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12.もう、二度とない

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「んなもん、夢よ、夢! 夢に決まってんでしょーが!」

 揚げたての芋をほくほくとほおばりながら、俺の悪友キリカはそうのたまった。


 食堂のランチタイムがひと段落して混雑が落ち着いたところで、キリカ・モディは遅めの昼食をとりに、いつもこの第三食堂に来ていた。

 キリカは王宮の騎士団に所属する女性騎士で、本来なら騎士専用の第二食堂を利用しているはずなのだが、少し前に偶然食べた俺の揚げ物がめちゃくちゃ気に入ってしまったらしく、こうして第三食堂に毎日通い詰める常連さんとなってしまった。
 そしてキリカとは年も近いこともあり、俺とキリカはいつの間にか気の合う飲み仲間となってしまったのだ。


「だよな。あまりにも都合がよすぎるもんな」

 俺はキリカの向かいに座り、テーブルの上に頬杖を突く。

「そうね、じゃなきゃ、何かの精霊にでもからかわれたんでしょうよ。ほら、おとぎ話にあるじゃない。
それか、アンタがあのシヴァのことを想うあまり、頭の中で妄想と現実がごっちゃになってるっていう可能性もあるわね。疲れてたんでしょ?
ラムに借りたあのくだらない小説にも、影響をうけちゃってるんじゃない?」

「そうかも……」

 俺がグラスに水をついでやると、キリカは一気にそれを飲み干した。

「ふぅー、美味しかった! お代わり、ある?」

 相変わらず、気持ちいいほどの食べっぷりだ。


「あるよ、ちょっと待ってて!」

 俺は空になった皿を手に、厨房に向かう。


「とにかく、今晩、ラムと一緒にアンタのところに行くわ!
もっと詳しく話も聞きたいし、魔獣討伐の褒賞としてもらった最高級の葡萄酒もあるのよ!
イーサン、美味しいおつまみをお願いね!」

「了解!」

 第一騎士団の青い制服に身を包んだ長身の女性――、かなりの凄腕の騎士であるキリカは、これまたかなりの凄腕である白魔導士のラム・ノディアルとペアを組んで、魔獣討伐の実績を上げ続けていた。
 二人は最近、また王宮内で表彰されたらしい。

 そして俺は、キリカの紹介で、白魔導士のラムとも自然に仲良くなったのだ。

 こんなすごい二人と、気の置けない飲み仲間になってしまうなんて、やっぱり食べ物の力は偉大だ!


「ラムはもう戻ってきてるんだ? しばらく出張だってきいてたけど」

 俺の言葉に、キリカは耳の下で切りそろえた栗色の髪をゆらした。

「もうすぐ王宮に着くころよ。私もよく知らない極秘任務だったみたいなんだけど、今日イーサンの家で飲み会だって言ったら、予定をずらして帰ってくるみたい」

「じゃあ、ラムの好きなものも用意しとかなきゃだな!」

「またアンタを惑わす精霊が出てきたら、私が剣で真っ二つにしてあげるわよ!」

 キリカがその腰の長剣に手をかけて見せた。


「ははっ、たぶん、もうでないよ! 絶対!」


 俺は笑った。

 そうだよな、あんなこと、もう二度と、あるはず……。








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