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「寝込み襲うと、か、そんな事ない。です」
「何で片言なの?」
「だって!鳴海くんが……って!」
「どうしたの?」
「鳴海くん!め、眼鏡!」
「あ、やべっ!」

 そう言って鳴海くんは急いで眼鏡をかけた。
 けれどもそれも後の祭り。

「鳴海くんって……真夏くんに似てるんだね」
「似てる?」
「あ、ごめん。知ってる?真夏くんの事。今はやりのアーティスト!あっ!年齢的にも私たちとおなじだよ!」
「ってか、そこまで条件そろっていて「似てる?」ってレベルなの?瀬野川にとっては」
「え?」
「おれさー、似てるってのは始めて言われた。眼鏡外して自分の本性見せて」
「どういう事?」
「ああ、瀬野川がそう思ってんなら別にそれでいいよ」

 鳴海くんはそう言って少しだけ不満そうな顔をすると、にこりとわらった。
 笑うとまるで真夏の太陽みたいでさらに似ているって思った。

「瀬野川ってずるいよね。うん、本当にずるい」
「何がずるいの?」
「だって、おれ瀬野川見たときにすぐわかったよ」
「わかった?」

 頭に疑問符が沢山浮かんだ。
 どういう事なんだろう。
 さっきから鳴海くんは訳のわからない事ばかり言うんだから。

「まあ、わからないままでもいいけれどさ」
「……うん?」
「ちょっとさみしいかな?」

 今度は少しだけ寂しそうに笑う。その顔が誰かと重なった気がした。

「あっ!鳴海くんって!」
「うん」
「真夏くんと双子とか?!」
「双子ぉーー?!」

 鳴海くんは吹き出すと、楽しそうに私の顔を見て笑う。
 
「俺が双子って……あ」
「あ」

 一瞬時が止まって、鳴海くんの言った意味を半数する。

「「俺が」双子って言ったよね?鳴海くん」
「……言ったね……」
「って事はだよ?鳴海くんって。真夏くん?」
「……やっとわかったの?」
「いっ?!」
「いっ?!ってどういう事だよ?」

 私の反応を見て鳴海くんが顔をしかめた。

「いや、びっくりしすぎて変な声が出た」
「あははっ!変わってねぇなぁ、さくら」
「だって、名前、違うし」
「ああ、あの時から芸名勝手に付けて名乗ってたから」
「そんなのわかんないよ!あのときの男の子が鳴海くんで、実は真夏くんだったなんて!」
「真実は小説より奇なりだよなー」
「本当にそれ!」

 私は鳴海くんを見て笑ってしまった。
 目の前に真夏くんがいたという緊張感よりも、「ああ。だからなんだ」って事がふっと腑に落ちて安心してしまったからかもしれない。
 鳴海くんが転校して来たときからなんだかもやもやするものがあった。
 始めて会った人なんだと思いながらも、妙に親近感があって、たまにだけれど始めてあった人なのかな?なんて事も実は思っていた。
 けれども「鳴海健人」って名前に思い当たりはなくて、ここの所数日、うやむやになった気持ちの中で何だかよくわからない気持ちを抱えていたのだ。
 それが真夏くんだったとわかれば全て解決する。

「でも、どうして?」
「はいっ!もうタイムアップ!しかもさくらが俺を追いかけて来た上に寝込みまで襲おうとするなんて。真夏くんが聞いたら泣くよな、きっと」
「もうっ!だから寝込み襲ってないし!ただまつげが長くてきれいだなーとは思ったけれえど」
「見とれていたって事?」
「ちがうっ!も!もう!真夏くんって!こんな性格だった?!」

 うぐぐっと、言葉に詰まってそういえば、真夏くんが私の頬を両手で押さえた。

「はい。学校でその名前は禁句。俺の名前、言ってみ?」
「なるみけんとくんです」
「はい、良くできました。それでお願いします」
「はい。それにしても真夏くんって「鳴海健人」って名前だったんだ」
「そうだよ。まあ、どこにもその情報出していないからわかんないよね」
「うん」
「でも、さくらには色々と気付いて欲しい所ではあったけれど」
「……ごめん」
「まあ、わかんないよね。あれから何年経ってんだ?って感じだし」
「5年くらいかな?」
「うん。そうだね。でも、俺が真夏って事はかくしておいてね」
「もちろん!あ、じゃあ私、先に帰るから」
「うん」

 そう言って笑うと、鳴海くんは眼鏡をかける。
 いつもの雰囲気。けれども本当の顔を知っている私は今までと違って鳴海くんをとても近くに感じた。
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