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第37話 研究室

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「ミリーさん、素敵な研究室が出来上がったわね」

 研究室を見渡してカルラさんが嬉しそうに話す。

 研究室は屋敷の二階の一番端にあり、万が一の事を考慮して人の出入りが極力少ない場所にした。
 皆を信用していない訳ではなく、外部から情報が漏洩するのを防ぐためだ。
 扉の前にはジークさんが控えているから安心だ。

 室内は機能性を重視して、作業がしやすいように動線を工夫した。
 火を扱うこともあるので、小さな暖炉を新たに作ってもらった。
 これで態々一階の厨房まで行かなくて済む。
 休憩用のハーブティーもここでとれる。
 実に有難い。

「ありがとうございます。手探りですが、大体は揃ったと思うのですが。良ければカルラさんに足りない道具等があれば教えていただけると助かります」

 多少ハーブについて詳しいだけの私には、全く未知の領域だ。
 薬師であるカルラさんにまだまだご教授願いたい。
 それにカルラさんも粉薬に興味津々だから、協力は惜しまないと言ってくれたし。

「そうねぇ」

 人差し指を頬に添えて一定のリズムでトントンと叩きながら、室内を見て回る。
 時間を掛けてゆったりとした足取りで、一つ一つ確認していく。

「差し当たって足りない道具はなさそうね。足りなければ、その都度用意すれば良いでしょう」

 良かった。大丈夫そうだ。
 ほっと胸を撫で下ろした。

「はい、かしこまりました」

 研究室の出来に満足した表情のカルラさんは、私を見つめると一言告げた。

「ミリーさん、くれぐれも無理はしないように。いいですね」

 それはそれはとても綺麗な笑顔で告げた。
 一度ならず二度までも心配を掛けたのは自覚しているので、返す言葉もない。
 いい加減学習しろよ、と自分でも思ったくらいだ。
 気が緩んだらまたやってしまうかもしれないので、なるべく…出来るだけ気をつけよう。

「……はい、気をつけます」

 そう言うしかなかった。
 本当に?とカルラさんの目が物語っていたが、気付いていないふりをして誤魔化した。
 反省はしてるんだよ。
 ……本当だよ?

 だからカルラさん、目が怖いですって。

「……無理はしません」

 もう一度告げると、ようやくいつもの穏やかで優しい瞳に戻った。
 私は信用されていないんだね。
 まぁ、実績があるから仕方ないか。

 カルラさんの愛情ある厳しさは、心地よくてつい甘えてしまう。
 いつまでも一緒にいたいが、粉薬が完成したらウォーレン領に戻ると告げられた。
 それもそうだ。
 カルラさんにはカルラさんの生活があるのだから。
 それまでは出来るだけ一緒に過ごそうと心に決めた。
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