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第52話 カルラの過去(10)
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「やめろ!やめてくれ!俺じゃない!悪いのは神殿長だ!」
「なっ!私ではない!私は殿下の願いを叶えたかっただけだ!」
私の目の前で醜い言い争いをしているのは、神殿長と第二王子。
魔王討伐後、気が緩んでいた私達に口実をつけて引き離した彼等は、油断していた夫に毒入りの酒を飲ませ殺害した。
何も知らない私は翌朝、いつものように起こしに行って、冷たくなっている夫を発見した。
最初は訳が分からずただ悲しみにくれていたが、第二王子が度々訪れては私を妻にと言い出したことで、もしやと思いカマをかけてみた。
『邪魔だったから』
第二王子のその一言で私の中にどす黒い物が溢れ出した。
「邪魔?だったらなぜこの世界に呼んだの!私達には関係ないことじゃない!あなたの都合で振り回された私達は一体何なの?絶対に許さない!あの人を、雅人さんを返して!」
私の中の魔力が乱れて暴れているが、抑える気はなかった。
その影響で、部屋中の物が吹き飛び音を立てて壊れていく。
「そ、それは無理だ!死者の蘇生は出来ない!出来る人間がいないのだ!」
マサトサンニアエナイ。
ダッタラモウ、コンナセカイナンテイラナイ。
私は無言のまま全ての魔力を放出しようと両手を広げた。
刹那、私以外の時が止まった。
「―それは困る。この世界は私が管理しているから壊すのはやめてくれないか?」
何処からか男性の声がして、神々しい光りの球体が突然現れた。
「……貴方は誰?私には関係ないわ」
冷たい視線を球体に向け、抑揚のない声で問いかける。
「私はこの世界の管理者。そう。君には関係ない。だが、世界を滅ぼされては困るんだ。確かにこの国の王侯貴族は腐敗している。民達は重税に耐えられず国を捨てる者が続出している」
「……そう。私が憎いのはあの人達。私達を勝手に召喚して利用した挙句、邪魔だからと夫を殺したアイツらよ!」
再び怒りがこみ上げ語気が強くなる。
握りしめた拳から血が流れる。
管理者と名乗った光りの球体は、暫し沈黙した後、話し出した。
「では、私が手を下そう。君は闇に落ちてはいけない。そしてもう一度彼と出会えるようにしよう。体を作り変えるから見た目は変わってしまうが、彼と出会うその日まで、年を取ることも寿命で死ぬこともない。君は今後、魔女として生きていくことになるが、それでも構わないか?」
「……私は死ねないの?死んであの人のもとに行きたい」
涙がとめどなく溢れ出す。
「すまんが、今の君の魂の状態では彼のもとへはたどり着けないだろう。それにこの世界の輪廻から外れてしまう。そうなると二度と彼と会えなくなる」
光りの球体は本当に申し訳ないと言った。
私は覚悟を決めて顔を上げた。
「……分かりました。私、魔女になります」
私は魔女カルラと名乗り、ただひたすら彼にもう一度出会うため長い年月を生きてきた。
当然のことだが、勇者を殺害した神殿長と第二王子は断頭台の露と消えた。
その後、あの国がどうなったかなんて私は知るつもりもないし、二度と関わりたくない。
そう思っていた私の前に再び光りの球体が現れた。
「なっ!私ではない!私は殿下の願いを叶えたかっただけだ!」
私の目の前で醜い言い争いをしているのは、神殿長と第二王子。
魔王討伐後、気が緩んでいた私達に口実をつけて引き離した彼等は、油断していた夫に毒入りの酒を飲ませ殺害した。
何も知らない私は翌朝、いつものように起こしに行って、冷たくなっている夫を発見した。
最初は訳が分からずただ悲しみにくれていたが、第二王子が度々訪れては私を妻にと言い出したことで、もしやと思いカマをかけてみた。
『邪魔だったから』
第二王子のその一言で私の中にどす黒い物が溢れ出した。
「邪魔?だったらなぜこの世界に呼んだの!私達には関係ないことじゃない!あなたの都合で振り回された私達は一体何なの?絶対に許さない!あの人を、雅人さんを返して!」
私の中の魔力が乱れて暴れているが、抑える気はなかった。
その影響で、部屋中の物が吹き飛び音を立てて壊れていく。
「そ、それは無理だ!死者の蘇生は出来ない!出来る人間がいないのだ!」
マサトサンニアエナイ。
ダッタラモウ、コンナセカイナンテイラナイ。
私は無言のまま全ての魔力を放出しようと両手を広げた。
刹那、私以外の時が止まった。
「―それは困る。この世界は私が管理しているから壊すのはやめてくれないか?」
何処からか男性の声がして、神々しい光りの球体が突然現れた。
「……貴方は誰?私には関係ないわ」
冷たい視線を球体に向け、抑揚のない声で問いかける。
「私はこの世界の管理者。そう。君には関係ない。だが、世界を滅ぼされては困るんだ。確かにこの国の王侯貴族は腐敗している。民達は重税に耐えられず国を捨てる者が続出している」
「……そう。私が憎いのはあの人達。私達を勝手に召喚して利用した挙句、邪魔だからと夫を殺したアイツらよ!」
再び怒りがこみ上げ語気が強くなる。
握りしめた拳から血が流れる。
管理者と名乗った光りの球体は、暫し沈黙した後、話し出した。
「では、私が手を下そう。君は闇に落ちてはいけない。そしてもう一度彼と出会えるようにしよう。体を作り変えるから見た目は変わってしまうが、彼と出会うその日まで、年を取ることも寿命で死ぬこともない。君は今後、魔女として生きていくことになるが、それでも構わないか?」
「……私は死ねないの?死んであの人のもとに行きたい」
涙がとめどなく溢れ出す。
「すまんが、今の君の魂の状態では彼のもとへはたどり着けないだろう。それにこの世界の輪廻から外れてしまう。そうなると二度と彼と会えなくなる」
光りの球体は本当に申し訳ないと言った。
私は覚悟を決めて顔を上げた。
「……分かりました。私、魔女になります」
私は魔女カルラと名乗り、ただひたすら彼にもう一度出会うため長い年月を生きてきた。
当然のことだが、勇者を殺害した神殿長と第二王子は断頭台の露と消えた。
その後、あの国がどうなったかなんて私は知るつもりもないし、二度と関わりたくない。
そう思っていた私の前に再び光りの球体が現れた。
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