星屑のビキニアーマー

ぺんらば

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第1章 ビキニアーマーができるまで

ポーション生成

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 雪見はすぐにスカートを押さえたが、ケレンに中を見られた後だった。膝以外に切り傷は無く、ケレンは「よし」と言って一人納得していた。

「ケレンさん。ちっとも良くないですよ」

「安心しろ。膝の傷自体はそんなに深くない」

 ケレンは何食わぬ顔で、鎧の中から細長い竹筒を取り出し、それを雪見に見せた。

「これは俺専用の水筒だ。親切な爺さんが作ってくれた」

「え? 水筒を、ですか? 親切なお爺さん……なんですね」

 雪見は困惑していた。いきなりスカートをめくられ、しかも、話が急に水筒へ飛んだのだから無理もない。

「持ち歩くにはちょうど良いサイズだと思わないか? これを作ってくれた爺さんも、立派な職人なのさ」

「そう……ですね」

 竹筒の中には水が入っていた。ケレンはこれを少量、雪見の手のひらの上に垂らした。

「これは?」

「ただの水だ。今からこの水に魔法をかけて、ポーションを生成する」

「ケレンさんは魔法を使えるんですか?」

「当たり前だ。俺は勇者なんだぞ」

 スカートをめくった事実はどこへやら。まるでそんなことは無かったかのように、話が勝手に進んでいく。タケルはそれが我慢ならなかった。

「ちょっと待った。あなたは今、笠原さんのスカートをめくったんだぞ?」

「……すまんな少年。少し黙っていてくれないか? 魔法に集中したいのだ」

「少年じゃない。僕の名前はタケルですよ!」

 タケルの怒りは限界を超えた。

「あなた、おかしいんだよ。水筒とかお爺さんとか、そんなの今はどうでもいいでしょ。魔法? ふざけるのも大概にしてくれ。ちゃんと現実を見ろよ! 大人だろ。そして、笠原さんに謝れ!」

 タケルがここまで怒るのは、何もスカートめくりだけが理由ではない。ケレンを見ていると、昔の痛かった自分を思い出すのだ。

「おいおい、急にどうした? 何をそんなに怒っている?」

「分からないのかよ……。スカートをめくったことを謝れって言ってるんだ」

「ははは。タケルは大袈裟だな。俺は何も、雪見の裸を見たわけじゃないぞ」

「でも、パンツは見たでしょ」

「パンツ? もしかして、白いやつのことか? それなら確かに見たが、何か問題あるのか?」

「バカやろう……! なんで、そこで色を言っちゃうんだよ。僕をからかうにしても、笠原さんを巻き込むのだけはやめてくれ」

 すっかり鼻息の荒くなったタケルを見て、ケレンは呆れ果てていた。

「やれやれだ。言ってることが支離滅裂だよ。俺にはさっぱり分からん」

 雪見はこの場を取り繕うと、あれこれ必至に考えた。タケルの気持ちは嬉しかったが、ボランティアに来ている近隣住民と争うことは、タケルにとってマイナス評価に繋がる。そこで雪見は、なるべく平気なフリをすることに決めた。

「あの。ケレンさんの故郷……ラグラーク、でしたっけ? そこに住む女性の人は普段、どんな服を着てるんですか?」

「服か? ここと大して変わらんよ。だが、雪見ほどスカート丈は短くないし、生地も薄い。色だってせている。もちろん、パンツ……だったか? それも着用しているぞ。色は雪見と同じ白、もしくはグレーのどちらかだ」

「なるほど……。そういうことなんですね。小須藤くん。私、分かっちゃったよ」

 ケレンの言葉から、雪見は一つの答えを導き出した。それは、あまりにも自然で、腑に落ちるものだった。

「一体、何が分かったのさ?」

「ケレンさんの世界では、下着は見られても恥ずかしくないものなの。だから、ケレンさんに悪気が無いのはホントなんだと思う」

「見られても恥ずかしくないって、それはつまり、パンツがパンツじゃないってこと?」

「うーん。ちょっと違うかなぁ。パンツじゃないから恥ずかしくないんじゃなくて、下着も、他の衣類と同じ扱いなんだと思うよ。小須藤くんだって、靴下を見られても別に恥ずかしくないでしょ? その感覚に近いんだよ、きっと」

「まぁ、そういう設定りゆうなら、しょうが……なくはないぞ。だけど、笠原さんが怒ってないなら、僕もあれこれ言うのはやめるよ……」

「さて、一件落着だな。そろそろ話を元に戻そうか」

 タケルの不満は残ったままだったが、ケレンはお構いなしに話を先へ進めた。

「俺はこれから、魔法でポーションを生成する。使のキミたちにも、きっと良い手本になると思うぞ。まぁ、見ていてくれ」

 ケレンは呪文を唱え始めた。唱え始めてから五分後、それまで無色透明だった水が、だんだんエメラルドグリーンに輝き始めた。

「何これ。どうなってんの?」

 雪見は目の前で起きている現象に驚いていた。それはタケルも同じだ。

「魔法を唱えるのにやたら時間をかけていたけど、トリックを使ったようにも見えなかったし。もしかして、本当に異世界から来たんですか?」

「何度も言わせるな。俺はラグラークから来たのだ」

「これが本当なら、凄いことだぞ……!」

 タケルは興奮しながら鞄の中を漁り、地理の教科書を取り出した。そして、世界地図の載っているページを開き、ケレンに見せる。

「これを見てください。こっちの世界にラグラークなんて名前の国はどこにも無いんです。それだけじゃない。ケルベロスも魔法も、本来は存在しないものなんだ!」
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