冷たい貴方とそんな夢を見た

かれは

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私は昔からそうだったのかもしれない。

動かないもの。

私をみることも触れてくることもないものが好きだった。

だって、それこそが美しい。

それこそがあるべき姿だ。

その考えは誰もが否定する。

私は異常者だと言われる。

近づかないで。

そう言ってみんな私を遠ざける。

ほら見ろ。

人間はこんなにも醜い。

自分の嫌いなものは全て否定する。

目の前から排除しようとする。

だけど、今私の目の前にあるもの。

それは私を否定したりしない。

肯定することもないけれど、私をこの場から追い出そうとなんてしない。

だから、大好きだ。

出会ってからどれだけ経つのか、もう覚えていないけれど。

ここは時間が止まったように。

彼は形を変えずそこにいる。

冷たい状態でそこにいる。

朝になって日が差しても、新しい日が来ても何も変わらない。

夜になると私はもちろん眠る。

まだ生きているから。

彼は眠り続けている。

もう絶対に起きないことは分かっている。

分かっていて、私はそばにいる。

ここにいるすべては時間という概念を失う。

彼をここに運んできたのは彼自身だ。

これは何者でもないこれが望んだことなのかもしれない。

彼の体についた傷もその赤い血も。

彼の人生はここで終わった。

だけどここで力尽きることも彼は知っていたのだろう。

そうとしか思えない。



カサカサ。

そんな時、私は微かな音を聞いた。

ここにいるはずのない者の音が聞こえた。

なんとなく分かる。

私には分かる。

これは明らかに私の嫌いな生物の気配だ。

欲に塗れた俗物の気配。

ああ。なんでこの場所に来てしまうのか。

1人じゃない。複数人いる。

どうしてくれよう。

私と彼の時間を邪魔する奴は許さない。

そもそもこの森にどうやって入った。

私がここにいる間、侵入してくるものは1人もいなかった。

私はこの森と一つになった。

入ってこようとする俗物全てを拒んだ。

この森の生物達は私の味方をしてくれる。

なのになぜ?

なぜ気づけなかったのか。

私は私を責めた。

彼に見惚れてしまっていたのか。

しまった。

永遠よりも彼を見つめる一瞬をとって警戒を怠った。

私のせいだ。

私のせいで彼に何かあったら私はどうすれば。

「なにかいるぞ。」

聞こえた。

人の声が聞こえた。

大嫌い来な声だ。

「人がいる。」

私をお前達と一緒にしないでほしい。

私は怒りをなんとか沈めようとする。

ここで怒りを暴走させたら大切な彼を傷つけてしまう。

「人が倒れているぞ。動くなー。」

入ってきた。私たちの空間に。

許せなかった。

何人いる?

私と彼の邪魔をする人間は。

3人。

許さない。

決しててここに来れないようにしてやろう。

私は立ち上がった。

いつぶりかは分からなかったけど。

固まった体を動かした。

ガシャッという音。

「ひぃっ。」

入ってきた連中は小さく悲鳴をあげる。

そしてこちらに凶器を向ける。

そんなものは怖くない。

私は彼らを眠らせることにした。

永遠に起きてこないように。

彼のように私はこの俗物を愛すことはできないかもしれない。

だけど、彼に褒めてもらうんだ。

彼を傷つけさせないと誓ったんだから。

眠った彼に誓ったんだから。

そうして私は3人の人間を凍らせた。

そう私は化け物。

ひとつの愛のために化け物になった。

冷たい女。

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