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44.語らいのひととき

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 帰宅したとき、俺を迎えてくれる誰かがいるというのは、とても不思議でくすぐったい感覚だ。


「おかえり、イーサン」

 なんと今日のシヴァは、キッチンで何やら奮闘している!


「ただいま、今日は早かったんですか?」

「ああ、帰りに市場で炎獣の肉を買ってきた!」

「いい匂い! ステーキですか?」

 俺は後ろから、リラックスした私服姿のシヴァの手元をのぞき込む。


 うん、なかなかいい手つき! 火力も十分!


「ああ、イーサンの料理には程遠いが、騎士の遠征で野営をするので、肉くらいは一人で焼ける」

 
 俺に座るように促すと、シヴァはテーブルにステーキとサラダを手早く並べてくれた。


「イーサンは、仕事でいつも料理をしてるんだ。家にいるときくらい、たまには人に作ってもらってもいいだろう?」

 はにかむように笑うシヴァに、俺の心臓はいともたやすく射抜かれる。


 ――ぐぅ、好き!!!!

 料理もできる男とか! シヴァに死角はないのかっ!?



 シヴァの焼いてくれたステーキは、男の料理らしく豪快で、スパイスたっぷりに仕上げてあった。


「上にかかっているのは、燐光樹の木の蜜ですか? ほんのり甘くて、肉のジューシーさが際立ちますね」

「さすがは料理人だな。実はこの仕上げは我が家の伝統なんだ。気に入ってくれたなら、うれしい」


 食卓を囲んで、シヴァと二人。

 こんな夢みたいな生活を送る日々がくるなんて……!! 俺は神に感謝しなければならない!


「今日は例の件で隣国の大使に会ってきた。しかし、これといった進展はなかったな。
あの怪盗はまさに神出鬼没で、どんな姿かたちをしているのか、年齢も、男なんか女なのかすらもわからないときている」

 そしてシヴァは毎日、こうして日々あったことを俺に報告してくれる。
 まるで本当のアツアツ新婚夫婦みたいに!!



「じゃあ、ロハン様もご一緒だったんですね」

 だが、俺が軽々しく口にした一言で、楽しい夕食の語らいは一瞬で不穏なものに変わってしまう。


「なぜ、ロハンのことを聞く? そんなにロハンのことが気になるのか?」

 ギロリとにらまれ、しまったと思ったが、もう遅い。


「いえ、そういう、わけでは……」

「そういえば茶会でのあの時、アイツの執務室に誘われていていたな。あのあと、アイツのもとを訪ねたのか?」

「いえ、まさか! あのあと片づけをしてそのまま食堂に……」


 なぜ今頃、そんな話を蒸し返す!?
 あんなの、冗談にきまってるのに。


「……作るつもりなのか?」

 低く響く声で、シヴァが俺に問う。

「は?」

「作るつもりなのか、と聞いている! アイツをイメージした菓子とやらを!!」

「はあっ!?」


 すっかり忘れていたが、たしかロハンがそんなことを言っていた、ような……。


「いえ、今のところ、そういう、つもりは、特に……」


「あの殿下をイメージしたというタルトは、とても完成度が高かった……」

 何か言いたげなシヴァに、俺はピンときた。


「じゃあ俺、次はシヴァをイメージしたデザートを作りたいです。
これを食べたら、一緒に作りませんか?」



 

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