Blind Love

下

　地球人しか持っていないもの、それは愛だ。
　そんな愛という感情を調査しに私はここにやってきた。
　まあ調査結果は大方の予想通りだ。愛とは人を極端に盲目にさせる不必要な感情だ。恐らく我々火星人にも遠い昔に愛という感情はあったのだろうが、それは進化の過程でいらないと判断され自然淘汰されたのだろう。つまり地球人はまだ進化の途中なのだ。

　こうして目の前で二人がもがき苦しんでいるのを見ると、地球人とは実に馬鹿で未発達であることが良く分かる。床でじたばたと暴れている様は、何かダンスでもしているかのようにも見えた。

　それにしてもなんと愚かなのだろう……
　オスの方はのたうち回りながらもメスに向かって「愛してる……」と生命続く限り繰り返し叫んでいる。
　メスの方は白目を向きながらも私に向かって「愛してる……」と訴えるように何度も言葉を重ねている。
　一体どこまで盲目なのだ。
　きっとオスはメスの言葉を自分に向けたものだと思い込み、メスはオスの言葉を私が言っていると思い込みながら死ぬのだろう。

　いや、もしかしたら彼等は思い込んでいるのではなく、違うとは分かっていながらもそうだと信じたいのかもしれない。こればっかりは二人の心が読めなかった。愛という感情について、もう少し調査していく必要がありそうだ。