61 / 66
第61話 寂しい気持ちと幸せな気持ち
しおりを挟む
十八年過ごしたこの愛情溢れる屋敷から巣立つ日。
荷物を馬車に積み込み、家族に別れの挨拶を交わす。
「お父さま。お母さま。十八年間育てて頂きありがとうございました。私の全てを受け入れてくれて本当に感謝しております。マーカス。もう少し一緒に居たかったけど、ごめんね。お父さまとお母さまのこと、お願いね。立派な当主になってね」
「はい。姉上。父上の補佐をちゃんと出来るよう精進します。だから姉上も安心してください」
マーカスはこの日のためにわざわざ学園を休んで、見送りに駆けつけてくれた。
「ミリー。あなたは今まで頑張ってきたから、もう少し肩の力を抜いて誰かに甘えていいのよ。ディラン様という婚約者がいるのだから甘えなさい。それから手紙、待っているわね」
母は穏やかな笑みを浮かべて抱きしめた。
その温もりに涙が滲む。
「道中気を付けて行きなさい。この領地から出るのは初めてだろう。ディラン殿がついているから危険な目に遭うことはないと思うが、それでも用心に越したことはない。我が家の心配はしなくていいから、安心して嫁ぎなさい」
そう言われて領地の外に出たことがなかったことを今更ながら気付いた。
「…私、領地の外に出るの初めてなんだけど、大丈夫かな」
ポソッと呟いた言葉にディラン様が安心させるように答えた。
「ミリアーナ嬢を危ない目に合わせることは絶対にありません。それに道中の行程もきちんと計画を立てています。私にお任せください」
ディラン様の心強い言葉に、父と母、弟は安堵の表情を浮かべた。
最後に見送りに来ていたソフィアさん達に別れの挨拶をする。
「ミリアーナお嬢様。ご婚約おめでとうございます。どうかお幸せになってください」
「ありがとう。ソフィアも体を大事にしてね。屋敷のことお願いね」
「お任せください。母もアリスもこのお屋敷で働けることに生きがいを感じています。ご安心くださいませ」
「うん。メリダもありがとう。しっかり者のメリダなら安心して任せられるよ」
「お嬢様ぁ。寂しいですけど、お嬢様の幸せを願っていますぅ。どうかお幸せに」
「ふふ。アリスもカールさんと幸せにね」
「っ!!」
ばれていないと思っていたのか、手で口を覆い視線が彷徨うアリス。
「二人はお似合いだよ。応援しているからね」
アリスの耳元で囁くと、真っ赤に顔を染めた。
挨拶を済ませた私はディラン様に手をとられて馬車に乗り込んだ。
家族に見送られて彼等の姿が見えなくなるまで、馬車から見続けていた。
途中、工場に寄り従業員の皆と挨拶を交わし、リオーレスト王国へ向かった。
寂しい気持ちと幸せな気持ちを胸に、景色が移り変わりゆくのを馬車から眺めていた。
荷物を馬車に積み込み、家族に別れの挨拶を交わす。
「お父さま。お母さま。十八年間育てて頂きありがとうございました。私の全てを受け入れてくれて本当に感謝しております。マーカス。もう少し一緒に居たかったけど、ごめんね。お父さまとお母さまのこと、お願いね。立派な当主になってね」
「はい。姉上。父上の補佐をちゃんと出来るよう精進します。だから姉上も安心してください」
マーカスはこの日のためにわざわざ学園を休んで、見送りに駆けつけてくれた。
「ミリー。あなたは今まで頑張ってきたから、もう少し肩の力を抜いて誰かに甘えていいのよ。ディラン様という婚約者がいるのだから甘えなさい。それから手紙、待っているわね」
母は穏やかな笑みを浮かべて抱きしめた。
その温もりに涙が滲む。
「道中気を付けて行きなさい。この領地から出るのは初めてだろう。ディラン殿がついているから危険な目に遭うことはないと思うが、それでも用心に越したことはない。我が家の心配はしなくていいから、安心して嫁ぎなさい」
そう言われて領地の外に出たことがなかったことを今更ながら気付いた。
「…私、領地の外に出るの初めてなんだけど、大丈夫かな」
ポソッと呟いた言葉にディラン様が安心させるように答えた。
「ミリアーナ嬢を危ない目に合わせることは絶対にありません。それに道中の行程もきちんと計画を立てています。私にお任せください」
ディラン様の心強い言葉に、父と母、弟は安堵の表情を浮かべた。
最後に見送りに来ていたソフィアさん達に別れの挨拶をする。
「ミリアーナお嬢様。ご婚約おめでとうございます。どうかお幸せになってください」
「ありがとう。ソフィアも体を大事にしてね。屋敷のことお願いね」
「お任せください。母もアリスもこのお屋敷で働けることに生きがいを感じています。ご安心くださいませ」
「うん。メリダもありがとう。しっかり者のメリダなら安心して任せられるよ」
「お嬢様ぁ。寂しいですけど、お嬢様の幸せを願っていますぅ。どうかお幸せに」
「ふふ。アリスもカールさんと幸せにね」
「っ!!」
ばれていないと思っていたのか、手で口を覆い視線が彷徨うアリス。
「二人はお似合いだよ。応援しているからね」
アリスの耳元で囁くと、真っ赤に顔を染めた。
挨拶を済ませた私はディラン様に手をとられて馬車に乗り込んだ。
家族に見送られて彼等の姿が見えなくなるまで、馬車から見続けていた。
途中、工場に寄り従業員の皆と挨拶を交わし、リオーレスト王国へ向かった。
寂しい気持ちと幸せな気持ちを胸に、景色が移り変わりゆくのを馬車から眺めていた。
132
お気に入りに追加
1,082
あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~
明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)


没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる