救いは簡単に

伊蘇部ちせ

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救いは簡単に

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今から5千年前。迷い苦しむ人の元にサルの高僧が現れました。迷いや苦しみをなくす方法を見つけた彼はそこから先何千年と敬われてきたのです。

 時は現代。若いサルが一生懸命古めかしい書物を読み漁っています。茶色く変色して端っこがかけている書物を必死に解読しているのです。

「大変だ……!僕たちは大事なことを見落としていたらしい、お父様に相談しなくては」

 若きサルは研究した古い文献をレポートにまとめ、尊敬する父が待つ国へ大慌てで帰りました。

「お父様!大変です!今すぐに信者の皆様にお知らせしなくてはいけないことがあります!」
「息子よ、いついかなる時も穏やかな心を持たなくてはいけない。救世主もそのように後世に書き残しているだろう」
「えぇお父様、救世主様が僕たちのために『教え』を書き残してくださったのは存じ上げております。ですが、僕たちが今信じている教典には抜けている部分があったのです!それも救世主様が一番伝えたかったことが抜けていたのです」
「ほう、それは一体どんな内容だ」
「救世主様がお眠りになったという国へ行ってまいりまして見つけたのです、原典を!そこには救世主や教祖を崇め奉れとはどこにも載っておらず、生活の知恵が綴られていました。迷いや苦しみは誰かに消してもらうものではなく、迷いや苦しみを抱えている本人が自分自身で消し方を見つけなくてはいけないのだと!」
「ほう、それで息子よお前はどうしたいのだ?」
「僕は、今信者の皆さんの手元にある教典を直さなくてはいけないと思います。それと皆さんに買ってもらう『闇祓い棒』僕たちはこれを苦しみをなくすのに絶対必要だと思っていましたが、『闇祓い棒』が必要なんて救世主は一言も書いてません!」
「なるほど」
「間違えた教えを、正さなくてはいけません!今すぐ集会を!」
「待ちなさい息子よ」

年老いたサルが、若いサルに言いました。

「教えというのは時代を経て変わりゆくものだ。可哀想な迷える信者たちは自分で苦しみを消す方法を知らない。だから『闇祓い棒』は絶対にいるのだよ」
「しかし原典には今すぐに苦しみを消す方法がわからなくても、じっくり己の心と向き合い続ける事が大事だと」
「まぁ待ちなさい、苦しみを無くす方法を時間をかけて頭を捻って見つけるのは今の時代の人々には合っていない、現代人はなんせ時間がないし、難しいことを考えるのも好きじゃない。『手っ取り早くて簡単で便利なもの』が大好きだ。例え救世主の教えであっても現代に合わない部分は必要ないし、必要があれば新しい教えを足さなくてはいけない」
「……それが『闇祓い棒』という事ですか?」
「さぁ、息子よ。悩み苦しむ人たちをこの『闇祓い棒』で叩いて解放してあげなさい」
「ですが」
「ふむ、お前の中にはまだ迷いがあるようだ。まずはお前自身を『闇祓い棒』で叩かなくてはいけないらしい」

 仰々しい椅子に腰掛けていた年老いたサルは、棒を手に立ち上がりました。

「いえ、お父様申し訳ありません!すぐに行って参ります!」

 若いサルは、棒を片手に駆け足で部屋を出ていきました。

「……ふぅ、全く。賢い息子を持つと苦労する。危うく棒と私が書いた本が売れなくなるところだった」
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