断れない私

かれは

文字の大きさ
上 下
1 / 1

断れない私

しおりを挟む
じゃあ明日もよろしくね。

そう言って、みんな帰って行った。

ただでさえ人が足りてないというのに。

みんな明日は来ないらしい。

社員であるあなたは来ないで、私が働く。

別にそれに文句があるわけではない。

だけど、溜まりに溜まったそれが今にも爆発しそうだった。

何かの刺激で。

それがほんの些細なことだったとしても。

小さな、ほんの小さな傷口から裂けていってしまいそうで怖かった。

誰かに話したい。

ただ聞いてくれるだけでいい。

理解してもらえなくていい。

夜になっても眠れない。

明日のことを考えてしまって。

明日を無事に終えることができるだろうか。

いや、きっとできる。

そんな自問自答を繰り返す日々。

そしてろくに眠ることさえ出ずに次の日が来る。

あくまで私の中では延長戦上。

リセットできたのかできていないのか本当のところ自分ではわからない。

そんなとき。

私はある男の子と友達になった。

その子は私よりも年下で、私よりもずっと子供っぽかった。

その子とその友達はいつも楽しそうに笑っていた。

やるべき仕事はしっかりとこなして仕事が終わると楽しそうに話していた。

私もそこに混ざりたいと思っていた。

そんなある時、自分の作業が早く終わったので、彼らの作業を手伝っていた。

彼らに手伝ってもらったこともある。

お互い様だ。

作業が終わった時。

彼は私に言った。

ありがとうございました。助かりました。

と。

それはもちろん当たり前のことだったのかもしれない。

だけど、その一言が私は何よりも嬉しかった。

自分より年下のその笑顔は少しの曇りもなく、純粋な感謝を伝えてきた。

私は帰る途中その顔を、言葉を何度も何度も思い返す。

明日も頑張ろう。

そう思えた。

その時から私は彼のことを気になり始めた。










しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

クズ

かれは
恋愛
恋愛短編小説です

歩く

かれは
現代文学
超短編小説です

森のかくれんぼ

かれは
現代文学
今日もこの時間がやってきた。 この時間といっても決まった時間があるわけではない。 だけど確実にその時が来たようだ。 聞こえる聞こえる聞こえる。 楽しい声が聞こえる。 そして木々が伝えてくれる彼らが来たよ。 今日はどんな人たちかな。 楽しみ。 怖い。 私は高いところから静かに音のする方向を覗き込んだ。 確かに来た。 大きいのが2人に小さいのが2人。 1人は楽しそうに走り回っている。 もう1人はというと大きいのに隠れている。 何を怖がっているのだろう。 小さいといっても僕はよりはずっと大きいくせに。 僕らよりも長く生きているくせに。 気に入らないな。 堂々としてくれ。 この明るい世界に出てきてから。 今日で、何日目だろうか。 縄張り争いにも疲れてきたところだ。 いっその事捕まってしまった方がいいのではないか。 聞くところによるととても待遇の良いところもあるらしい。 とても優しいものもいるらしい。 だけどやっぱり怖いな。 あいつらはどっちなんだろう。 あの走り回るやつには捕まりたくないな。 何をされるか分からない。 考えているうちに彼らがすぐ近くまでやってきた。 「いないね」 元気な小さいのが言った。 「簡単には見つからないさ。ほらあっちああいうところにいるもんだよ。」 僕の真下にいた彼らはさらに奥に進んで行く。 捕まってあげても良かったのかもしれない。 だけどもう少しこの場所でいろんなものたちをみていたい。 捕まるのはその後だ。 私がみているのはここにいるそのひとときだけで、彼らの素顔は知らない。 それでもここで彼らが見せる表情は様々で、見ていて退屈はしない。 時に罠を仕掛ける大きなもの、時にビビりながらついてくるものもいる。 彼らは数人でいることを好むらしい。私は1人でいた方が楽だ。 彼らはどうして群れるのだろうか。 そう考えていたその時、二輪の機械が音を立ててやってきて数メートル先に止まった。 そこから1人の大きなものが降りてきた。 私の方を見つめている。 その目は今まで私がみてきた中で最も澄んだ瞳だった。 彼は真っ直ぐに私のほうに向かってくる。 完全に私に気づいている。 逃げるべきかな。 柄にもなく私は考えた。 いつもならすぐに飛び立っているのに。 心のどこかでそろそろだと告げている。 どうせならより多くの世界を見よう。 彼ならいいと私の心がつぶやいた気がした。 私は彼の手の届くところまで降りた。

雲の恋

かれは
現代文学
超短編です

過去と未来

かれは
現代文学
超短編です

車と共鳴

かれは
ホラー
超短編です

曇り空が晴れる前に/森のかくれんぼ/さかなの気持ち/歩く 超短編読み切り4本

かれは
現代文学
超短編読み切り4本です

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

処理中です...