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第21話 雪解け
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「特産品ですか?」
叔父さんは聞き返した。
「ああ、ハーブ…薬草のことなんだが、それを使って食材や飲み物に加工して商品として売り出しているんだ。最近は香水と匂い袋も扱っている。お陰で領地に活気が戻って来ている。今まで苦労を掛けたな。すまない、ありがとう」
父は立ち上がると叔父さんに深々と頭を下げた。
私達も慌てて立ち上がり頭を下げた。
「兄上、お止めください!私は騎士になれました。諦めかけていた私の背を押してくれたのは兄上です。感謝こそすれ苦労などと思ったことはただの一度もありません!どうか、頭を上げてください!」
叔父さんも立ち上がり戸惑っていた。
父と叔父さんは顔を見合わせて笑い始めた。
「ははははっ!この話しはこれで終わりとしよう」
「あっはっはっはっ!そうですね。きりがありませんね」
兄は弟を、弟は兄をずっと気にかけていた。
二人の抱えていたわだかまりがようやく解けた瞬間だった。
「兄上、では王都で売られているハーブティーやクッキーはこの領地の特産品なのですか?」
「ああ、そうだ。アーバイン商会に行けば売ってあるぞ」
「アーバイン商会……今王都で有名な商会ですね。…貴族の間では従来の香水より長時間香りが保ち種類も豊富だと聞いたことがあります。匂い袋は貴族だけでなく、平民も持つ者が増えてきているとか。それらが兄上の領地の特産品とは、存じ上げず申し訳ございません!」
「バート。謝らないでくれ。お前が知らなくても仕方のないことだ。……事情があってな、目立つことは控えたいのだ。」
腰かけたままテーブルに額が当たりそうな程頭を下げている叔父さんに、父はまあまあと肩を叩いて事情を説明した。
「……承知しました。アンナ、バリー、話しは聞いていたな。このことは胸に留めて一言も漏らすことのないようにしてほしい。分かったな」
隣の妻、息子の順でしっかりと目を合わせバートは告げる。
二人は叔父さんを見つめ返し頷くと返事をした。
「 「はい」 」
その後、夕食は和やかに進み、王都の様子やバート叔父さんの仕事等話題は尽きなかった。
やはり、というか当然というか、香草焼きは好評で質問が絶えなかった。
食後はサロンで男性同士、女性同士に別れ思い思いに寛いで楽しい夜は更けていった。
マーカスくんとバリーくんは年が近いこともあり、人見知りのマーカスくんが珍しくバリーくんに懐いていたので、ほっと胸をなで下ろした。
同性の友達が身近にいなかったから寂しかったのだろう。
「さあ、子供達は寝る時間だ。休みなさい」
父に促され私達は席を立つ。
「はい、おやすみなさい」
父と母に就寝前の挨拶とキスを交わして、サロンを出た。
いつもとは違う高揚感でベッドに潜る。
幸せだなぁ。
父と叔父さんはお互いを思いやれるほど優しい。
でも、そのせいで行き違いがあったのかもしれない。
十年かかったが、これを機に二人の仲が良くなってほしい。
半分夢の中に入りながら、叔父さん達が王都に帰る時はお土産を渡そうと考えていたが、いつの間にか寝落ちしていたようだ。
叔父さんは聞き返した。
「ああ、ハーブ…薬草のことなんだが、それを使って食材や飲み物に加工して商品として売り出しているんだ。最近は香水と匂い袋も扱っている。お陰で領地に活気が戻って来ている。今まで苦労を掛けたな。すまない、ありがとう」
父は立ち上がると叔父さんに深々と頭を下げた。
私達も慌てて立ち上がり頭を下げた。
「兄上、お止めください!私は騎士になれました。諦めかけていた私の背を押してくれたのは兄上です。感謝こそすれ苦労などと思ったことはただの一度もありません!どうか、頭を上げてください!」
叔父さんも立ち上がり戸惑っていた。
父と叔父さんは顔を見合わせて笑い始めた。
「ははははっ!この話しはこれで終わりとしよう」
「あっはっはっはっ!そうですね。きりがありませんね」
兄は弟を、弟は兄をずっと気にかけていた。
二人の抱えていたわだかまりがようやく解けた瞬間だった。
「兄上、では王都で売られているハーブティーやクッキーはこの領地の特産品なのですか?」
「ああ、そうだ。アーバイン商会に行けば売ってあるぞ」
「アーバイン商会……今王都で有名な商会ですね。…貴族の間では従来の香水より長時間香りが保ち種類も豊富だと聞いたことがあります。匂い袋は貴族だけでなく、平民も持つ者が増えてきているとか。それらが兄上の領地の特産品とは、存じ上げず申し訳ございません!」
「バート。謝らないでくれ。お前が知らなくても仕方のないことだ。……事情があってな、目立つことは控えたいのだ。」
腰かけたままテーブルに額が当たりそうな程頭を下げている叔父さんに、父はまあまあと肩を叩いて事情を説明した。
「……承知しました。アンナ、バリー、話しは聞いていたな。このことは胸に留めて一言も漏らすことのないようにしてほしい。分かったな」
隣の妻、息子の順でしっかりと目を合わせバートは告げる。
二人は叔父さんを見つめ返し頷くと返事をした。
「 「はい」 」
その後、夕食は和やかに進み、王都の様子やバート叔父さんの仕事等話題は尽きなかった。
やはり、というか当然というか、香草焼きは好評で質問が絶えなかった。
食後はサロンで男性同士、女性同士に別れ思い思いに寛いで楽しい夜は更けていった。
マーカスくんとバリーくんは年が近いこともあり、人見知りのマーカスくんが珍しくバリーくんに懐いていたので、ほっと胸をなで下ろした。
同性の友達が身近にいなかったから寂しかったのだろう。
「さあ、子供達は寝る時間だ。休みなさい」
父に促され私達は席を立つ。
「はい、おやすみなさい」
父と母に就寝前の挨拶とキスを交わして、サロンを出た。
いつもとは違う高揚感でベッドに潜る。
幸せだなぁ。
父と叔父さんはお互いを思いやれるほど優しい。
でも、そのせいで行き違いがあったのかもしれない。
十年かかったが、これを機に二人の仲が良くなってほしい。
半分夢の中に入りながら、叔父さん達が王都に帰る時はお土産を渡そうと考えていたが、いつの間にか寝落ちしていたようだ。
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