
「うん。美味しいよ。柔らかいし、味もちゃんと染み込んでる。雪見ちゃんも味見してみなよ」
「えっとね……。実は私、お魚は苦手なの。好き嫌いはダメだと分かってるんだけど、昔からどうしても食べられなくて」
タケルは池の鯉のことを思い出した。腹を空かしたケルベロスが、池の鯉たちに手を出さずにいるのは、雪見の好き嫌いが関係していたのだ。
「タケルくん、どうかした?」
「え? いや……何でもないよ。そういえば、最近はケルベロスを見ないね。どうしたのかな」
「生徒会の人たちが神山先生をマークしてくれてるおかげだよ。たぶん、しばらくは大人しくしてるんじゃないかな」
あの日以来、雪見の幻想魔法が発動することも無かった。表情も以前より穏やかになっている。
「私も今のうちに強くならなきゃ……。そうだ! タケルくんに相談したいことがあるの」
雪見はスマホに撮った剣の画像をタケルに見せ、事の成り行きを説明した。
「材料とか、加工方法とか、分からないことが多くて……」
「そうだなぁ。稽古をつけてもらうだけなら、本物の剣じゃなくても良いんだよね? 薄めのプラスチック板を加工して作ってみたらどうかな」
「薄いプラスチック板? 下敷きでも良いの?」
「下敷きだと長さが足りないよ。もし良ければ、明日一緒に材料を買いに行く?」
タケルはさりげなくデートに誘ってみた。ケルベロスや魔法がつきまとおうと、タケルにとって雪見は気になる異性であり女の子なのだ。
「うん。一緒に行きたい!」
「よし決まりだ。ついでに雪見ちゃんに似合いそうなコスプレ衣装も考えてみるよ。ほら、ケレンさんが本格的な異世界コスプレしてるわけだし、合わせないとね」
「私は剣道着があるから平気だよ。あと、ケレンさんのはコスプレじゃないよ?」
タケルはコスプレ衣装のことになると周りが見えなくなる。雪見の言葉は耳に入らず、ひたすら雪見に似合うコスプレ衣装を考えていた。
「剣を持つなら職業は女戦士だよな……。そして、女戦士と言えばビキニアーマー!」
「ビキニアーマーって、何?」
「し、しまった……!」
タケルは暴走寸前で我に返った。ビキニアーマーの解説を始めていたらどうなっていたことか。想像するだけでも恐ろしい。だが、タケルは夢に出てきた雪見の姿が今でも頭から離れないのだ。あの鎧をいつか作ってみたい。その想いは変わらず胸に抱き続けていた。
その日の夜、タケルは雪見の武器の設計図を描いていた。透明なプラスチック板に薄いアルミを挟み込めば、丈夫で軽く、且つ安全な剣を作ることができる。
「稽古に使うだけだもんな……。でも、もしも実戦で使うなら……」
タケルはもう一枚、別の設計図を描き始めた。プラスチック板の使用はそのまま変わらないが、刃に当たる部分にステンレスを持ってくることにしてみた。これだけで打撃の強度は増すはずだ。さらに、アルミの代わりにミラーを挟む案を出してみた。
「トイレで襲われたとき、ケルベロスは鏡に映った僕に向かって攻撃してきた。つまり、鏡には標的を惑わす効果がある」
こうして、二つの設計図が出来上がった。一つは安全設計のプラスチックソード。もう一つは実戦用のミラーソード。
「雪見ちゃんにはプラスチックソードの設計図を渡そう。明日が楽しみだなぁー。雪見ちゃん、どんな服を着て来るんだろう」
デートに浮かれているタケルは、雪見と二人で街へ出ることの危険性をすっかり忘れていた。生徒会と自衛団の目が届かない街へ行くということは、ケルベロスの脅威と常に隣り合わせになることを意味しているのだ。
タケルと雪見は、あの日からお爺さんの家へ通うようになっていた。助けてもらった恩を返すため、雪見は家事手伝いを。タケルは雪見の付き添いで一緒に行動していた。
ケレンは今、校舎の見回りで家にはいない。帰ってくるのは夜遅い時間になるという。雪見はこの日、お爺さんの夕飯と、ケレンの夜食を作っていた。
「制服エプロンは最強だ……」
台所に立つ雪見のエプロン姿に、タケルは鼻の下を伸ばしていた。
「タケルくん。ちょっと味見してくれる?」
「はい! 喜んでっ!」
タケルは雪見の隣に立ち、鍋の中を覗いてみた。そこには煮魚が入っている。
「お爺さんが煮魚を食べたいって言うから作ってみたんだけど、私、お魚料理は初めてで……」
味見しているタケルを、雪見は不安そうに見つめている。
「どうかな……?」
「うん。美味しいよ。柔らかいし、味もちゃんと染み込んでる。雪見ちゃんも味見してみなよ」
「えっとね……。実は私、お魚は苦手なの。好き嫌いはダメだと分かってるんだけど、昔からどうしても食べられなくて」
タケルは池の鯉のことを思い出した。腹を空かしたケルベロスが、池の鯉たちに手を出さずにいるのは、雪見の好き嫌いが関係していたのだ。
「タケルくん、どうかした?」
「え? いや……何でもないよ。そういえば、最近はケルベロスを見ないね。どうしたのかな」
「生徒会の人たちが神山先生をマークしてくれてるおかげだよ。たぶん、しばらくは大人しくしてるんじゃないかな」
あの日以来、雪見の幻想魔法が発動することも無かった。表情も以前より穏やかになっている。
「私も今のうちに強くならなきゃ……。そうだ! タケルくんに相談したいことがあるの」
雪見はスマホに撮った剣の画像をタケルに見せ、事の成り行きを説明した。
「材料とか、加工方法とか、分からないことが多くて……」
「そうだなぁ。稽古をつけてもらうだけなら、本物の剣じゃなくても良いんだよね? 薄めのプラスチック板を加工して作ってみたらどうかな」
「薄いプラスチック板? 下敷きでも良いの?」
「下敷きだと長さが足りないよ。もし良ければ、明日一緒に材料を買いに行く?」
タケルはさりげなくデートに誘ってみた。ケルベロスや魔法がつきまとおうと、タケルにとって雪見は気になる異性であり女の子なのだ。
「うん。一緒に行きたい!」
「よし決まりだ。ついでに雪見ちゃんに似合いそうなコスプレ衣装も考えてみるよ。ほら、ケレンさんが本格的な異世界コスプレしてるわけだし、合わせないとね」
「私は剣道着があるから平気だよ。あと、ケレンさんのはコスプレじゃないよ?」
タケルはコスプレ衣装のことになると周りが見えなくなる。雪見の言葉は耳に入らず、ひたすら雪見に似合うコスプレ衣装を考えていた。
「剣を持つなら職業は女戦士だよな……。そして、女戦士と言えばビキニアーマー!」
「ビキニアーマーって、何?」
「し、しまった……!」
タケルは暴走寸前で我に返った。ビキニアーマーの解説を始めていたらどうなっていたことか。想像するだけでも恐ろしい。だが、タケルは夢に出てきた雪見の姿が今でも頭から離れないのだ。あの鎧をいつか作ってみたい。その想いは変わらず胸に抱き続けていた。
その日の夜、タケルは雪見の武器の設計図を描いていた。透明なプラスチック板に薄いアルミを挟み込めば、丈夫で軽く、且つ安全な剣を作ることができる。
「稽古に使うだけだもんな……。でも、もしも実戦で使うなら……」
タケルはもう一枚、別の設計図を描き始めた。プラスチック板の使用はそのまま変わらないが、刃に当たる部分にステンレスを持ってくることにしてみた。これだけで打撃の強度は増すはずだ。さらに、アルミの代わりにミラーを挟む案を出してみた。
「トイレで襲われたとき、ケルベロスは鏡に映った僕に向かって攻撃してきた。つまり、鏡には標的を惑わす効果がある」
こうして、二つの設計図が出来上がった。一つは安全設計のプラスチックソード。もう一つは実戦用のミラーソード。
「雪見ちゃんにはプラスチックソードの設計図を渡そう。明日が楽しみだなぁー。雪見ちゃん、どんな服を着て来るんだろう」
デートに浮かれているタケルは、雪見と二人で街へ出ることの危険性をすっかり忘れていた。生徒会と自衛団の目が届かない街へ行くということは、ケルベロスの脅威と常に隣り合わせになることを意味しているのだ。
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