14 / 15
第14話 永遠の再会
しおりを挟む
シャルダン侯爵領にある見晴らしの良い小高い丘に、先祖代々続く墓地がある。
リアムは馬の背から降りると、新しく建てた墓を目指して歩みを進める。
墓の前に着いたリアムは、しゃがみ込むと墓に向かって語り始めた。
「兄上。ご報告が遅れたこと、申し訳ございません。全てに片が付いたので本日はそのご報告に参りました。あの女は以前王都で開かれた夜会で、偶然兄上を見かけて一目惚れしたそうです。その後、視察に訪れた兄上を見て手に入れようと画策したそうです。流れの魔道具師から魅了の魔道具を手に入れたのは、本当に偶然だったとのことでした。金でごろつきを雇い、殺さない程度に兄上に危害を加えるように指示を出した後、義姉上の殺害を依頼したそうです。…兄上が記憶喪失になったことを利用して魅了で洗脳したのだと、あの女は白状しました」
苦々しい表情で語りかけた後、一旦言葉を区切り大きく息を吐き出した。
「…父上も母上も極刑を望んでいますが、俺は死んで楽になどさせたくありません。…十年です。十年もの間、探し続けて来たのです。ようやく兄上に再会が果たせたと思ったのに…会話すら交わせなかった。己の欲望のままに兄上と義姉上の仲を引き裂いたあの女を許せません!死にたいと、殺してくれと願わずにはいられないほどの過酷な環境に追いやって、己が犯した罪がどれだけ重いのか知らしめてやりたい!」
怒りで声を荒げた自分にはっと我に返ったリアムは、目を閉じて深呼吸を繰り返した。
落ち着きを取り戻したリアムは、ゆっくりと目を開けると謝罪の言葉を述べて語り始めた。
「安らかに眠っておられる兄上の前で醜態を晒してしまい、申し訳ございません。もうこれで兄上と義姉上の邪魔をする者はいません。…お二人は当時幼かった俺の目から見ても、初々しく仲睦まじい夫婦でした。どうか天上で再び巡り合えていることを切に願います。…兄上のような当主にはなれませんが、領民が心穏やかに暮らしていけるよう努力していく所存です。どうか、見守っていてください」
兄が眠る墓石にそっと触れ立ち上がる。
それから、足を揃えて背筋を伸ばすと、騎士の礼をとりそのまま黙祷を捧げた。
顔を上げたリアムの表情は、憂いが晴れた穏やかな顔をしていた。
来た時とは違うリアムに応えるように、優しい風が頬を撫でるように吹いていった。
若くして当主の座を受け継いだリアムは、慣れない執務に追われる毎日を過ごしていたが、その努力の甲斐もあり領地はますます栄え領民に慕われる存在となった。
婚期が遅れたこともあり、息子が成人するのと同時に隠居生活を送ることになったが、晩年の彼は兄夫婦の墓に日参するのを欠かさなかった。
息子夫婦に待望の跡取りが産まれたのを確認した彼は、ようやく肩の荷が下りたとでもいうようにその数カ月後、家族に見守られながら眠るようにその生涯に幕を閉じた。
波乱に満ちた人生を歩んだ彼は、ようやく穏やかな眠りについたのであった。
『兄上!義姉上!こうして再び会えるとは夢のようです!』
『ああ。そうだな。僕も嬉しいよ。…お前には苦労をかけた。申し訳なく思う』
『そんな!兄上…。謝らないでください。…俺が不甲斐ないばかりに兄上と義姉上を守ることが出来ませんでした。申し訳ございませんでした』
『…もう終わったことだ。それにお前のせいではない。気にするな。それより天上界に来たばかりなのだろう?案内しよう』
『ふふふ。旦那様はわたくしよりも天上界に詳しいんですの。わたくし、屋敷から出ることがなかったから、自分が死んでいたことに旦那様から告げられるまで気づかなかったの。…恥ずかしいかぎりですわ』
ルーカスとリアムを見守るように微笑んでいたフェリスが、二人の会話に加わってきた。
『…フェリ…。君が苦しい思いをしていなくて良かった。…君のその懐の深さに僕は未だに感動を覚えるよ。さすが、僕の最愛の奥さんだ』
『まぁ…。旦那様…』
能天気な義姉上の発言に兄上は柔らかく目を細めて、愛おし気に義姉上を見つめていた。
数十年ぶりの再会ということもあり、リアムは兄と義姉がこんなに能天気な性格だったとは思いもよらず呆気にとられた。
それでもこうして再び会えて会話を交わせたリアムは、喜びで心が満たされていく。
神に感謝の気持ちを心の中で伝え、寄り添って歩く二人の後ろ姿を満面の笑みでいつまでも見守っていた。
リアムは馬の背から降りると、新しく建てた墓を目指して歩みを進める。
