【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚

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第57話 つがいとは

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「え、つがいですか?すみません。よくわかりません」

 つがい?何のことだろうと首を傾げていると、彼は話しを続けた。

「番とは分かりやすく言うと伴侶を指す。我々獣人や竜人は互いが発する匂いで番が分かるのだが、相手が人族だとどうしても難しい。こちらが番だと認識していても相手に伝わらなければ意味がない。滅多にないことだが、番を誘拐した事件もあった。獣人や竜人にとって番という存在はとても大事なことなんだ」

「そうなんですね。番ってすぐ分かるものなんですか?」

 いくら嗅覚が発達しているからといって、番なんて本当に分かるものだろうか。
 首を傾げた私に、ディラン様は髪を一房手に取り匂いを嗅いだ。
 突然の行動に驚いていると、衝撃の言葉を放った。

「ミリアーナ嬢は私の番だ。この芳しい香り。間違いない。初めて会ったあの日から私は貴女に惹かれている。急なことで理解出来ないのは分かっている。どうかこれから私のことを知ってほしい」

 その瞳には熱がこもっていて心臓がドキリと跳ねた。

「い、あ、え?番?私がですか?」

 慌てふためき言葉に詰まる。
 彼はその姿を微笑んで見守っていたが、そっと手を伸ばして壊れ物を扱うように抱きしめた。

「急に言われても理解出来ないと思う。人間にはそういった感覚はないからね。でも、どうか私を受け入れてほしい。お願いだ」

 熱のこもった瞳で懇願されて、私の心臓はますますドキドキと波打つ。
 収拾がつかない頭で耳まで真っ赤になった私は、コクンと頷くだけで精一杯だった。
 私が頷くと、途端にディラン様の表情が明るくなる。

「ありがとう!ありがとう!ああ、良かった。受け入れてもらえなかったらと思うと不安で!嬉しい。もう絶対に何があっても離さないよ」

 さっきより力を込めてギュウギュウと抱きしめられ息苦しくなる。
 尻尾はもの凄い勢いで左右に揺れている。
 私は苦しくて身を捩った。

「く、くるしい。お、落ち着いてください」

 腕をバシバシと叩いて彼に伝えた。

「あ、ああ。すまない。嬉しくてつい加減が出来なかった。どこか痛む所はないか?」

 途端にアタフタと手が所在なさげに彷徨いだす。
 その姿に笑いが堪えきれなくなった。

「ふふ、ふふふふ。可愛い。…あ、ごめんなさい。可愛いだなんて」

 男性に可愛いは失礼だと思い、慌てて謝った。

「はは。いいよ。どんな形でも貴女の心に入り込めたなら嬉しい」

 サラッと言われた言葉は、私の顔を真っ赤に染め上げるには十分だった。
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