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第8話 魅了による中毒症状
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「…そんな。イヴォンヌが…?なぜだ」
愕然となり衝撃に鼓動が大きく波打つ。
イヴォンヌと離れて一人で行動をするのは、結婚式を挙げてからは初めてのことで不安や戸惑いがあった。
しかし、時間が経つ毎にそういった気持ちが薄れていき、イヴォンヌから離れられることに喜びを感じていた。
そんな矛盾した気持ちに戸惑いを覚えつつも、商会長の話しを聞いてからはますますイヴォンヌの言動に不信感を募らせていた。
「思い出さなければいけない」
拳を握りしめて顔を上げたルークの瞳には、決意が漲っていた。
「お待たせいたしました。こちらの木箱に入っている物を見ていただきたいのです」
商会長が両手に木箱を載せて応接室に入って来ると、大事そうに木箱をテーブルに置いた。
それから僕を窺うように一瞥すると、木箱の蓋を開けて中身を見せてくれた。
「…失礼ですが、こちらの装飾品に見覚えはございませんか?」
木箱の中身は、それは見事な女性用の髪飾りが入っていた。
緑色の宝石が散りばめられた金細工の髪飾りを食い入るように眺めていた僕は、まだ若干残っていた頭の中の霧が一気に晴れていくのを感じた。
と同時に頭と胸の奥に激しい痛みが襲い頭を抱えた。
「…うぅ…」
「ルーク殿!どうなさいました!誰か!誰かいないか!」
頭と胸を押さえたままソファからずり落ちるようにして膝を付いたルークに、血相を変えて駆け寄って来た商会長の声が室内に響き渡り、扉の向こうで待機していた執事が慌てて入って来た。
激しい頭痛と吐き気に、周囲の言葉に耳を傾ける余裕が無くなっていたルークは、そのまま意識を手放した。
「…う、フェリ…。フェリ…」
高熱に浮かされるルークに、医師は沈痛な面持ちで診察していた。
医師の隣には、やはり同じような表情でルークを見守る商会長の姿があった。
ルークの腕をとり脈をとっていた医師は、商会長を仰ぎ見るとゆっくりと力なく首を横に振った。
商会長は医師に視線でついて来るように合図を送ると、先頭に立って寝室から静かに出て行った。
商会長の後に続いて寝室を出た医師は、無言のまま執務室に通されてソファに腰を降ろす。
「…彼の容態は良くないのか?」
「…はい。お力になれず、申し訳ございません」
商会長の静かな問いかけに医師は深々と頭を下げた。
「…そうか…。彼は何か持病でもあるのか?」
「……あの症状は…持病ではないでしょう。…彼と似たような症状の患者を診たことがございます。独特の甘い体臭もしておりますので…間違いないでしょう…」
医師はその症状に見覚えがあったようで、慎重に言葉を選んで話す。
その表情から決して良いものではないと察しが付いた。
「遠慮はいらん。彼のご家族に早く伝えたいのだ。…病名を教えてくれ」
彼がシャルダン侯爵家のルーカスであることは、あの髪飾りを見せた時の反応から確信していた。
医師を呼んでいる間に侯爵家に遣いを出す準備はすでに整えてある。
逸る気持ちを抑え医師に尋ねた。
「……魅了による中毒症状でございます。おそらく長年にわたり何度も魅了を施されたのでございましょう…。無理矢理、精神を縛られ洗脳状態にいたと思われます。…腕の良い解呪師でも症状を緩和出来ても、完治させるのは難しいかと…。お役に立てず申し訳ございません」
「…魅了による中毒症状、だと…?」
医師の説明を聞いているうちに、段々と顔色が悪くなる商会長は震える声で確認した。
「すまないが急いで腕の良い解呪師を呼んでほしい。…一目だけでも彼のご家族に会わせたいのだ。見たところ一刻の猶予もないのだろう?頼めるか?」
「はい。すぐにでも」
そう応えた医師は返事をするなり足早に執務室から退室して行った。
