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第12話 工場にて
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「おはようございま~す!」
「ミリアーナ様!おはようございます!」
今日は工場で従業員の皆さんとクッキー作りだ。
二日に一度こうして手伝いに来て、朝から総出で忙しなく動き回っている。
ハーブティー作りも順調のようだ。
アーバイン商会のアルベルトさんの助けもあり、売れ行きは好調だ。
近隣から態々足を延ばして買いに来る貴族や、商人もいるという。
最近は私の持つスキル野草マスターで抽出、精油が出来るようになったことで、数は限られるが香水も販売している。
香水だけは、量産するのが難しいためアーバイン商会でのみ取り扱っている。
彼等はその香水を求めてやって来ているのだ。
香水は高額だから平民には手が出せないが、代わりに匂い袋は平民の間で大人気商品となっている。
この数ヶ月で領地には彼方此方から人々が訪れ、徐々にではあるが賑わいを取り戻している。
領地を離れた若い領民達もその噂を聞きつけ一人、二人と帰省しているという。
そう話す父は嬉しそうだった。
「ミリアーナ様。こちらのハーブの乾燥は終わりました。確認をお願いします」
工場長のベラさんは、この工場に移る前からクッキー作りを手伝ってもらっていて、従業員第一号のベテランさんである。
時々母を手助けしていたそうだ。
ベラさん、本当にありがとうございます。
「うん、パリパリだね。大丈夫だよ。いつも丁寧な作業をしてくれてありがとう!」
「いえ、働く場所が出来て大事な工場を任せて頂いて感謝しております」
ベラさんは苦労人だ。
夫を早くに亡くし女手一つで息子二人を育ててきた。
息子達もそんな母親を見て育ったため、とても真面目でしっかりしている。
もちろん、三人は家の工場で働いてもらっている。
私は二階に上り、執務室のドアをノックする。
入れという父の声で室内に足を入れると、アルベルトさんが来ていた。
「ようこそ、アルベルトさん。お久しぶりです」
彼は彼方此方飛び回って忙しいので、顔を合わせるのは久しぶりだ。
「お久しぶりでございます、ミリアーナ様。お元気そうでなによりです」
流れるような動作で立ち上がり、私が席に着くのを待ってソファに腰を下ろす。
最初の頃は紳士的な対応に驚いたが、会う度にされるので今では慣れてしまった。
「今日はお一人なんですか?ライルさんは?」
「ライルは王都で店を任せています。本日は私一人でございます」
「王都ですか?凄いですね!」
屋敷と工場を行き来するだけで領地すらまともに出歩いたことがない私からすれば、王都と言う響きは好奇心を擽る。
ふと、お茶が出ていないことに気付き、慌ててお茶を用意した。
「お茶も出さずにすみません。こちらはハーブをブレンドしたものです。どうぞ」
アルベルトさんは匂いを嗅ぐと一口飲んだ。
「ほぉ…これはまた、疲れが取れて落ち着きますな。それに良い香りがします」
若干顔色が良くなったようだ。
忙しくてゆっくり休めなかったのだろう。
「身体の疲れと精神を落ち着かせるハーブを使用した物で、多少ではありますが薬効もあります。お顔の色が悪く見えましたので、ご用意しました」
そう説明した途端、アルベルトさんの瞳がギラッと鋭さを増した。
コワイデス、アルベルトサン。
「ぶれんど、とは何でしょうか?」
何か怖い。
蛇に睨まれた蛙状態の私。
「……複数の茶葉を混ぜ合わせることを指します。アルベルトさんに用意したのは疲れと鎮静作用のあるハーブを混ぜ合わせた物です」
声が震えながらも何とか説明していく。
「なんと!薬効もあるのですか!」
声が大きいっ!思わず身体がビクッと跳ねた。
助けて~!お父さま~!
