【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚

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第54話 イケメン獣人との出会い

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 ガゼボでハーブティーを飲んで寛いでいた私は、屋敷からもの凄い勢いで走って来る人影が見えて身構えた。

「ん?」

 人のように見えるが、どこか違和感を覚える。
 その人影はドンドン近付いて来る。

「っ!!」

 黒い艶やかな髪の間からフワフワの犬の耳が生えていて、目線を下げると同じく黒い尻尾が覗いていた。
 人の姿なのに耳と尻尾が生えている。
 え?しかもイケメン?!どういうこと?
 あまりの出来事に私の頭は、疑問符で埋め尽くされていた。

 目の前まで迫って来た男性に、硬直したままの私。
 後方に控えているアリスも声が出せずに固まっていた。

 男性は少しはにかんだ顔で謝罪した。

「驚かせてしまったようだな。申し訳ない。私はディラン。リオーレスト王国で騎士をしている。貴女の名を伺っても良いだろうか?」

「え。あっ、申し遅れました。私はミリアーナと申します。あの、何かご用でしょうか?」

 突然のことで言葉が詰まり、目はフワフワの犬耳と尻尾に釘付けだ。

「ああ。いや。良い香りがしたので気になって来たのだが…ハーブの匂い…だけじゃないな」

 クンクンと鼻を忙しなく動かしていたが、途中から声が小さくなり聞き取れなかった。
 父とアルベルトさんは息を切らしながら、彼を追いかけて来た。

「はぁ、はぁ。さ、さすがディラン殿。足が早い。ん?ミリーも来ていたのか」

 アルベルトさんは涼しい顔で父の横に並んで挨拶をした。

「ミリアーナ様。お久しぶりでございます。お元気そうで何よりです」

「アルベルトさん。ご無沙汰しております。アルベルトさんもお元気そうで何よりです」

 笑みを浮かべ挨拶を交わして、父に視線を向けて告げた。

「皆さんハーブティーは如何ですか?すぐにご用意しますよ」

「そうですね。景色を見ながら頂くお茶は格別でしょう。頂戴いたします」

 商人の仮面を脱ぎ捨ていそいそと椅子に座るアルベルトさん。
 苦笑いしながらも、ディランに声を掛けて椅子に座るように促す父。

「ディラン殿。我が家自慢のハーブ園をご覧ください。少し休憩を取りましょう」

「はい。ありがとうございます」

 ディランと呼ばれた男性は、私をチラリと見ると父の後に続く。

「はぁ~。犬耳と尻尾フワフワで気持ち良さそう。触らせてくれないかなぁ」

 思わず心の声が漏れ、アリスに笑われた。

「お嬢様ぁ。ダメですよぅ。男性に気安く触るのははしたないですよぉ」

「それもそうね。気をつけるわ。それよりアリス。お茶の用意をしてもらえる?皆を待たせるのは良くないわ」

「はい。かしこまりました!」

 私達は急いでお茶の用意に取り掛かった。


 「ハーブティーを飲みながら眺めるこの景色は素晴らしい。商売で彼方此方行きますが、ここはまるで時がゆっくりと流れているようなそんな場所ですね。心が癒されます」

 目を細めて穏やかな表情で景色を眺めているアルベルトさんを、私は初めて見たような気がする。
 なんだか人間味があっていいなぁ。
「ああ。そう言えば、アルベルトはガゼボで茶を飲むのは初めてだったな。商談が済むとすぐ帰って行くから、誘うのを忘れていたな」

 全く悪気がない様子で話す父に、アルベルトさんは恨みがましい目を向けた。

「私だって人間ですよ。こうやって感動する気持ちもちゃんと持ち合わせています」

「はははは!そうだな。すまない。次からは誘おう」

 二人は会話を楽しんでいたが、ディランは黙ってハーブティーを飲んで見守っていた。
 父の隣の席に座る私は、時々感じる彼の視線に戸惑いを覚えながら、ハーブティーを啜ってやり過ごした。

 結局、会話の大半は父とアルベルトさんが占め、獣人の彼は時々相槌を打つ程度だった。

それにしても、さっきのは一体何だったのだろう。
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