単なるセフレだったはずの王宮騎士団のイケメンエースが、なぜか身分違いの俺に激しく執着しはじめて、周囲をドン引きさせているって本当ですか!?

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20.花束とステーキと騎士団のエース

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 夜も更けたところで、俺の森小屋の扉が礼儀正しくノックされた。

 俺は飛び上がるようにして立ちあがると、慌てて扉を開ける。


 そしてもちろん、そこには俺の麗しの想い人、シヴァ・ミシュラの凛々しい姿があった。


 ――やっぱり、現実だったんだ!!

 今更ながら、感動に打ち震える俺。


「不用心だな。開ける前に、誰が外に立っているのか確認した方がいい」

 俺にちらりと目を向けると、シヴァは小さくため息をつく。


「でも……、今日ここに来るのはあなたしかいないし……」

 俺がシヴァを招き入れると、シヴァはあらためてあたりを見渡した。

 今日は事前にシヴァが来ることがわかっていたため、床の水拭きまでする徹底的な掃除をしていた!
 床はいつもより光っていたが、元が元だけに、やはり俺とは身分の違いすぎるシヴァにはこの場所はあまりにも不釣り合いに見えた。

「あの……」

 もちろん仕事を終えて帰宅してから、俺自身も浴室で徹底的に磨き上げていたが……。

 ――なにしろ、手順が、わからない。


 いつもここにくるキリカやラムだったら、適当につまみをつくって出すと、そのまま酒盛りが始まるのが常だったが、ここにいるシヴァは俺と酒を飲みながら語らいに来たわけではない。

 このまま奥にある、ベッドに案内するのが正解なのだろうか?

 考えあぐねている俺の鼻先に、急に豪勢な花束が突きつけられた。


「……?」

「これを」

 怒ったようなシヴァの顔。


「これは……?」

「花だ!」

 いや、それは見たらわかる!


 その花束は、とても珍しいファーニル薔薇の花束だった。ものすごくたくさんの数の薔薇が、高級そうな金色のリボンでまとめられている。
 ちなみにファーニル薔薇とは、ほとんど黒に近い濃紫色をしていて、花びらの先が金色に光る大変珍しいバラだ。またこの薔薇の花言葉は「忠誠心」で、特に騎士に好まれていると聞く。

 だから、つまり、これは……。


「えーっと、今日は騎士団の帰りですか?」

 俺は騎士団の青い制服のシヴァに聞いた。

「そうだ。マヤ王女に謁見し、そのままここに来た」


 なるほど!!

 俺の愚鈍な頭にもひらめくものがあった。

 だからたぶんこの花束は、護衛騎士を辞めたシヴァへ、王女からのはなむけで贈られたものなのだ! なにしろ、シヴァのイメージにぴったりだし!

 だから俺の家でのシヴァの滞在中、この大変貴重な花束を、俺は責任を持って預からねばならない!!


「すみません、うち、花瓶がなくて! だから木桶につけて枯れないようにしておけば大丈夫ですか?」

「ああ、それで十分だ」


 シヴァの返事にホッとした俺は、慌てて洗面所に向かった。

 ――これで、よしっと。


 なみなみと水を入れた木桶に、花束を入れた俺は、居間(といっても一間しかないのだが!)に戻った。

 そして、手狭なキッチンスペースをなにやらのぞき込んでいるシヴァに、俺は固まってしまった。


「いい匂いがするな……」



「あ! すみません、においますよね!? 明日の定食の試作品を作っていて……」

 明日の定食は、第三騎士団がチーム戦で仕留めたという大型炎獣の赤身肉をつかったステーキにするつもりで、今日の俺の夕食はその試作品だった。
 ただ、これからシヴァが来るかもしれないというドキドキ感から、ほとんど食事が喉を通らなかったため、手つかずの状態でフライパンの上に残っていた。

 匂いが気にならないように木の蓋をしておいたのだが、もしかして俺が気づいていなかっただけで、この部屋中が赤身肉のステーキ臭かったのかも!?


「うまそうな匂いだ。肉を焼いたのか?」

 青ざめる俺だったが、意外にもシヴァはフライパンの中身に興味を示している!


「はい、大型炎獣の赤身肉のステーキです。でももうすっかり冷めてしまっていますし……」

「炎獣の肉は、俺の好物だ」

 期待に満ちたシヴァの瞳。
 これって、もしかして……!?

「あ、そうなんですね!? ……えーっと、もしよかったら……?」

「いただこう!」


 まさかの俺の手料理を、シヴァにふるまえる日が来るとは!!(※注 夕食の残り物)



 



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