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瀬野川奏
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私は考えていた。圭くんの家へと戻りながら。どうして彼と付き合う事になったのかという事を……。あの付き合う事になった日の事を……。
私と圭くんは同じ学校の同じ部活で汗水を流した仲だ。あの頃の北川といえば春高で全国大会に行ったほどの強豪校で、強さに比例して部員の数も半端なく多かった。
圭くんはそんな北川高校に入学して、「北川高校のエースになります!」と、声高らかに宣言した。今でもあの希望に満ちていた瞳を覚えている。雪丸中学ではエースとして有名だった圭くんだけれど、やはり高校生になると違う。ここぞとばかりに多中学のエースが集まって来るのだ。その中で本当のエースになれる人というのは、もう特別なものを持っている人としか言いようがないだろう。人よりも何かが飛び出ているのだ。
圭くんは下手ではなかったし、練習熱心だった。どこも悪くなかった。けれど、突出しているものもなかった。本当に優等生選手だったのだ。彼はその他大勢の中に埋もれていった。けれど、私は覚えている。そんな中諦めていくメンバーが沢山いる中で最後までずっとレギュラーになる事をずっと諦めなかったその姿を。
どうしてそこまで頑張れるのか一度聞いた事があった。すると「俺の事を尊敬して、エースだと信じ込んでるバカ達がいるからさ。あいつらには夢と希望を見せてやりたいんだよ」と、自分はぼろぼろになりながらも言った。それが始めは誰の事かはわからなかったけれど、付き合ってしばらく経ってから、弟の涼くんと、幼なじみの仁菜子ちゃんの事だとわかった。
高校の時には私と圭くんの間には選手とマネージャーという感情以外は無かったし、卒業してからもお互いにそういった感情は無かったと思う。けれども、大学卒業間近にあった同窓会で私達は昔話で(といってもほんの数年前の事だけれど)盛り上がり、そのまま連絡先を交換して、二人で遊びに行くようになった。何度か会っているうちに私は圭くんの事が好きになった。きっかけとかは本当に自分でも覚えていない。けれども、高校生の頃には何の感情も彼に対して抱いていないと思っていたのだけれど、きっと私は友達以上の感情を彼に対して持っていたのだと思う。
当時は目の前の事だけで、恋愛の事なんて考えられなかった。今思うと高校生が何を言ってんだか?って思うけれども……。それはきっと圭くんも一緒だったと思う。あの辛かった時間を共有していた私達は誰よりも解りあえたし、その分お互いの距離が近づいて行くのが早かった。
何度目かに二人で遊びに行った日の帰り際に、彼に突然呼び止められたかと思うと、突然に抱きしめられる。いきなりの事で戸惑ったけれども、私はずっと彼にこうしてもらいたかったのだと、思った。初めて近くに感じる彼の体温と鼓動を感じながら、改めて「ああ、私はこの人の事が好きなんだな……」と思ったのだ。
戸惑うように私に触れる彼はいつも知っている誰とも違う気がして少しだけ戸惑ったけれども、あのバレーに掛けていた情熱が私に少しでも向けられているのだと思うと嬉しかった。きっと私はあの真っ直ぐで情熱的な瞳を自分に向けて欲しかったのだ。それを今になって泣きたい程に痛感した。
「私、小坂くんの事が好き」
「俺も瀬野川の事が好きだよ」
確かめるように聞いた問いかけに返って来た応え。胸が震える程に嬉しかった。
でも……、あの頃の彼の心の中には誰が居たのだろうか?それは今でも思う。けれど、先程の彼を見てなぜだか納得してしまった。わかってしまった。きっと圭くんは自分では無自覚だったのだと思うけれども、ずっと心の中に大瀬さんが居たのだろうな……と。
「圭くんと大瀬さん、仲直りしたかな?」
ふと立ち止まり、夜空を見上げながらそんな事を思った。そして、不安な気持ちが私の中に沸き上がって来た。大瀬さんと今更どうにかなる筈は無いとわかっているし、圭くんにちゃんと想われているのはわかっている。けれども、私の知らない彼を知っている彼女。私とは比べものにならないくらい圭くんと同じ時間を共有して来た彼女。そして、今も彼女は彼に大切に想われている。
考えても仕方の無い事だけれど、やはり、心が痛む。
「仕方が無いよね。幼なじみだもの……」
もう一度自分に納得させるように小さく呟くと、星空を見上げながら息を吐き出した。夜の空気は少しだけ冷たくて、そして、どこまでも澄んでいるようで綺麗だった。
私と圭くんは同じ学校の同じ部活で汗水を流した仲だ。あの頃の北川といえば春高で全国大会に行ったほどの強豪校で、強さに比例して部員の数も半端なく多かった。
圭くんはそんな北川高校に入学して、「北川高校のエースになります!」と、声高らかに宣言した。今でもあの希望に満ちていた瞳を覚えている。雪丸中学ではエースとして有名だった圭くんだけれど、やはり高校生になると違う。ここぞとばかりに多中学のエースが集まって来るのだ。その中で本当のエースになれる人というのは、もう特別なものを持っている人としか言いようがないだろう。人よりも何かが飛び出ているのだ。
圭くんは下手ではなかったし、練習熱心だった。どこも悪くなかった。けれど、突出しているものもなかった。本当に優等生選手だったのだ。彼はその他大勢の中に埋もれていった。けれど、私は覚えている。そんな中諦めていくメンバーが沢山いる中で最後までずっとレギュラーになる事をずっと諦めなかったその姿を。
どうしてそこまで頑張れるのか一度聞いた事があった。すると「俺の事を尊敬して、エースだと信じ込んでるバカ達がいるからさ。あいつらには夢と希望を見せてやりたいんだよ」と、自分はぼろぼろになりながらも言った。それが始めは誰の事かはわからなかったけれど、付き合ってしばらく経ってから、弟の涼くんと、幼なじみの仁菜子ちゃんの事だとわかった。
高校の時には私と圭くんの間には選手とマネージャーという感情以外は無かったし、卒業してからもお互いにそういった感情は無かったと思う。けれども、大学卒業間近にあった同窓会で私達は昔話で(といってもほんの数年前の事だけれど)盛り上がり、そのまま連絡先を交換して、二人で遊びに行くようになった。何度か会っているうちに私は圭くんの事が好きになった。きっかけとかは本当に自分でも覚えていない。けれども、高校生の頃には何の感情も彼に対して抱いていないと思っていたのだけれど、きっと私は友達以上の感情を彼に対して持っていたのだと思う。
当時は目の前の事だけで、恋愛の事なんて考えられなかった。今思うと高校生が何を言ってんだか?って思うけれども……。それはきっと圭くんも一緒だったと思う。あの辛かった時間を共有していた私達は誰よりも解りあえたし、その分お互いの距離が近づいて行くのが早かった。
何度目かに二人で遊びに行った日の帰り際に、彼に突然呼び止められたかと思うと、突然に抱きしめられる。いきなりの事で戸惑ったけれども、私はずっと彼にこうしてもらいたかったのだと、思った。初めて近くに感じる彼の体温と鼓動を感じながら、改めて「ああ、私はこの人の事が好きなんだな……」と思ったのだ。
戸惑うように私に触れる彼はいつも知っている誰とも違う気がして少しだけ戸惑ったけれども、あのバレーに掛けていた情熱が私に少しでも向けられているのだと思うと嬉しかった。きっと私はあの真っ直ぐで情熱的な瞳を自分に向けて欲しかったのだ。それを今になって泣きたい程に痛感した。
「私、小坂くんの事が好き」
「俺も瀬野川の事が好きだよ」
確かめるように聞いた問いかけに返って来た応え。胸が震える程に嬉しかった。
でも……、あの頃の彼の心の中には誰が居たのだろうか?それは今でも思う。けれど、先程の彼を見てなぜだか納得してしまった。わかってしまった。きっと圭くんは自分では無自覚だったのだと思うけれども、ずっと心の中に大瀬さんが居たのだろうな……と。
「圭くんと大瀬さん、仲直りしたかな?」
ふと立ち止まり、夜空を見上げながらそんな事を思った。そして、不安な気持ちが私の中に沸き上がって来た。大瀬さんと今更どうにかなる筈は無いとわかっているし、圭くんにちゃんと想われているのはわかっている。けれども、私の知らない彼を知っている彼女。私とは比べものにならないくらい圭くんと同じ時間を共有して来た彼女。そして、今も彼女は彼に大切に想われている。
考えても仕方の無い事だけれど、やはり、心が痛む。
「仕方が無いよね。幼なじみだもの……」
もう一度自分に納得させるように小さく呟くと、星空を見上げながら息を吐き出した。夜の空気は少しだけ冷たくて、そして、どこまでも澄んでいるようで綺麗だった。
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