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13.第二の遭遇
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「おい!」
「ひっ……!!」
今日の仕事を終えて、家に戻る途中。
あのいつもの近道の植え込みから、にゅっと長い腕が一本でてきた。
「お前、毎日王宮で何をしている?」
現れたのはまさかのあのシヴァ・ミシュラ。
今日も今日とて麗しい騎士服に身を包んだその姿は、俺に心からの感動を与えてくれた。
――昨日に続いて、今日までも!!
生きてて、良かった!!
もう、この際、精霊の化けたやつとかでもいい。許す!!
「聞いているんだ。お前、どうやってまた王宮に入り込んだ?
誰の手引きだ? こうして毎晩相手の男を探しているのか?」
「えっと、あの、その……」
茂みの中からシヴァが現れただけでもびっくりなのに、矢継ぎ早に質問されては、俺のショボい脳の処理能力ではついていけない。
「今日は誰の相手をするつもりだ!?」
腕をつかまれ、引き寄せられる。
――やっぱり、いい匂いがするぅ!!!!
しかも翡翠の瞳に、俺の魂は吸い込まれてしまいそう……。
「なぜ答えない!?」
苛立った様子のシヴァに、俺はようやく我に返った。
「あ、違う、違うんです!
俺は決して毎日あんな風に誰かに声をかけたりなんか、していません。
俺、王宮の第三食堂に勤めている、イーサン・シャルマです。
王宮に忍び込んでいるわけじゃありません!
俺は仕事が終わったので、今から、自分の家に帰るところで……」
「イーサン……」
シヴァは俺の名前を反芻した。
この唇で自分の名前を紡がれる日が来るなんて!!
「あの、昨日は、ありがとうございました! 俺、本当に、夢みた……」
「今日の相手が決まっていないというなら、また俺が相手をしてやろう」
ぐっとシヴァは俺の腰を引き寄せてきた。
「へ……?」
――今、なんて!?
「昨夜は、なかなか楽しめた。さあ、行くぞ」
俺の腰を抱いて歩き出すシヴァ。
だが、俺は思い出してしまった。
「あのっ、大変ありがたいお誘いなのですが、今日は無理です!」
俺の言葉に、シヴァの脚が止まる。
「無理……だと?」
「先約があって、その、申し訳、ありませんっ!」
くぅー、こんな千載一遇のチャンスを自ら不意にしてしまうとは!
もう二度と、誘われることなんてないにちがいないのに!
でもキリカとは先に約束してたし、いまさらドタキャンなんて無理だし……!
「なるほど、今日はすでに相手がいるのか?」
シヴァが暗い目を俺に向ける。
「え? 相手、というか、その……、友達、です!」
「友人ともそういうことをするのか。ふん、盛んなことだな。もう一度聞くが、お前が今関係を持っているのは何人だ?」
「それは……」
「言えないのか?」
俺はただうなずく。
っていうか、本当はそんな相手、どこにもいないんだけどね。
「……なら、明日は?」
シヴァがずい、と迫る。
「え?」
「明日の夜は? まさかもうすでに予約が入っているのか?」
「え? いえ、明日はたぶん、大丈夫……」
チャプラさんに翌日の仕込みの残業を言われなければって……、
ええっ!?
「では、明日の夜、お前の家に行く」
一体何にそんなに腹を立てているのか全く不明だが、眉間に深いしわをよせたシヴァが言う。
これじゃまるで、すごく気乗りしない仕事の予定を決めているみたいだ。
「手を出せ」
怖い顔のシヴァに恐る恐る手を差し出すと、何かを握らされた。
「あの……」
「昨日の代金だ。遅くなってすまない」
こわごわ指を開くと、そこにはなんと金貨が一枚!
ちなみに俺の給料3か月分!!
「こ、困りますっ! こんなに……っていうか、俺、違いますから!! 本当にそういう商売をしているわけではないんです!!」
どうやら俺を男娼だと勘違いしたままのシヴァは、律儀にも代金を支払うために俺を待っていてくれたようだ。
「いいからとっておけ」
「だめですっ! こんなことしてもらったら、俺、もうあなたとは会えません!」
俺の言葉に、シヴァは驚いた顔をした。
「なら、お前は、どうして……」
「とにかく、これはいただけません。俺っ、そんなことしてもらわなくても、あなたとの時間は、つまり……、
そう、あなたと一緒にいられるだけで……、俺にとってはその時間が宝物なんですっ!!」
「くっ……」
俺の精一杯の愛情表現に、なぜかうろたえた顔をするシヴァ。
そりゃそうだ。俺みたいな男に、宝物とか言われてもわけわかんないし、キモいだけだよな。
それに昨晩のアレでは、どっちかっていうとお金を払わなければならないのは俺のほうのような気がする。
俺はシヴァに無理やり金貨を返すと、なんとなく、これ以上この場にはいてはいけない気がして、そのままそこから走って逃げた。
――にしても、明日の夜俺の家にシヴァが来るって、もしかして空耳かな?
