21 / 84
21.ミルス蜜たっぷりの月花ブレンドティー
しおりを挟む
『炎のステーキ』は、俺の得意料理の一つで、火炎のような強い色合いの赤身肉を使用し、強い火力で表面をカリっと焼き上げつつ、中身は柔らかくジューシーに仕上げた豪快な肉料理だ。
火を入れて温め直したステーキの皿を目の前に、シヴァはごくりと唾を飲みこんだ。
「この橙色のソースはなんだ?」
「何種類かの野菜とスパイスを煮詰めて作っているんです。俺の特製で『夜火のソース』って呼んでます」
シヴァは上品な手つきで、肉にナイフを入れた。
一口サイズの肉を咀嚼したシヴァは、一瞬目を見開き、ギラリとした目つきで俺を見た。
「この付け合わせの揚げ物は?」
「月桂芋のフライです。サクサクして食感がいいんです」
フライを突き刺すと、ナイフで切らずに一口で食べてしまったシヴァ。
「どう、ですか?」
「……」
そわそわと見守る俺を無視し、無言でひたすら食べ続けるシヴァ。
やっぱり、肉がもう固くなっちゃってた!?
っていうか、そもそもこんな大衆的な料理、位の高い貴族でもあるシヴァの口になんか、合うはずない!?
思わず謝罪の言葉を口にしようとする俺に、あっというまに皿の上すべて平らげてしまったシヴァは、優雅に口元をナプキンでぬぐった。
「夕日の色と同じ……、お前の髪と目の色も思わせるこのソースは、深い味わいだな。肉の良さを、引き出している」
「ファッ!!?? あ、ありがとう、ございますっ!!」
ちなみに俺は人参の色とそっくりといわれる髪色と瞳をしている。「夕日の色」なんて素敵な表現を使って俺を形容したのはシヴァが初めてだ。
たぶん、褒められて、いるんだよな?
「あっ、お茶、入れますね。すみません、気が付かなくて!」
俺は弾かれたように立ちあがると、沸騰した湯でお茶をいれた。
本当は、昨日の高級葡萄酒があればもっと良かったのだが、あいにくキリカが持ってきた葡萄酒は昨夜三人で全部飲み切ってしまっていた!
「いい香りだ」
いれたてのお茶を前に、シヴァは静かに言った。
「月花ブレンドティーです。月影葉と星夜花のミックスで、香りづけに焔花実を入れています。あ、甘いのがお好みなら、ミルス蜜をスプーンで一杯足してみてください。とても温まりますよ」
シヴァは言われた通り、蜜の入った壺からティーカップにミルス蜜をたっぷりとすくいあげた。
――うん、なかなかの甘党とみた!
「本当だ、なんだかホッとするな……」
リラックス効果もあるといわれる月影葉を煎じた月花ブレンドティーに、強張っていたシヴァの表情もやわらいでいた。
「お口にあったなら、良かったです」
どぎまぎしながら、俺は言った。
こんな風に、テーブルで俺の料理をはさんで二人で向かい合っていたら、まるで俺たち新婚さんみたい!!
――まあ、そんなこと、実際にはありえないんだけど!
火を入れて温め直したステーキの皿を目の前に、シヴァはごくりと唾を飲みこんだ。
「この橙色のソースはなんだ?」
「何種類かの野菜とスパイスを煮詰めて作っているんです。俺の特製で『夜火のソース』って呼んでます」
シヴァは上品な手つきで、肉にナイフを入れた。
一口サイズの肉を咀嚼したシヴァは、一瞬目を見開き、ギラリとした目つきで俺を見た。
「この付け合わせの揚げ物は?」
「月桂芋のフライです。サクサクして食感がいいんです」
フライを突き刺すと、ナイフで切らずに一口で食べてしまったシヴァ。
「どう、ですか?」
「……」
そわそわと見守る俺を無視し、無言でひたすら食べ続けるシヴァ。
やっぱり、肉がもう固くなっちゃってた!?
っていうか、そもそもこんな大衆的な料理、位の高い貴族でもあるシヴァの口になんか、合うはずない!?
思わず謝罪の言葉を口にしようとする俺に、あっというまに皿の上すべて平らげてしまったシヴァは、優雅に口元をナプキンでぬぐった。
「夕日の色と同じ……、お前の髪と目の色も思わせるこのソースは、深い味わいだな。肉の良さを、引き出している」
「ファッ!!?? あ、ありがとう、ございますっ!!」
ちなみに俺は人参の色とそっくりといわれる髪色と瞳をしている。「夕日の色」なんて素敵な表現を使って俺を形容したのはシヴァが初めてだ。
たぶん、褒められて、いるんだよな?
「あっ、お茶、入れますね。すみません、気が付かなくて!」
俺は弾かれたように立ちあがると、沸騰した湯でお茶をいれた。
本当は、昨日の高級葡萄酒があればもっと良かったのだが、あいにくキリカが持ってきた葡萄酒は昨夜三人で全部飲み切ってしまっていた!
「いい香りだ」
いれたてのお茶を前に、シヴァは静かに言った。
「月花ブレンドティーです。月影葉と星夜花のミックスで、香りづけに焔花実を入れています。あ、甘いのがお好みなら、ミルス蜜をスプーンで一杯足してみてください。とても温まりますよ」
シヴァは言われた通り、蜜の入った壺からティーカップにミルス蜜をたっぷりとすくいあげた。
――うん、なかなかの甘党とみた!
「本当だ、なんだかホッとするな……」
リラックス効果もあるといわれる月影葉を煎じた月花ブレンドティーに、強張っていたシヴァの表情もやわらいでいた。
「お口にあったなら、良かったです」
どぎまぎしながら、俺は言った。
こんな風に、テーブルで俺の料理をはさんで二人で向かい合っていたら、まるで俺たち新婚さんみたい!!
――まあ、そんなこと、実際にはありえないんだけど!
1,971
お気に入りに追加
3,292
あなたにおすすめの小説

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。


【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる