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第53話 カルラの過去(11)

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 雅人さんに再び会うために、私は魔女として長い時を生きている。

 心にぽっかり穴が空いた状態の私には、数年間どこでどう過ごしてきたのか記憶が曖昧だ。
 ようやく気持ちを切り替えることができるようになった私は、薬師としてウォーレン領に落ち着いた。
 それから数十年が経ち、今ではすっかり領主や領民達に頼られる存在となった。
 数年前からは、弟子をとって店を切り盛りしている。




 そんなある日のことだった。

「久しぶり。百年ぶりだね。今はカルラと名乗っているんだって?」

 軽い口調の光りの球体が、突然目の前に現れた。

「……お久しぶりです。えぇ。そうですね。それで今日はどういったご用ですか?」

 驚きはしたものの、それを悟られないように冷たく言い放つ。

「ははっ。冷たいねぇ。今日は君にお知らせがあって来たんだけど」

「……お知らせ、ですか」

 雅人さんのことだろうかと、一瞬心が浮き立ったが、次の言葉を耳にして思考が止まる。

「そう。えーと、美咲さんだっけ?君の娘さんの名前。もうすぐ、この世界に生まれ変わることが決まったから報告に来たんだ」

「……え?」

 光りの球体は私の返事を待たずに更に話しを続ける。

「ここ、ウォーレン領から一日ほど行った、ハーベスト領の当主の長女として生まれるんだ」

「み、美咲が?この世界に?」

 驚きで目を見開きながらも、続きを聞きたくて身を乗り出す。

「ああ。それと、いつか必ず会えるから自分から会いに行かないでね。母親だと名乗ることもダメだよ。彼女には新しい家族がいるからね。分かった?それと変化の魔道具をあげるから、彼女と会う時はそれを付けてね」

 告げられた言葉は残酷なもので、私の心を抉るには十分だった。
 もう二度と母だと名乗れない。
 知らされない方が幸せだったかもしれない。
 光りの球体に怒りが湧くが、今更だ。
 小さく息を吐くとぽそりと呟いた。

「……家族。……そうですね。分かりました」

「大丈夫。穏やかで優しい人達だから、心配はいらないよ。安心して。じゃあ、またね」

 私の気持ちを知ってか知らずか、優しい声で安心させるように告げると姿を消した。




「はぁ。親切心のつもりなんだろうけど、キツイなぁ。」

 作業の手を止めて、外の景色を眺めながら思いを馳せる。
 もう一度あの子に会えるのは素直に嬉しい。
 できればこの腕に抱きしめたい。
 あの子がどんな人生を歩んだのか知りたい。
 それすら許されないのだが。

「自称神はいじわるね」 

 ムスッとして呟くも、自然と頬が緩んでいく。

「早く会いたいわ。…美咲」
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