墓の前に着いたリアムは、しゃがみ込むと墓に向かって語り始めた。
「兄上。ご報告が遅れたこと、申し訳ございません。全てに片が付いたので本日はそのご報告に参りました。あの女は以前王都で開かれた夜会で、偶然兄上を見かけて一目惚れしたそうです。その後、視察に訪れた兄上を見て手に入れようと画策したそうです。流れの魔道具師から魅了の魔道具を手に入れたのは、本当に偶然だったとのことでした。金でごろつきを雇い、殺さない程度に兄上に危害を加えるように指示を出した後、義姉上の殺害を依頼したそうです。…兄上が記憶喪失になったことを利用して魅了で洗脳したのだと、あの女は白状しました」
苦々しい表情で語りかけた後、一旦言葉を区切り大きく息を吐き出した。
「…父上も母上も極刑を望んでいますが、俺は死んで楽になどさせたくありません。…十年です。十年もの間、探し続けて来たのです。ようやく兄上に再会が果たせたと思ったのに…会話すら交わせなかった。己の欲望のままに兄上と義姉上の仲を引き裂いたあの女を許せません!死にたいと、殺してくれと願わずにはいられないほどの過酷な環境に追いやって、己が犯した罪がどれだけ重いのか知らしめてやりたい!」
怒りで声を荒げた自分にはっと我に返ったリアムは、目を閉じて深呼吸を繰り返した。
落ち着きを取り戻したリアムは、ゆっくりと目を開けると謝罪の言葉を述べて語り始めた。
「安らかに眠っておられる兄上の前で醜態を晒してしまい、申し訳ございません。もうこれで兄上と義姉上の邪魔をする者はいません。…お二人は当時幼かった俺の目から見ても、初々しく仲睦まじい夫婦でした。どうか天上で再び巡り合えていることを切に願います。…兄上のような当主にはなれませんが、領民が心穏やかに暮らしていけるよう努力していく所存です。どうか、見守っていてください」
兄が眠る墓石にそっと触れ立ち上がる。
それから、足を揃えて背筋を伸ばすと、騎士の礼をとりそのまま黙祷を捧げた。
顔を上げたリアムの表情は、憂いが晴れた穏やかな顔をしていた。
来た時とは違うリアムに応えるように、優しい風が頬を撫でるように吹いていった。
若くして当主の座を受け継いだリアムは、慣れない執務に追われる毎日を過ごしていたが、その努力の甲斐もあり領地はますます栄え領民に慕われる存在となった。
婚期が遅れたこともあり、息子が成人するのと同時に隠居生活を送ることになったが、晩年の彼は兄夫婦の墓に日参するのを欠かさなかった。
息子夫婦に待望の跡取りが産まれたのを確認した彼は、ようやく肩の荷が下りたとでもいうようにその数カ月後、家族に見守られながら眠るようにその生涯に幕を閉じた。
波乱に満ちた人生を歩んだ彼は、ようやく穏やかな眠りについたのであった。
『兄上!義姉上!こうして再び会えるとは夢のようです!』
『ああ。そうだな。僕も嬉しいよ。…お前には苦労をかけた。申し訳なく思う』
『そんな!兄上…。謝らないでください。…俺が不甲斐ないばかりに兄上と義姉上を守ることが出来ませんでした。申し訳ございませんでした』
『…もう終わったことだ。それにお前のせいではない。気にするな。それより天上界に来たばかりなのだろう?案内しよう』
『ふふふ。旦那様はわたくしよりも天上界に詳しいんですの。わたくし、屋敷から出ることがなかったから、自分が死んでいたことに旦那様から告げられるまで気づかなかったの。…恥ずかしいかぎりですわ』
ルーカスとリアムを見守るように微笑んでいたフェリスが、二人の会話に加わってきた。
『…フェリ…。君が苦しい思いをしていなくて良かった。…君のその懐の深さに僕は未だに感動を覚えるよ。さすが、僕の最愛の奥さんだ』
『まぁ…。旦那様…』
能天気な義姉上の発言に兄上は柔らかく目を細めて、愛おし気に義姉上を見つめていた。
数十年ぶりの再会ということもあり、リアムは兄と義姉がこんなに能天気な性格だったとは思いもよらず呆気にとられた。
それでもこうして再び会えて会話を交わせたリアムは、喜びで心が満たされていく。
神に感謝の気持ちを心の中で伝え、寄り添って歩く二人の後ろ姿を満面の笑みでいつまでも見守っていた。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
40
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる