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第1章 ビキニアーマーができるまで
夜の教室で
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文化祭が近づいていた。だが、タケルのクラスは協調性がなく、クラスの出し物についての話し合いも他力本願な生徒がほとんどだった。
結局、タケルのクラスはコスプレ喫茶をすることになった。これは、タケルの提案によるもので、クラスメイトの過半数以上が賛成したのだ。だが、盛り上がったのは最初だけ。文化祭当日までの面倒な準備は、提案者のタケルと、文化祭実行委員の雪見に全て投げられたのである。
タケルは毎日遅くまで教室に残り、衣装や小物を作っていた。もちろん、雪見も一緒だ。
「僕がコスプレ喫茶をやりたいなんて提案したから、実行委員の笠原さんにも迷惑をかけてしまって……。ほんとゴメン!」
「ううん。小須藤くんが意見を出してくれて、とても助かったよ。コスプレ喫茶、私も興味あるし」
雪見の言葉にタケルは救われた。雪見と話しているだけで、タケルは温かい気持ちになれる。それは不思議な感情だったが、今はこうして一緒にいられることを、心の底から喜ぶことができていた。
「よーし、急にやる気が出てきたぞ! まずは笠原さん用のメイド服を優先させて作ろう」
「そんな! 私は裏方専門だから気にしなくていいよ。当日、もしも人手が足りなくて表に出ることがあっても、そのときは誰かの服を借りるし」
「ダメだよ。考えてもみるんだ。他の女子たちは、最初こそワーキャー言ってたけど、面倒な仕事は僕らに投げたじゃないか。文化祭の当日だって、彼女たちが真面目にやってくれるとは思えない。だったら、僕は笠原さんのために衣装を作りたい! これは衣装を作る者の特権さ」
圧倒的な熱弁に、雪見は頷くしかできなかった。
「と、言うことだから、まずはサイズを計らせて欲しい」
タケルの言う特権により、雪見はサイズを計られてしまった。しかし、嫌な気持ちは全く無かった。測っているときのタケルの表情が真剣そのものだったからである。
「凄いんだね。小須藤くんって……」
「衣装作りは自分との戦いだよ。最高のものを作るためには、常に、今の自分の一歩先を目指さなきゃいけない」
「小須藤くんの作業、少しだけ近くで見てても良い?」
雪見はタケルの横に膝を抱えて座り、リズム良く動くタケルの指をじっと見ていた。やがて、雪見の視線はタケルの横顔に移り、不思議と安心感を覚えた雪見は、目を閉じて寝息を立てていた。
布地を切るハサミの音が、静かな教室に響き渡る。雪見の頭が肩にもたれかかり、作業はなかなか捗らなかったが、疲れて眠っている雪見をタケルは起こしたくなかった。
「きっと頑張り屋さん……なんだよな」
「…………。あれ? 私……。わっ!」
雪見は目覚めるなり素早く立ち上がった。そして、タケルから距離をとって頭を下げる。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「いや……そんなに謝らなくても」
「仕事を小須藤くん一人に任せっきりにして、しかも、肩にもたれて眠ってしまうなんて……」
「あはは……。今日はこの辺にして、そろそろ帰る支度をしよう」
タケルは教室の時計に目を向けた。時計の針は予定していた帰宅時刻より一時間も過ぎている。
「しまった! もうこんな時間だ!」
窓の外は既に真っ暗で、闇一色に包まれていた。
「他のクラスはとっくに帰ってるみたいだ。残ってるのは僕たちだけだよ」
「教室の鍵は私が職員室に返しておくから、小須藤くんは先に帰って」
「いいや。僕も一緒に行く。この前みたいにケルベロスが襲ってきたら大変だし」
三階の教室から別棟の職員室までは距離がある。もしも一人だったらどれだけ心細かっただろう。だが、二人なら幾分気分は紛れるものだ。