グイグイ来るアルベルトさんをどうにか押し留めて、父に後のことは任せて逃げ出した私は、従業員のお昼を作るため厨房に来ていた。
と言っても担当を決めているので、私はあくまで助手という立場だ。
味見係りとも言うが。
「ミリアーナ様!おはようございます!」
今日は工場で従業員の皆さんとクッキー作りだ。
二日に一度こうして手伝いに来て、朝から総出で忙しなく動き回っている。
ハーブティー作りも順調のようだ。
アーバイン商会のアルベルトさんの助けもあり、売れ行きは好調だ。
近隣から態々足を延ばして買いに来る貴族や、商人もいるという。
最近は私の持つスキル野草マスターで抽出、精油が出来るようになったことで、数は限られるが香水も販売している。
香水だけは、量産するのが難しいためアーバイン商会でのみ取り扱っている。
彼等はその香水を求めてやって来ているのだ。
香水は高額だから平民には手が出せないが、代わりに匂い袋は平民の間で大人気商品となっている。
この数ヶ月で領地には彼方此方から人々が訪れ、徐々にではあるが賑わいを取り戻している。
領地を離れた若い領民達もその噂を聞きつけ一人、二人と帰省しているという。
そう話す父は嬉しそうだった。
「ミリアーナ様。こちらのハーブの乾燥は終わりました。確認をお願いします」
工場長のベラさんは、この工場に移る前からクッキー作りを手伝ってもらっていて、従業員第一号のベテランさんである。
時々母を手助けしていたそうだ。
ベラさん、本当にありがとうございます。
「うん、パリパリだね。大丈夫だよ。いつも丁寧な作業をしてくれてありがとう!」
「いえ、働く場所が出来て大事な工場を任せて頂いて感謝しております」
ベラさんは苦労人だ。
夫を早くに亡くし女手一つで息子二人を育ててきた。
息子達もそんな母親を見て育ったため、とても真面目でしっかりしている。
もちろん、三人は家の工場で働いてもらっている。
私は二階に上り、執務室のドアをノックする。
入れという父の声で室内に足を入れると、アルベルトさんが来ていた。
「ようこそ、アルベルトさん。お久しぶりです」
彼は彼方此方飛び回って忙しいので、顔を合わせるのは久しぶりだ。
「お久しぶりでございます、ミリアーナ様。お元気そうでなによりです」
流れるような動作で立ち上がり、私が席に着くのを待ってソファに腰を下ろす。
最初の頃は紳士的な対応に驚いたが、会う度にされるので今では慣れてしまった。
「今日はお一人なんですか?ライルさんは?」
「ライルは王都で店を任せています。本日は私一人でございます」
「王都ですか?凄いですね!」
屋敷と工場を行き来するだけで領地すらまともに出歩いたことがない私からすれば、王都と言う響きは好奇心を擽る。
ふと、お茶が出ていないことに気付き、慌ててお茶を用意した。
「お茶も出さずにすみません。こちらはハーブをブレンドしたものです。どうぞ」
アルベルトさんは匂いを嗅ぐと一口飲んだ。
「ほぉ…これはまた、疲れが取れて落ち着きますな。それに良い香りがします」
若干顔色が良くなったようだ。
忙しくてゆっくり休めなかったのだろう。
「身体の疲れと精神を落ち着かせるハーブを使用した物で、多少ではありますが薬効もあります。お顔の色が悪く見えましたので、ご用意しました」
そう説明した途端、アルベルトさんの瞳がギラッと鋭さを増した。
コワイデス、アルベルトサン。
「ぶれんど、とは何でしょうか?」
何か怖い。
蛇に睨まれた蛙状態の私。
「……複数の茶葉を混ぜ合わせることを指します。アルベルトさんに用意したのは疲れと鎮静作用のあるハーブを混ぜ合わせた物です」
声が震えながらも何とか説明していく。
「なんと!薬効もあるのですか!」
声が大きいっ!思わず身体がビクッと跳ねた。
助けて~!お父さま~!
グイグイ来るアルベルトさんをどうにか押し留めて、父に後のことは任せて逃げ出した私は、従業員のお昼を作るため厨房に来ていた。
と言っても担当を決めているので、私はあくまで助手という立場だ。
味見係りとも言うが。
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