商会長は医師を一瞥した後、したためた手紙を侯爵家に渡すよう遣いに伝えた。
愕然となり衝撃に鼓動が大きく波打つ。
イヴォンヌと離れて一人で行動をするのは、結婚式を挙げてからは初めてのことで不安や戸惑いがあった。
しかし、時間が経つ毎にそういった気持ちが薄れていき、イヴォンヌから離れられることに喜びを感じていた。
そんな矛盾した気持ちに戸惑いを覚えつつも、商会長の話しを聞いてからはますますイヴォンヌの言動に不信感を募らせていた。
「思い出さなければいけない」
拳を握りしめて顔を上げたルークの瞳には、決意が漲っていた。
「お待たせいたしました。こちらの木箱に入っている物を見ていただきたいのです」
商会長が両手に木箱を載せて応接室に入って来ると、大事そうに木箱をテーブルに置いた。
それから僕を窺うように一瞥すると、木箱の蓋を開けて中身を見せてくれた。
「…失礼ですが、こちらの装飾品に見覚えはございませんか?」
木箱の中身は、それは見事な女性用の髪飾りが入っていた。
緑色の宝石が散りばめられた金細工の髪飾りを食い入るように眺めていた僕は、まだ若干残っていた頭の中の霧が一気に晴れていくのを感じた。
と同時に頭と胸の奥に激しい痛みが襲い頭を抱えた。
「…うぅ…」
「ルーク殿!どうなさいました!誰か!誰かいないか!」
頭と胸を押さえたままソファからずり落ちるようにして膝を付いたルークに、血相を変えて駆け寄って来た商会長の声が室内に響き渡り、扉の向こうで待機していた執事が慌てて入って来た。
激しい頭痛と吐き気に、周囲の言葉に耳を傾ける余裕が無くなっていたルークは、そのまま意識を手放した。
「…う、フェリ…。フェリ…」
高熱に浮かされるルークに、医師は沈痛な面持ちで診察していた。
医師の隣には、やはり同じような表情でルークを見守る商会長の姿があった。
ルークの腕をとり脈をとっていた医師は、商会長を仰ぎ見るとゆっくりと力なく首を横に振った。
商会長は医師に視線でついて来るように合図を送ると、先頭に立って寝室から静かに出て行った。
商会長の後に続いて寝室を出た医師は、無言のまま執務室に通されてソファに腰を降ろす。
「…彼の容態は良くないのか?」
「…はい。お力になれず、申し訳ございません」
商会長の静かな問いかけに医師は深々と頭を下げた。
「…そうか…。彼は何か持病でもあるのか?」
「……あの症状は…持病ではないでしょう。…彼と似たような症状の患者を診たことがございます。独特の甘い体臭もしておりますので…間違いないでしょう…」
医師はその症状に見覚えがあったようで、慎重に言葉を選んで話す。
その表情から決して良いものではないと察しが付いた。
「遠慮はいらん。彼のご家族に早く伝えたいのだ。…病名を教えてくれ」
彼がシャルダン侯爵家のルーカスであることは、あの髪飾りを見せた時の反応から確信していた。
医師を呼んでいる間に侯爵家に遣いを出す準備はすでに整えてある。
逸る気持ちを抑え医師に尋ねた。
「……魅了による中毒症状でございます。おそらく長年にわたり何度も魅了を施されたのでございましょう…。無理矢理、精神を縛られ洗脳状態にいたと思われます。…腕の良い解呪師でも症状を緩和出来ても、完治させるのは難しいかと…。お役に立てず申し訳ございません」
「…魅了による中毒症状、だと…?」
医師の説明を聞いているうちに、段々と顔色が悪くなる商会長は震える声で確認した。
「すまないが急いで腕の良い解呪師を呼んでほしい。…一目だけでも彼のご家族に会わせたいのだ。見たところ一刻の猶予もないのだろう?頼めるか?」
「はい。すぐにでも」
そう応えた医師は返事をするなり足早に執務室から退室して行った。
商会長は医師を一瞥した後、したためた手紙を侯爵家に渡すよう遣いに伝えた。
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