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第55話 ディランの目的
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翌日、ディラン様は従者を伴い屋敷を訪ねて来た。
父も母も不在のため、私が応対することになった。
応接室の扉を開けるなり、彼は立ち上がり謝罪の言葉を口にした。
「先ぶれもなく訪ねてしまい、申し訳ございません。どうしても貴女にお会いしたくて無礼を承知でお伺いしました」
深々と頭を下げられて慌てて口を開く。
「わ、私にですか?……あ、どうぞ、お掛けください」
内心、緊張で手に汗握り失礼のないように振る舞うことで精一杯の私は、頭の中は真っ白で収拾がつかなかった。
その緊張が伝わったのか彼はソファに座る前に、穏やかに微笑んだ後、口を開いた。
「改めてご挨拶を。私は、ディラン・ロードウルフと申します。リオーレスト王国で騎士をしています」
胸に手をあて騎士の礼で挨拶をするディラン。
慌てて私も名乗る。
「あ、わ、私は、ミリアーナ・ハーベストと申します」
慣れないカーテシーでぎこちなく挨拶をした後、ソファに座るように促す。
「あ、あの、どうぞお掛けください。今お茶を用意させます」
メリダがお茶を用意している間、私はソワソワと落ち着かない様子でソファに座っていた。
ディランは、出されたお茶を一口飲むと、話し始めた。
「近年、ハーベスト領の特産品は王侯貴族のみならず、平民にも有名だそうですね。私も頂きましたが、大変美味しかったです。特にハーブティーは気に入りました」
「そうですか。お気に召していただけて良かったです」
そこまで有名になっていたとは知らなかったが、気に入ってもらえたことが素直に嬉しい。
「このハーブティーも美味しいです。温まるし、疲れがとれていきます」
「お口に合ったようで良かったです。長旅でお疲れではと思いまして、心身の疲労回復に効果があるオレガノを使用しました。就寝前に飲むとぐっすり休めますよ」
「ミリアーナ嬢はハーブに詳しいのですね」
蕩けるような瞳を向けられ、私はドキリとした。
「い、いえ、そのようなことは…」
熱くなる頬を隠すように、咄嗟に俯いて視線を逸らした。
ディラン様は話題が豊富で、色々な国の食べ物や文化、流行りについて面白可笑しく聞かせてくれた。
私は自分が住んでいる領地ですら把握していなかったので羨ましく思いつつ、いつの間にかディラン様の話しに惹き込まれていた。
突然の訪問に驚いたが、ディラン様との会話は楽しくあっという間に過ぎていった。
面会を終えたディランは、帰りの馬車で従者に問いかけられた。
「ディラン様。伝えなくてよろしかったのですか?」
「…いきなり伝えても受け入れてもらえるとは思えない。ゆっくり時間を掛けてからだ」
「…さようでございますか。それではミリアーナ様で間違いはないということですね?」
「ああ」
窓の外を眺めたままディランは短く返事をすると、ほんの少し頬を緩めた。
父も母も不在のため、私が応対することになった。
応接室の扉を開けるなり、彼は立ち上がり謝罪の言葉を口にした。
「先ぶれもなく訪ねてしまい、申し訳ございません。どうしても貴女にお会いしたくて無礼を承知でお伺いしました」
深々と頭を下げられて慌てて口を開く。
「わ、私にですか?……あ、どうぞ、お掛けください」
内心、緊張で手に汗握り失礼のないように振る舞うことで精一杯の私は、頭の中は真っ白で収拾がつかなかった。
その緊張が伝わったのか彼はソファに座る前に、穏やかに微笑んだ後、口を開いた。
「改めてご挨拶を。私は、ディラン・ロードウルフと申します。リオーレスト王国で騎士をしています」
胸に手をあて騎士の礼で挨拶をするディラン。
慌てて私も名乗る。
「あ、わ、私は、ミリアーナ・ハーベストと申します」
慣れないカーテシーでぎこちなく挨拶をした後、ソファに座るように促す。
「あ、あの、どうぞお掛けください。今お茶を用意させます」
メリダがお茶を用意している間、私はソワソワと落ち着かない様子でソファに座っていた。
ディランは、出されたお茶を一口飲むと、話し始めた。
「近年、ハーベスト領の特産品は王侯貴族のみならず、平民にも有名だそうですね。私も頂きましたが、大変美味しかったです。特にハーブティーは気に入りました」
「そうですか。お気に召していただけて良かったです」
そこまで有名になっていたとは知らなかったが、気に入ってもらえたことが素直に嬉しい。
「このハーブティーも美味しいです。温まるし、疲れがとれていきます」
「お口に合ったようで良かったです。長旅でお疲れではと思いまして、心身の疲労回復に効果があるオレガノを使用しました。就寝前に飲むとぐっすり休めますよ」
「ミリアーナ嬢はハーブに詳しいのですね」
蕩けるような瞳を向けられ、私はドキリとした。
「い、いえ、そのようなことは…」
熱くなる頬を隠すように、咄嗟に俯いて視線を逸らした。
ディラン様は話題が豊富で、色々な国の食べ物や文化、流行りについて面白可笑しく聞かせてくれた。
私は自分が住んでいる領地ですら把握していなかったので羨ましく思いつつ、いつの間にかディラン様の話しに惹き込まれていた。
突然の訪問に驚いたが、ディラン様との会話は楽しくあっという間に過ぎていった。
面会を終えたディランは、帰りの馬車で従者に問いかけられた。
「ディラン様。伝えなくてよろしかったのですか?」
「…いきなり伝えても受け入れてもらえるとは思えない。ゆっくり時間を掛けてからだ」
「…さようでございますか。それではミリアーナ様で間違いはないということですね?」
「ああ」
窓の外を眺めたままディランは短く返事をすると、ほんの少し頬を緩めた。
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