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第11話 家族の慟哭

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 眠るように息を引き取った兄ルーカスを、リアムは泣き腫らした顔で茫然と見ていた。



 リアムの到着から遅れること二日。
 とる物もとりあえず急いで駆け付けて来た両親は、ルーカスの変わり果てた姿に泣き崩れた。

「あぁぁ!ルーカス!こんなにやつれてしまうなんて…。一体何があったというの!?」

 冷たくなったルーカスの体に縋りつき、半狂乱に泣き叫ぶ母の肩を、唇を嚙みしめて抱きしめる父。
 商会長の配慮により、リアムたち家族のみが寝室に通されたとはいえ、母の絶叫に近い悲痛な叫び声は屋敷中に響き渡っていた。





 しばらく母の傍に寄り添っていた父は、茫然と立ち尽くすリアムに静かに近寄り声をかけた。

「…ご苦労だった。リアム。辛い思いをさせてすまない…。…少し休んだらどうだ?顔色が悪いぞ」

「…いえ。俺は大丈夫です。…それより、お伝えしたいことがありますので、場所を変えませんか?」

 肩にそっと手を置かれたリアムはゆっくりと父に視線を合わせると、沈痛な面持ちの父に告げた。

「……わかった」

 扉の向こうで待機していた従者に母の傍に控えておくように告げると、二人は自分達に用意されている客室へと向かった。







「…何か分かったのか」

 客室へ入るなり、父は静かに尋ねた。

「…はい。十年前の記録とここ数日間で得た情報で、兄上の身に何が起こったのか大体のことは把握出来ました。今は犯人の居場所を特定しているところです」

「…犯人…。そうか。犯人が居たのか…」

 父は拳を握りしめて続きを促した。

「…十年前の記録によりますと、魔獣に襲われて馬車が崖下へ転落とありました。しかし、そこは人々が多く行き交う場所であり、魔獣対策もしっかりとされていたそうです。にも関わらず魔獣が現れた。そのことに疑問を持った者が入念に調べたところ、魔獣をおびき寄せる液体が撒かれていた痕跡が見つかったとのことでした。転落した馬車の周囲には複数の足跡も残っていたそうです。…ですが、そこから先の足取りは全く掴めなかったようです」

 記録を何度読み返しても沸々と怒りが沸き上がり、怒りで声が震えてしまう。

「…それが今回の件で全て繋がったというのだな」

 そんなリアムを落ち着かせるためなのか、父は努めて冷静に言葉を紡いだ。

「……はい」

「…我が侯爵家の力を持ってしても十年間手がかりは何一つ掴めなかったというのに、たった数日で犯人の特定まで漕ぎ着けるとは…。喜ばしいことだとは思うが…」

 冷静に話す父も拳を握りしめたまま、複雑な心境を思わず漏らしていた。
 項垂れる父とリアムにしばし沈黙が流れる。

 父はゆっくりとした足取りで窓際に向かうと、深く息を吐き振り返った。
 その瞳には強い意志が宿っていた。

「亡きフェリス嬢とそのご家族のためにも一刻も早く犯人を探し出し、少しでも心の負担を軽くして差し上げよう。…我々に出来ることはそれしかない。ただし、決して無茶はするな。いいな」

 リアムは力強く頷くと、すぐさま騎士に召集をかけ綿密に計画を立てた。
 ルーカスの遺体は腐敗が進むのを止めるため、魔法で氷の棺を作りそこに一旦寝かせておくこととなった。
 全てが片付いたら領地に戻り、葬儀を執り行うことで家族との話し合いは纏まった。






 父が懇意にしている商会長の助けもあり、証拠が次々と出揃っていく。
 客室に設置された執務机に書類が置かれ、リアムは見落としのないように隈なく目を通していきため息を吐いた。

「あれだけ手がかりを掴むことすら困難を極めたというのに、なんとも呆気ないものだな。俺もまだまだ未熟ということか…」

 書類を執務机に苛立たし気に乱暴に置き、背もたれに体を預けると天井を仰ぎ見た。
 文官肌のルーカスとは違い、リアムは考えるよりも先に体が動いてしまう行動派だ。
 つくづく自分の考えの浅さに嫌気が差してしまう。

「…兄上。今頃は義姉上と共に居られるだろうか」

 天井を仰ぎ見たまま呟く。
 瞼を閉じると、優しい瞳で穏やかに笑い合うルーカスと義姉の姿が、まるで昨日のことのように鮮明に浮かび上がる。

 亡くなる間際のルーカスは、痛みや苦しさから解放されたのか穏やかに笑みを浮かべていた。
 義姉に会えたのかもしれない。
 そんな都合の良い解釈をして自分を納得させた。

「兄上。義姉上。必ず犯人を捕らえ、罪を償わせます。ですからどうか、安らかにお眠りください」

 二人の冥福を祈ったリアムは、ゆっくりと目を開けると再び書類に視線を移した。
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