誰もいない廊下は、異様な雰囲気を漂わせている。時折聞こえてくる犬の遠吠えにビクリとしながら、二人は慎重に歩いていた。
結局、タケルのクラスはコスプレ喫茶をすることになった。これは、タケルの提案によるもので、クラスメイトの過半数以上が賛成したのだ。だが、盛り上がったのは最初だけ。文化祭当日までの面倒な準備は、提案者のタケルと、文化祭実行委員の雪見に全て投げられたのである。
タケルは毎日遅くまで教室に残り、衣装や小物を作っていた。もちろん、雪見も一緒だ。
「僕がコスプレ喫茶をやりたいなんて提案したから、実行委員の笠原さんにも迷惑をかけてしまって……。ほんとゴメン!」
「ううん。小須藤くんが意見を出してくれて、とても助かったよ。コスプレ喫茶、私も興味あるし」
雪見の言葉にタケルは救われた。雪見と話しているだけで、タケルは温かい気持ちになれる。それは不思議な感情だったが、今はこうして一緒にいられることを、心の底から喜ぶことができていた。
「よーし、急にやる気が出てきたぞ! まずは笠原さん用のメイド服を優先させて作ろう」
「そんな! 私は裏方専門だから気にしなくていいよ。当日、もしも人手が足りなくて表に出ることがあっても、そのときは誰かの服を借りるし」
「ダメだよ。考えてもみるんだ。他の女子たちは、最初こそワーキャー言ってたけど、面倒な仕事は僕らに投げたじゃないか。文化祭の当日だって、彼女たちが真面目にやってくれるとは思えない。だったら、僕は笠原さんのために衣装を作りたい! これは衣装を作る者の特権さ」
圧倒的な熱弁に、雪見は頷くしかできなかった。
「と、言うことだから、まずはサイズを計らせて欲しい」
タケルの言う特権により、雪見はサイズを計られてしまった。しかし、嫌な気持ちは全く無かった。測っているときのタケルの表情が真剣そのものだったからである。
「凄いんだね。小須藤くんって……」
「衣装作りは自分との戦いだよ。最高のものを作るためには、常に、今の自分の一歩先を目指さなきゃいけない」
「小須藤くんの作業、少しだけ近くで見てても良い?」
雪見はタケルの横に膝を抱えて座り、リズム良く動くタケルの指をじっと見ていた。やがて、雪見の視線はタケルの横顔に移り、不思議と安心感を覚えた雪見は、目を閉じて寝息を立てていた。
布地を切るハサミの音が、静かな教室に響き渡る。雪見の頭が肩にもたれかかり、作業はなかなか捗らなかったが、疲れて眠っている雪見をタケルは起こしたくなかった。
「きっと頑張り屋さん……なんだよな」
「…………。あれ? 私……。わっ!」
雪見は目覚めるなり素早く立ち上がった。そして、タケルから距離をとって頭を下げる。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「いや……そんなに謝らなくても」
「仕事を小須藤くん一人に任せっきりにして、しかも、肩にもたれて眠ってしまうなんて……」
「あはは……。今日はこの辺にして、そろそろ帰る支度をしよう」
タケルは教室の時計に目を向けた。時計の針は予定していた帰宅時刻より一時間も過ぎている。
「しまった! もうこんな時間だ!」
窓の外は既に真っ暗で、闇一色に包まれていた。
「他のクラスはとっくに帰ってるみたいだ。残ってるのは僕たちだけだよ」
「教室の鍵は私が職員室に返しておくから、小須藤くんは先に帰って」
「いいや。僕も一緒に行く。この前みたいにケルベロスが襲ってきたら大変だし」
三階の教室から別棟の職員室までは距離がある。もしも一人だったらどれだけ心細かっただろう。だが、二人なら幾分気分は紛れるものだ。
誰もいない廊下は、異様な雰囲気を漂わせている。時折聞こえてくる犬の遠吠えにビクリとしながら、二人は慎重に歩いていた。
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