「ひっ……!!」
今日の仕事を終えて、家に戻る途中。
あのいつもの近道の植え込みから、にゅっと長い腕が一本でてきた。
「お前、毎日王宮で何をしている?」
現れたのはまさかのあのシヴァ・ミシュラ。
今日も今日とて麗しい騎士服に身を包んだその姿は、俺に心からの感動を与えてくれた。
――昨日に続いて、今日までも!!
生きてて、良かった!!
もう、この際、精霊の化けたやつとかでもいい。許す!!
「聞いているんだ。お前、どうやってまた王宮に入り込んだ?
誰の手引きだ? こうして毎晩相手の男を探しているのか?」
「えっと、あの、その……」
茂みの中からシヴァが現れただけでもびっくりなのに、矢継ぎ早に質問されては、俺のショボい脳の処理能力ではついていけない。
「今日は誰の相手をするつもりだ!?」
腕をつかまれ、引き寄せられる。
――やっぱり、いい匂いがするぅ!!!!
しかも翡翠の瞳に、俺の魂は吸い込まれてしまいそう……。
「なぜ答えない!?」
苛立った様子のシヴァに、俺はようやく我に返った。
「あ、違う、違うんです!
俺は決して毎日あんな風に誰かに声をかけたりなんか、していません。
俺、王宮の第三食堂に勤めている、イーサン・シャルマです。
王宮に忍び込んでいるわけじゃありません!
俺は仕事が終わったので、今から、自分の家に帰るところで……」
「イーサン……」
シヴァは俺の名前を反芻した。
この唇で自分の名前を紡がれる日が来るなんて!!
「あの、昨日は、ありがとうございました! 俺、本当に、夢みた……」
「今日の相手が決まっていないというなら、また俺が相手をしてやろう」
ぐっとシヴァは俺の腰を引き寄せてきた。
「へ……?」
――今、なんて!?
「昨夜は、なかなか楽しめた。さあ、行くぞ」
俺の腰を抱いて歩き出すシヴァ。
だが、俺は思い出してしまった。
「あのっ、大変ありがたいお誘いなのですが、今日は無理です!」
俺の言葉に、シヴァの脚が止まる。
「無理……だと?」
「先約があって、その、申し訳、ありませんっ!」
くぅー、こんな千載一遇のチャンスを自ら不意にしてしまうとは!
もう二度と、誘われることなんてないにちがいないのに!
でもキリカとは先に約束してたし、いまさらドタキャンなんて無理だし……!
「なるほど、今日はすでに相手がいるのか?」
シヴァが暗い目を俺に向ける。
「え? 相手、というか、その……、友達、です!」
「友人ともそういうことをするのか。ふん、盛んなことだな。もう一度聞くが、お前が今関係を持っているのは何人だ?」
「それは……」
「言えないのか?」
俺はただうなずく。
っていうか、本当はそんな相手、どこにもいないんだけどね。
「……なら、明日は?」
シヴァがずい、と迫る。
「え?」
「明日の夜は? まさかもうすでに予約が入っているのか?」
「え? いえ、明日はたぶん、大丈夫……」
チャプラさんに翌日の仕込みの残業を言われなければって……、
ええっ!?
「では、明日の夜、お前の家に行く」
一体何にそんなに腹を立てているのか全く不明だが、眉間に深いしわをよせたシヴァが言う。
これじゃまるで、すごく気乗りしない仕事の予定を決めているみたいだ。
「手を出せ」
怖い顔のシヴァに恐る恐る手を差し出すと、何かを握らされた。
「あの……」
「昨日の代金だ。遅くなってすまない」
こわごわ指を開くと、そこにはなんと金貨が一枚!
ちなみに俺の給料3か月分!!
「こ、困りますっ! こんなに……っていうか、俺、違いますから!! 本当にそういう商売をしているわけではないんです!!」
どうやら俺を男娼だと勘違いしたままのシヴァは、律儀にも代金を支払うために俺を待っていてくれたようだ。
「いいからとっておけ」
「だめですっ! こんなことしてもらったら、俺、もうあなたとは会えません!」
俺の言葉に、シヴァは驚いた顔をした。
「なら、お前は、どうして……」
「とにかく、これはいただけません。俺っ、そんなことしてもらわなくても、あなたとの時間は、つまり……、
そう、あなたと一緒にいられるだけで……、俺にとってはその時間が宝物なんですっ!!」
「くっ……」
俺の精一杯の愛情表現に、なぜかうろたえた顔をするシヴァ。
そりゃそうだ。俺みたいな男に、宝物とか言われてもわけわかんないし、キモいだけだよな。
それに昨晩のアレでは、どっちかっていうとお金を払わなければならないのは俺のほうのような気がする。
俺はシヴァに無理やり金貨を返すと、なんとなく、これ以上この場にはいてはいけない気がして、そのままそこから走って逃げた。
――にしても、明日の夜俺の家にシヴァが来るって、もしかして空耳かな?
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