単なるセフレだったはずの王宮騎士団のイケメンエースが、なぜか身分違いの俺に激しく執着しはじめて、周囲をドン引きさせているって本当ですか!?

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71.ホワイトクロウ

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 重厚な扉を開け放ち、審問室に入ってきたのは、ラムとアリャンだった。

 ラムはいつもの白いローブではなく、黒ずくめの恰好だった。マントまで漆黒に染まったその姿は、いつものラムとはまるで違う人物のように思えた。

 そしてそれはアリャンも同じこと。アリャンはいつもの舞台俳優としての華やかさは鳴りを潜め、黒い影のようにしてラムの後ろに控えていた。


「法務長、僕がご説明します。その張り型は、僕がイーサンに贈ったものです」

 ゆっくりと歩いてくるラムの涼やかな声に、会場はどよめいた。


「貴君は……、上級白魔導士のラム・ノディアル殿で間違いないのですな?」

 法務長はまじまじとラムの姿を観察する。


「ええ、その通りです。そして後ろにいるのが僕のパートナーのアリャン・シャーです」

 なぜ舞台俳優が王宮の審問室にいるのか、評議席の貴族も訳が分からない様子で、ただ成り行きを見守っている。

 ラムは椅子に座る俺に微笑みかけた。


「ごめんね、イーサン。シヴァに頼まれたヤボ用を片付けてたら、遅くなっちゃった!」



「では、ラム・ノディアル君、説明してください。なぜ、貴君はこのイーサン・シャルマにこの箱の中身を贈ったのでしょう?」

 法務長の言葉に、ラムはにやりと笑った。

「なぜ? なぜって、決まっているではありませんか。僕は、このイーサンにずっと以前から想いを寄せていたのです。
でも、このイーサンは頑なにここにいるシヴァ・ミシュラへの初恋をあきらめようとしませんでした。
そこで僕は考えたんです……」

 ラムは茫然とする俺をちらりと見た。

「そのころ、イーサンとシヴァの接点はなく、どうやらイーサンのシヴァへの想いは実りそうにないと悟った僕はこう考えました。
そのうち、イーサンもシヴァのことをあきらめて、近くにいる僕の想いに気づいてくれるだろう、と。
だから、僕はイーサンの友達として、シヴァへの恋心の相談にのりながら、男同士の愛し合い方を教えるふりをして、そういう行為に抵抗をなくさせ、あわよくば僕がイーサンの初めての相手になろうと目論んだんです」

「貴様っ……、そんなことを考えていたのかっ!?」

 シヴァが拳を握り締め、ラムを睨みつけた。


「もちろん、それを僕が贈った証拠はありますよ。店に確かめてもらって構いません。
アレは特注なんでね、何しろ僕のモノの形をそのままかたどっているものだから! 
どうしてそんなものを贈ったかって? それはもちろん、イーサンの初めての後ろを犯すものが僕のモノであればいいという願望からですよ。張り型の使い方を教えるふりをして、そのままなし崩し的に行為に持ち込めればいいという期待もありました。
……ごめんね、イーサン。純真な君の気持ちを利用して、僕は君を自分のものにしようとしていたんだ」

 ラムがその大きな瞳をこちらに向けた。

「ラム……」

 俺は信じられない思いでラムを見返した。
 ラムは背筋を伸ばし、まっすぐ法務長に向き直った。


「僕は友達として、イーサンのことをとても良く知っています。彼の名誉にかけて誓いますが、あの張り型は一度も使われたことはありません。
イーサンはただの一度も、男をその身に迎え入れたことはありませんよ。この僕が保証します!」


「貴様っ、許さんっ、何も知らないイーサンを手籠めにするつもりだったのだなっ!!」

 シヴァがラムに近寄ろうとするが、それより先に、サンカルが慌てて俺たちの前に進み出た。


「駄目です皆さん! 信じてはなりませんぞ!
この白魔導士はイーサンの友人です。イーサンを助けるために嘘を言っているに違いないのです。
皆さんの中にもご存知の方はいるはずです。先のアミュレットのお披露目舞踏会で、この男は後ろにいる舞台俳優と仲睦まじくしていたではありませんか!
今も「パートナー」と舞台俳優を紹介したじゃないか。嘘はいけないぞ、上級白魔導士ともあろうものが!」


「それは嘘なんかじゃないぜ、護衛騎士様!」

 今まで黙っていたアリャンが、楽しげな口調で言った。

「俺とラムはれっきとしたパートナーだ。だが、みなさんが考えているような色っぽい関係じゃない。
ここにいる人間も、本当の俺たちの姿を知っている者は一握りだがいるはずだぞ」

 そう言ってアリャンはゆっくりと、評議席を見渡した。


「ホワイトクロウか……」

 どこからか聞こえてきた声に、ラムは薄笑いを浮かべた。


「そう。僕たちのペアコードネームはホワイトクロウ。そして僕自身のコードネームは「霧の槍」を意味するフォグランス、アリャンは「夕闇の羽」のダスクフェザー。
他にも誰か、聞いたことくらいはある人がいるんじゃないかな?」

 ラムとアリャンは、並び立った。


「そう、僕たちは、この国の最高機密機関に所属する諜報部員だ」




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